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内沼晋太郎 (プロデューサー)


本は、私たちのすごく身近にある存在だ。だからこそ、本との付き合い方が自分の中の固定概念としての「本」に固まってしまってはいないか。「ブックピックオーケストラ」の活動は、そんな自分の感覚をくすぐってくる。

ブックピックオーケストラ店長の内沼晋太郎がウェブから始めた活動は、「本と人との出会い」をテーマに徐々に街へと広がっている。中身の見えない本を売る、「文庫本葉書」や04年11月渋谷のパルコアートギャラリーで行われた「新世紀書店・仮店舗営業中」での「Her Best Friends」。谷中・千駄木の街を散策しながら本に出会える「一箱古本市」実行委員。本来タブーとされる本への書き込みをテーマにした「WRITE ON BOOKS」という展覧会。

彼は現状の隙間を狙う。人が考えそうで考えなかったことを。思いついたアイディアを形にするということをやり続け、それに周りが巻き込まれていく。活動のひとつひとつがどれもよく仕組まれていて、人をわくわくさせるのだ。

05年8月8日、ブックピックオーケストラ初の継続的スペース「encouter」がオープンした。会員制予約制の本屋。これが彼に何をもたらすのか。どう広がっていくのか。

「考えろといわれたらいくらでも考えられますよ」
彼は次から次へとおもしろいことを思いつく。いったいその源は何なのか。それぞれの活動について考えていることや「ソース」から、彼の思考のヒントを探ってみた。(亀山)

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ブックピックオーケストラが始まるまで


亀山:まずは、ブックピックオーケストラ(以下ブックピック)の経緯から聞かせてください。最初雑誌を作ろうと思っていて、だけどその雑誌がどう売られていくかというところから出版全体に興味を持ち、ブックフェアを開催する会社に就職。そこを2ヶ月で辞め、その3日後にはブックピックを立ち上げたということですが、なんで2ヶ月だったですか。

内沼:正確には2ヵ月半なんですが、短い期間とはいえ、ひと通りその会社でやっているイベントがどういうもので、どういう人が動いてどういう風に作られるかというのが、スピードの早い会社だったのでだいたいわかったというのがひとつあって。「3年ぐらいはやれば」っていう人が多かったんですけど、逆に3年もやると25歳になっちゃうじゃないかというのがあって、25歳を越えると後戻りできない気持ちがどこかにあったんです。そしたら今辞めて、そうすると25歳まであと2~3年あって、その間にできることをできるだけ暴れてみて、それでだめだったらもう一回25歳ぐらいになった時にまだ普通の就職もできるだろう、みたいに考えて、それで辞めたというのがありますね。

亀山:その3日後にブックピックを立ち上げたといとなんですが、その前から構想はあったんですか?

内沼:もともと古本を売ること自体は学生の頃にもちょっとやっていたんです。IDEEの前のスペースでコーヒーとかと一緒に古本も売っていたんですよ。そこを回していた人が、古本を買ってきたりできる人で、そこでちょっと手伝わせてもらったりしていました。本にはその前から興味があって、古本を買ってきて売るっていうことだったら、なんとなくおぼろげにわかっていて。あと、ネットの古本屋の先駆けで有名なライターの北尾トロさんという方がいるんですけど、その頃はもう、北尾さんの本とかも出ていて、ネットの古本屋ってこういう風にやるんだよという本も身近にあったし。とりあえず本に関わることで、個人でインディペンデントにいきなり始められるものが、ネットの古本屋だったということです。それはたぶん学生の頃から気がついていて、会社を辞めるとかいうことを考えた時に、どういうことができるのかなと。自分には、ライターみたいなこととかもできるかもしれないし、とりあえずウェブもつくれるとかで、なんかこうちょっと普通のネット古本屋じゃないことをやろうと思ったんです。しかも今までずっと、なんていうんだろう、チームでものをつくることが多かったので、そういう今まで学生の頃やってきたみたいな感じでできるんじゃないかと。

近藤:学生の頃には、そのIDEEでの古本屋の手伝いをしていた以外にもチームでやっていたことが多いというのは、どういうことをやっていたんですか?

内沼:ええと、僕一番最初は大学内にあった「PLUS」という学生の雑誌サークルに入ってたんですけど、自分のコンセプトで新しい雑誌をつくりたいと思うようになって。最初は雑誌をつくるという目的で「super」という団体を別に作ったんですね。変わった雑誌をつくろうといろいろやってたんですけど、雑誌つくるって大変じゃないですか。で、だんだん半分くらいつくりかけて全部データが消えたりとか、いろいろとトラブルもあって、雑誌は結局つくらなかったんです。そのうち全然違うクラブイベントをやったり、作品みたいのをつくり始めたり。

近藤:作品というのは、どんなものだったんですか?

内沼:その頃僕後藤(繁雄)さんの「スーパースクール」にいっていたので、後藤さんと坂本(龍一)さんらのユニットである「code」*がパルコギャラリーで展覧会をやることになった時に何か出さないかといわれて。その頃「super」には僕の同期のスクール生が結構いっぱいいたので、みんなで「good life project」という作品をつくったんです。その名の通り「good lifeを世の中にもっとたくさん」というコンセプトの、著作権フリーの企画書集なんですね。とにかく実現可能性とかそういうのはとりあえず置いておいて、メモの走り書きみたいなのも含めていいし、がっちり企画書みたいなのでもいい。しかも、有名な人でも無名な人でも誰でもいいというので、とにかくアイディアをいろんな人から募集しました。A4用紙1枚でつくってもらったものをでかい鉄板のファイルにジャンル分けしてアーカイブして、横にコピー機を置いて、来た人は展示してある企画から気に入ったのを抜いてコピー機でコピーして持って返っていいんです。原本の方に名前を書く欄があるんですけど、そこに名前と連絡先を残して原本は戻します。自分はその企画書を持って帰ったよということを記すわけです。あとでその企画書を出した人が、そこに名前が残っている人たちに連絡を取ってそれを実現するもよし、しないもよし、また持って帰った人が勝手に始めるもよし、みたいな。

*code:1999年、音楽家・坂本龍一、編集者・後藤繁雄、アートディレクター・中島英樹、クリエイティブディレクター・空里香が中心となり結成したクリエイティブユニット。環境に負担をかけないコモディティーズ(日用品)や想像力をテーマとしてさまざまなアートブックの実験を行っている。

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今までにないことを


近藤:古本というものにこだわっていったのはどうしてなんですか?

内沼:普通に新品の本屋を1人で始めるってのは難しいですよね、仕入れとか。インディペンデントをやるんだったら、とにかく今までにないことをやらないとしょうがないなというのがあったので、自然と古本になっていったというのがありますね。今も別に古本にそんなこだわってるわけではないですが。

亀山:最初にブックピックを立ち上げるという時には、活動をどういうものにしていこうと考えていたんですか。

内沼:一番最初に決まっていたコンセプトというのは「古本屋ウェブマガジン」ということでした。まず、立ち上げた時はまだブログも普及していなくて、個人で書き物をHTMLでネットに書いているようないわゆるテキストサイトというのがたくさんあったんですが、よほど有名なもの以外はせいぜい友達くらいしか読まなかったりする。一方で、それまであったネットの古本屋っていうのは、ただ本のタイトルと値段がばーっと並んでいて、せいぜい1行解説が付いているとかで、古本好きが欲しい本を探しに来るには便利だけど、普通の人が見てておもしろいもんじゃないですよね。それをあわせられないかと思ったんです。文章を書いている人にとっては、ネットの古本屋の場合、検索エンジンとかでこの本が欲しいと思って検索した人が結構ランダムに引っかかってくるので、不特定多数の人に読まれやすくなる。逆に、古本を売るほうにとっては、ただ本が並んでいるよりもその本に関わる何かについて書いてもらったりした方が絶対サイト自体のおもしろさが増すというのがあって。で、その2つを足したものをやると、両方にとっていいだろうと。

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どんな本かよりも、本と人をどう出会わせるか


亀山:コンセプトとして、「本と人との出会い」ということをいろいろやっていますよね。どんな本かということよりもどう本と出会うかということの方が気になるということなんですが、それはどうしてなんでしょう。

内沼:それは結構僕にとって大きなところですね。なんだろう、いくつかの方向があるんですが、ひとつは、単純に「どういう本が」っていうところでは結構駒が出揃っていると思っていて、例えば大型書店に行けばすごくいろんな本が手にとって読めるし、アマゾンとかで検索すれば欲しいと思っている本はすぐに見つかる。他にも、こういう本が揃ってますとかいう専門書店もある。あとは、もうちょっとユトレヒトさんやCOW BOOKSさんのような、お店のイメージやコンセプトがあって本がセレクトショップ的に揃っているようなものも結構できている。だからそうじゃないこと、というかそのひとつ先をやらないといけないというのがあって、そうすると、本に興味がない人は本とどうやって出会うんだろうということとか、もっと違うところに手をのばしたいんですよね。どんな本かということではなくて、「本と人が出会う」そこの間にあるもの、「出会う」というその動詞の部分にもっといろんな仕掛けを加えていくことによって、例えば普段手に取らない本を手に取ることになるんじゃないかと。欲しいと思っている本やイメージに手を伸ばす手段はあるので、そうじゃない偶然性とか仕掛けの部分がおもしろいと思って入って来ることとか、そういうところに次があるだろうと考えています。それに、「最近の若いやつはあまり本を読まない」とか、そういう愚痴みたいなのがあるじゃないですか。それに対してのアプローチのひとつとしても「本と人との出会い」だと思うんです。普段読まなかった人に対して読ませることとか、買うはずのないジャンルに手を伸ばすこととか、本っておもしろいんだよっていうこと自体を何か仕組みで伝えるとか、そういうことをしていきたいなと。

近藤:そういう出会いをつくるということになった時に、ウェブだけでやっているだけだと場所が狭いっていうことで、いろいろイベントに展開していっているということなんですか?

内沼:そう、ですね。やっぱりウェブはあくまでも、最初に始めやすかったというのが大きくて、あとは「出会い」というのがテーマなので、やっぱり普通本があるところじゃないところに本を持っていってみることとか、そういうことに表現が移っていったというのがあります。

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「出会い」のわくわくは、隠れている部分にある


「文庫本葉書」メッセージを書いて切手を貼れば郵送もできる

近藤:それで「文庫本葉書」や「新世紀書店・仮店舗営業中」に移っていったと。一番最初にやったのが「文庫本葉書」ですか?

内沼:外で最初にやったのでちゃんとしたのは、「文庫本葉書」ですね。

近藤:毎回毎回「本と人との出会い」をテーマにいろいろと活動を展開していますが、それらの中に流れというのはあるのでしょうか。

内沼:どうですかねぇ、うーん。「文庫本葉書」と、「新世紀書店~」で「Her Best Friends」というのと、「encounter」でやっていることはちょっと関係がありますね。全部、本が見えないんです。「文庫本葉書」をやって、思った以上に反応がよかったというのもあって。「出会い」というものでわくわくする部分っていうのは、やっぱり何か隠れている部分だったりすると思うんですよね。本を袋に入れるということに関していうと、本にまつわる情報ってすごくいっぱいあるというところから始まっています。特に「文庫本葉書」なんかはそういうコンセプトでつくられていますね。

本の中の一節だけが書かれてある

普通は、タイトル・著者名・発行元・発行日といったいわゆる書誌データ的なものから、著者の背景だとか売れ行きだとか100万人が涙したとか、そういういろんな情報があるわけですよね。たくさんの情報の中で逆に選べなくなって、本屋に行っても長い時間うろうろした結果とりあえず買わずに帰るみたいな。

近藤:情報に圧倒されちゃう(笑)。

内沼:そこで例えば、「文庫本葉書」の場合は本の一節だけなんですけど、一節だけを見せられてあとはわからない。例えば、「Her Best Friends」の場合は、本はわからないんだけどその本をお勧めしている人の顔だけはわかる。そういう「何か」だけがわかるという状態になると、選ぶ基準が1個になるわけです。本の中身と関連のあるものを1個抜いて並べて選ぶっていうのは、それだけを見比べられるというのと、今までは自分だったら全然目にもしなかった本も対等に横並びに見られるんですよね。

「Her Best Friends」
お勧めする人の顔だけを見て本を選ぶ

「文庫本葉書」だったら、本当は開けてみたら今まで全然毛嫌いしていた作家かもしれないけども、その一節を読まされたらすごくおもしろかったみたいな。そういうことが起こると、自分達の狙い通りなんですけど。何か包んでしまうということに関しては、そういう本にまつわる情報が多すぎるということとか、出会いっていうことのすごくベーシックな部分の「探っていく」「隠れている」っていうようなところでやっていますね。

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書き込みがある方が本の価値は上がる


「WRITE ON BOOKS」
2005年6月23~29日@恵比寿ギャラリースペース「POINT」

亀山:「encounter」もそうなんですけど、「WRITE ON BOOKS」みたいに、「書き込ませる」というのはどういう発想なんですか?

内沼:あれはちょっとアプローチが違って、古本の価値って、ブックオフの仕組みが象徴的なんですけど、きれいかどうかっていうのがひとつ重要な基準なんですね。書き込みのある本というのは、どんなにいい本でも、古本ではすぐに価値が下がってしまうんです。だけど、「書き込み」って実はおもしろかったりするんですよね。ただ線が引いてあるとかだけでも、なんでこの人はここに線を引いたんだろうということとか。あと、「書き込みの質」っていうのもほんとにいろいろあると思っていて、ただ一箇所線が引いてあるものと、専門的な書き込みが欄外にたくさんメモしてあるものとを、一律に価値を下げてしまうのは、絶対におかしいなっていうのがあって。例えば、あるところに線が引いてあって、そこの上にその人が思ったことが書いてあったりして、その思ったこととかがすごくいいことだったりすると、実はその本の価値は上がっているわけですよね。元の本よりも、誰かの手を通っている、しかもその人の考えが入っていることで価値が上がっているということもあるんじゃないかなと。

「WRITE ON BOOKS」

亀山:確かに、古本になると全体的に値段も下がるし、価値が下がるようにも思うけれども、価値が加えられていると考えると、逆に値段が上がっても…。

内沼:そう!全然いいと思うんですよね。極端な話、妻夫木聡が読んだ本だったら、それが証明されていれば…。

近藤:めちゃくちゃ価値が上がる(笑)。しかも彼の反応が記されているわですよね。

亀山:すごいお宝本とかになったりして(笑)。

内沼:そうそう。実はその妻夫木くんの読んだ本をお宝本にすることすら、今の仕組みの中ではほとんどできないんですよ。古本屋に「○○が読んだ本」とかってないですよね。

近藤:誰かが選んだ新品とかならあるけれど、誰かが書き込んだ本というのはないですね。書き込まれた本というのは、その時点でオリジナルですよね。

内沼:そう。書き込んだ人が無名な人だったとしても、おもしろいことが書いてあったらすごいオリジナルなんですよね。「WRITE ON BOOKS」は、世界に1つしかない本にその瞬間なるっていうことを伝えたいなと思って立ち上げた企画ですね。そういうアイディアはまだ今いろいろあって、まだいえないですけど。

近藤:(笑)。いろいろ人と本を出会わせる仕組みということですか。

内沼:そうですね。あと、本をおもしろがらせるというか。「WRITE ON BOOKS」の場合もそうですけれども、今までに気づかれなかった、「本というのはもっとこういう面もあるんだよ」ということを伝えるための企画というかアイディアはいっぱいあって、少しずついろいろやっていけたらと思ってます。

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1年しかそこになかったという伝説をつくりたい


亀山:「encounter」のことをもう少し聞かせてください。袋に包まれて棚に並べられたものを利用者が持ってきて、まずその本と出会って、用紙にメッセージを残すじゃないですか、そしたらそのあとは本は袋に戻されるんですか?

「encounter」
徐々に袋が開いていくと、
どんな本が並んでいるかも
だんだんとわかってくる

内沼:いや、袋からは出た状態でまた棚に並べられます。「encounter」は、最初袋に包まれて中が見えない状態で棚に本が並んでいて、それを選んで開けてみて欲しければ買える。でも別に自分の手元には必要ないなと思ったら、そこに紙が挟まれていて、その本をパラパラ読んで気になった一節の引用と共に、次その本を手に取る人のためにメッセージを残すっていう仕組みです。書き終わったら、その紙を本に挟んだ状態で、袋からは出してもとあった場所に並べるんです。そうすると、袋に入っている本っていうのはまだ開けられてない本で、これから開ける楽しみがあるじゃないですか。で、袋から出てる本には必ず誰かのメッセージが残っている。しかも開いている本と本の間に開いていない本があって、たとえば左右の開いている本が同じ作家のものであれば、その間の本もその作家の本であるというように、並び順も考えられているので、開けば開くほど袋に入っている本に関する情報も少しずつ増えていく。

亀山:「encounter」は、BankART studio NYKで開催された「よむ」アート作品展「Reading Room」での出展が好評で、それを再現することになったということですが、ブックピック初の継続したスペースじゃないですか。それについてはどうですか?スペースを持ちたいというのは前からあったんですか?

内沼:まあ、ありましたね。とはいえ、今回の場所も1年限定なので、ちょっと長めの展覧会という気分もあって、やっぱり1年なら1年で、期間限定であることを生かそうと考えました。「1年間しかそこになかった」っていう伝説的な残りかたっていうか、例えば3年後とかに「あれ知ってる? お前行ってないの?」みたいな。なんかそういう感じを出したいですね。

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美容院みたいにリフレッシュして帰ってもらう


近藤:これは会員制ですよね。そこを会員制にした意味というのは何かあるんですか?

内沼:実は、オフィスビルなので建物自体の制限とかもいろいろあるんですけど、結局与えられた条件がそれなんだったら、その中でポジティブに解釈しようと。

近:ある種知る人ぞ知る閉じられた場所っていうか。

「encounter」
机と椅子があってゆっくり本と向き合える

内沼:そう、ですね。まあでも会員になるのは誰でもできます。予約制で1回に入れる人数って6人までなんですよ。その人のために机と椅子があってえんぴつがあって、次の人へのメッセージを残すための気持ちのいい環境をきちんとつくりたかったので、予約制にしたかったんです。まだちょっとわからないんですけど、ひょっとしたらメーリングリストとかをつくってコミュニティ化したりとか、内輪だけのパーティみたいなものをやるかもしれない。どうせならそこに出入りする人たちの顔がちゃんと見える状態で、そういうちょっと特別な時間を楽しんでもらうというイメージですね。

亀山:なんか「贅沢な読書」という感じですね。

内沼:なんていうんですかね、あとイメージとしては、ちょっと「美容院」的な感じですかね。美容院ってそうじゃないですか、予約して行って、1時間とかの間髪を切ってもらったりとかして、リフレッシュして帰っていく。モチベーションはなんでもいいんですけど、本とその空間の中で1時間とかを過ごしてそれでリフレッシュして帰っていって、また1ヶ月後には来たくなるみたいなサイクルがそれぞれの人にできればいいなあと。

近:本を介していろんな人が書いたものが見れて、しかも隠されているから発見する楽しみがあるっていう。しかも自分で買って帰れるわけですもんね。

内沼:はい、欲しかったら買って帰れるし、まあネットでやっている強みでもあるんですけど、たくさん買ったら発送もできます。会員なのでもう住所もわかってるじゃないですか。だからネットで買ったのと一緒で、「これください」っていう風に置いていってもらえれば、まあ細かいサービスですけど、持って帰らなくてもいいっていうか。

亀山:会員制本屋っていうのはちょっとないですよね。

内沼:あと、入場料もいただきます。

亀:入場料!?

内沼:そう、入場料取るっていうのは1番最初に決めたことで、まあ今いるここは青山ブックセンターの前じゃないですか。青山ブックセンターが倒産したあたりから盛り上がった議論なんですけど、ABCは特に深夜まで空いているし品揃えもデザイン系の本をたくさん揃えていて、それを立ち読みしていろんなことを得て、買わずに帰る客ってすごく多いんですよ。

近:まあ僕もそうだったりするけど(笑)。

内沼:僕もそうだったんですよ(笑)。そういう本屋だっていうことは倒産した時にもいわれていて、でもそういうちゃんとセレクトされた本屋っていうのは、それだけで価値があるわけだから入場料を取ってもいいんじゃないかと。まだまだ冗談半分なことも多いですが、そういう議論が出版業界内でよく聞かれるようになった。そういうことも頭にあって、これからはちょっと本屋が入場料を取るってことについても考えた方がいいっていうのがあって。

近&亀:おおー。

近:ギャラリーとかに関しても、入場料を取るか取らないかっていう議論はありますよね。特にインディペンデントでやっているところなんかは。基本的にギャラリーはタダっていうイメージがあるけど、いろいろ体験できるんだから金払ってもいいんじゃないかっていうのもあるし、実際美術館とかは金払ってるわけで。

一面の壁には杭が打ち込まれていて、
ここにも本が並べられるようデザインされている

内沼:そうですね。もともと僕らが「Reading Room」でやった「encounter」は、入場料を取る美術展だったんです。まあ他にもいろいろ作品があって、それを全て観れるという意味での入場料ですけど。それをそのままここに再現するんだから入場料取るのも自然だし、予約制で限られた人数しか入れなくて、しかもただ本が並んでいるわけじゃなくてそれを包む手間とかもあるわけです。内装も、「36.7℃」っていう若手のデザインユニットに担当してもらって、読書のための空間として整った環境がちゃんとデザインされている。そういうことも含めて考えると、入場料を取って然るべきというか。もちろん一冊も買って帰らなくても全然いいんです。そこで本に出会って楽しんでもらえば。

近:漫画喫茶みたいでもありますね。でも、お金を取ることでなんか元取ってやろうじゃないですけど、次の人へのメッセージを書き込むこととかへの参加意識は強くなるかもしれないですね。

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どこまでが本なのか


「それ、はね」 シリーズ3作目
「地球のために何をしてあげればいいですか?」
というポケットティッシュ型の本

近藤:ブックピック以外でもいろいろと活動してますよね。本に関するものというと、アートブック「それ、はね」。これもおもしろいなと思ったんですけど、結構学生時代にやった「人からいろんなものを集める」という方法論と近いですよね。

内沼: もともとUMIRAという影絵の劇団のプロデュースをやっていて、そこで酒井翠さんは役者として、メンバーの一人だったんです。彼女はずっと小劇場や自主映画の役者をやっていて、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)でグランプリをとった作品の主演とかもやっているんですけど、文章もすごくおもしろくて、これからもっと書いていきたいんだよね、とかいう話を聞いていたんです。僕は僕で、本に対するアプローチはやっぱりいろいろあって、書いたり編集したりデザインしたりそれを売ったりっていうことももちろんそうだけど、それと同時に、本をモチーフにしたアートの歴史っていうのも脈々と続いていて、その中で「本ってなんだろう」ということについてもっと深く考えていくことは、本を売ることにしてもつくることにしてもすごく意味があることだと思っていたんですね。僕は「本と美術」というテーマでやってみたいとずっと思っていて、酒井さんは書き手やパフォーマーとしてもっと新しいことをやりたかった。じゃあ本作りにおいては古典的な「作家」と「編集者」というモデルを擬似的になぞって、酒井さんの作品に、僕が編集者として携わるという位置づけで、本をモチーフにした現代美術の作品をつくろうということになったんです。

亀山:本のつくり手として、普通の本ではなくアートワークとしての本をつくることで「本というのはどこまでが本なのか」ということを考えたいということなんですね。

内沼:まさにそうですね。何が本なのかということは、今どんどんわからなくなってきていて、それをすごく現実に近いいい方をすると、電子書籍というものだとか、あれってデータってことですよね。で、やっぱり本はなくなるという人がいるわけです。真っ白い、見た目は本とかわらないようなディスプレイができて、そこにネットワークからデータが入ってくると電子インクで投影されてテキストが読めるみたいなもの、じゃあこれは本なのか。今すでに携帯で小説とかも読めるけれど、これも本なのか。じゃあ読み上げられた小説が耳から入ってきたら、それも本なのか。今実際に本の現場でも、本なのか本じゃないのかわからないものっていうのがいっぱい出てきている中で、本当に本とは何なのかっていうことはもっとみんな考えないといけないのに、なんでみんな考えないんだろうっていうのがあって。それはすごく意識してやっています。

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BOOKS AS ARTWORKS


亀山:ある意味アートって、社会のいろいろな問題をおもしろく提起するみたいな意味があるなと思うんですけど、そういう意味もあってやっぱり本をモチーフにしたものを「アートで」やりたいという感じなんですか?

内沼:そうですね。まず本をモチーフにした現代美術にも系譜のようなものがあって、「アーティストブック」とか「ブックアート」とかいろんな名前で呼ばれますが、歴史的には1972年にロンドンの画廊ニジェル・グリーンウッドで開かれた「BOOKS AS ARTWORKS」という展覧会がまとまって紹介された起源といわれています。いわゆるメディアアートの一種なわけですが、その「社会のいろいろな問題」という意味でいうと、インターネットの出現や電子技術の進歩によって、まさに本や出版をめぐる環境は世界的に変化してきている最中なわけですよね。だからこそ今、「BOOKS AS ARTWORKS」をやる意味はまた変わってきている。「これも本なんだよ」っていう提示をすることによって、「あ、そうかこれも本なのか、待てよ…」って思ってもらいたいというのはありますよね。

「それ、はね」 シリーズ1作目
「ぼくらの記憶は、どこへ消えるのですか?」

近藤:それを「それ、はね」でやろうとしている、だからあえて街の中で。これは最初1本テープの中に吹き込まれた音声が街に流され、街とラジカセから流れる音で1冊の本になるというものですよね。

内沼:そうですね。例えばこれを本というとしたら、本の中身が街中へ流れ出ているということになる。本が「開いて」いるわけです。例えば巨大な本のページが、開いたまま街にどさって置いてあって、その本が何かしゃべっているというのと一緒で、その場合街行く人が「なんだこれ」っていったりすることとかも、ひょっとしたらその本のテキストの一部なんじゃないかなとか。東京駅でやったんですけど、その瞬間東京駅の周りは全部1冊の本になったというようないい方すらできるんじゃないかなとか。

近藤:この時は、もともと用意していた物が流れて、その反応とかも記録したりしているんですか?

内沼:いや、その時はしていないです。ただその瞬間だけ。例えば今の近藤さんの質問みたいな反応があると、「記録されているものだけが本なのかなあ」とか、考えてもらうきっかけになりますよね。ひょっとしたらなんでも「本」といえるのか、でもそうすると「本」と「メディア」の境目はなんだろうとか。これが「本」じゃないなら何が「本」なんだろうとか。そういうことを考えるきっかけになればいいなと。

近藤:じゃあ本の概念を拡張するみたいな。
亀山:いろいろな方向で実際にやってみて、自分も考えながらみんなにも考えてもらうという。

内沼:そうですね、自分も考えながら。もちろん作品が完成するときには、言語化できる部分もできない部分も含め、「この作品はこういう意味で本であるといえる」というある程度結論のようなものにたどり着いてはいます。でもそれを自ら説明しようとしてしまうと、作品にする意味がなくなってしまうので。

近藤:それも結局、本というものに人を近づけるということと近いですよね。「こういうのも本だよ」というと、今まで本に対して持っていたあるイメージをくずしてあげて、「本っておもしろそうだ」という、本に近づけるという。

内沼:僕のモチベーションとしてはそうですね。

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思いついたことをぽんぽんやる


亀山:今、活動とかもどんどん広がっていったりとか、すごく加速しているように見えるんですけど、それってやっぱりやることで次に繋がるということなんですか?

内沼:それもあるかもしれないですね。というか、みんな思いついても言ってるだけでやらないなって思うんですよね。僕は自分がそんなに特別だとは思っていなくて、ただ思いついたことをやってるだけなんですよ。ちょっと話は変わりますが、例えばミュージシャンになるのは難しいと一般的に言われますが、やり続けていればそれぞれの形でなれるんですよ。例えば40年間ずっとディジリドゥを吹き続けていれば、それだけで価値があるじゃないですか。みんななんか、才能がないとかいって諦めるのがちょっと早すぎるんじゃないですかね。結局どんなことでも、やってるやつがなるだけなんだと思うんですよね。で、僕はやっぱりイメージしている「なりたい感じ」っていうのがあって、そのイメージに則して思いつくことをぽんぽんやってるだけなんです。だから割といろいろと繋がってきているんじゃないですかね。あとはやっぱり人と出会い。もうたいていのプロジェクトはそうですね。例えば「encounter」もそうなんですけど、その前に僕のやったことを見てくれた人がなんか一緒にやらないかっていってくれたりとか、ずっとそういう風に連鎖的に繋がっていってるんで。

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おもしろいことが世の中でいっぱい起こっていく方がいい


亀山:すごく、人と繋がっていくのがうまいですよね。ブックピックも、内沼くんが1人でやっているわけではなくて構成員が何人もいるわけじゃないですか。いろいろな人がいる中でひとつにまとまって、でもそれぞれがおもしろいことをやってという。人と一緒にやっていて、引っ張ったり引っ張られたりっていうバランスはどうやっているんですか。

内沼:すごく意識しているのは、割と自由にやってもらうっていうことなんですよね。ある程度枠組みが決まったら、あとの細部に関してはその一緒にやる人に任せて、その人の実績になるようにやってもらうっていうのを意識してます。任意の活動なので、メンバーにはなるべくやりたいようにやってもらって、それぞれがまた別のところで活躍してもらえればいいというか。僕を含めたメンバー全員で考えたことを、全部自分がやったかのようにしゃべってもいいよ、とかよく言ってるんですが、極論するとそういうことですね。そこでその人が全然違うところで別の仕事に繋がっていったりとかすればいいと思うので。そうやっておもしろいことが世の中でいっぱい起こっていく方がいいじゃないですか。で、僕は飽きっぽいので、また次のアイディアを形にしたい。

近:内沼くんは、いろんな人と一緒にやる時の初期設定をやっている感じですかね。あとはいろんな人の色を入れていってもらって走っていってもらって、自分は次のことをやっちゃうみたいな。

内沼:そうですね。だから逆にメンバーからよく怒られますけどね。「お前最近なんもやってねーじゃんか」みたいな。「すいません、よろしくお願いします」とか言ったり(笑)。

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MY SOURCE マイ・ソース


本屋

アートやサブカルチャーから、いつの間にかその容れものとしての本に興味が移った。特に大学時代は、ABCで毎月100誌以上の雑誌に目を通していた。

スーパースクール

うまくやっていくための基本的な枠組みとして、後藤さんから「編集」というツールをもらったことは大きい。

保坂和志

ぼくは日常が面白くてしょうがないから、そういう保坂さんの小説にとてもフィットする。クリエイターとしての立ち位置もすごく理想的。

ブランド論

写真は師の阿久津聡教授。今は最新の動向をフォローできてないけど、また勉強し直したいことのひとつ。

軽音楽部

僕の勘はほとんど音楽経験で養われていると思う。余裕があれば今でもバンドをやりたいし、たまらなくなると一人でもカラオケに行ったり、スタジオに個人練で入ってドラム叩いたりしている。


亀山:次から次へと浮かんでくる内沼くんのアイディアの素ってなんなんだと思いますか?

内沼:うーん、それは逆に僕も知りたくて、いま探りながら整理しようとしているところです。今は、アイディアなんて売るほど出てくるんですよ。まだ全然出し切れてないし、考えろっていわれたらいくらでも考えられます。だから、出てこなくなったら怖いので、僕もその仕組みが知りたいです。

近藤:今まで影響をうけてきたものということで「マイ・ソース」について教えてください。

軽音楽部

亀山:軽音楽部というのは、どういう影響を受けたんですか?

内沼:僕実は高校生の時、ミュージシャンになりたかったんです。というか「コーネリアス」になりたかった(笑)。コーネリアスは、自分ではマイナーな音楽をやっていながら世界的にも評価され、さらに「トラットリア」というレーベルをやってちゃんとマネージもしている。ただ音楽をやっているだけじゃなく、全体的に世界観をつくっているのがうらやましかったんですね。今もそれはイメージとしてあります。それに自分も高校・大学とずっと音楽をやっていたので、自分をつくっているものといった時に音楽っていうのはかなりあるんですよ。で、ひょっとしたらアイディアの素というのとも何か関係があるのかもしれないです。僕の勘みたいなのは、楽器やってた経験に養われているのが大きい。音楽的かどうかっていうのは結構何かをジャッジする時に重要な気がするんですよね。うまくいえないんですけど、リズムが合っているかとか。

亀:じゃあ結構言葉っていうところより、感覚的なところでいろいろアイディアを考えているんですか。

内沼:ああ、そうかもしれないですね。割とこねくり回しているというよりは、ぱっぱっぱという感じが多いですね。

亀:なんでと言われても説明できない…みたいな感じですか?

内沼:いや、最初はそういう風に出てきますが、あとでちゃんと言葉をつけます。

ブランド論

近:それがたぶん大学の時にブランド論をやっていたということなのかなとちょっと思いました。感覚的にコーネリアスとかをいいなあと思う感じをちゃんと解析している感じがあって、内沼くんのやっていることとかも全部ちゃんと筋が通っていて説明できるようになっていますよね。ちゃんと考えているなあって。

内沼:そうですね。それは人を巻き込んでいく時のテクニックのひとつかもしれないですね。

近:この間TSでインタビューした「クラスカ」をやっている中村(貞裕)さんも「人に説明しやすいコンセプトをつくる」っていっていました。その辺がブランド論から学んだことなんですかね。

内沼:そうですね。何かものをつたえていく時の伝えやすさとか、伝わった先のこととか、どういう風に伝えるかとか、そういうところではすごく役にたっていると思います。

保坂和志

亀:作家の保坂和志さんというのは?

内沼:保坂さんは、2つ意味があって、まず内容としては、僕は保坂さんの小説に出てくるような人と友達になりたいなと。単純に読んでいて、いいなあこいつって思うのがあって。

近:日常的な中に哲学的な発見があったりとか、子どもが転んだところを見て急に科学と結びつけたりとか、ゆったりしている感じがおもしろいと思いますね。

内沼:そうなんですよね。あと保坂さんの小説って、ご本人も意識されているそうなんですが、「常に」おもしろいんですよね。何かドラマティックなことが書いてあってそれに感動するということではなくて、何も起こらないんです。でも、なんかこう生きていて、いろんなことをやっていく日常の中の細かい発見がおもしろくてしょうがないっていう感じとかが、自分の生活とフィットするんですよね。あとは、保坂さんのクリエイターとしての立ち居地にすごく共感するところがあるんです。取り組んでいる内容はすごく前衛的なんですけど、それでいて文壇でちゃんと意見がいえるところにいるというか。まあ文壇というものが今あるのかというのはわからないですけど。

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FUTURE SOURCEフューチャー・ソース


プロジェクトがうまく機能するように、場をデザインすること。結局たいていのクリエイティブは場の力によって生み出されていると思う。

BOOKS AS ARTWORK

1972年にロンドンの画廊ニジェル・グリーンウッドで開かれた展覧会の名前で、一番しっくりくる。古いみずゑの中原佑介の文章で知った。

最先端の科学

ぼくは技術者ではないけれど、常に技術の事を理解していたいと思うし、それをうまく落とし込む方法を常に考えていたい。

ソーシャル・クリエイティヴィティ

社会に貢献するクリエイティブはまさにこれからのテーマ。素晴らしいコンセプトや活動も、伝わらなければ意味をなさない。

ポエティックであること

自分のつくるものがポエティックかどうかということ。いつのまにかマイナーになった詩というジャンル自体も、もっと盛り上げたい。


近藤:では、フューチャー・ソースについても聞かせてください。「場」というのは?

内沼:ちょっと抽象的なんですけど、ずっとテーマとしてはあって、やっぱりアイディアが出てくる場所のひとつは、やっぱり「場」なんですよね。本との出会いというのもひとつの「場」だと思うし、人と話している時に、その「場」をどういう風にデザインするかとか、人と本との出会いをどうデザインするかとかは、突き詰めていけば「場の理論」なんですよ。これから興味のあるところです。

最先端の科学

亀山:「最先端の科学」というのは?

内沼:それは、大学のイノベーションの授業で、最先端の化学とか技術にはそれを具体的なアイディアやビジネスにおとす文系のブレーンが不可欠だと習った記憶があって、それをすごく意識しているところがあって。僕は科学者ではないので、技術を生み出すことはできないんだけど、例えばその技術の原石みたいなものを形にするところのアイディアだったら何か出せる気がするんです。最先端な科学とか技術についてもっと知りたいし、そういうことをやっている人と一緒にやって、それをちゃんと広めていくとかいい形で世の中に定着させいくこととかもやっていきたいなと。

亀山:さっきの本もそうなんですが、今までにないものをどう世の中に提示するかみたいなことにすごく興味があるんですね。

内沼:そうなんだと思います。やっぱり「最先端の科学」とかってわくわくするんですよ。

近藤:最終的には本と関係するところに落としていきたいというのはあるんですか。

内沼:別に本にはこだわってないですね。もうしばらく本についてやっていくと思いますが、一生かどうかはわからないです。たまたま本がおもしろかったというだけで、ひょっとしたらこの先全然違うことをやっているかもしれないですし。

ソーシャル・クリエイティヴィティ

近藤:「ソーシャル・クリエイティヴィティ」というのは?

内沼:「ソーシャル・クリエイティヴ」というのは、社会に貢献するクリエイティブっていう意味なんですよ。友達に兼松君というのがいて、彼がその分野にかなりコミットしているんですが、例えばNPOとかって、いい活動をやっていてもそれを伝えるウェブやチラシなどのアウトプットがきちんとデザインされていない、言ってしまえばダサいがために、普及しないっていう側面があるんですよ。それをどうにかしようということで、『ソトコト』が主催している「サービス・グラント」というのがあって、クリエイターの人達のボランティアを募集してNPOにかっこいいデザインを提供することによって世の中に定着させるっていうのとかをやっているんです。クリエイティブの力っていうのは、これからそういうところにもっと使っていくべきだと思うんですよ。

近藤:かっこいいっていうだけでみてもらえますよね。彼らがデザインでやっていることを、ある種内沼くんは本と人の接点をつくるという活動でやっているのかもしれないですね。

内沼:そうですね。少なくとも自分がおもしろいと思って本に関わって、やっぱその落とし所が、社会や環境に対して反発するようなことはやりたくない。なんかそういうことはちゃんと意識していきたいなというのがあって、クリエイティヴがソーシャルに働いていくことに関しては、これからもっと考えていきたいです。

ポエティックであること

近藤:「ポエティックであること」というのは?

内沼:これは以前に「forpoets」という詩の雑誌を作っている神田さんという人にインタビューをした時に、「詩はマイナーになってしまったけれど、映画にも音楽にも美術にもポエティックというのはあるから、そこの交通ができるようなものを」というお話を聞いて以来、引っかかっているテーマです。そもそも今「ポエティック」という言葉自体が曲解されてしまっている気がして、いわば「なんかいい雰囲気」みたいな捉え方をされているというか、ほわんとした感じのものをポエティックといっているような。でも本来の詩、ポエジーが持つ強度っていうのは、もっと突き刺すような、びしっというものなんですよ。といっても、僕もまだ触れはじめたばかりなんですけど。

亀山:詩って、ふわふわした軽い気持ちのいいものっていうよりは、人間の深いところに切り込んでいくような重みがありますよね。
近藤:短いんだけれども、だからこそ突き刺す鋭さがあるっていうか。

内沼:そうそう、映画とか音楽にある本当のポエティックな部分は、そういう突き刺す部分だろうと思っていて、何かを伝えていくにあたって、そこにあるいろんな秘密を握っている重要な部分は、なんか今僕は、詩だったり詩的ということだったりにあるんじゃないかなという気がしていて興味があります。

近藤:普通の本屋ができることを内沼くんがやってもしょうがないっていう。

亀山:目指せ、ポエティックな本屋ですか?

内沼:そういい切っちゃうと他のメンバーがなんて言うか(笑)。でも、最近僕が個人的に何かに関わる時は、それがポエティックかどうかっていうことをちょっと考えてます。

亀:今後のポエティックな活動を楽しみにしています(笑)。今日は、ありがとうございました。

1980年生まれ。一橋大学商学部卒(マーケティング/ブランド論)。某展示会主催会社にて出版関係の展示会を担当後退社し、現在は企画、プロデュース、ウェブディレクション、文筆、編集等の仕事に携わる。8月8日横浜・馬車道にbook room[encounter.]をオープンした「本と人との出会い」をテーマに活動するユニット「ブックピックオーケストラ」店長、千駄木「往来堂書店」スタッフ、原宿「TOKYO HIPSTERS CLUB」ブックコーディネイター。その他、現代美術作家・酒井翠との本をモチーフにした作品シリーズ「それ、はね」の編集や青山サマースクール「これからの本屋入門」講師も勤めるなど、本を中心として幅広く活動。共編著に『モダン古書案内・改訂版』(マーブルトロン)がある。

インタビュー:亀山瑠衣子、近藤ヒデノリ(TS編集長)
写真:NOJYO
場所:青山ブックセンター本店前オープンスペース
日時:7/23/2005
リンク:numabooks | 内沼晋太郎
ブックピックオーケストラ

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