022

永戸鉄也 (アーティスト/AD/D) 後半


「Natural Problem」より

1

印刷物コラージュ


「Natural Problem」より

近藤:2階にある作品は全部、家に代々伝わってきた印刷物をコラージュしてつくったものということですけど、元々なんでそれを使って作品にしてみようと思ったんですか?

永戸:書道の見本書なのですが、僕にまわってきて4代目なんですよね。それが、たまたま捨てられそうになってるのを見つけて、自分がなんとかしないと古本屋に行くか燃されるかしかないじゃないですか。5,60冊くらいあって結構な量なんですよ。あれでも全部使い切ってないんですけど、それらを凝縮して作品にして取っておけないか、その印刷物「墓」を作りたいっていう感じで始めたんですよね。

近藤:とにかく歴史っていうか、時間が降り積もっているパワーを感じます。

永戸:そうですね。僕はただ、ちぎって貼ってるっていう感じで。どう見てもこれは元々力持ってるから、何らかの力のあるものにはなるだろうなって思いながら貼ってました。

近藤:形とかはどういう風に決めているんですか?

永戸:展示を見にきた人の見易さとかも考えちゃうんですよね。具体的なものと抽象的なものと、両方用意しておいた方が見やすいというか。例えば、単純に抽象的なのは分からなくて、人の形してると分かるっていう意見があるわけです。それって、凄く分かりやすい意見で、そこでもう分からないっていわれちゃうと、それ以降のことも汲んでもらえない人もいるわけじゃないですか。エンターテイメント性っていうか視覚で楽しめるっていう部分の間口は広くしときたいなって。それは人に見せるときの僕の最低限の礼儀になっていますね。

2

「自然」というゼロ地点


「Natural Problem」より

近藤:線の作品の方は自動書記のように線を描いて、それを見ながらもう一回描いているんですか?

永戸:なんとなくの手の動きでバーっと描いて、それを見てまた描いてるんです。好きな動きとか、初めてやる線の動きとか。書道の見本書の方はの文字が歴史も力持っているので、その真逆として、自分の身体で一瞬で出てくる線をもう一度清書したものを対比で置いたら、何か見えてこないだろうかと思って対で展示しました。

今回の展示のタイトルが「ナチュラルプロブレム」って言うんですけど、「ナチュラル」って言葉もいろんな捉え方がありますよね。LOHAS的なものから、普通に本当にナチュラルっていう時とか、人間を中心とした自然とか。でも本来はそこに、もっと残酷だったり、キレイな自然とは違う反面なものが入って初めて自然が成り立っているけれども、やっぱ人間はどっか自然をキレイなものとして見たい願望があるのかなと。

近藤:例えば漢字とか、そういうのも全部自然ということなんですか?

永戸:そうですね、文字なんていうのは文明の一番のアイコンみたいなもので、あれを自然から排除して考えていくって事ではなく、あれも自然の一部であって。ただそこに相反してるもの同士が入ってる、自然の中に、文明的なものと反文明というか、勝手に人間の力でなく動いている部分と、両方が入っていると。当たり前のことなんですけどね。もう一度そこを再確認したいなっていうことがあった。

近藤:なんで自然というものを、再確認したいと思ったんですか?

永戸:日常的にいろんな問題とか事件とかあるわけじゃないですか。そうすると、今の自分の考えとか行動とかで限界が出てくる。何か考えいても、次の日には忘れちゃったりとか。思考が限界までいったら、置き去りにして考えるのを止めるわけじゃないですか。「これでいくと、この先どうにもならないぞ」という思いがあって。

どうにかもう少し思考的なものを広げられないか、もう少し考えられないかなと。今までの歴史も、諸問題を解決したいけどできないってことで、ずっときている。そういう時に、どうアプローチしていけるのだろうかと思ったときに、「本来、自然っていうものって一体何なのかな」っていうゼロの部分をもう一度考えてみたいのがあって。

近藤:それが自分のカラダの動きだったりする?

永戸:…というのもあったんです。後は自分と家族の歴史というか…自分という立場でたまたまめぐりあった印刷物とか。

近藤:理性ではコントロールできないカラダとか、無意識に興味が向かっているんですか?

永戸:そうですね。意識していることでそれ以上いけないっていう壁があるじゃないですか。例えばマラソンとか…全く自分はそういうタイプじゃなかったんだけど、自分を掘り下げないと限界きてるなと。じゃ、毎日酒とか飲んで、好き勝手なことやってた時間をマラソンに割いて見ると何が見えてくるんだろうみたいな…遊びですよね。

近藤:今まで使ってなかった体を動かしてみることで、違う思考が働くかもと?

永戸:そうそう。働くかもしれない。ただそれが全く違うかって言うとそんなことはない。それも一個の人間の中でやってることなんで。ただ限りある人生の中で、何かしらの可能性を追求しようとするんだったら、やったことないこと常にやり続けるっていうのは一つの手でもあるし、一つのことずっとやるっていうのも手だし。どっちにしろ限られてるから。マラソンって10キロくらい走ると、体はもちろんずっと動いてるんですけど、頭も別物になっていて、凄い色んなものを見だすんですよね。考えが消えてってる感じですかね。

近藤:ランナーズハイっていうか、悟りみたいですね(笑)。

永戸:悟りっていうか、何もなくなるって感じですかね。だから「ストレス解消にいいです」っていうのは本当に分かりやすい(笑)。

3

FUTURE SOURCE フュチャー・ソース


子育て/教育

3歳の娘ともうすぐ生まれる子供の事。
彼らとどういう日々を過ごしてゆくべきか、諸問題への対応。価値基準の設定。

脱映像生活 映画・TVを見ない生活

日々を自分主導でつかんでゆく。
支配される時間を持たない事。

マラソン

走るたびに人生を感じる。

蓄音機 SPレコード

本当に耳と心に良い音。録音と再生機器。
その仕組みと偉大なる発明。

日々

全ての課題と、問題、原動力とエッセンス。
日々のために行い、日々から行いが生まれる。


4

健全に何が見れるのか


「爆破からの」

永戸:もうすぐ生まれる子供と、4歳の子供がいて、作品に直接は影響してないですけども、日常的に影響すごく受けてるから変わりますよね。

近藤:例えばさっきの自然のことを考え始めたっていうのにも影響してるんですか。

永戸:子供ができてから、今までのやり方の限界をより見ちゃって、どう違うアプローチをしていけると思いましたね、今までデカダンっていうか、そっち側の探求の仕方を知ってたけど、その限界も感じて、今度は健全に何が見れるのかっていうことを今やってる。

近藤:昔は結構、デカダン的っていうか酒とか飲んでとか、凄いラリってとか(笑)、そういう感じはあったんですか?

永戸:いや、ラリってるのは別として…昔そういうことをやってたので、その残りが勿論あるんです。もうそれが自分の肉にもなっちゃってる部分もあるんで。

近藤:作り続けるのに健康じゃなくなったら作れないですしね。村上春樹もマラソンしてますし。

二人:(笑)

5

脱映像生活:編集されていないものを見たい


近藤:「脱映像生活」、テレビ映画を見ない生活って凄いなーって思ったんですけどね。

永戸:もちろん、ある程度はネットを見たり、新聞を見たり、街中で売ってるものは見るし、送られてきたビデオとか見なきゃいけないときは見るんですけど、それだけで結構、十分ですね。今まで生まれてから結構見てるわけじゃないですか。そうするとタレントとか出演者は変わっても、基本的なものはそんなに変わってないから、事足りますよ(笑)

近藤:すでにどれくらい、そうしてるんですか?

永戸:まだ一年半…二年経ってないぐらいです。

近藤:僕もテレビの仕事とかしてるのに、テレビをあんまり見ないんですけど、やっぱり「支配される時間を持ちたくない」。人が編集したっていうか、僕のリズムに合わないものを見るのが面倒くさいっていうのがあるんで、すごく共感したんです。それでも僕は、映画とかは、たまに見ますけど、全然見ないですか?

永戸:見ないですね。どうしても行かなきゃいけない試写とかは見ますが(笑)単純に影響受けちゃうというか、やっぱり編集って凄い力があるじゃないですか。すべてにおいて。だからあんまり編集されたものを見たくないっていうのがあります。

「I AGAINST I」

近藤:やっぱり、生のものを見たいと?

永戸:そうそう。どっちかって言ったら、編集は自分がしたいかなって(笑)。ただ、こういう生活してるから、映像の仕事とかテレビの仕事から遠くなるかって言ったら、そんなことなくて、見なきゃいけないものを1,2時間見たら、結構分かるじゃないですか。今まで見てきた蓄積もあるし。文明拒否してるってことでもないですからね。ファイル共有とか普通にしてるから(笑)。

近藤:その感覚、すごくよくわかります。そして今は、もう完全にそういう流れですよね。i-podにダウンロードして見たり。

永戸:そうそうそう。お茶の間でというよりはもっとサラって見て…そうするとCMは無くなっちゃう(笑)?

近藤:CMは…多分どっかに入るだろうとは思いますけどね。広告がないと経済が成り立たないですし。場所が移るだけでどっかに多分入ってくるだろうと思います。ある種、イタチごっこだと思いますよ。

永戸:そりゃそうですよね(笑)。

6

蓄音機


永戸: SPレコードがうちいっぱいあって、テクニクスから出てる普通のアナログプレーヤーもあるんです。それでずっと聴いてたんですけど、「やっぱSP聴くなら蓄音機だろう」と思って買った。ポータル型でラッパが内臓されてて、箱をバッと開けてグルグルってやると、やっぱ音が凄くいい。一番聴きたい音域のところに一番情報が入ってるんですよね。なんていうんだろう…特にバイオリンとかチェロとか、音数が少ない方が向いてるんですけどね。いい音なんですよ、すごく。

近藤:それってまわしながら、聴くんですか?

永戸:SP盤って片面で一曲なんです。ぜんまいみたいなものだから、これ全部回して一面か二面ぐらい聴けるんです。今度のイベントではDJやるんですよ。蓄音機2台使って…(笑)

7

日々について


櫻井敦司「胎児SMELL」

永戸:やっぱりいろんなことで、日々をないがしろにしちゃうじゃないですか、今の社会の仕組み自体がそう。だけどやっぱり一番の目的は、毎日を生きるという事であって、その上に色んな細かい事 社会的な地位とか、仕事とか、諸々があると思うんですよね。

近藤:まずは、ベースとして日々の生活があって、その上に表現があってそれに関連して仕事がくるみたいな?

永戸:…というのは、一番理想的な循環なんですけど。

近藤:割とそういう風になってきているように見えますが。

永戸:そうですね、そのために、一番は日々の事をちゃんと見たり。

近藤:しかも、編集されてないものを見ると。

永戸:それで自分で編集して、それをお金にしていく。

8

死ぬまでにやっておきたいこと


左から永戸、近藤

近藤:最後に、死ぬまでにこれだけはやっておきたいことってありますか?

永戸:具体的に何かあるかって言われると…やっぱ、より自分が見て納得できるもの作れれば。自分が見て驚けるものが作れればいいかな。今なんて予定調和なところもあるわけですよ。だから、マラソンじゃないけど、やればやるほど何もなくなっちゃって、出来上がってゴールを迎えたときに素晴らしいものが立ち上る、なんて夢のような状態があればいいと思うんですけどね。そういう意味で今の自分の限界を感じているんです。考え方にしろモノに取り組む姿勢にしろ。

近藤:それでとにかく走ってると(笑)。では10年後に、どんな作品をつくっていたいとかありますか?

永戸:分かんないです。ただ純粋に、より多くのヒトに見て欲しいなっていうのはあるんですけどね。

近藤:今でもUAのCDジャケやったりしてるから、かなり多く…何万人もの人が見てるわけですよね。

永戸:数としてはもちろんサザンのほうが多いんでしょうけど。この間東京ドームのライブに行ったけど、この人達はほとんど家にこの絵持ってるんだって思うと不思議な、なんかどっか磨り減るような感覚なんです。知らないところで見られてる、みたいなね。

近藤:みんな、「この路面のタイヤの跡が気になるなぁ」とか思ってるんでしょうね。

永戸:(笑)。

........................................................................................................................................
interview by:

近藤ヒデノリ Hidenori Kondo
クリエイティブディレクター、CMプランナー
TOKYO SOURCE編集長、季刊誌「広告」編集委員

1971年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。東京写真専門学校中退。博報堂に入社後、休職してNY大学芸術学部/ICP修士課程で写真と現代アートを学び、9.11直前に帰国。同社に復職後は、TVCMやウェブなどの広告を制作しながら、個人としても個展・グループ展、展覧会キュレーション、書籍の編集など手法を選ばず表現活動を続けている。ラクダ似な旅好き。(photo: Suguru Takeuchi)
ブログ「TRAVEL HETEROPIA」http://d.hatena.ne.jp/camelkondo/
Twitter@KondoHidenori
........................................................................................................................................

アーティスト・アートディレクター・グラフィックデザイナー
1970年東京都生まれ。高校卒業後渡米。帰国後、96年より作家活動を開始。個展・グループ展などで作品を発表する。音楽、雑誌、書籍、広告などの分野ではアートディレクター・グラフィックデザイナーとして活動している。04年にはUA,櫻井敦司(From BUCK-TICK)等アーティストのCDパッケージデザイン、ステージデザイン、PVディレクションなどを手掛ける。昨年05年にはサザンオールスターズ、アルバム『キラーストリート』のジャケットアートワーク・グラフィックデザインを手掛けている。
2003年、第6回文化庁メディア芸術祭デジタルアート(ノンインタラクティブ)部門・優秀賞を受賞。同年、トーキョーワンダーウォール公募2003・ワンダーウォール賞を受賞し東京都庁での個展を成功させるなど、その活動は多岐にわたる

インタビュー:近藤ヒデノリ(TS編集長)
写真:大脇崇
テープ起こし:蓮尾優季
場所:appel
日時:2005. 12.13

バックナンバー