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竹内スグル (ディレクター/写真家) 前半


竹内スグルさんに初めてお会いしたのは、もう3、4年ほども前、西麻布のとあるバーだった。たまたま来ていた彼に、以前から一緒に仕事をしていた義理の姉が紹介してくれたのだ。

僕は以前から竹内さんの手がけたユニクロ、メルセデスベンツ、富士フィルムなどのCMや、UA、JUDY AND MARYなどのミュージックビデオの映像が持つ、明らかに異質な空気感、リアルな強さに惹かれていて「いつか仕事を一緒にしたい」と思っていた。緊張していたせいか、この時の記憶はあまりない。ただ「いつか一緒に仕事させてください」と言っただけだったように思う。

しばらく経って、とある自動車会社の仕事で僕は初めて竹内さんにオファー。だが、この仕事は演出コンテまで進んだ時点で、先方の事情が変わったこともあって竹内さんは降りてしまう…。その後もなかなか一緒に仕事をするチャンスはつくれず、06年に行った自分の個展「FREE CAMEL」で煙草をくわえたラクダと、(僭越にも)僕自身のポートレート撮影をしてもらったのだが初めて実現したものだった。ラクダを前に、8x10の大型カメラでバシャバシャ撮っていくその勢い、フィルム代を心配しながらも僕はとても興奮していた。

その後、僕は「遊びに来ていいですよ」と言う言葉を真に受けて、彼が冬の間スノーボードをするために滞在している長野の別荘にお邪魔させていただいた。都合3泊。途中で、写真家の高田洋三も合流。僕らは朝から一日スノボをして、夕方からは交代で男の手料理。自炊に凝っている竹内さんの台所には、ずらっと調味料が並ぶ。ロウソクで入る風呂。ベランダの雪の上で冷やしたお酒。僕らは毎晩、飲みながら話し続けた。映像づくりの考え方、今のCMやPVに足りないものについて。山ごもりすること、表現することについて。CMからPC、映画、音楽、映画…あっちこっちに飛んでいく終わらない対話の快感。テープ起こしをしてもらったら初めはなんと約6万字!(マリちゃんおつかれさま!)今回、それを凝縮して、TS過去最長!約2万5千字インタビューを前後半、2回に分けて掲載!!

近藤ヒデノリ(TS編集長)

1

日常からフェードインする


近藤:ずっと飲みながら話してきたんで、いざ(インタビューを)始めようっていうと、改まっちゃいますけど…まず、今、かかっている村治佳織さん(ギタリスト)の話から聞いていいですか。

竹内:村治佳織さんに演奏してもらったのを撮ったことがあるんですよ。僕ら、「好きな時に弾いてもらっていいですから」って言って、カメラ回しっぱなしで撮影するんですね。そうやって色んなミュージシャン撮ったけど、だいたいの人が、「さあやりましょう」ってなると「よし!」って感じになるんですよ。

近藤:ちょっと気合を入れなおす感じですね。

竹内:だけど、村治佳織は違ってて…。ほんとに1音か2音、ポポーン♪とやって、そのままポロロ?ン♪って本番が始まっちゃうの。日常からフェードインするんですよね。

近藤:うわー!すごいですね。

竹内:撮影後に、その話をちょっとしたんですけど、「毎日弾いてるから歯磨きみたいなもんなの。すぐ弾き始められる」って。要するに、フェードインなんですよ。僕らも仕事とかやってて思うんだけど、そこまで行かないと駄目なんですよ。撮影のセッティングして被写体が動いたら、とりあえずパパパッ!って撮れるっていう。

近藤:なんか、武士っぽいですね。いつでも平常心で…

竹内:そうそう。日常にしとく、っていうことがものすごく重要で。企画もそうだと思うんですよ。「さあ考えよう」って、机の前でやると意外と駄目だったりするじゃないですか。ふだんから物事に対する「あれはこうだなぁ。これはこういう風にやる。これはこんな感じがするな」ってのを毎日貯めていくのを繰り返すと、それが日常になってくるじゃないですか。そうすると、いざ仕事のオーダーが来たときに実は何にもしなくても良くて、打ち合わせのほんの10分前くらいのに書く物理的な時間だけとっとくだけでいい…それが僕は企画だと思うんですね。

近藤:時間をとって、どっかに篭って考えてとかじゃなくて…

竹内:それはもう実は遅れてるんですね、すでに。もちろんテーマがあるから、そのテーマに対して考える時間は物理的にはゼロじゃない。だけど、色んなものに対するアプローチみたいなのを、本当に、歯磨きくらいにしとかなきゃ駄目。そうするとフェードインできるっていう。

近藤:ちなみに俳優でも、「ふだんは普通だから、すごい」人っているじゃないですか。フェードインってのは、俳優にもあります?

竹内:浅野(浅野忠信)くんとかは、フェードインみたいな感じですけどね。でもムラジュンとかは、わりと、「よっしゃ?!」という感じだったり(笑)。

近藤:浅野さんだと、すーっと演技に入ってカットになって、そのままのテンションで「どうすか?」みたいな感じなんですか?

竹内:割と、スッといきますね。キョンキョン(小泉今日子)もスッといくんですよ。『濱マイク』の時は、知らずに始まる感じでしたね。柄本明(俳優)さんもそうでしたね。何テイクやってもフェードインだし、毎回考えてるんですよね。集中力がすごい。ひゅっと入りましたね。

近藤:自分の生活自体がすでに作品と全然区切りがないんですね。すごいなぁ…。

竹内:すごいっすよ。だいたい自分も、例えばサッカー、スノーボードにしても全部一回、「ぽん!」って区切りがありますからね。撮影はフェードインっぽくいけてる方だと思うんですけど…。

2

報道するように、出来事を記録する


永瀬正敏主演のドラマ『濱マイク』第10弾「1分間700円」

近藤:本職の撮影は、フェードインできるんですね。

竹内:撮影は報道に近いと思っているので、自分からタイミングを作ることはあんまりなくて、「こういう設定で、こういうことをやろう」っていう舞台装置みたいなのをつくって、そっから先は報道するように、起きたことに対して臨機応変にやっていくんですね。

近藤:出来事に対して反応する。

竹内:反応ですよね。一時期、僕とカメラマンの瀧本くん(瀧本幹也)の仕事が同じ助手だったことがあって…瀧本くんの仕事は、例えば移動したりするとフォーカスもちゃーんと合わせて送ってくっていくタイプなんですね。僕の仕事は、もうほとんどスポーツ中継みたいな。とにかく何かが起きたらカメラもどこに行くかわかんない。その都度、ピントなど合わせて行く…。

起きることだけ決めるんですよ。それもだいぶゆるくして、例えば前日にポラで色んな場所で色んなことを撮っといて、「一応こういう風な可能性があるんだけど、ま、好きにやってください」とか。ほんと、何も決めない事が多いですね。よっぽど、相手が駄目だったら何か言ったりするんだけど、もうその時点でその仕事終わっちゃってるんですよね。

近藤:じゃあ、竹内さんに何か言われたタレントはヤバイですね。

竹内:ヤバイ。そういうのは事前に、直感で遠ざかるようにしてるんですけど(笑)、やっぱりたまにあって…。僕は相手が駄目でもいけるっていうような写真家はテクニックがすごいなって。

近藤:篠山紀信さんとか?

竹内:篠山さんはやっぱりあの人なりの報道ですよね。やっぱ女の子、選んでると思う。

近藤:時代の顔を全部撮る、全身が目みたいな感じですよね。

竹内:そんな感じがします。ほんと。プロデューサー的でもあるし。わりと。僕は出来事を決める、何をやるかを決めるっていう取り決めをして、そこから先、撮るものが決まってると、撮ってて面白くないんですよ。「ここでこうやって」って、ワンテイクずつとったら面白くない。

近藤:カット割りして、その通りに撮るというのがつまんない…。

竹内:それは撮影するというよりも作業みたいな。僕は、撮影ってもうちょっと「出来事を記録する」のに近い気がするので。やっぱり撮ってる時に、「おぉっ!」と思わなかったら、絵も「おぉっ!」と思わないと思うんですよね。
あと、ワンカットで行かなくてもいいときって、どうでもいいような画とか撮ったりするんですよ。その場で、「なんだこれ?」みたいなものを撮っとくと、後で編集の時にそういうのをポーンと入れたりするとか。

近藤:目的ははっきり決まって無いけど色々撮っておくと…

竹内:そうですね。そういうものを集めていって一個のものを作っていくっていう感じなので。

3

決めて撮る、決めないで撮る


レミオロメン「アイランド」

竹内:昔、中島哲也(映画・CMの監督/『嫌われ松子の一生』など)さんと話をしたことがあったんですけど、まったく逆なんですよ。(事前に)全部決める。その決めるプロセスに、全部注ぎ込んでいるんですよね。だから、撮影以降は「もうここまでやったら預けたいくらいなんですよ?」とか言ってました。かといって、預けっぱなしには絶対できないんだけど。でも、現場で、不測の事態っていうか、自分が撮ろうとしてなかったことを撮るのはないと思うんですね。

近藤:あらかじめ事前の脚本とか、演出コンテとか全部計算されているんですね。

竹内:そこにかける時間が相当長い、と思うんですよね。僕は、そこでは決めずに後々に集めて形づくっていく、なんか、彫刻つくるみたいな。

近藤:CMって事前に全部決めていくパターンが多いですよね。企画コンテ出して、演出コンテ出して、事前に全部決める…企業っていう相手がいるから、しょうがないっていうのはありますけど。意味がはっきりしないカットがないんですよね。

竹内:怒られるし(笑)

近藤:「とりあえず、関係ないけど、撮っておこう」みたいなのはないですよね。

竹内:無いですよねー。

近藤:映画だと、一見無駄なカットが入ってたり、やたらと長いカットがあったり…そういうのがすごく効いてますよね。逆にCM系の人のつくった映画は、事前に全部決め込まれてるから隙がなさ過ぎたりすると思うんですけど。

竹内:その辺は好みですけどね。中島さんの場合は、わかるものを撮るんですよ。一回撮影頼まれて仕事したんですけど、彼は30秒で10個のシーンを入れる時に、この10個をものすごく明快にする。1発でわかる10個を入れて1つのものを作るんですよね。はっきりしたものっていうのは、ある意味わかりやすいんだけど、気配とかが少なくなっていくんですよね。パワーはあるけど、なんていうか、色気の無いものになっちゃう。中島さんの画って、すごくからっとしてますよね。

近藤:からっとしてますね。一個一個の画が全部強いから、刺激も強い。

竹内:漫画を高速で読んでる感じ。それがいいところでもありますね。中島さんは実はちゃんとその辺を計算してるというか。主人公をすごくちゃんと描くんで、あんだけど派手なことやりながら、見せようとしてるものが、芯がピシーッとあるんですよ。

近藤:例えば『嫌われ松子の一生』とかでも…。

竹内:松子をずーっと描写し続けてる。ここで、他の人の話とか色々入ってくると、もうグチャグチャになって失敗する。そういうスタイルで失敗したCM上がりの人いっぱいいるけど。対談した時に「好きな漫画なんですか?」って聞いたら、ものすごい長編ばっかりなんですよ。だから、長?い物語が見えてるんですよね。それで、照れ隠しのように途中で無茶苦茶なことをやってる感じなんですよね。

4

日本には「アクション」を描ける人がいない


近藤:さっき、「日本の映画では、内面をじっくり描いたりできる人は多いけど、アクションを描ける人がいない、そこがチャンス」っていう話がありましたけど、あの続きを聞かせてもらっていいですか?

竹内:それは需要と供給だと思うんですけど、映画もCMもアクションが撮れるのほとんど無いんですよ。

近藤:ちょっと前ですけど、中島哲也さんの「サッポロ黒生」って、ちょっとハリウッドアクションな感じもしますけど。

竹内:あれはアクションというか、アニメーションに近い。

近藤:方法論的にはそうですよね。すると、竹内さんにとってアクションってどんなものなんですか?

竹内:やっぱりブルース・リーとか、松田優作が出てた頃の探偵ものとか…「動いているものを撮る」っていうことですね。そういうのって、動きに反応しないと撮れないんですよね。ほとんどの一見、動きが撮れてるように見えてるカメラマンも、カメラで「待ち受け」してるんですよ。きっと、報道以外に「動いているものを本当に撮る」っていうような仕事が無いんでしょうね。

近藤:先に全部決めちゃって、止めちゃって撮るものが多い…。

映画『乱歩地獄』より

竹内:映画もそうだし、台詞があって台詞でつながっていったりとか。CMもコンテ通りに撮ろうとしちゃうし。「ここで走って、これくらいのサイズで、カメラマンと人物の距離はこうで…助手、フォーカス頼むぞ」って…それは仕事をする最初から、もうアクションをとる体制になってないんですよね。難しいんだけど。

近藤:でも、いわゆるハリウッドアクションは、全部先に決め込んで撮るみたいな方が多いですよね。その分、演出されたアクションっぽいのかもしれませんが。

竹内:そうですね。もちろんある程度そうしないと撮れないんだけど。日本映画は、昔の小津(康二郎/映画監督「東京物語」など)みたいな映画はいっぱいあるけど、黒澤明みたいな映画がないんですよ。『7人の侍』みたいなの撮れないんですよ。いくら角川映画が大金を投じてもあんな風にならない。どうしたらどう撮れるっていう計算も実はいるんだけど、動いてるもの・走ってるものをどう撮るか、そういうのってすごい難しいんですよ。

近藤:去年、TSで展覧会やる前に一緒に企画した新野君と、動いてるとか、身体感覚とか、偶然性とか、予測不能な感じをテーマにしてやりたいなと話してたんですね。結局、「最終的に選んだものはそうなってたの?」とも言われたんですけど、僕もそういうテーマがすごく気になってます。わりと最近、全部カチッと決まってるものが多い気がしてるんですよね。

5

フレームの外に事件の半分以上はある


竹内:例えば、CMでも映画でもいんだけど、殴り合いのシーンがあるとすると、だいたいみんな、殴り合ってるシーンが(フレームに)入るように撮るんですよ。でも、殴りあうシーンっていうのは、何て言うか…殴り合ってるっていう行為そのものが、本来、画面の中に納まるような行為じゃないので(笑)、本当は画面から出ないとおかしいんですよ。

近藤:そうですね!

竹内:映像ってそういうことがいっぱいあるんですね。テレビとかスクリーンの枠の中に全部がきれいに収まるっていうのは、実はすごく嘘っぽいんですよ。例えば報道だとしたら、戦争を全部を撮るっていうことは無理で、戦火はここにもあそこにも、いっぱい起きてる…そういうことが全部「枠」の中に入ってたりするんですよ。だから実はものすごく嘘っぽい。僕が思うアクションでは、フレームっていうのは、あくまでそこで起きている現象を伝える囲いみたいなもんなんです。

近藤:たまたまある囲い…

竹内:曖昧なものなんですね。そこで起きていることを一応、象徴的に見せるけど、ただそれだけなんですよね。フレームの中に全部が収まんなきゃいけないっていう風に思ってること自体が、もう判断としては良くないんですよ。どう撮るかっていうのは、そこで起きている現象によって判断されるべきもので、それがアクションとかを撮る時にすごく大事。みんな内側に全部入れちゃうんですよね。(フレームが)棺桶みたいになっちゃう。

近藤:フレームには映んないんだけど、フレームの外を感じさせる…

竹内:基本的にフレームの外に事件の半分以上はある、っていうぐらいですよね。だから、14インチのモニターで、2回り、3回りくらいでかいと思ってやればいいんですよね。そこの内側を撮っていう風にやれば気配がでるんですね。例えばフレームの中で殴ってるシーンよりも、フレームの外で殴ってて、そこに音がついてるほうが怖いんですよ。

近藤:見えない方が、想像力が掻き立てられる…。

6

被写体との距離が大事


竹内:よく言うんだけど、撮影する時って、実は被写体との距離ってのが一番大事なんですよね。これを誤ってる場合がほとんどなんですよ。

近藤:それは自分のいる位置っていうことですか?

竹内:被写体に対して自分がどこにいるか。自分がっていうか、カメラが。距離によって映るものが、メッセージが変わっちゃうんで、ものすごく危ないんだけど、わりと平気で寄っちゃったり、引いちゃったり、ってのが多いんですよ。もちろん、客観的にものを見せようとしてる時もクリストファー・ドイル(映画『恋する惑星』などのカメラマン)みたいに、わざとワイドレンズ使ったりっていう時もあるけど、基本的には被写体との距離っていうのが、メッセージになってしまう。

近藤:標準とワイドで撮ったものって、全然イメージ違いますよね。ワイドだとやっぱりドライブ感というか、動いてる感がありますよね。

竹内:そうですね。やっぱりワイドで人物に寄ると、人が動いた時にすぐに自分もくっついて動けるので、その人を中心にずーっと物事を進めることができるというか。標準だと追いきれないんで、どうしてもぴたっと止めて、みたいなことになるんですけど。
ガス・ヴァン・サントの『エレファント』とかはもう絶妙の距離で、それだけでメッセージがどんどん出てくる。日本のムービーカメラって全然発達してないんですよ。コマーシャルはコンテ通りに撮る、映画は枠の中を撮る、みたいな感じでずっとやってるから。僕はスポーツ中継やってる人のほうが撮影上手いんじゃないかって今でも思いますけどね。

近藤:そうですよね。動物的感覚というか、反射神経で。

竹内:鍛えられてる人って、もう一瞬で黄金分割じゃないけどグラフィック的にどうするか判断してるんですよね。だからアングルとかも、カメラ覗いて「うーん、もうちょっとこっちかな…」ってやってんのはもう駄目だと思うんですよ。

近藤:一瞬で決める。

竹内:本番で役者が入った時にパッと決めればいいんだけど、スタンドイン入れて「もうちょっとこうかなぁ…違うかなぁ…」とか頭で考えてる時点で、もう終わってるんですよね。しかも、それに対してライティングとかすると予測不可能なことが何も起きない。

近藤:その感覚というか直感というか、ジャズのインプロビゼーションみたいな。

竹内:ものすごいありますね。だから音楽やってるような感覚で撮影ってやらないと駄目だと思うんですよ。ライブとか、要するにセッション…。

7

それが、音楽的かどうか


近藤:「音楽やってるような感覚で撮影する」ということについてもう少し聞かせていただけますか?

竹内:そうそう。(映像は)音楽的かどうか、だと思うんですよね。本当にきちっと撮る人もいてもいいと思うんですけど、映像は、もっと音楽的にやれる可能性がある。

近藤:例えばさっきのクリストファー・ドイルとか、ブルースリーの映画とかは音楽的なんですか?

竹内:ブルースリーの映画って、ちょっと音楽的ですよね。

近藤:ちなみに僕、中学の時に初めて買ってきたのが『燃えよドラゴン』のサントラなんですね。「怪鳥音入り」って書いてあって、音楽の間に「あちょ?!あちょ?!」とか入ってんですよ(笑)

竹内:あの曲と映像がマッチしてるんですよね。僕、ミュージシャンになりたかったから余計に、音楽的にいきたいんですよね。「楽器は上手く弾けなかったけど、楽器じゃないものを手に入れた」っていう感じなんですよ、ムービーカメラって。フォーカスとかサイズとかズームとか、いくつか動かすとこがあって(笑)。

近藤:俳優がセッションする相手みたいな…

竹内:そう言うとベタに聞こえるかもしれないけど、ほとんどのカメラマンが、被写体が来たときにピンポイントで場所決めに行こうとするんですよ。そうじゃなくて、動いてるものに対してどうするか常に反応して、フォーカスが動く時も、楽器を演奏するのと同じように動く。
僕はだいたいフォーカスは助手にやらせないんです。フォーカスっていうのは、「合ってる/合ってない」の2つしかないとみんな思ってるんだけど、「合っていく」っていうのもあって、そこには被写体の感情があるんですよね。タイミングとか、「ぶおっ」と合うとか…リズムがあるんですよ。音楽みたいなのが自分の中に流れていて、それに対してカメラを動かす。被写体の動きに対して自分のテンポみたいなのが出来てきて、どう動くのがいいか、なんとなく感覚的にわかってくるんですね。

近藤:自分の中の音楽を合わせるみたいな。

竹内:自分の中で音楽を作っていって合わせていくみたいな。合気道みたいな感じです。わかんないけど。とにかく相手が来たときに、それに対して「オン/オフ」じゃなくて「流れ」を作っていくんですね。専門的な話ですけど、僕は感覚的には時間を2つに割るとかはあんまりなくて3つくらいの中で合わせてるんですよね。

ほんと、マニアックな話なんですけど。頭で合わせちゃ駄目なんです。「ポン!」って合わせちゃうと、その後リズムが出ないんですよね。例えば歩いているときに、「ワンツー、ワンツー」って、「ツー」を意識するのが裏になってくるじゃないですか。そういうのを被写体見ながらとか、カメラで自分の中の流れで「ここはこのタイミングだろう」みたいなものを作って行くんですね。

近藤:…マニアックになりましたね(笑)。

8

TVCMも、PVも、一旦解体した方がいい


近藤:竹内さんは映像の中のひとつとしてCMをやってると思うんですけど、TVCMをモニターの枠の中で考えてるのが多いっていう話と、「お茶の間にテレビっていうものがあって、その中で何ができるか考えないといけない」って言ってましたよね。そこの部分ももうちょっと聞いてみたいなって思って。今のCMに足りないものっていうか。

竹内:よく話すんですけど、TVCMって、確か昭和38年から始まってると思うんですよね。それで昭和40年代のTVCMをやっぱもう一回僕らは見なきゃいけないんじゃないかって。その頃は、テレビがまだやっと浸透し始めたみたいな時だから、「テレビを使って何やろうか」っていうわくわくした気持ちがあったと思うんですよね。だけど、長いことやっていおくなかで、自分たちにもクライアントにも都合のいい「ルール」みたいなのがはびこってきた…。だから、意味の無い「ルール」を一回忘れて、「テレビで流す映像物っていうのにはいったいどういう可能性があるのか」っていうことを一から考えたほうがいいなと思う。

PV(プロモーションビデオ)も同じでね。僕ら、いわゆるMTV世代の人間がビデオクリップ作るようになったのが90年以降なんですけど、最初はやっぱ面白おかしくやってたわけですよね。さんざん向こうのMTVのコピーとか、ひどいこともしてきたけど、まぁ、色々やろうとしてた。でも、いつの間にか、「歌ってるのをきれいなライティングで撮る、イコール、PV」みたいになって…。ほとんどのPVが「背景違いですね。」みたいな。

近藤:ただ歌手が歌ってて、背景が変わっているだけ…。

竹内:背景も、色も似てますよね。

近藤:色味を絞って、抜いて、コントラスト上げて…。

竹内:そうそう。たまにストーリーっぽいものとか、グラフィックっぽいものもあるんだけど、「まー、どっかで見たことあるね。」みたいな。僕も99年か2000年くらいに自分の中で区切りをつけて、その後ビデオクリップの仕事はあんまりやってないですけど、そろそろ解体しなきゃいけない時期にきてると思う。
要するに、「音楽を売るソフトとして、テレビで何流すか?」っていうことを、一から考えないといけないと思うんですよね、レコード会社の人も。番組やTVスポットもあるし、「新曲ができたから、とりあえずお願いしますよ。一応、リップシンクで。バンド5人なんで5人均等に…」みたいな感じで、隙間を埋めてる産業みたいになってる。

自分は頼まれたらそういうことやろうと思って、「ビデオクリップっていうのはいったい何か」っていうのをその都度考えて、それに対する答えを返していこうと思ってますね。僕一人が解体しててもしょうがないんだけど、3人くらい、「ビデオクリップがつまんない」って思ってる人が一緒に、「ビデオクリップを壊す」ってことをやってくれたら、またそれを見て面白いと思う人が出てきたりするかなと思ったりしてるんですけど。

TVコマーシャルもそうで、TVっていう、みんなが毎日接してるものを扱ってて、「そこで何をやるかっていうことが、まったく自由だとしたら、自分は何をやるのか?」ということを、考えていきたいなって思ってるんですよね。テレビがピンチだとか言われてるけど、まだ確実に一家に一台、下手したら二台ある。そこで流せるというメリットがある、と思ってるんですよね。

近藤:依然として、一番メジャーな、映画よりも多くの人が見るメディアですもんね。

竹内:そうなんですよ。ものすごい影響力なんで。地方まで、同じ日にいくっていうのもすごいんですよね。しかも大量に、何回も。

9

世界観をつくるということ


近藤:竹内さんは、映像の中での俳優の台詞もいろんな出来事の中の1つという感じなんですか?

竹内:そうですね。台詞で何かを表現するっていうのは、興味なくはないんですけど、例えば、山内さん(山内健児/演出家)のCMも台詞で色々言ってるけど、実は、映像の印象って「台詞で何言ったか」じゃないんですよね。もちろん、「ナオミよ」とかも覚えてるけど、そういうやりとりって、結局、世界観を作ってるだけなんですよ。実は、役者の表情とかその辺を作ってると思うんですよ。

ある経営のコンサルタントが、「コミュニケーションは基本的にビジュアルとボーカルとバーバル3つに分けられる」って言うんですよ。ビジュアルっていうのは映像、ボーカルはサウンド、バーバルは文節。何を言ったかっていう文章の中身、台詞も中身ですよね。「メラビアンの法則」ってのがあって、ビジュアルが55%、ボーカルは38%、バーバルってもう7%なんですよ。

たとえば、上司と部下のコミュニケーションで、頭下げて「ありがとう」って言うのと、横向いて「あい、ありがと」って言うのでは、メッセージが逆になったりしますよね。

結局、空気感なんですよ。だから、同じ台詞が脚本に書かれてあっても、どういう風に言うか、どういう声で言うか、っていうことが全てなんですよね。実は、言い方とか間、雰囲気や空気感を撮ってる。だから、世界観を作っていくためのツールとして台詞が必要な場合はいいんですけど、なくてもいい時もいっぱいあるんです。

近藤:そうっすね。CMって、僕ら広告会社が企画を文章でプレゼンすることが多いけど、そこの部分が一番伝えにくいんですよね。だから、そういうプレゼンシステムの中だと、台詞で構成されてる台詞重視の企画が通りやすい。世界観とかトーンとか映像の質感とか、そういうのって、プレゼンなんかでなかなか伝わらないから、台詞である程度構成ができてると、「あー、よくわかる、面白い」って。タグボート(広告エージェンシー/Docomo2.0など)の広告とかみんなそうですよね。

竹内:そうですよね。だから演出家がだめだったら、映像物として成立しないんですよね。ストーリーのためのいい台詞は、まぁ面白いけど、それでプレゼン通ったとしても、表現物としては、何も始まって無いんですよ。どっちにも転がせる。タグボートの仕事とか、いい演出家使ってるじゃないですか。あの人たちがかなりの部分を決めてると思う。

近藤:でも台詞を書いてる時点で、意図とか世界観とか持ってるとも思うんですけど。

竹内:「こういう空気感にしよう」みたいなものは、方針としては出ますけどね。だけど、それを拡大解釈してどっち方向に振るか。演出家を変えたらすごい変わっちゃうと思いますね。多分。

近藤:そうですよね。そういう意味で、演出家の存在って大きい。

竹内:だから、僕は企画やる人は、台詞のやり取りとかじゃなくて、その世界観というか、「どういうことをやろうとしているか?」っていうプランがあるとすごいいい気がしますね。「どういう感情をそこにもっていこうとしているのか?」っていうのが見えたりすると、こう広告のその方針が見えるんですね。

近藤:それって、映像を見た後の読後感みたいなものですか。

竹内:読後感ですよね。例えば、メロディーも歌詞も一緒でも、UAとHitomiが歌うんだったら全然別じゃないですか。伝わるものが違う。で氷川きよしが歌ってまた違う(笑)。

近藤:(笑)すごいですね、それはそれで。

竹内:それくらい、そこから先で変わってくるんで、プランを立てる人はメロディーも歌詞ももちろん重要なんですけど、UAだとか、氷川きよしっていうのが大事なんです。そこが軽視されているんですよね。クライアントがそこをわかってない。代理店の人も実はわかって無い人が多いんですよね。もちろん、その手前は大きいんだけど、そこで台詞となんとなくの方向性しか示されてなかったら、「本当にHitomiが歌っちゃうよ」みたいな、ことになる。

近藤:確かに、そこが自由に任されてると、振り幅はかなりでかいですよね。

竹内:そうなんですよ。逆に言うと、UAだったら、どんなメロディーでも歌詞でも彼女の感じになるんですよね

近藤:出来上がったものの読後感が一緒になる。

竹内:そこが、フィニッシュやる人のでかいところなんですよね。企画やる人がフィニッシュまでのイメージをすごい明快にもってないと。例えば、UAみたいなイメージでやってたんだけど、演出家がなんかで間違ってB'zみたいに仕上げちゃったら…(笑)それはそれで新しいものが生まれて面白いですけど。

竹内スグル Suguru Takeuchi 神戸生まれ。レコード会社を経てフリー。UA、JUDY AND MARY、ACO、hitomiなどのミュージックビデオの他、サントリ?、ユニクロ、資生堂、メルセデスベンツ、富士フィルムなど話題のCMのディレクション&DPとして知られる。また、02年には永瀬正敏主演のドラマ『濱マイク』第10弾「1分間700円」を監督する他、世界最短のインタビュー番組「比類なき者」(書籍『告白録』)を製作、05年には浅野忠信主演の映画「乱歩地獄『火星の運河』」を監督した。

インタビュー・写真:近藤ヒデノリ(TS編集長)
場所:竹内氏別荘(長野県茅野市)
日時:2007. 2.9
協力:前田マリコ

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