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小久保英一郎 (理論天文学者) 後半


1

探検家になりたかった少年時代


米田:高校の頃とかって何されてました?

小久保:山登りをしてたんですよ。山岳部でした。凄かったですね。雪山登山もするし、ロッククライミングもするし、沢登りとか、今思えば、なんであんな危険なことをしてたんだって。熊に遭ったりとか、大変な感じでした。

米田:全然話は変わるんですが、僕と石原(カメラマン)はこないだオーストラリアのアデレードに仕事で行ったんです。でも、なぜか2人で、ヒグマとかサメとか獰猛な動物の話を延々してたんですよ(笑)。

小久保:あ、僕もサメの取材に行きましたね。アデレードの先のポートリンカーンという所に。

米田:アデレードにはロドニー・フォックス(サメ研究の第一人者)が館長を務める『シャークミュージアム』があるんですよね。

小久保:ああ、ロドニーにも会いましたよ。

米田:じゃあ、檻に入ってホオジロザメを見物するツアーもやりました?

小久保:やりましたやりました。

米田:あれ、やりたいなってずっと言ってたんですよ(笑)。フォックスさんのことも話題に上ってたんですよね。

小久保:僕らはロケハンに行ったんですけど、ロドニーの声が必要だっていうんで、インタビューを取らせてもらって帰ってきました。

米田:泳いでるサメってどんな感じでした?

小久保:怖いっていうよりも……、もちろん怖いんですけど(笑)、「なんて美しい生き物なのか」っていう気がしました。無駄がなくて、全身筋肉で、生き物としてカッコイイな、っていう。見惚れるっていうか、光が差す水の中キレイで、優雅に泳いでいて。

米田:それは何のついでに行ったんです?

小久保:研究員時代なんですけど、僕の海の師匠が水中映像のプロダクションをやっていて、ちょくちょく手伝ってたんです。僕は潜水士でもあるので、仕事できるんです。

米田:その資格も持ってると(笑)。

小久保:それで、「ホオジロザメの撮影に行くんだけど、一人足りない。お前、来るか?」って言われたんで、「ぜひ、自腹でも行きます!」って言って(笑)。色々な海に取材で行きましたねえ。

米田:じゃあ、アウトドア以外に興味があったことっていうのは……

小久保:この前、訊かれて思い出したんですけど、小学校の文集に将来の夢として、「考古学者になりたい」って書いたんですよ。自分の家の近くに遺跡があったんですね。

そこは旧石器時代から江戸時代までの複合遺跡で、でも実は、最近、神の手(2000年11月5日に発覚した旧石器遺跡捏造事件のこと)の遺跡だっていうことが分かって(笑)。

旧石器は嘘だったということになるんですが、縄文以降の遺跡だった訳です。でも、歩いてすぐだったんで、学校の行き帰りに行っていて。プロの人が掘った跡を色々拾えるんですよ。土器のかけらを採ってたんです。

米田:それはやってもいいんですか?(笑)。

小久保:採っていいんです。結構採れたんですよ。やじりとか黒曜石とかキレイなのを見つけちゃって、もう凄く感動して。親に専門書とか買ってもらって分類して、凄く面白いから「もう、こういうことずっとやりたい!」って思ってましたね。

当時、テレビで『水曜スペシャル』や『木曜スペシャル』がやってて、古代遺跡とか古代文明とか、エジプト、マヤ、インカやイースター島なんかが、UFO絡みとかで、色々放送されてましたよね。でも、段々、その内実は分かっては来るんですけど(笑)。ああいう風に探検隊を組織して古代文明を探したり発掘したり、そういうのに憧れてましたね。

米田:僕も毎回欠かさず観てましたよ。今思えば、子供に夢を与えるっていう部分では必要ですよね。今、そういうのがなさすぎて(笑)。子供が大人すぎるというか。

小久保:僕もホント思いますね。やってほしいですよね。ないとつまんないですよね。本当に当時は僕はそういうことをやろうと思っていて、たくさん本を読みました。

今でも僕は好きで回って歩いてます。学会とか出張の帰りにペルーに行ったり、インカ帝国やナスカに行ったり、ダイビングでタヒチに行ったついでにイースター島や、ユカタン半島に行ったついでにマヤの遺跡を見たり。未だにやりますし大好きですね。

中学高校は、何となく自然科学が好きだと思っていたので、天文とは決めてなかったんですけど、学者、それも探検するような学者(笑)、になりたいというのがあったんですね。

米田:フィールドワークが好きというか、根がやっぱり現場主義だった訳ですね。

2

探検とは知的情熱の肉体的表現である


小久保:何かのインタビューの時に言ったことがあるんですけど、僕は座右の銘みたいに思ってる言葉があって(ホワイトボードに文字を書き出す)……

"Exploration is the physical expression of the intelectual passion."

これは、「探検とは知的情熱の肉体的表現である」という意味なんですが、自分で知りたいとか、好奇心を持った時に、体で動いて何かをやろう、行こう、みたいな。これを言ったのはイギリスの南極探検隊に参加した、チェリー・ガラードという有名な人なんですけど、不思議だな、知りたいなと思った時に出掛けて行って、自分で探す、見つける、というのは素晴らしいなと思って。こういう風に生きたいと、今は自分の仕事を正当化するために、この言葉をもじって……

"Simulation is the computational expression of the intelectual passion."

としています。

手法がちょっと変わってるけど、ほとんど変わらんと。基本的には知りたい情熱があって、それを計算機科学的にやっているのがシミュレーションだという言い方を僕はしている訳です。

米田:でも、小久保さんのその凄い探求心ってどっから来てるんでしょうかね。

小久保:たぶん豊かな自然の中で育ったからじゃないですかね。田舎に住んでたんで、学校でも「熊が出たので集団で帰りなさい」って放送があったり、山とか川に行って遊ぶっていうのが普通の遊び方だったんですよ。山で凄いクワガタを見つけたとか、鯰を採ったとか、行ったことがない場所に行って、新しいものを見つけたとかが、たぶん一番楽しかったんでしょう。

米田:未だにそのワクワク感を忘れてないってことですね。

小久保:それって子供ぽいっていうことですか?

米田:いえいえ!(焦)、でもそれは大事じゃないですか。それがなくなると続かないですよ(笑)。

小久保:そこは本当に変わらないかもしれないですね。

シミュレーションを使う時に、2つ使い道があるんですけど、1つは頭の中で組み立てた理論、「こうなるはずである」、それをシミュレーションで確かめる。

もう1つは頭で考えても分からん、難しすぎる。じゃあやって、どうなるか見よう、っていう発見的な使い方をするんです。それをやっているときが一番楽しいですね。一体何が起こるんだろうって。

米田:全く想定外のことをコンピューターが語り出す、ということですね。

小久保:『1億個の地球』の中にも書いたんですが、我々の一番有名な成果として“寡占的成長”というものがあるんですが、それは、シミュレーションをやってみたら、思ってたのと違う結果で出て、その理屈が後から分かるんです。「え、こんな風になるの!?」って感じで。月も本当にできんのかと。じゃあ、やってみないと分からない。そこで、やってみて、どうなるんだろう、一体何が起きるんだろう、っていうワクワク感がありました。

米田:しかし、1人の人間の探究心が宇宙の果てまで広がるのって……、面白いですねえ(笑)。

小久保:でも、宇宙の果てまではなかなか手が回らなくて(笑)。地球を作るのでも結構難しいという。僕はもちろん、宇宙全体を把握したいので、『4次元デジタル宇宙プロジェクト』みたいなものもやりますが、宇宙の中でも我々寄りというか、生き物、生命と関係するような環境、ですから惑星ですよね、研究のメインとしてはそれをやりたいと思っています。

3

コンピューターは“理論の望遠鏡”


手作り重力多体問題専用計算機クラスタ 「三鷹山初号機」

米田:コンピューターとの出会いはいつぐらいです?

小久保:高校に入って1台目のPC98を買ってもらって、それが使い始めになったんですけど、大学に入ってコンピューターをもう1回やり直して、ハードウェアにも興味を持ち出して自分でコンピューターを作るようになるんです。こういう計算をするためには普通のコンピューターでは出来ないというのは明らかだったんで、じゃあ作れと。

よく考えたら、元々、天文学者は遠くを見たいから自分で大きな望遠鏡を作ってたんですよ。だから、計算したいんだったら、計算機を作ればいい。そういう発想の研究室だってたんです。「まさしくその通りだな」と思って。

修士のときに自作した、小さなスーパーコンピュータ"HARP-1"

「君だったら作れるから、計算機を作るのやってみな」って言われて、修士課程ではちょっと天文学から外れて、僕はコンピューター作りをやるんです。その間、集中してハードウェアの勉強をし、設計をして、秋葉原からチップ買ってきて配線して、動くようにして計算をやって。

未だにそのプロジェクトは大学で続いていて、世界最速を目指してやっています。

米田:いわゆるスパコンなんですか?それともグリッドコンピューティングなんですか?

小久保:普通、スパコンと言うと『ベクトル演算機』という、1つのCPUみたいなもの中に計算を連続的にする加速装置が付いているようなものを言うんです。我々が作って計算に使っているのはスパコンと言うより『専用計算機』と言って、1個1個のチップに「お前は足し算、お前は引き算、お前は掛け算」って全部割り振って、ばあっーと並列で計算するようなハードウェアなんです。それを僕らが作ったら、月が出来る過程とか、“寡占的成長”とかが出来るようになった。当時、そういう研究室にタイミングよく入ったのは恵まれていたと思います。

米田:コンピューターの性能も、今じゃ考えられないぐらいもっともっと上がっていくんでしょうね。

小久保:その時の先輩とか先生が今も一緒にやっていて、どんどん速くなってます。というか速くしてます(笑)。だから、まだ自分たちでやってるんですよ。

米田:それによって研究の幅は大きく広がりますね。

国立天文台重力多体問題専用計算機システム"MUV"

小久保:こういう専用計算機は“理論の望遠鏡”と僕らは言うんです。普通の観測するための望遠鏡は、遠くて暗いものが観られる。でも、僕らの計算機があれば、出来ない計算が出来る、それで新しいものが観られる。その理論の望遠鏡の性能をどんどんよくしてます。僕がここでやったような計算の全ては、それまでは出来なかった。僕らのグループだけがこの計算機を作ったので出来たんです。だから、話としては単純です。速い計算機を自分たちで作ったんで誰も出来なかったことが出来たという。

米田:本を書かれているし、講演や対談も多くされてますよね。坂本美雨さんとも対談されてましたね。

小久保:美雨さんとは初対面だったんですけど、打ち合わせした時に好きなアーティストが一緒だったんで意気投合したんです。それがデヴィッド・シルヴィアン(ミュージシャン。元ジャパンのメンバー)だったんです。美雨さんは『私の初恋の人はシルヴィアンで、うちに遊びに来てました』とか言ってて。『いいなー』って言ってそれで上手く話せましたね。

米田:お父さんとシルヴィアンは仕事してましたもんね。世代的にはYMOですか?

小久保:YMOというよりも坂本さんのソロですね。『戦場のメリークリスマス』とか、その前後のソロのアルバムを聴いていたんですが、僕はデヴィッド・シルヴィアンから入ったという感じです。お父さんとも対談したいですね。

米田:いつか実現させたいですね。というか、させましょう!(笑)。

4

チョウチョウウオを極めたい!


ダイビングは絶対に外せないですね。ただ見ているだけでもいい。それに海は地球を地球たらしめている大事なものです。

古代遺跡/探検記

川口探検隊も好きだったんですけど、本も好きでトール・ヘイエンダールの『コンチキ号漂流記』とか、探検記は大好きでした。家の近くの遺跡できれいな黒曜石の矢じりを見つけたときの感動は忘れられません。

自然原体験

大塚貴之さん(家庭用プラネタリウム製作者)と対談した時にも言ったんですが、小さい頃の自然体験は、自分の好みを決めるのに凄く大きかったです。

山頂から観た星空

山岳部だったので。山頂から見た星空は本当に凄かったですね。

手塚治虫

随分読みました。『ブラック・ジャック』か『火の鳥』ですね。尊敬しています。生きていたらぜひ会いたかったです。


生命の起源、地球外生命

大きく言うと“第二の地球”ですね。

沖縄

いつか住みたいと思っています。行っていたのは、ちょっと前は八重山が多かったですが、最近は鹿良間諸島かな。基本は離島ですね。南の島は文化的にも自然的にも憧れです。

外から地球を見ること

一生に一回でいいので見たいですね。自分が育ったところ、住んでいるところ、そして海を全体として見たいです。

古代日本

マイブームもよく訊かれるんですけど、今は神話世界や古墳時代に興味があるんですよ。

未知の海

例えば、紅海は狭くて、隔絶された環境なので、固有種がたくさん生息しているんです。僕はチョウチョウウオが好きなんです。


古代日本

小久保:僕の場合は古代遺跡好きから繋がっているんですよ。日本の始まり、日本書紀、古事記とか、古墳時代の文化とか、最近なぜか、ずっと勉強したり、歩いてまわったりしてますね。

米田:神社や神話、古墳って言う人って、僕の周りに最近凄く多いんですよ。結構、来てますね。

小久保:僕は古墳は一通り勉強を終えましたよ。これからは実地というか。まず、前方後円墳っていう、あの形に興味があるんです(笑)。あの成立とかバリエーションとか、神話との関係とかに興味があります。

僕は研究会とか共同研究とかでたくさん外国に行くんですが、その度に日本という国が独特で、素晴らしい文化を持っていると思うんです。歴史も文化も知りたい。日本に生まれ育ったことが嬉しいし、もっと知りたいと思っています。

未知の海

僕は地球にいる全ての種類のチョウチョウウオを出来れば撮影したいんです。撮影できなくても観察したい。全部で120種ぐらいいるんですが、今77種までは見て来てます。

米田:あと何年かでやれそうなとこまで来てるじゃないですか。

小久保:でも、深海にしかいないのもいるので、無理でしょうね(笑)。しかも、深海には“ウラシマチョウチョウウオ”っていう良い名前が付いているマニアックな種がいるんですよ。いつかチョウチョウウオを極められるといいですね。

5

第2の地球、そして地球外生命の発見


米田:フューチャー・ソースにも出てきましたし、話の中にもありましたが、やはり、小久保さんがこれから向かうのは、第2の地球、地球外生命の発見ということになりますか?

小久保:そうですね、僕らのグループがやっていることの延長のゴールは、観測としては第2の地球を見つけ、理論やシミュレーションでは、そういうものが出来る確率や条件を明らかにするということですね。これをこれから10年ぐらいかけてやる。今、本当に第2の地球を見つけるという計画が進んでいるんですよ。望遠鏡を宇宙に上げてやるという。

米田:望遠鏡を上げる?それはどういうことです?

小久保:地球って太陽に比べれば小さくて暗いんです。しかも太陽に近い。そういう星を見つけるのは難しいんですね。地上の望遠鏡からだと、地球の大気のゆらぎのために細かいものは見えない。だから、ハッブル望遠鏡みたいなものを専用に作って宇宙に打ち上げて、地球のような惑星がないか探す。そういうことが、2010年代後半ぐらいに計画されているんです。

その名も"Terrestrial Planet Finder"、略してTPFと言ってますが、Terrestrial Planetは地球型惑星という意味なんですね。それが2010何年にあるので、僕ら理論を考えてる人間は、どこを見たらいいのか、どのくらい見たらいいのか、例えば、10個探したら1個見つかるのか。いや、100個探さないと1個見つからないのか、そこをちゃんと分かるようにして、第2の地球発見に貢献したいと考えています。

米田:第2の地球……、発見されれば人類は物凄い沸き方をするでしょうね(笑)。

小久保:きっと、地球型惑星が見つかって、光のスペクトルを見ると酸素があるって分かったりするんですよ。それって、多くの人の世界観を変えるんじゃないですかね。こういう星が他にもあって、誰かいるかもしれん、ということになる訳ですよね。でも、それは夢物語じゃなくて、10年ちょっと経つとそういう世界になるんだっていう。

米田:10年ってあっという間ですよ。

小久保:僕はちょうどそういう時期にこういう研究が出来ているので、凄く恵まれているんです。ですからまさにそれを目指してやるということですね。

米田:じゃあ、最後に個人的な目標を挙げるとすれば何ですか? あ、そうか世界中のチョウチョウウオを見るのか(笑)。

小久保:(笑)。いや、元気でいる、じゃないですけど、ずっと健康で、生涯現役でいるということですかね。すっごい普通だな(笑)。

米田:でも、100歳まで現役とかだったらと凄いじゃないですか。

小久保:普通、研究者は偉くなってくると、忙しくなって自分で研究を出来なくなるんですよ。でも、日本にも未だに80歳ぐらいでも自分でプログラムを書いてる人がいて、素晴らしいと思いますね。「探検とは知的情熱の肉体的表現である」、これを忘れないでずっといられたらいいと思っています。

1968年宮城県仙台市生まれ。国立天文台理論研究部主任研究員。1997年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。主な研究分野は惑星系形成論。著書に『1億個の地球』(共著、岩波書店)、『宇宙と生命の起源―ビッグバンから人類誕生まで』(共編著、岩波ジュニア新書)などがある。

インタビュー:米田知彦(TS副編集長)
写真:石原敦志
協力:国立天文台、蓮尾優貴
場所:東京・三鷹/国立天文台
日時:14/12/05

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