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永戸鉄也 (アーティスト/AD/D) 前半


永戸鉄也の作品を僕が初めて見たのは5年ほど前のことだ。
都市や自然の断片を細密にフォトコラージュした、どこか懐かしさを感じさせる架空の都市のイメージ。無機的なはずの都市が、意志とエネルギーを持った運動体として、自然との新たな関係を示唆しているように見えた。その後、彼はアートディレクター、グラフィックデザイナーとしても活動の領域を広げ、最近ではサザンオールスターズやUA、櫻井敦司といったミュージシャンのジャケットやPV(プロモーションビデオ)を手がけている。

「距離・歩幅」

そんな永戸氏は最近、映画やテレビを見ない「脱映像生活」を送っていると言う。もちろん、仕事上で必要な場合は見るし、ネットも使うから、文明そのものを拒否しているわけじゃない。テレビにせよ映画にせよ、人によって編集されたものを見ないというだけだ。これは映像が溢れる時代をサバイブするひとつの方法だと思う。見知らぬ人が編集したものを受動的に受け取るのではなく、見る側で選び、編集していくこと。時代は少しずつ、確実に、そうなってきている。コラージュという、いわばイメージの編集を制作の中心に置く彼が、一足先にそれを実行していることも納得がいく。

「異物と異物をぶつけると何かが起こる」

と彼は言う。これは彼が影響を受けたという、サルヴァドール・ダリに代表されるシュールリアリズムの方法論でもある。理性によるコントロールを取り除き、脈絡のないイメージの組み合わせから生まれる新しいイメージを重視すること。それは「つくる」という人為を経て、再び「自然」に近づくことでもある。永戸氏の最新個展のタイトルは「ナチュラル・プロブレム」。なぜ再び「自然」なのか。永戸氏の表現を突き動かしているのは何なのか。会場で話を聞いた。

近藤ヒデノリ(TS編集長)

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最近のジャケットワークから


サザンオールスターズ「キラーストリート」

サザンオールスターズ「キラーストリート」

近藤:これは、もともとは向こうから発注がきたんですか?

永戸:そうですね。でもこれは、さすが国民的バンドなだけあって、いろんな人の意向もあるし…

近藤:サザンの桑田さんがOKすればいいってだけじゃない?

永戸:その前にもあるんですよ。ただ、今回は最近のジャケットの制作の流れからすると異例だったらしく、比較的作家性が強く出来上がっていて、僕も納得して終わってる。

近藤:ちょっと懐かしいビートルズ風ですよね。元々のオーダーはどんな感じだったんですか?

永戸:60年代、70年代のロックのジャケットの匂いがして「Abby Road」的なアルバムになってるっていう話もあったかな。ジャケットも色んな可能性があったんですけどね。これビクタースタジオなんですけど、ここの壁面に絵を映して、それを写真に撮ってジャケにするっていうアイディアもあったりとか…。

近藤:この路面にヒュっとノイズが入ってる感じが妙に気になります。これも後から入れてるんですよね?

永戸:入れてます。気持ち悪いって言われるんですけどね。ただの車輪のスリップの跡なんですけどね。これって、タイトルが「キラー(殺し屋)ストリート」じゃないですか。コシノジュンコさんが外苑西通りを「キラー通り」って名前つけたらしいんですけど、昔、カミナリ族がここをノーヘルで飛ばして、人がバンバン死んでたからそうしたんですって(笑)。

櫻井敦司(BUCK-TICK)

櫻井敦司のジャケットワーク

近藤:櫻井さんは「なんでもやっていいよ」って感じですか?

永戸:櫻井さんはすごく気に入ってくれてますけど、一応話をたくさんしたんです。トータルのコンセプト全部、ストーリーみたいなものを作ってプレゼンして…。そしたら向こうが「こいつだったらいいだろう」みたいな。それからはお任せになってましたね。

近藤:その時プレゼンしたストーリーっていうのは、どういうものだったんですか?

永戸:「2004年度版のSM」(笑)、櫻井さんを架空のキャラクターに設定した話を作ったんです。服装の感じとか、その人の生活に臨む態度とか勝手なことをなんか書いて。焚き火を蛍光灯で照らすとか…なんていうんだろう、凄く間接的なんだけど屈折しているSM感っていうか。そういう風に遊べる隙間を作っておくプレゼンをして、それを受け入れてもらえた事でソロプロジェクト全般に面白い流れか作れたと思うんです。
櫻井さんはちょっと特例…って言っても意外と他の仕事もそう…

UA

UAのジャケットワーク

近藤:実は僕、これをパっと見たときパリにいる…ビョークのジャケットワークをやっているデザイナー、M/M(Paris)に共通するものを感じたんですね。ストレートに撮るんじゃなくて、ノイズとか、手触り感が入ってくる感じとか。真似とかそういうことじゃなく、彼らに共通点とか感じますか?

永戸:感じますね。写真が破けて変なところとか。

近藤:似ている人はいくらでも多分いると思うんですけど、ただそこに違いっていうものがなんかあって、それが日本人だからだとか、東京に住んでいるからとかで違ってくるのかなっていう気もするんですけど、その辺はどう思います?

UAのジャケットワーク

永戸:やっぱり同じ時期に同じようなものが出来てしかるべきだと思います。特に同じような経済状態の中だと。いきなりアフリカのアートの中からは出てこないと思いますし、東洋の方が遅れて出てくるのもまたしょうがないかなというか、その辺の差はあるのかなと。ただね、UAとビョーグのグラフィックの関係っていうの頭の中には色々あるんです。本当は全然違うところに行った方が良い。この年代で女性アーティストで、ファッションもアートも押さえやると、範囲が似てくるというのがあって。次にオファーがくれば、全然違う方向にしたいと思ってます。

2

アートディレクションと作家業


「Natural Problem」から

近藤:永戸さんはこういうCDジャケットなどに代表されるAD的な仕事と、今ここで展示しているアーティストとしての仕事がありますけど、その2つの間には自分の中では違いはないんですか?

永戸:そうですね、基本的には違いはないですけど、CDのような商業的なものの場合は個々の目的があるわけじゃないですか、お客さんの層とか…はじめてのリスナーに向けてのアプローチも凄く考えるので、そこが違いますよね。自分の作品の場合はやっぱり個人的に見せたい人とか、第一に自分が見たいっていうことがあるので

近藤:頼まれてやるAD的な仕事は、どの辺が面白いんですか?

永戸:不特定多数の人の手に渡るっていうことですよね。それに尽きますね。

近藤:お金が別に関係なくなったとして自分の作品だけ出ててもこういう仕事はこういう仕事でやっぱりやりたいですか?

永戸:やりたいです。2つの関係が自分の中にちゃんとあるというか。元々作品だけ作っていても満足しないんですよ、凄く社会の中で使われるパーツとしても働きたいと。そこから見えてくる社会の構造みたいなのを個人的な作品の方にもフィードバックしたいっていうのがあるんですよ。そこの線引きは曖昧ですけども。

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MY SOURCE マイ・ソース


家族

今年から高校卒業以来で自分の家族、両親、祖母と同じ場所に住み始めた。いつのときも家族の中の誰かの影響を受けている。

都市 東京

生まれ育った土地。アスファルト、公演、駅ビル、カンバン、商店街、全てを遊びに使っていた少年期。渡米して見えてきた古里、東京。それから活動が始まった。

サルヴァドール・ダリ

印刷物になっても、本物のペイントでも瞬時に彼の世界に入ってしまう。ダリの絵画を見て何処まで行けるか試してみたいと思うようになった。

ボブ・マーリー

信仰と矛盾。彼の声が好きだ。

ECMレーベル

理想とするビジネスモデル。
ECMの棚の前でランダムに数枚つかんでレジに行く。


4

家族


「Natural Problem」から

近藤:出身ってどこなんですか?

永戸:東京の杉並区なんですけど、最近十数年ぶりに実家に戻って家族と住んでいます。来年もう一人子どもが生まれるので、そうすると7人。三世帯住宅で生活してます。家庭内の人達から影響を受けてますね。特に、母方のほうの実家が木工業をやってたりとか。

近藤:それが今回展示されている作品の元にもなっている…

永戸:そうですね、代々伝わっていた書道の見本書なんです。あと既に死んでるんだけど、僕が凄く似てるって言われてる叔父がいて、美術をやってた人で…その人の影響もあるんですよね。

近藤:その人も、絵描きだったんですか?

永戸:何をやりたいのかという結論が出る前、25歳で死んでるんです。相当早熟な人で、宗教・美術・デザイン・教育みたいなのを結構掘り下げてやってたみたいで、幼児教育も自分でどこかの幼稚園に行って実践してたりとかして。宗教も片っ端からやっていて残ってる文献がやばい。今の新興宗教みたいなレベルのものからいろいろと。あとデザインとか、そういう本やノートがゾロゾロと出てきた。

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都市 東京


「我々は外野である」から

永戸:離れてみて分かったって当たり前なんですけど、外国に出て、その…初めて東京が故郷だっていう価値観が生まれたというか、それで4年くらい経ったときにもういいなと思って。今結婚しているかみさんとNYで住んでたんですけど、もう潮時だから帰ろうと説得して。

近藤:アメリカには何年くらいいたんですか?

永戸:初めフロリダに行って、それからNYに行って…アメリカは4年半くらいですね。そこで故郷っていう価値観が出てきてから、作品を人に見せようと思い始めたんです。それまでもずっと描いてはいたんだけど、個展をしようとか、営業に行こうとかは全く思ってなかった。で、そろそろ、ちゃんと仕事したいなって思って。最初は、ずっと手で描いてたりとかしたんです。アメリカから帰ってきてからバンドをやって、絵を描いて、その時はペンとか鉛筆で描いてて、たまたまコンピュータを触る機会があって、思い切って買ってみたんですよ。はじめは写真の着色からスタートして。

近藤:その手書きで描いてた頃の作品って、発表してないんですか?

「我々は外野である」から

永戸:前回ここ(Appel/経堂にあるギャラリー)で、ナンバーガールの人とグループ展みたいなのやったんですよ。その時には過去の手書きのものは出しました。そこで残ってたものは出し尽くして、ほとんどNYでは描いたら捨てました。油絵とか拾われてホームレスが売ってる現場とかに出くわしたりして(笑)。「これ、俺のだ!」って言ったら、「お前なんで捨てんだよ」って。「いやもういらなくて…」って(笑)。

近藤:もったいないー…。ドキュメントとかも撮ってなかったんですか?

永戸:撮ってないです。今はちゃんと撮るようにしましたけど(笑)。

6

サルバドール・ダリ


「Natural Problem」から

永戸:まず、エンターテイメントとして面白い。分かりやすいっていうか。奥行きがあるところにポツポツものが置いてあったりする空間的な絵が多いから、そういった空間の中に入れる感じもある。あとは、とにかく圧倒的に絵が上手い。毛一本の筆を使ってたんですよね。小筆が毛一本!それで、滅茶苦茶でかい油絵を描いてたんですよ。ちょっと異常。フロリダにダリ美術館があって、本物見たら、もう高さ10mとかそういったレベル。それに毛一本とかの筆で最後細かいところ仕上たりしている…。

近藤:今回の展示での自動書記とか、コラージュというのも元々はシュールリアリズムからきている部分ですけど、ダリをはじめとするシュールリアリズム自体にも結構影響は受けたんですか?

永戸:受けましたね。勉強したっていうよりは、ただ絵を見てて凄いなって。あと自分の感覚に合ってた。異物と異物をぶつけると何かが起こるじゃないですか。その感じが凄い自分に合ってた。組み合わせが悪い方がぐっとくるっていうか。

近藤:自分がシュールリアリズムの延長上にいる感覚はありますか?

永戸:それはあります。ただもうシュールリアリズムって当時でやりつくされて。まぁ、彼らの絵を見せてもらったから今やってるなっていう気持ちはあるので、ちゃんと意志は継いでいきたいなと思っています。

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ボブ・マーリー


永戸:あの人は…まさに信仰の矛盾っていうものを体現している。人間くさいのに、すごく神々しいというか。ラスタファリズムって髪の毛切らないじゃないですか?でもあの人は最後に、癌の手術するので髪の毛切ったりとか。そういうところもあったり、意外と子沢山だったりとか。ただ凄く信仰心が強くて。

近藤:永戸さん自身は、そういう宗教心とかあります?

永戸:あります。特に何々教とか、なんかを拝んでいるわけじゃないんだけど。一時期、ジャマイカにも行った時があって、ラスタやってました(笑)。もう放置したままのトレッド。

8

ECMレーベル


櫻井敦司のジャケットワーク

近藤:ECMレーベルって、ジャズ系なんですよね。他にもゴダールとか映画音楽のも出してる。知らなかったけど僕も結構持っていたんですが、どこに惹かれているんですか?

永戸:ドイツのレーベルで、ずっと続いてるんですよ。たまに凄く売れているアルバムを出してる。美術、音楽芸術としても成立してて、ジャケットデザインもかなり精度が高くて…しかも売れてて。潰れてない。完璧かなと。僕の理想とするビジネスモデル。

近藤:結構ジャンルも広いですよね。

永戸:広いんです。現代音楽とか舞踏とかジャズからサントラもやってるし。ECMで適当に買ってたら、結構当たってるっていう。レーベルで信じているのECMだけ(笑)多分ね、ここはお客の事考えてないと思うんですよ。勿論クオリティでは客にいいもの聴いてもらおうと思ってるんだけど、媚びてる部分が一切ない。ついてこれなければ、ついてこなくていいっていう。始めから全く「売ります」っていう感じがない。

近藤:その辺りは、自分の作ってるジャケットワークではどうですか?

永戸:いやぁ、それは…土俵が違うかな。消費されるスピードが違うから、よりジャケットもそのスピード感をとらえてかなきゃいけないですね。多分ECMの場合は、10年後も何十年後もいつでも同じ場所にいれるっていう特殊な音楽だから。

近藤:消費されるスピードって、何で決まるんですかね。いいものだったら別に消費されるスピードは遅いわけなんですかね。

永戸:遅い…はずなんですけど。

9

記憶をイメージとして残す


「Natural Problem」から

永戸:これ実は、余白が白の点で埋まってるんですよ(笑)。

近藤:まじっすか!?この余白の部分が?ひえーっ。

永戸:前にジャケットになるかもねってことで描いたアクリル画があって…使われずにいたんで、展示用にやってみようかと。

近藤:この辺りの作品は、音楽の音の印象っていうか、音を視覚化してるように僕には見えるんですけど。

永戸:それで間違いないですね。特に真ん中のとか。あとは直接音っていうか…関係性とか、単純に一個の思いがあって、それがどっかへ行ってしまうのを避けたいと思った時に、形状化してみたというか。

近藤:初めに全体イメージがあって、描いてくうちに細部が見えてくる感じなんですか?

永戸:両方の場合があります。ただコラージュって、性質上どんどん後から付け足してくもんだし、なんかここに足りないなとか、抜こうというのがあるので、やってくうちに出来てくっていうのが楽しいですね。日ごろなんとなく考えてる事とか。結論が出ないからとりあえず図形化しといて、あとで、何年後かに見たら思い出した…とかね。

近藤:普通、記憶って日記に書いたりとかするけど、イメージのままで残していくってことですか?

永戸:日記に出来ないうやむやな感じとか、複数の人の関係性の中から出た気持ちとか。それを人の名前を書いて日記にするって、僕はあまりダメなんで。だったらそういうのを思い出しそうなコンポジションのものを作っちゃうということなんです。

「Natural Problem」から

ちなみに僕、点マニアで、かすれとか粒とかっていうのを、古い印刷物からスキャンしてストックしてるんですよ。あーいう点とかも、古い紙のシミとか焼けなんですよ。あの真ん中のもモヤモヤっとしている青いものもインクのかすれなんですよ。だから点とかも、本当に普通に古い印刷物の点を持ってきてコラージュしているんです。

近藤:この作品に限らず永戸さんの作品は、ほぼすべてコラージュという方法でつくられていると思うんですが、そもそもコラージュという手法にこだわるのはなぜなんですか?

永戸:こだわってるつもりはないんですけどね。でも完全にそうなっていますよね。絵画とコラージュの線引きがもう曖昧になってる部分もあるんですけど、幼年期にやってた油絵とかも、そこに写真とか貼っちゃってるんです。だから初めから絵画とコラージュが混ざってる。「ミックスメディア」っていうのは、どこからでてきた単語なんですかね。「コラージュ」と「ミックスメディア」って違いますよね。

近藤:コラージュっていうのも、古い言葉なのかもしれないですね。

永戸:かもしれないですね。これ自体もコラージュかどうかっていうと、曖昧な部分はあるじゃないですか。だから…なんなんだろうねぇ。絵画でもないしコラージュでもないし、なにかしら次の表現方法に移行していく過程なのかなっていうのも凄く思っています。

アーティスト・アートディレクター・グラフィックデザイナー
1970年東京都生まれ。高校卒業後渡米。帰国後、96年より作家活動を開始。個展・グループ展などで作品を発表する。音楽、雑誌、書籍、広告などの分野ではアートディレクター・グラフィックデザイナーとして活動している。04年にはUA,櫻井敦司(From BUCK-TICK)等アーティストのCDパッケージデザイン、ステージデザイン、PVディレクションなどを手掛ける。昨年05年にはサザンオールスターズ、アルバム『キラーストリート』のジャケットアートワーク・グラフィックデザインを手掛けている。
2003年、第6回文化庁メディア芸術祭デジタルアート(ノンインタラクティブ)部門・優秀賞を受賞。同年、トーキョーワンダーウォール公募2003・ワンダーウォール賞を受賞し東京都庁での個展を成功させるなど、その活動は多岐にわたる

インタビュー:近藤ヒデノリ(TS編集長)
写真:大脇崇
テープ起こし:蓮尾優季
場所:appel
日時:2005. 12.13

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