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松根無中 (在家) 前半


「サンフランシスコから面白いお坊さんが来てるよ」

友人からそう聞いたのが、松根無中さんを知ったきっかけだった。早速、ウェブで調べて興味をもった僕は、彼に会いに待ち合わせの池上本門寺(無中さんとは直接関係なし)に向かった。そこは、たまたま僕の通っていた中学校の裏。懐かしい五重塔を抜けたところにある展望台に、友人と松根さんがいた。

薄茶色の作務衣を着て、草履を履いた姿は、いかにも身軽な旅のお坊さんという印象。松根さんは、師匠の柿沼忍昭さんとともに「地蔵カフェ」をサンフランシスコに始まり、アメリカ各地、日本、タイ、バリなど世界各地でこの2年間に30回以上開催してきている。つい先日もバリで開催して帰って来たばかりだとか。「地蔵カフェ」とは、一緒に精進料理をつくったり、食べたり、坐禅したり、掃除したりしながら、自分と会話するための場。彼は、そんな場をつくることで身軽に、気軽に禅の精神を伝えていこうとしている。話しの合間に、頭布をとってもらうと、あたりまえだけどカリッと剃り上げた頭が見える。ちなみに、僕も友人もそろって坊主頭なので、端から見たらお坊さん仲間に見えたかも(笑)。

TSで僕が禅のお坊さんに話しを聞くのは初めてのこと。というのは、僕自身(お葬式の時は)仏教徒だけど、禅に限らず、宗教というもの自体が縁遠いものであり続けてきたから。海外で自分の宗教を聞かれても、いつも「無宗教です」と答えていたし、自身の結婚式も特定の宗教におもねるのが嫌で人前式にしたほど。だけど最近になって、宗教に対して持っていた悪いイメージ(オウム真理教など新興宗教の影響大)が薄らいできて、むしろ、日本文化や、日本人としての自分にどこか深く関係しているものとして興味が出てきた。特に、禅に関しては、キリスト教やイスラム教のように唯一神を崇めるのとは違う、多様性を受け入れるものとして、理性・合理主義に偏った現代に足りない「思想・スタイル」として興味があったので、機会があったら気軽に話を聞いてみたいと思っていた。

今の時代に、禅は、どうなっているのか?どんな人がやっているんだろう。
どんな可能性をもつんだろう。未来のお寺って、どうなっていくんだろう。

仏教にも禅にも門外漢なので、かなり初歩的な質問ばかりだったと思うけど、終止和やかに答えてくれた松根さん。境内の見晴し台の気持ちいい風と合いまって、「そもそも、お寺ってこんな風に人が気軽に行く場所だったんだな」と改めて思ったり、お寺や宗教(禅)ってものが、これまでになく身近に感じられたひと時だった。

近藤ヒデノリ(TS編集長)

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普通に生きること


近藤:あの…悟りってのは、実際にあるんですか?

無中:ないですね。そんなものはないです。

近藤:えっ、じゃぁ、悟りを開いた人はいないんですか?!

無中:いや、いくらでもいるんじゃないですか。でも「悟った」なんて言ってること自体が悟りではないですから。どうでもいいじゃないですか。

近藤:どうでもいいんすか…(笑)。

無中:宗教なんて、人間が作り出したものじゃないですか。自然は何も言わないでしょ。自然崇拝って言ってますけど、自然なんて崇拝するものでもなくて、ただ単にあるだけだから。人間は自然なしでは生きていけないし、自然の中に溶け込んだ生活を、他の自然の生き物と同じように普通にしていれば、それでいいんじゃなかろうか。

悟りと言いたければ、それが悟りだといえるかもしれないし。でもそれを悟りと言った時点で、それは悟りではなくなってしまう。単に普通に生きていければ、いいんじゃないかと僕は感じますね。それを目指すために、今は活動しています。料理は自然の恵みっていうか、自然を直接感じて食べることで、生きて行くためのエネルギーにしていくわけだから。食べるのって五感を使うし、五感では測れない感覚も使うわけじゃないですか。やってて楽しいし、自然とのつながりを見る一つの道具。

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「地蔵カフェ」


近藤:それで、いろんな場所で精進料理を作ってみんなで味わうのが「地蔵カフェ」なんですね。

無中:テーマは自然とのつながりを見つけるきっかけ…なんでもいい。人生の目的だとか、生きてる意味、なんのために食べてるのかとか、茄子ってこんなふうな食べ方もあるんだとか、いろんなことを体験するわけじゃないですか。坐禅もそういう教えなんですよね。悟るために坐禅をしているわけではなくて、ただ坐るために坐るという教え。坐ってみないと分からない。坐ってみたら足が痛くなるかもしれないし、いろんな考えが出てくるかもしれない。それ自体が坐禅であるというか。楽しかったって言う人もいれば、つらくて投げ出す人もいる、みんな違うわけじゃないですか。坐禅という道具を持ってして、その人なりの気づきがあったりとか…それこそ悟ったっていう人もいるだろうし(笑)

近藤:(笑)そういうことなんですね。チェンマイでも「地蔵カフェ」をやったんですか?

無中:やりましたよ。場所はどこでもいいんですよ。呼ばれたらやります。

近藤:人数はどれくらいなんですか?

地蔵クッキング

無中:その場所に合わせた人数で。20人が限度。料理教室をやっていると10人が限度。みんなで料理するというのも、みんなで何かをやろうということで、まず主催したい人がどういう会にしたいかっていうのがすごい大切。何をやるかって言うよりも、お茶と同じでおもてなしということで、どこまで気配りできて、どれだけ心地のいい空間を作れるかどうかが一番大切なこと。そこから合ったテーマを決めていって、料理だったり。あるもので、用意の出来る範囲で。無理のない範囲でやれば。そういうふうにやれば、自然とそういうところに人が集まってくる。

近藤:名前が「地蔵カフェ」って、軽くて入りやすいですよね。

無中:師匠が昔、「坊主カフェ」っていうのをやっていたんで、それを真似して「地蔵カフェ」にしたんです。「坊主カフェ」は師匠が一人でやってるんですけど、ちょっとしたお茶を飲んだりとか、ギャラリーで絵を飾ったり、精進料理を食べたりとか。今でもやってますけどね。

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禅ごっこでも、徹底してやること


チェンマイにて

近藤:最近、茶道の本を読んでたら、岡倉天心が当時から「茶道が形骸化してる」って書いてるんですね。本当は茶道の精神は一対一でお客をもてなす心とかなのに、残っているのは形だけだと。だから今、茶道の精神を現代にやったら形も変わっちゃうかもと思ってたんですよね。

無中:そうですね。僕のいるアメリカの禅センターもまさしくアメリカの仕方で禅の基本を忠実に守っているわけですよね。曹洞宗か臨済宗を継いでいるので、基本方針はただ坐ること。集団生活をして朝の坐禅を基本にしている。だけど、日本のお坊さんにすればアメリカ流だから、僕の師匠にいわせれば、「禅ゴッコ」なんだと。でもゴッコだから彼らは真面目にやっていて…。

近藤:ゴッコだからいい?

無中:ゴッコでも徹底してやれば、それはそれで面白いんじゃないかと。坐禅も、ジーンズとTシャツでやっている人もいるし、椅子に坐ってやっている人もいるし、車椅子の方もこられるし。ただ、姿勢はすごく真面目。それでいいんです。

今、アメリカは禅ブームなんですよね。宗教っていうよりも、アメリカ人は禅を東洋の文化とか思想として捉えている感じ。アメリカでは禅のレストランとか、禅ショップとか、禅ドリンクとかあったりしますよね。去年ニューメキシコの方で高校生と話をした時も、禅っていうのは「すごくピースフル、落ち着いたみたいなイメージがある」っていう高校生も多かった。大人でもそういうイメージを持ってる人が多いんじゃないかな。
近藤:アート作品でも、静かなものとか、水平線が一本あるとかすると、外人はすぐに「ZEN!」とかいいますよね。

無中:「わびさび、イコール、禅」とか、静けさとか、無の世界とかね。

近藤:あの基本的な質問なんですけど、禅と仏教の大きな違いって何ですか?

無中:禅は仏教の一つの宗派なんで、基本的に違わないです。中国から持ってこられたもので、それを禅宗という。禅宗の元は少林寺だそうなんですよ。日本から渡ったお坊さんが中国で仏教を学んで日本に持ち帰った、そういう流れです。

近藤:禅宗と、日蓮宗とか、他の仏教の宗派との最大の違いってなんですか?

無中:何が違うといえば、一番最初に開祖した人が違う。日蓮という人がいて、曹洞宗では道元禅師という人がいた。それが一番の違い。

近藤:うーん、なんか、いわゆる禅問答になってる気がする…(笑)

4

坐禅の仕方


師匠の柿沼忍昭さんと

近藤:ちなみに、禅のやり方で坐禅する時はどのくらいの時間やるんですか。

無中:「一柱」(いっちゅう/お線香が一本燃える時間)っていうのが、30分から45分なんで。始まる時間の5?10分前から坐りだすんで、40分から1時間。

近藤:家でも坐るんですか?

無中:家でも坐りますし、最近移動しているんでその時やったり。

近藤:どういうところで?

無中:基本的には曹洞宗は、一人一人、壁を向いて坐禅するんです。自分の坐っているところから90cm手前、45度の目線で見るっていう。

近藤:じゃあ、しようと思ったら家でも出来るんですね。

無中:できますよ。アメリカでは、「じゃあ、今週末集まろうよ」って言って、5、6人で自分のアパートで毎週坐禅やっている人もいる。キリスト教の教会でも坐禅を取り入れているところも出てきて、宗教同士のつながりも、例えばクリスチャンの奥さんと仏教徒のお坊さんが会って話したり、プロジェクトを一緒にやったりっていう、そういうNPOとかいっぱいあるんですよ。

近藤:そういう別の宗教を結んでいるのが、禅だったりするんですか。

無中:どうなんですかね。結んでいるというか、これまでいろんな宗教の違いがあって、言い合っていてもしょうがない、っていうことにやっと気付いてきたんじゃないですかね。

近藤:いろいろな宗教があって、お互いにダメだって言ってるから世の中がややこしくなってるわけで。本当はキリスト教とイスラム教の人が仲良くしてくれれば一番いいんですけど。

無中:キリスト教の教えは「敵も愛しなさい」、と言ってる割には全然やってないから(笑)やっとそろそろ教えを実践しようかっていうことじゃないかな。

5

ヨガと坐禅


近藤:今、日本における禅の状況ってどうなんですか?減ってきているのか、増えているのか。

無中:僕もよく分からないですね。坐禅をしたいっていう人はよく声を聞くんです。
GWにも名古屋で「地蔵食堂」というイベントで坐禅をしたり、料理をしたり。師匠も坐禅会をすると、みんな叩かれたいとか(笑)。今、日本もヨガブームでヨガマットが売れてたりするけれど、アメリカではスーパーに行くと「坐蒲(ザフ)」が売れてるんですよ。

近藤:ザフ?

無中:坐禅する時に坐る丸いクッションみたいなものが、オーガニック系のお店で売れてたりする。それが日本でも売れ出すようになったら、坐禅の存在が伸びるでしょうね。

近藤:ヨガと禅って、どっちも坐禅しますね。

無中:「自分の内面を見つめる」っていう意味では、ヨガも同じなんじゃないかな。いかに今という一瞬に集中できるか。そのための道具だと思うんで。結果として体が柔らかくなったり、ポーズが出来るようになったりする。そういう肉体的な面が先に来ちゃうけど、やっていくうちに内面的な効果もみていなかないと。どれだけ体が柔らかくなったからって、人よりも優れているとかじゃなくて。優れているということ自体が、劣っていることだし。

近藤:個人個人で、違うわけですからね。

無中:自分より上手い人と見比べて、自分もああいうふうになろうとか思っちゃうんだけど、「そんなことどうでもいいや」って片付けられるようになれるのも一つの練習だと思うし。

6

温泉付き禅センター


近藤:元々、サンフランシスコに禅センターが出来たってのは、やっぱりヒッピーとか、アレン・ギンズバーグのようなビート族の流れからなんですか?

無中:基本的には、ZENがビートを作りましたよね。その流れを引いて、ヒッピーたちがいたころに、布教でサンフランシスコに来た鈴木俊隆(しゅんりゅう)というお坊さんがおられて…。日本の曹洞宗から海外に住む日本人に布教するために送られたらしんですよね。ところが、ヒッピーとかに禅を教えて欲しいと言われた。鈴木俊隆も悩んだらしいですね。日本人に教えるか、アメリカ人に教えるか。でもアメリカ人も熱心で、場所も探してやるって言われて…じゃぁ、って。それで、サンフランシスコに禅センターが3箇所設立された。僕が住んでるのが街中にあるシティーセンター、一番最初に出来たのがタサハラといって山の中にある。そこは温泉付きなんです。

近藤:温泉、いいっすねー。掘ったんですか?

無中:もともと温泉が出ていた場所で。ネイティブアメリカンの聖地だったんですけど。

近藤:今もあるんですか?

無中:あります。サンフランシスコの南に、カーメルって言う、クリント・イーストウッドが市長だった町があるんですけど、そこから車で二時間くらい行った山の中。最後の20kmくらいから国立公園になっているですね。メインのオフィスとキッチンにしか電気がなくて、夜になるとランタンに火を点けてくれる。携帯も繋がらない。昼間から温泉入ったり、山の中入って坐禅組んで、おいしいもの食べて…。

近藤:良さそうですねー、行きたいなぁ。

無中:いいでしょ(笑)。夏の間だけ、一般の人に開放されているんです。それが4月の終わりくらいから9月の最初の週まで。2食付でキャビン泊まって、一人一泊100$から150$。

近藤:あれっ、意外と高い。

無中:でも、食事/温泉付きだし。日本でも温泉付きで高い宿あるでしょ。

近藤:15000円くらいしますしね。

無中:なかなか、ああいう経験できないし、毎年予約でいっぱいらしいです。もう一つは、グリーンガルチで、ゴールデンゲート橋渡ったところにある。そこもオーガニックのすごくおいしい野菜作ってくれる。

近藤:僕、去年、サンフランシスコ行ったんで、行きたかったですね…

無中:来てほしいですよ、体験入学もあるし。体験入学は、朝坐禅をして、昼の間は掃除とかキッチン手伝ったりして、一日15$。土曜は半日で、日曜は休みだから、ちょっとしたリトリートみたいな感じ。僕はそれを最初10日間やって、それで気に入ったんで、禅センターに住みだしたんです。

7

グラフィックデザインから禅の道へ


近藤:禅センターに住み始めたのは、何年前からなんですか?

無中:3年前です。

近藤:それまでは何をしてたんですか?

無中:ロサンゼルスで寿司屋をやってました。板前。それで、今の師匠から紹介されて体験入学して面白かったんで、レジデント、いわゆる住居人になったんです。

近藤:師匠さん(柿沼忍昭)とはどこで知り合ったんですか。

無中:師匠が「アメリカで個展をしたい」と言うので飛行機に乗ってロスに来ちゃったんですよ。その時に彼が唯一知ってたのが、僕が働いていた寿司屋のマネージャーで、「日本からちょっと変わったお坊さんが来てる」って僕に話が来た。

僕、実はロサンゼルスにある美術大学、カルアーツ(California Institute of the Arts)を卒業したんですよ。グラフィックデザインを専攻して、アートとか、映画のポスターをデザインしたりしてた。だから、マネージャーが「あなた、大学の時にアートをやってたんでしょ?何かお手伝いできることがあるんじゃない?」って。それで、会ってみたら、感じるものがあったんで、「じゃあお手伝いしますよ」って。3年前くらい。それからの付き合いです。

近藤:カルアーツ出身で、禅の道に行ったんですか?!アートでは名門ですよね。僕、NYUだったんで、「カルアーツはすごいアーティストいっぱい輩出しているよなー」って思ってましたから。それで最近、禅の本を読みながら、ちょっと変わった人に話を聞いてみたいって思ってたんで…ちょうどよかったです。(笑)

無中:そんなにまだ長い歴史があるわけじゃないですね。

近藤:経験の長さって関係あるものなんですか?

無中:僕はそんなに関係ないと思ってる。「年」自体、人間の感覚でしかないから。今は人間の平均寿命は、80何歳って言われてて、昔は50歳くらいだったかもしれないけど、昔の50年は、今の80年より長いかもしれない。時間は人間の感覚で変わるから。だとすると、2年半しか禅的な生活をしてないけど、その時間はそれよりも短いかもしれないし、長いかもしれない。一概には言えない。

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MY SOURCE マイ・ソース


Q: これまでに影響を受けたモノ、人、コトを5つ以内、選んだ簡単な理由とともに教えてください。

>>”世界の料理ショー”グラハムカー


(The Galloping Gourmet with Graham Kerr)

1970年代に放送されていた料理番組。料理ってこんなに楽しいんだ!ということを、子供心に焼き付けてくれた重要な娯楽番組。

>>Yellow Magic Orchestra (YMO)

音楽、スタイル、メンバー3人のキャラクター、全てにおいて小学生のボクに面白さを教えてくれた。いまだに聴いています。飽きないんですよ、これが?。

>>アップルコンピューター

グラフィックデザインを勉強している頃から使い出し、かれこれ20年近く使ってます。今はiBook一冊(?)で、ボクの人生のありとあらゆる事をやってます。やはり使っているときの楽しさがキーポイント。

>>アリゾナで出会ったホピ族のインディアン

生まれて初めてピックアップしたヒッチハイカーがネイティブのインディアン。しかもホピ族。もらった好意以上のものをお返しするのが、ネイティブの教えだと、自分の言った言葉どおりのことを態度で示してくれた。

>>アメリカのポルノ映画

中学生の頃見て、”アメリカ人はセックッス大好きだ!”
と思い込み、そのおかげで”絶対アメリカに行って(セックスいっぱいやって)やる!”と決心する事が出来た。

松根無中 Keigaku Muchu 39歳。申年/蟹座。サンフランシスコ在住(現在住所不定のホームレス)。カリフォルニアアーツ卒業後、寿司職人などを経てサンフランシスコ禅センター所属。2005年から、師匠の柿沼忍昭とともに世界各地で「地蔵カフェ」「地蔵食堂」を開催。座る、食べる、生きるという日常に自分を見つめる場を提供、気軽な形で禅の精神を広める活動を続けている。趣味は料理、アート、旅、歩く事、ヨガ、瞑想。お気に入りの映画は『アメリ』『千と千尋の神隠し』

インタビュー・写真:近藤ヒデノリ(TS編集長)
場所:池上本門寺境内
日時:2007. 3.4
協力:坂口惣一
リンク:地蔵カフェBlog Zen Cooking Blog

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