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左京泰明 (経営者) 後半


1

近づく事業型のNPOと企業


左京:「NPO=稼がない法人」、これはよくないと思って、説明する時は、NPO法人じゃなくて、さっきの話を踏まえて、"Public Profit Organization"であると話をするんです。

米田:いわゆる"PPO"ですね。

左京:パブリックなプロフィットを追求するための組織ですね。一方で、企業のことを"Private Profit Organization"という言い方をする。どっちもプロフィットを求めている、それは変わらない。ただ、それが株主のためだけに突き詰めるのか、社会のためかという違いだけなんです。そういう話をすると、ちょっとだけしっくりくる。

欧米では、例えば学校や地区の協会も、全部NPOというくくりに入っているそうです。そういった公益、パブリックのプロフィットを求めている組織という事だから、ごく普通なんです。限られた人の、生活から遠い場所にある組織じゃなく、ごく当り前の一組織なんですよ。そういうイメージが広がって欲しいんです。

米田:稼げるし、NPOで食えるっていうのは、多くの人に希望を与えるような気がします。社会人になってもやる気があればできるし、もちろん学生であってもできるし、やりたい事やれる世の中になればいい。まさに左京さんが言ってる通りだと思います。

左京:これはもうすでに古いイメージになってると思いますが、「企業は悪いことをしてでも稼ぐけど、お金は持っている」、「NPOは良いことをするけど、お金はあんまりない」みたいなイメージってあるじゃないですか。それって大きな間違いなわけです。

企業だったら、例えばCSR(Corporate Social Responsibility。いわゆる企業の社会的責任)といった潮流がある。企業も事業活動において、例えば環境に対してメチャクチャな事したらやっぱりダメなわけで、広く社会というものを考えて、より良いサービスを提供するという風に少しずつ変わってきている。

一方で、NPOであっても、社会にとって良いことをしていれば、経営や収益構造のようないわゆるそれまで企業が得意としていた部分は必要ない、そういうことはありえないわけですよ。

だから、そう考えると事業型のNPOと企業っていうのは、今、方法論においてあまり変わりはないぐらいだと思うんです。この流れは加速していくだろうし、企業は社会にとってより良い事でいいサービスを提供していくべきだし、NPO法人という組織形態であっても、どんどん企業のマネジメントとか、そういった手法を取り入れていかないとやっていけないんですね。

米田:確かに、まだ大多数まではいってはいないけれど、そういう流れは感じますね。

左京:なので、企業だとかNPO法人っていう法人形態にこだわりすぎるのは、あんまり意味が無いと思ってるんですよ。 それって箱の違いだけなんです。例えば、僕は松下幸之助さんが好きなんですけども、彼の場合はいわゆる企業として事業を営んだわけですが、そういった場合でも必ず、健全な経済活動を通じて社会の繁栄に寄与するっていう風に、あの時代の人たちは考えたと思うんです。

米田:考えていたし、実際にそうだったわけでしょう。

左京:健全な経済活動は社会を繁栄させる。これは、そうだと思うわけで。つまり、時代時代に応じて社会をより良くしていくために事業を営む。そのために一番合理的な手段をとる。法人形態を含めてですね。だから、僕らの活動も経済活動の1つだとも言えるし、 もう1回時代が一巡してる、じゃないですけれども、今そういう流れにあると思う。 だからこそ、僕らは成功できるという確信がある。

米田:極端に自分の会社の時価総額にこだわる企業経営者が出てきた半面、逆の方向性っていうのも凄く社会に浸透してきてると思うんですよ。

左京:企業の経営方法については色々と言われています。社会にはルールがありますから、ルールは逸脱する事はもちろん良くない。それは、どんな組織でも良くない。でも、方法論として優れた部分はずいぶんあるんだと思います。だから、事件になったからダメだ、やっぱり今までどおり地道にコツコツやっていくのが一番だ、というのはあんまり望ましくないと思います。

そうではなく、新しい価値を作る、何かに挑戦するというベンチャースピリットはいつの時代であっても持つべきだし、継承すべきだし、賢い手法は盗まなきゃいけないですよね。でも、良くないところは良くないっていう、そのバランスが大事なんじゃないかなって思いますね。

2

出会い、自然、ラグビー――マイソース


人との出会い。これは道しるべだなと思う。

自然

色々な事を自然の何かに例えると凄くしっくりくる。

物の見方、考え方、言葉の全ては、本などからもらっている。

ラグビー

個人としても組織として全てはここに帰っていく。

感謝と謙虚

要は勘違いしないって言う事。自分なんてたいした事無い。


左京:別にエリート街道を進もうと思ってたわけじゃないですが、高校も一応進学校で、早稲田のラグビー部に入り、住友商事に入りっていう、世間で言うと、そういった選択肢だった。単に大学まではラグビーしか考えてなかったんで、ラグビーをやるのに一番いい環境っていうのを選んできただけなんですけれども。

でも、会社を辞めるっていう時に、初めて、人の評価だったり、周りのイメージだったり、社会的なステータスじゃないところを選んだ。なぜか、自信はあったんですけど。自分の内なる声に従ってると妙にしっくりくる。どんな仕事をしてもやっていける自信はあった。でも、やっぱり不安な時もある。でもそういった不安に包まれるときはあっても、僕には人との出会いがあったんです。「この人は自分と同じ事考えてる」とか、志を共有するような方たち、「素敵だなあ」という人に会う機会は、会社にいる時よりも断然増えたんです。

そういった人との出会い、これは道しるべだなと思い始めた。そう人たちに会えるっていうのは、きっと自分は間違った道を歩いていないと。逆に、出会えなくなった時は、自分はおかしな方向に歩いてるんだろうと思う。これから自分はこう行きますと旗を立てて歩き始めたら、社会的な評価は無くても、応援してくれる、心強い人たちが周りに増えてくる。すると、このまま突き進もうって勇気が湧いてきました。

シブヤ大学の開校式はスタッフを始め、結構な人数で動いてたんですが、自分がその中ではプロデューサーだったんですね。九州の田舎から出てきたこの若者が、お金があるわけでもなく、肩書きがあるわけでもなく。それなのにみんなが快く手を貸してくれる。大した謝礼も払ってなくてもいいと言ってくれる。

「組織が掲げてる事もいいし、あんたも応援するよ」っていう感じでやってくれた事が本当に嬉しくて、もう消えてなくなるくらい感謝しました。カメラが回ってるにも関わらず泣いてしまいました。だから、人との出会いだとか、人に助けてもらったりだとか、本当に欠かせない要素ですね。

米田:ピンチでも必死にやってると必ず現れてきますよね、理解者が。

左京:最近は知り合いの知り合いだったりすることが増えてきたんです。「この人いいな」って思う人に会って話を始めると、共通の知り合いがいるような現象が起こる。これって偶然じゃないと、最近思い始めた。だから、会いたい人には誰でも会えるっていうのが、確信としてありますね。

自然

左京:田舎で育ったので、自然を常に意識してしまう。自分の判断基準の中は常に、「自然だとどうなるだろう」とか「この行いは自然だろうか」っていうのが軸にある。それが自然であれば間違いないと言うか。何があったとしても自然に例えるわけです。

米田:“ネイチャー”というより、“ナチュラル”というニュアンスの自然。

左京:そう。松下幸之助さんもよく「自然の理法」って言うんですが、人生を例える時も、やっぱり自然の何かに例えると凄くしっくりくる。例えば、凪いでる時もあれば嵐の時もあったりと、船の航海とかに事業の運営を例えたりする。とにかく、これは自然かどうかっていうのを軸に考えるっていうのは凄く…

米田:収まりがいい。

左京:うん。自然じゃない事をやりだすと、たぶん僕はおかしな事になって行くと思うんですよね。

米田:岐路に立った時の判断基準としてですね。

左京:それは事業、仕事の上でもあるかもしれない。こういった事業というのは人として自然か、とかですね。自然の一部である人間として自然かって言うような感じですね。

米田:じゃあ、上手く行った時もこれも自然な事であってっていう風に奢らなくて済むし、上手くいかなかった時は自然な流れで上手くいかなかったっていう風に素直に反省点を見つけられる。

左京:例えば、事業の経営を思い浮かべる時は、木をイメージするんです。「枝葉じゃなくて幹を太くしよう」とか「そこは幹だから譲れない」とか。「今は幹を太くする時期」だとか、「枝葉に花を咲かせた方がみんな寄って来る」とか。

米田:ふむふむ。

左京:そう考えれば間違えないと思えるんです。野中ともよさん(元テレビキャスター。現三洋電機㈱代表取締役会長)とお話することがあるんですが、毎回発見があるんですよ。1人の人間という存在を例えて、「幹を太くして、枝を大きくして大きくなっていきたいです」と僕が言ったら、 「左京、あんたね、大事なのは根っこなのよ」って言われたんです。「大きく高くするのは誰でも出来る。人間として根を深くするのよ」っていう事を言われて。なるほどと思うんです。

米田:根っこを太くって、実際は難しいですよねえ(笑)。

左京:「大事な事は見えないのよ」って言われるんです。根っこって、見えないじゃないですか。多分それは肩書きだとか地位だとか、数字的なものだとかっていうところがあるけれども、そうじゃないと。人には見えないけれども、人間として根っこを深くしていく事を考えなさいって言われたんですね。

左京:僕は本の中から、考え方とか言葉を沢山集めて、自分の中にルールを作るんです。何かしらオリジナルで作り出したものって多分1個もなくて、僕の物の見方、考え方、言葉っていうのは、全部本とかからもらってきてると思うんです。さっき言ったような星野さんとかって、僕が知った時にはもう亡くなってたし。

米田:ああ、そうですか。

左京:そういった方の話も読めるわけじゃないですか。本を読みながらも、やっぱり自分の中の大切なヒントとか言葉を拾い集めている。ライフワークみたいな感じです。

やっぱり、星野道夫さんと松下幸之助さんは欠かせない。人として大きな目線、高く広い視野で見るという事を考えると、星野道夫さんは凄く大事な人だと考えています。松下幸之助さんは仕事の部分ですね。人生観とかも凄く大好きなんですけども、仕事、経営観ですね。組織で物事をやって行くっていう時に、松下幸之助さんっていうのは凄くしっくりくるんです。本を挙げ出すとキリがないんですが。

米田:いわゆるビジネス書なんかも読みます?

左京:メチャクチャ読みます。それも凄い勉強になるんだけども、松下幸之助さんと、結局言ってることの本質は多分変わんないなという気はよくしますね。

ラグビー

左京:僕が小学校から今までやってきた唯一の事で、、さっきの話で言うと、ラグビーは幹や根っこなんです。僕個人としての価値観もそうだし、組織としても、チームで何かやるとか、或いは、人とのコミュニケーションを考えても、全てここに振り返っていく。例えばそうだな……、口先だけのヤツは嫌いとかあるわけですよ(笑)。

米田:ラグビーって、他のスポーツと違って、文武両道みたいなところがあるじゃないですか。

左京:イギリスでは教育に使われていたスポーツなんですが、なぜ教育に使われているのかという理由の1つに、遊びでできないという要素があると思います。格闘技の要素もあるし、死んだりする事もある。凄く神聖な気持ちというか、武道とかに似ているところがある。チームプレイでやる武道みたいな感じなんです。

さっきの口だけのヤツは嫌いっていう話というのは、ラグビーってどんなだけ口で上手い事言ったって、試合で大男が目の前に全速力で走った時に、逃げるヤツは誰からも信用されない。どんなに下手糞でも、足元にタックルに行けるヤツが評価される。そういう文化がある。本当に嘘をつけないんです。テクニックだけでも出来なかったり。武道も全く一緒だと思うんです。

米田:有言実行じゃないと仲間から信頼されない。

左京:ラグビーを通じて得た、価値観やルールが自分の中に沢山ある。個人レベルでもあるし、経営、マネジメントっていう意味でもある。大学4年の時に清宮監督という人が来て、大きくチームが変わった。僕が1~3年生の時のベクトルは精神的な部分に傾倒する部分が強かった時期だったと思うんですが、清宮さんがもたらしたものは、そっちを東洋だとすると、ある種、西洋的な、合理的な手法でした。

試合に負ける理由を全部数値化するみたいな事をやったんです。今までは体力がなかったとか、あの変で集中力が切れたからとか、何となく走り負けたとか、どうしてもそんな反省が多かった。じゃあ何が足りないかと言っても、それが100メートル走なのか、何十キロ走なのか分からない。その辺を全て数字で表現していく、デジタルの手法みたいな事を持ち込まれたんです。それによってチームが一変した。勝てなかったのが結果として出始めた。

それって、経営と似てるんですね。人が寄り集まって、組織で物事を成していこうとすると、組織論みたいな話になる。キャプテンという役割で、ラグビー部という組織の変化を如実に感じだ。体で感じたっていうのは凄く大きかった。

要はバランスなんです。どっちかだけじゃなく、合理的、西洋的な手法だけでもダメで、日本みたいにド根性で、精神的な部分だけでもダメだし、その上手いバランスですね。それが取れてるのが清宮さんっていう人で、凄く勉強になりました。

感謝と謙虚

左京:松下幸之助さんは「素直」っていう言葉をよく書かれてましたが、僕の中では感謝する事っていうのは欠かせないんです。要は勘違いしないっていう。僕は自分が大した事無いっていうのはよく分かっている。チームをガンガン動かしたりとか、才能があって何かに長けるとか、自分の力だけで全てができるとか、毛頭思っていない。志も、みんなから尊敬されるほど高くも無いし、普通なんです。

田舎者だし、裕福でもないのに東京までギリギリで出してもらって、本当に普通なんです。そう考えると、自分は大した事ない、何者でもないと考えると、誰かから手を貸してもらった時に心から感謝する事ができるんです。それをやってもらって当り前とは思えないわけですね。

ラグビー部では、チームのみんなが自分をキャプテンに押してくれた。でも、勘違いしちゃうと、「当たり前だ、俺がキャプテンだろ」みたいな感じになるじゃないですか。そうは全然思えない。だから、ありがたく力を借りる事が出来るし、感謝できる。勘違いが始まると、悪循環を産む。感謝の気持ちさえ忘れなければ謙虚でいられるし、謙虚でいれば一生懸命頑張る事ができる。そうやって頑張っていれば、色んな人が手を貸してくれたり助けて引っ張りあげてくれる。これは、見失っちゃいかんなと思うわけです。

米田:何か、人間の心の問題の85%くらいは、この2つの気持ちがあれば、解決できそうな気もしますけどね(笑)。

左京:そうですね。どんなきつい状況とか、辛い困難とかでも結構乗り越えられる気がします。そういう風に、自然を思い浮かべてみたり、こういったキーワードを思い浮かべてみたりしてやっていくっていうのは、自分にとってすごく自然な生き方だし、今後もこうしていくだろうなって思います。

3

広い視野、世界と自分を切り離さない――フューチャーソース


世界

高い視点と広い視野で、世界を見れるようになりたい。

歴史

歴史と言う縦軸で、今がどうなっているか知りたい。

経営

組織としていかに事を成してゆくか。今やっている仕事。

自己

目指すべき人とかいない。僕はやるべき事をやるだけ。

仕事

職種とか組織の名前とかどうでもいい。生き甲斐。


世界


左京:アメリカでMBAホルダーによる動きがある、っていう事もそうですが、高い視点と広い視野で、世界の流れみたいなものも見れるようになりたい。全然自分なんてそれに関係ないんですが、世界を常に意識しながら、自分が歩く方向を決めたいと思うんです。政治や経済、ビジネスの潮流みたいなところも切り離したくはない、なるべく意識したい。

中東で起こっている事に対して何かできるとは思ってないんですが、やっぱり知っていたいと思うんです。何かしら意見を持ったり、こうなっていけばいいんじゃないかなっていうような事を思いながら世界を見たいなと思うんです。

歴史

左京:1個目の世界が平面だとすると、歴史っていうのは縦軸のような気がします。横が自分の視野だとしたら歴史というのは縦の軸です。それも分かりたい。知りたい事はキリがないんですけど、そういった縦軸の中で、今の時代がどういう風になってるかという事も、自分の中では知りたい。

星野道夫さんも、やっぱり凄い長い軸で見てるわけじゃないですか。あそこまで出来ないですが、何か歴史の上で、今の時代がどうあるんだっていうのを縦軸でも見れるようになりたいなと思っています。

経営

左京:僕が今やってる仕事ですね。仕事っていうのはマネジメントで、それをどういう風に組織として事を成してゆくか、成果を上げて行くか。凄くやりがいがあるし、面白い。この辺に関してはもっともっと自分の力を高めていきたい。

自己

左京:イチロー選手とかが、「自分は誰かになりたいと思った事はない」っていう風におっしゃっていて、「とにかく自分の力を引き出す事、高める事にしか興味が無い」と。僕も誰かになりたいとかってあんまりないんですよ。憧れの人とかあんまりいなくて、とにかく自分の持っているものを使うっていう方がしっくりくる。 今までもそうやってきたし、今後もそういって行く方がいいなって思います。

米田:マイソースに憧れの人とかに人は入っていますけども、それは人との出会いであって誰か個人とかって事ではないですもんね。

左京:そうなんですよ。目指す人とかあんまりいないんです。僕は自分がやるべき事をやるだけだっていう風に思っています。

仕事

左京:自分にとって凄く大事だし、生き甲斐ですね。だけど、職種とか組織の名前とかどうでもいいんです。僕の中ではラグビーをやってる時と同じモチベーションや感覚で動いているんです。そこは変わってない。要は、組織としてのミッションがあって、目標があって、その中で自分の力を高めて、使って、組織として成果を出してって。そういう風に考えながら行動しているだけなので、歩いている道の中で肩書きが変わるだけです。今はシブヤ大学のなぜか学長なんですけども、肩書きなんてどうでもいい。

米田:なんだか、部活みたいですね。左京さん、ずっと(笑)。

左京:そうですね。チームで何かやって行く事とか、自分の力を高めて行く事とかが好きなんです。それによって周りの人が喜ぶっていうのが、僕の中での大切な事で、それをずっとやっているつもりです。そこで、こういう事やって将来何やりたいの?みたいなことを訊かれるんですけど、分かんないんですよ、そんな事。

米田:それ、僕がインタビューの最後で訊きたい質問ですね。訊けなくなっちゃった(笑)。

左京:でも、考える必要もあんまりない気がして。「政治家になるの?」とか訊かれるんです。特にハセベさんのお仕事を手伝っていたときとかには「こいつは将来区議に立候補するんだな、勉強してんだな、丁稚だな」みたいな。でも、僕は「は?」みたいな(笑)。「いやあ、そんなことは全く考えてないっす」みたいな感じで。

ずっと、シブヤ大学に携わってるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。何か変わるような気もする。今までもそうだったから。自分がその時に出来る事を、とにかく一生懸命やって、自分の力を高めて、組織として結果を出していけば、また次の舞台が待っていると思うんです。

米田:水の中で、今は必死に泳いでるけど、いつか多分また上がって楽になる時が来るんじゃないですか?

左京:そうですね。でも、今は「辛すぎる。これちょっともつかなぁ」と思いながらもやってますけどね。

米田:結構そのくらいまで大変な時期にきてる?

左京:きてますねえ(笑)。プレッシャーもあるし、もちろん、逆にやり甲斐があるわけですが。組織で一番若い僕がリーダーシップを取らなきゃいけなかったり、内部にも外部にも結果を出していかなきゃいけない。協力してくれる企業さんがいたり、関係者がいる中で期待を超えていかなければならない。なかなかチャレンジングです。でも、今、必死に泳いでいる中で、いつか楽になる時が来るだろうなという気はしています。そのためにコツコツ準備していこうと、組織を作っていこうと。

4

一生関われるコミュニティ作り


米田:僕は、初期衝動というのを常に忘れたくないっていうのがあるんです。初期衝動の瑞々しさみたいなものを。それは、自分がなんで最初にこれをやろうと思ったかという端緒が、やっていくうち、難題にぶつかっていくうちに、忘れてしまったり、置き去りにしてしまったりする。

マネジメント、経営って話が出てきましたが、その初期衝動をマネジメントして形にして世に届けたり、プロジェクトを立ち上げて成功させる。それがやっぱり一番大変で重要なことなんじゃないか、その大変なところを乗り越えて、いかに旨味に辿り着けるか、ってところが勝負なんじゃないかなと思うんですよ。だけれども、左京さんはその過程も結構楽しんでるんじゃないんですか?

左京:楽しいですよ。楽しいと楽は違いますけどね。それは当り前なんですけども。

米田:でも、多分もっと楽しくなりますよね。

左京:うん、そうだと思いますね。

米田:シブヤ大学の今後についてはどうでしょう?

左京:今来てる方が主に2、30代で8、9割なんですけども、これを徐々に世代を広げて行きたいと思ってます。まずは小中学生の学校教育に対してサービスを提供したいと思っていて、総合的な学習の時間っていうのに対し、色んなカリキュラムの提案をやっていこうと。

僕らの方でメニューを持っていて、まずは学校長とか現場の先生と話し合いをしながら、年間のカリキュラムに入れてもらう。シブヤ大学とのコラボレーション授業が、区内の学校にたくさん生まれていくっていうのは、凄くいいなって思ってるんです。現場の方に話を聞いてみると結構ニーズがあって、だったら社会教育だけでなく学校教育にも地域の資源を活用してみようと。

米田:社会科見学とかね。

左京:そう。今はパソコンだったり英語だったりっていうのは、そういった時間でやられているんですが、地域の清掃活動などで、グリーンバードとのコラボレーションなんかもしてます。そういうのってもっと選択肢があった方がいい。子供にとっては勉強になるし、先生にとっても刺激になるし、子供達に何かやってあげたい、教えてあげたいって人はたくさんいるし、関わる人みんなにとって嬉しい仕組みですよね。

学校教育というのは行政の管轄ですから、なかなか民間の組織とすぐに一緒にやろうというのは難しいのですが、そこを僕らが手を貸すかたちで、コーディネートしてあげる事が出来ればと思っています。一中学校、一小学校とかって、学校単位で地域と密着した教育に取り組まれているところは多くあると思うんですけど、その自治体単位でそういったサービスを行っている所は少ないと思うので、やり甲斐があります。

一方、上の世代に対しても、将来的にはサービスを行っていければと考えています。時間に余裕あったり、お金に余裕があったり、それから社会的に貢献したいとか、何かしてみようっていう人が増えてきている、団塊の世代の方とかまさにそうですね。もう、莫大にいるわけですよ。

米田:いわゆる2007年問題なんかもそうですね。

左京:はい。その世代に対しては、すでに区の方で色んな講座とかやられているんですが、やっぱり人気だそうなんですよ。土曜の週末とかにですね。

例えば、そういったサービスについても、シブヤ大学の方が一括して区からサービスを請け負えるくらいまで組織として力をつけたい。僕らは行政だけではなくて、民間の力、資金、ノウハウ、そういったものを取り入れられる存在なので、きっとより良いサービスが提供できるだろう、と。

現状、区の方では色んな部署がバラバラに講座をやってるんですが、もっと効率的にやれる可能性も感じます。そういったサービスを僕らの方で請け負うことができて、そういった高齢者向け、団塊世代向けのサービスもやるという風にすれば、子供からお年寄りまで、僕らのサービスの対象に入る。

そこで、初めて世代を交えたような授業だとか、取り組み、サービスの提供が出来始める。行政だけでは若者へのコミュニケーションはなかなか難しい。投票率なんかが悪いのも、若者の関心が低いからですよね。

でも、僕らはそこに強みがある。その強みをもっともっと伸ばしてゆく、と同時に他の世代に対してもサービスを提供できる事業にしてゆくという事なんです。

そうすると、この街に生まれた赤ちゃんがいて、最初にシブヤ大学と関係を持つのは、お母さんと赤ちゃんのナニナニ講座とかがあるわけです。小学校に入ったらコラボレーション授業がある。帰ってきて、「学校でシブ大の授業でなんとかだったよ」みたいな事があるわけです。

今年度から始まるというふうに聞いているのですが、中学校2年生が秋と冬に5日間ずつ色々なところに職業体験に行くそうなんです。こういったときにもシブヤ大学のネットワークを活用したら、色々な企業に行ける。「明日からサイバーエージェントだよ!俺」とか(笑)。行政だけ、或いは学校だけでネットワークを持つのはなかなか大変ですが、シブヤ大学の仕組みを活用できると「あいつ、マイクロソフトに行くらしいぜ!」みたいなことになる。

色んな企業の方々と職業体験について話をしてみると反応はいいんです。自分の子供さん達に 自分の働いている姿を見てもらいたいというのが親の気持ちなんです。今は出来なくても、そういった事も出来ると。

高校生になって、例えば和太鼓部とかに入ったとして、 和太鼓の先生としてシブヤ大学で授業をやってみるなんてことできる。体育館で地域の人に教えてみたりね。大学、それから社会人になっても週末なんかに、たまにはシブ大の授業にでも行ってみるか、みたいな感じとか。で、ひょんな事から出会ったそこの女の子と結婚して学生結婚になるわけですよ。

そんな感じでお年寄りになっても、様々なコミュニティに参加できるという事なんです。一生付き合えるコミュニティとしての存在ですね。それをシブヤ大学は目指そうと。特定の莫大なお金をかけたような大きな校舎がなくても、その街には一生関われる学校があるって、凄いじゃないですか。

5

組織を大きくするのではなく、オープンソースであること


米田:例えば、学生証みたいなのって作らないんですか?

左京:ちょっと考えてます。あたかも目には見えないんだけども、この街には学校がある、シブヤ大学がある事を、みんなが確認できるようなものがあるといいですね。そうすると、「全国にシブ大の分校が出来るんじゃないですか?」ってよく訊かれるんです。でも、「全くやる気はないです」って言うんです。

要は、自分達の組織をとにかくデカくしていって、傘下に収めていって、マネジメントしていきたいというのではないんです。僕らのやり方っていうのはオープンソースみたいな感じなんですよ。「みんな盗め」と思ってるわけです。僕らのノウハウ、やり方っていうのを。僕らはどんなところにでも全部教えようと思ってるんです。企業との付き合い方にしても、単なるお金をもらいにいくんじゃなくて、ちゃんとニーズを把握して お互いに交換するんだとかっていうことなんです。

僕らが一個一個パイオニアとしてこう築いていって、その仕組みを全部提供しようと思ってるんです。 そうすると全国で似たような例も生まれるかもしれない。あるいは教育じゃなくてもいい。行政だったり企業だったり市民の間に入っているニュートラルの組織の活用方法として、例えば福祉とか、そういった事業に関しても使えるわけです。

米田:TOKYO SOURCEの活用法も考えて欲しいな(笑)。

左京:やっぱり、僕らは目立たなきゃいけない。モデルとして成功したいと思っています。そうすれば渋谷区に対する1つのサービスに留まらず、日本中、あるいは世界中に対して凄くいい試みだなと思うんですね。別に日本に限らず、世界で使える仕組みだと思ってるので。そこまでメンバーに理解してもらって、みんなを動かすのは大変なんですけども、僕的には1人で果てしない妄想のビジョンをしていますね。ニヤニヤしてるんですけども(笑)。

米田:じゃあ、妄想的なシブヤ大学のビジョンを聞けたんで、左京さん個人のビジョンは何ですか?

左京:僕のビジョンは…、全く想像つかないんです。シブヤ大学が成功した時に、マネジメントとして喜んでいたいというのはあるんですけども。皆さんはどういう事を言われるんですか?

米田:アーティストだったら、こういう作品を作りたいとか、こういう作家になってたいとか言いますね。でも、今って完全にプライベートがないわけですよね?

左京:ないっス(笑)。

米田:じゃあ、個人的な夢とか訊けないですね。

左京:個人的な夢……ないっすねぇ(笑)。やっぱり完全に仕事と切り離しての個人的な夢というのはありえないような気がします。仕事って、何かサービスを提供してその対価を得る事じゃないですか。 そこに責任があって、プロとしての意識がある。それが楽しかったり、やり甲斐があったり。

だから、やっぱり仕事そのものが重要なんですよね。趣味は趣味。自分が好きで、自分の楽しみだけにやっていれば、そこには対価も当然発生しないし。でも、僕の中ではお金を発生させる、対価を得るという事に凄く意義があって、それこそやるべき事だなって思ってるんです。だから、もっともっと仕事ができるようになりたいとは思います。

……これ、夢ですかね(笑)?でも、願わくば、自分の仕事を通じて社会が少しでも良くなったり、幸せになってくれる人がいてくれればいいなあと。

米田:人生=仕事という感じですか?

左京:難しい質問ですね。人生=仕事とは思わないですけども、仕事とは人生における凄く大事な要素だとは思ってます。余暇だとか趣味だとか言うじゃないですか。僕の場合は仕事だとは思いますね。5時で仕事が終って、その後の時間だけを豊かにしていくって生き方は、僕はできないでしょうね。

米田:責任が好き、なんですかね。やはり、自分が一番価値があると思う事を自分がやりたいんじゃないんですか。だから、これは自分としてはあまり認めてないけども、お金のためだとか、なんか会社に就職しちゃったからとかそういう事ではなくて、本当に自分の中で。

左京:それはもう、あり得ないですね。

米田:自分の中で、世界の中で、今現代の生きている中で、真に価値があると思う事をやるというか。そういう意味では凄く合理的だし、せっかちだし、無駄な事はしたくないっていう。

左京:本当にそうですね。

6

みんなができないと言うなら、自分がやる


米田:聞いていると最短距離でやりたい事をやるっていう。そこがぶれてないっていうが。それがぶれそうになったら会社も辞めたりとか。

左京:そうそう、僕の中では一環してるんですね、色んな事が。

米田:それがぶれない限りなんか、ずっと何かをやり続けて、120%出し続けるっていうのは多分変わらないんじゃないでしょうか。

左京:そうですね。社会に出ることイコール自分だけで、趣味の世界とかで生きていけないわけだそ、その必要も無いし、仕事って、やっぱり誰かに対して何かをしてあげる事って素晴らしいと思うんですよ。そこでの感謝とかって嬉しいじゃないですか。笑わせたり、喜ばせたり、元気付けたりだとかっていうのは。

それを、お金のためだけっていうのは、僕の中ではあまり楽しくない事です。でも、それがないとダメでなんですよね。説得力がないと言うか。

いい事やって金持ちになるんだっていう事なんですよ。それをみんなができねぇって言ってるから、嘘だろ?って、僕がやるって思うところはありますよ。

米田:まさにそうですよね。

左京:いい事やって、俺は金をもらうんだって、それが仕事だって思ってます。

米田:それプラス、やっぱり良いと思う事をやって、それでお金儲けられたら、嬉しいし、楽しいしっていう人生が最高じゃないですか。

左京:その良い事っていうのが自分にとってじゃなくて、やっぱ社会にとっていい事であれば 間違いないと思うし、そこに気持ちだけじゃなくて合理的な手法があれば、 きちんとビジネスとしても成功するなはずだって思っているわけです。

米田:そしてその、良い事っていうのは何かっていうのは自分の中の問いとして考え続けるっていう。

左京:そうですね。フーチャーソースみたいなところで、失わずに持ってればいいかなって思ってますね。

米田:おっと、ちょうど2時間経ちましたね。じゃあ、そろそろ撮影と行きますか。

左京:撮影ですか~。僕、ホントにこれが苦手なんですよねえ(苦笑)。

米田:大丈夫ですよ!しっかり撮りますから(笑)。ホント今日は長々とありがとうございました。

1979年生まれ。福岡県出身。早稲田大学卒。体育会ラグビー蹴球部に所属、4年次は主将を務める。卒業後、住友商事に入社。経理部にて、会計・税務コンサルティングを担当し、事業運営の基礎を学ぶ。05年、NPO法人グリーンバード代表のハセベケン氏に出会い、将来のビジョンなどで、お互いに意気投合。同年10月に退社した後、NPO法人グリーンバード副代表に就任、NPO法人運営全般のノウハウについて経験を積む。その後、ハセベ氏が発案したプロジェクトである「シブヤ大学」に強い魅力と可能性を感じ、自ら同プロジェクトの代表として名乗りを上げる。06年4月、シブヤ大学学長に就任。
シブヤ大学

インタビュー米田知彦(TS副編集長)
写真:大脇崇
協力:Marie
場所:渋谷区役所神南分庁
日時:2006. 9.28

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