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小久保英一郎 (理論天文学者) 前半


子供の頃、あなたは宇宙に対してどんな想いを持っていただろう。どんな未来を予想していただろう。宇宙旅行をする、他の惑星に住む、そして宇宙人に遭う。映画にアニメにゲームに、様々な形で僕らは宇宙を目にしてきたが、生きている間にそれらは実現できるのだろうか…、いややっぱり無理なんだろうか……。

天文学者、小久保英一郎を知ったのは、2005年6月、アサヒアートスクエアで行われた冒険家・写真家の石川直樹とのトークショーだった。

現在の宇宙研究を総動員し制作されたCG映像『4次元デジタル宇宙プロジェクト』。その制作の中心メンバーである小久保は、地球から宇宙の果てまでという、目眩を覚えるようなスケールの旅のナビゲーターだった。

まずは国立天文台のある東京・三鷹の上空からスタートし、月の脇を通り、太陽系を抜ける。地球から遠ざかるにつれ、1つの銀河はまるで1つの星のような点となり、アンドロメダやM87星雲を横目に、現在の望遠鏡で見える範囲から、さらに宇宙の果てである137億光年まであっという間に辿り着いてしまった。

彼はプレイステーション2のコントローラーを動かし、丁寧かつ軽妙な語り口で、僕らを宇宙の果てまで連れていってくれた。後日、僕は専用のメガネをかけて4次元体験をしたが、星たちが手を伸ばせばまさにそこにあるような立体映像で、自らの体躯で銀河に飛び込み、その中を音速で駆け抜けるような体験だった。

自らの知的情熱を最新のコンピューターを使って表現し、第2の地球、そして地球外生命の発見へ繋げる。小久保英一郎が届けようとしているものは宇宙に対する人類原初の夢、どこかに置き忘れてしまった僕らの冒険心ではないだろうか。

もし今回のインタビューを読み、興味を持ったら、ぜひ国立天文台のの4次元デジタル宇宙プロジェクトのWEB を覗いてみてほしい。

やっぱり星を眺めるのは楽しい。この夜空には1億個も地球のような惑星があり、そこにはもしかしたら生命が宿っているのかもしれないのだ。

TS副編集長・米田智彦

1

シミュレーション天文学


米田:小久保さんが今やられてる研究について、まずは大まかな所から話していただけますか。

小久保:天文学の中でも色々な手法があるんですが、講演に行った時に「自分は天文学者です」とか「天文台に勤めてます」と言うと、よく「望遠鏡を観て研究してるんですか?」って訊かれるんです。でも、僕は違うんですね。

望遠鏡を使うというのは、一応“観測の天文学”と言います。天文学というのは最初、それから始まった訳です。第2は“理論の天文学”と言って、見えたものの理屈を考えようというものです。前世紀の中頃くらいまでは、天文学と言えば、その2つの“観測”か“理論”かという風にやっていました。

それが前世紀の終わり頃から、コンピューターの性能が非常に高くなってきて、天文学の中でもコンピューターを使って実験的に研究をすることが可能になった。“第3の天文学”という風に僕らのようなやっている人間は言っているんですが、それが業界全体でも認識されて、“シミュレーション天文学”となります。

ですから、色々なテーマはあるんですが、まず“シミュレーション天文学”、第3の天文学を自分はやっています。

米田:それを、現在はここ(国立天文台)でやられていると。

小久保:はい。それで、普通の物理だったら実験室で何かぶつけたりとか、加速器とか使って粒子をぶつけたりとかしますけど、宇宙スケールですから、超高温高圧とか大質量とか、そんな実験はできないので、コンピューターの中に再現して、実験的に色々と調べるというのが、僕の好きなスタイルです。

小さい頃、宇宙の中の生命とか、その生命を育むことができる環境や惑星というのがどうやってできるのかということに興味があったので、シミュレーションを使ってそれを調べようっていうのが基本的にやりたいことです。大学院時代からですから、もう10年以上ですね。ずっとそれをやってきて、たぶんこれからも10年以上、そういうテーマでやっていくんだと思います。

僕の専門は物理とか天文なんですが、地球のような、太陽系の惑星がどうやって宇宙の中で生まれるかっていうのをコンピューターを使って調べるということが簡単に言うと今の研究になりますね。

国立天文台の4次元デジタル宇宙シアターで公開されている月の起源の映像。原始惑星がが地球に衝突し月が形成される。

米田:小久保さんの作られたもので、最初に観たのは、月が出来る過程のCG映像"The Origin of the Moon"だったんですけど、僕みたいな素人にも非常に分かりやすかったんです。ビジュアルとしてすぐに理解できるし、「あ、こうやって惑星とか衛星ができるんだ!」って、感覚として掴めるっていうのがとても新鮮でした。

小久保:まさにあれはシミュレーション天文学ならではなんです。あれ以前は、頭で「こういうこと起こればいいかな」とか、「そういうことが起きたような形跡がないかな」みたいな感じでやってたんですけど、全部は解らないんですよね。じゃあ、もう「やれ!」と。コンピューターでやればいいじゃないかっていう。

だから、我々はやってみて出来たので、「あ、これでいいんだな」っていう風に広く認められる契機になった計算でした。自分でもやりながら、渦が巻いてる中で月が出来てきいく映像を見て感動しました。

米田:あのCGって、エンターテイメント性もあるし、小久保さんって、僕らみたいな一般人にも積極的にアプローチしてきてくれる人なんだなっていうのが凄く伝わってきたんです。そういう方の語る言葉だったら絶対面白いだろうと思って、TSでノミネートしたいと思ったんですね。TSの読者にも伝わるだろうと。

小久保:僕に限らず、研究者の中にだって、普通にアートとかサブカルチャー的なものが好きな人はいるんですけど、多分あんまり、そういうことを前に出しちゃうと、研究者としてまずい!みたいな、遠慮があるんじゃないかと思うんですよね(笑)。僕はここに就職する前の大学院の時代から、だから学生ですよね。もう自由なその頃からそういうものを作って出していたので、ここに来る時からからそういう人だっていう認識されていて、逆にそういうものも期待されてたっていう感じでした。

米田:あの月が出来ていく映像っていうのは何年に作ったんですか?

小久保:一番最初のバージョンは98年じゃないですかね。

米田:小久保さんはその頃は……

小久保:ええっと、ポスドク研究員(Post-Doctoral Fellowの略。Ph.Dを取得した後、パーマネントな研究職、教育職に就いていない研究員のこと)の頃ですかね。

米田:そこで、自分が作るんだったら、友達を巻き込んでCGとか音楽を付けてもらったりって、スタイリッシュにしたい、という風に作られてたんですね。

小久保:当時なぜか周りにそういう、CGのセミプロや作曲家の卵とかアート系の人が仲間にいたんです。そういう人に凄く理解してもらえて共作することができて上手くいきましたね、当時は。

米田:僕らも色々な人に会いましたけど、当たり前なんでしょうね。アートに対する感性とか嗅覚って。もちろん学術的なところにいらっしゃる方でもそうですけど、その辺で共通項あるのかなと。

小久保:科学者って、ボサボサの髪で夜通し研究やってる、みたいな印象があるんでしょうね。やっぱりそういうステレオタイプな姿を、テレビとかでも使いたい、やっぱり記号として使いやすいっていうのを感じるんですけど、やっぱりそうじゃない人もいっぱいいるんですよ。僕の仲間も皆そうですよ。

米田:僕が以前勤めてた研究所でも、みんなTシャツで来てコンピューターに向かって、そのままお昼ぐらいにランチして夕方帰って、みたいに凄いリベラルで普通なんですよね。だから「ああ違うんだな」って思いましたね。

小久保:そう、その辺は一般の人にはそこまで知られてないんですけど、本当に普通です。というかもっと逆にリベラルだったりします。研究者の世界は年齢も関係ないし、いい研究をしてるかしてないかで判断される。そういう意味では厳しくはあるけど、リベラルな世界ですし、だからアートと同じとは言いませんけど、“実力で勝負”みたいな感じは近いんじゃないかって気はしますね。

2

全宇宙をCG化する


2005年文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門で、"4D2U NAVIGATOR"は審査委員会推薦作品に選ばれた。

米田:『4次元デジタル宇宙プロジェクト(4D2Uプロジェクト)』は今、何人くらいでどういう感じで進んでいるんですか?

小久保:今は約10人くらいでやってる感じですかね。もう4年目に入ってます。今、第1期は終わって、第2期に入っています。実は今、外では専用のドームシアターの工事をしているんです。来年度、梅雨明けくらいまでにソフトをちゃんと作って、そこで観られるようにしようと計画しています。

米田:それはどんな装置なんです?スクリーンじゃなくて空中に放射するっていうことですか?

小久保:基本的にはドーム状のスクリーンにプロジェクトして、眼鏡をかけると立体的に見えるっていうのをやろうっていう感じですね。

米田:東京の上空からスタートして、どんどん地球から遠ざかって行って、宇宙の果てまで行くという旅を見せてもらったんですが、その時に驚いたのが、宇宙が扇型の形をしていて、ところどころ無くて……、要するに部分部分しか見えないからなんですよね。あまりの壮大さにたじろぎましたけど(笑)。あれは何カ国くらいのプロジェクトでやってるんですか?

小久保:中心はアメリカですけど、ヨーロッパも日本も参加してます。もう国際協力ですね。

米田:10カ国ぐらいですか?

小久保:いや、ヨーロッパがいっぱい入ってますからね、何人ぐらいいるのか分かりません(笑)。

米田:各々が各々の部分を担当して宇宙を視覚化しようとしている訳ですか?

小久保:いえ、あのプロジェクトの専用の大きな望遠鏡があって、それを動かすために、みんなで知恵とお金を出し合ってやってるんです。専用の望遠鏡があってそれをずっと毎日晴れれば観てるという感じです。

米田:じゃあ、見えてる部分は一応最後まで作るっていう感じなんですか?

小久保:そうです。それをいろんな方向にやっていますね。

取材後、特別に映像を見せてもらった。このように宇宙で観測されている部分が扇型になっている。

米田:でも、どっかが必ず欠けてるんですね。

小久保:我々の銀河系って、円盤の格好をしているんですね。その中にいるので、この円盤の方向は、銀河系の塵や星が邪魔して見えないんですよ。だから、その上下ばっかり見てるという形になってるんです。あの扇は上と下にばーっとあったと思うんですけど、横の部分はやらないんです。

米田:なるほど、確かになかったですね。

小久保:っていうかやれないんですよ(笑)。

米田:あの完成形っていうのはどうなるんですか?

小久保:結構スカスカなんです。銀河系の上の方を見れば空いてたりするはずなんですけど、何故かたまたまそこに暗黒星雲があったりして、そのお陰でここ見えないとか、ぽっかり空いたりとかしていて、穴だらけというか、全体的に見られる場所少ないんですよ。

米田:じゃあ、まだまだって感じですね、宇宙を完全にCG化するっていうのは。

小久保:だから原理的に全体像は無理です。それこそ銀河系の外に出ることまでしないと無理ですね。それは現実には夢物語っていうか、難しいですね。

3

誰が最初に地球のような惑星を見つけるのか


もっとも多く潜っている伊豆の大瀬崎

米田:小久保さんは趣味がダイビングだそうですが、最近されてます?

小久保:はい、こないだもハワイで会議があったんですけど、その合間の休みにハワイ島でダイビングしてましたね。

米田:大学の時に始められたんですか?

小久保:そうです、大学のサークルで始めて、今はもうマニアというか、インストラクターをやってますんで、色々と教えたりしてます。

米田:コンピューターをやってると、ずっと閉じ籠もったままじゃないですか。やっぱり外に飛び出したい、ってところはありますよね。

小久保:特に天文学はそうですね。特に僕は、かもしれないですけど(笑)。僕はハードウェアもやりますけど、基本はソフトを書くわけです。対象も星で、生き物でも何でもない。そうすると、寂しい、じゃないですけど、生なモノを直に感じたくなる。そういう時に、海の中にいるとそういうものを凄く感じられる。

沖縄でも、伊豆でも海の中に入れば、魚だけじゃなく、生き物が凄いんですよ。落ち着くというか、それだけで十分豊かになりますね。本にも「研究をまとめたら海に行くという生活をしたい」と最後に書いたんですけど。そうしたいと思って頑張ってるってとこですね。

米田:でも段々そうなって来てるんじゃないですか。

小久保:まとまんなくても行ってるところが問題かもしれないんですけど(笑)。

米田:いや、英気を養うのは大事ですよ(笑)。では、著書で書かれている中からまた進んだ研究もあると思うので、僕らが分かる範囲で、小久保さんが携わってる研究の最先端を教えてもらえますか?

小久保:今、まさにまとめるので苦しんでいるところは…、地球に凄く注目してて、興味は地球のように、海のあるような惑星がどのくらいの確率で出来るのか。それを知るにはどうやって出来るのかをちゃんと知らないといけないので、条件をちゃんと明らかにしたいんです。今、自分で手作りで作ったPCクラスタを導入して、地球をいっぱい作る実験をしています。

たくさんそういう実験をすると、確率を計算できる。条件を変えながら実験をしていると、どういう条件なら出来るかって分かるじゃないですか。ですから、条件を少しずつ変えながらたくさん計算をして、統計的にこのぐらいの確率で地球のような海を持てるような惑星が出来て、その地軸がどのくらい傾いているのか、今地球は24時間の速さで回ってますけど、どのくらいの速さで回っているかっていうことを調べています。

米田:月の引力がなければ、地球の自転は4時間なんですよね。つまり昼が2時間、夜が2時間(笑)。

小久保:そうです、そこに注目してずっと計算してるんです。それがたまったあかつきには、地球のような質量で、太陽から1天文単位ぐらいで、ほとんど丸い軌道で、自転軸が立っていて、月のような衛星があるような惑星が、どういう条件で出来てくるのかっていうのがはっきりする。

米田:けど、それって人類のほとんどの人間が興味があるところですよね。

小久保:いきなり「こうです!」とは言えないんですけど、この一連の研究の順番としては、もっと小さい惑星の卵からどうやって大きくなってくるかっていうのをずっとずっと積み上げてきて、今やっと最後の結果を使って地球にまとめるときに、地球の大きさ、傾き、自転軸の傾きがどう決まるかを直接調べる段階に来て、延々それをやっているんですね。

米田:なるほど。それはすっごく面白いなあ(笑)。

小久保:今まとめてはいるんですが、最低でも4本の論文に分かれるぐらい色々とやっていて、その第1弾がやっとアクセプトされて、発表できることになったんです。でも、しばらく、あと1年ぐらいはその辺をとことんやるんじゃないですかね。

米田:その、地球のような星があるんじゃないかっていう風に実際に言われ始めたのっていつぐらいなんですか?

小久保:たぶん、大昔から言われてたと思うんですけど。でも、段々、観測によって色々と見えてきていて、例えば、大きな木星のような星が見えていて、「ここに木星があったら、内側に地球があってもいいよね」みたいなものは幾つか見つかってますが、直接は1個も見つかってません。

しかし、多くの研究者は「あるだろうな」とは思ってますね。どうやってできるというのがはっきりしていないので何とも言えませんが、この業界の、特に日本の研究者が同意しているところとしては、「絶対あるだろう」と。

でも、どのくらいでいつ見つかるか、はまだ分からない。だから、日本もアメリカも、誰が最初に地球のような惑星を見つけるのかと競争しているところです。

4

地球だけが特別なはずがない


米田:『宇宙と生命の起源―ビッグバンから人類誕生まで』という本にも書かれてますけど、地球のような惑星があったとして、さらに生命体が生まれる条件もまた色々とあるわけですね。

小久保:ありますね。生物学の先生には怒られるかもしれないんですが、僕は“自然な帰結”なんじゃないか、つまり、地球のような惑星が地球のような組成の割合でできれば、生き物は生まれる、天体の進化の自然な流れとして、惑星の表面に生き物のような化学物質が出来るのは必然に近いんじゃないかと思っています。

僕は『1億個の地球』という本も出したのですが、太陽みたいな星がどれくらいあるか、惑星を作る元になる円盤がどのくらいあるのか、というデータを全部使って、銀河系の中に何個地球のような星があっていいのかというのを計算したんです。それで、出てきた答えが1億個だったんです。これは相当、多い感じがしますよね?

米田:そうですね。1億個も地球のような星が存在するって凄いですね、想像もできない(笑)。

小久保:僕らも自分たちでやっていて驚いたんですよ、これは凄いって。だから、タイトルにもしたんです。

米田:いいコピーだなって思いましたよ(笑)。

小久保:ただ大事なのは、1つに、生命の発生することと、人間ぐらいの知的レベルの生命体まで、たかだか数十億年ぐらいで進化できるというのは別の話であるということです。そして、2つには、我々が他の生命と会うのかっていうのまた別の話なんですね。

米田:そこなんですよね、混同されやすいのは(笑)。

小久保:僕も講演に行って、「1億個も地球のような星があって、銀河系は生き物に溢れてますよ」って言うと、宇宙人が好きな人はニコニコしながら「うんうん、そう思っていた」って頷いて聞いてるんです(笑)。

それで、「宇宙人はもう地球に来てるんですか?」って絶対訊かれるんですけど、今の人間が分かってる物理を超えた何かを知ってないと、あまりに離れてるんで行ったり来たりできないんじゃないですかね。

米田:先方がその方法を知ってれば可能でしょうけどね(笑)。でも、我々からアクセスするのは相当難しいと。ただ1億個も地球のような惑星があれば、その中で人間くらいの知的生命体が存在する確率だってない訳じゃない。

小久保:そうです。これはあんまりサイエンスじゃないんですけど、僕の思想というか、信念というか、考え方の根本には、

「自分たちが特別なはずがない」

というのがあるんです。

いくらだってこういう世界があっていいんじゃないか。その方が普通なんじゃないか。
例えば、天文学的に太陽みたいな星がいっぱいあるというのは明らかです。じゃあ、なんで僕ら地球だけが特別なのか、この太陽だけが特別なのか、それはおかしいんじゃないかと僕は思います。なぜか、というのは、ロジカルなことだけじゃないんですが、そういう世界観というか、世界の認識の仕方をしていますね。

1968年宮城県仙台市生まれ。国立天文台理論研究部主任研究員。1997年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。主な研究分野は惑星系形成論。著書に『1億個の地球』(共著、岩波書店)、『宇宙と生命の起源―ビッグバンから人類誕生まで』(共編著、岩波ジュニア新書)などがある。

インタビュー:米田知彦(TS副編集長)
写真:石原敦志
協力:国立天文台、蓮尾優貴
場所:東京・三鷹/国立天文台
日時:14/12/05

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