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坂口恭平 (建築家) 後半


1

自分の中のメインストリームを信じる


サトコ:坂口さんの作っているものを見ていて、都築響一さんとか、あとファッションデザイナーの津村耕祐さんの作品(FINAL HOME/都市でのサバイバルがテーマ)とそれぞれ共通するところがあるなって思ったんですよ。彼らの作品について思うところってありますか。

坂口:都築響一さんの『TOKYO STYLE』には、大学1年生くらいのときに出会って衝撃を受けましたよ。『0円ハウス』って、フォーマットは『TOKYO STYLE』ですから。作家でもなくカメラマンでもなくて、でも書く文章がヤバイって感じるってことは、それを芸術とみなしていて。でもみなしていなくて。そのあいまいさに興奮したんですよ。ファッションについては疎いんで、FINAL HOMEについては詳しくはないですけど。でも、面白いことをやろうとしてるんだろうなって気になってはいるんですよ。「ホーム」って名前に持ってきたところが気になりますよね。

都築さんには僕、作品見せにいったんですよ。「早く本にしなよ」と言ってもらいました。僕はコテコテなんですよ。大竹伸朗も都築響一も大好きだったし。僕が本を自分で作るのは大竹さんの影響を受けてるんです。で、その大竹さんはシュヴァルに影響受けてるのかな、とも思ってて。だから本当は大竹さんに僕の師匠を紹介してみたい。みんな?がってると思うから。なんとなく、そういう道があって、僕もそこに入ったんだなと感じてます。僕、憧れるの好きだったんで。憧れマニア。そこの人たちの大元には、シュヴァルとかアンリ・ルソーがいて、マルセル・デュシャンにも影響受けてるだろうし。
こういう感覚って何なのかって思いますよ。僕の気になる人が、もう一人の人を好きになろうとする感覚。音楽でもありますよね。この曲知ってるの?じゃあこれも知ってる?…ってつながっていくあの会話。建築を勉強しているんだけど、どんどんデュシャンに惹かれていく感覚は何なんだろう。でも、それが僕の中では本流なわけです。フューチャーソースに挙げた、アーサー・ラッセルも、一見一貫性の無い生き方のように見えて、彼自身のメインストリームがあったんだと思う。そのあいまいさに共感します。

人は分野で分けたがるけど、例えば岡本太郎が撮る写真がなんであんなにすごいのかっていうことを考えると、あれは岡本太郎が見る「目」っていうのがすごい。そこがメインストリームだから。

大竹伸朗『既にそこにあるもの』

僕、写真も好きなんですけど、写真そのものというより、写真家が写真家になる瞬間が好きなんですよね。高校時代は森山大道ばっかり見てました。森山大道のやろうとしていることって、そこに突っ込んでいるのに、そこからいつも離れようとしている。その間の空間が気になるんです。それは「ずれ」じゃないと思うんです。自分の中にメインストリームはあるから、建築家としても写真家としてもアーティストとしても自然と距離ができてしまう。僕はむしろその間を見ようとしてて、大竹さんが『既にそこにあるもの』を出したときにやられたなって思ったんですよ。たぶんこの感覚がやりたかったんだなって。
千利休が見つけようとしたのもそこじゃないかって思いますね。既にある分野には当てはまらない、自分の中にあるものがメインストリームであることを証明するために、場所作りをしてにじり口作って、入り口で刀を取らせて、最高に精神性しかない空間を作って、ぼこっとしたものを見せるわけでしょ。

サトコ:ここに来れば言ってることがわかる、という空間を作ったってことですよね。

坂口:その空間がメインストリームなんじゃないかと思うんですよね。既成のジャンルには収まらないんだけど、ずれじゃない。そこに僕も行きたいと思う。

2

追求し続けること


サトコ:では、フューチャーソースについて伺いましょうか。

坂口:鈴木さんの0円生活については話した通りですね。初期の「0円ハウス」から「0円生活」的なものに発展していって、今は0円ハウス第3期的な感じですよ。鈴木さんとは今後も仕事を続けるでしょうね。

サトコ:隅田川のソーラーハウスが第1期ですよね。第2期はいつですか?

坂口:『0円ハウス』を出版していく過程ですかね。すごくあいまいで、すごく不安だった時期でもある。そういう中で鈴木さんと出会ったんですよね。

サトコ:具体的なものと出会ってテーマが開いていく、ということはありますね。

坂口:このテーマは絶対に俺はやめない、というだけなんですよね。そういうことによって、物事って知識に深みが出て広がりが出来るということですもんね。今、自分のところのダムに一生懸命水を溜めようとしていて、まだ本体には全然溜まってないけど、その近く、手前の方にはだんだん溜まってきてる感覚があります。

雑誌『Spactator』に掲載された坂口さんのイラスト連載「立体読書」。江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」の空間をイラストで再現。

江戸川乱歩も、前は全然興味なかったけど、建築じゃなくて空間だというところまで来たときにぴたっとはまったというか。さっき言ったデュシャンがやろうとしていたことは「量がある空間」だと思うんですよね。例えば、何で今日は時間が早く過ぎたんだろうって感じることはある。自分だけにしかわからないけど、そういう確かにある感覚を考えたときに、江戸川乱歩はそれを書こうとして苦労していたんじゃないか。ストーリーは重要じゃなくて、空間を体感させることが目的の文章。それって「感覚2.0的」な、3次元4次元じゃない、全部をどうやって認識していくかということ。もう、「空間小説家」から「小説」抜かしたいくらいですよ。そういうことをやっている人がもしもカテゴライズされるならば、僕がこれまで挙げていったような人たちは一列に並ぶんじゃないかと思ってるんですけどね。僕の個人的な希望的観測ですけど(笑)。

サトコ:量がある空間ということについて、他に考えている人に出会ったことはありますか?

赤瀬川原平『宇宙の缶詰』。食べ終わった蟹缶のレッテルを剥がし、内側に張り直してハンダ付けで密封。宇宙は蟹缶の中身になってしまう。

坂口:うーん。赤瀬川原平さんやデュシャンは考えてただろうし、南方熊楠もそうだろうし。赤瀬川原平さんの「宇宙の缶詰(蟹缶)」という作品がありますよね。あれ、高校の授業で先生が教えてくれて知ったんですけど。赤瀬川原平って言う変人がいて、その人は蟹の缶詰を食べて、全部紙を剥がして内側に貼って、ふたを閉じましたと。それはどうなりますか、って言われて。「それはどうなるんですか、それは何なんですか!」って興奮したのを覚えてます。言葉遊び的な空間にも昔から興味があるんでしょうね。

サトコ:あと、漫画というのは意外でしたが、古谷実はどういう理由で選ばれたんですか?

坂口:古谷実は、漫画を超えようとしているんですよ。作品を読んでいると、前の漫画で出てきた気になるキャラクターが、次でちょっと重要なキャラクターになってでてきたりする。性格は似ていたり違ったりするんですけど。それを見て、この人は漫画で区切っているんじゃなくて、彼の中にある世界をいくつもの漫画を使って、全く違う角度から書いてるんだと思ったんですね。ある角度から見たらいい人でも、別の角度から見たら悪い人に見えるとか。だから、古谷実は僕が言う「あの空間」をヤンマガで毎週出しているという、かなり稀有な存在なんじゃないかと。そこに僕は興味を持っているんですよね。

サトコ:最後は、食に関するキーワードを挙げられてますね。坂口さんは、お忙しい毎日だと思いますが、食事はきちんと取られてるんですか?ブログを読んでると、食に関心のある方なんだなって思いますけど。

坂口:俺の場合、忙しいって言っても、会社員ではないので家にはいるんですよね。だから暇がもたらす食文化の隆盛、という感じで。元々料理大好きですが、コンソメとかは嫌いなんですよ。ダシとかドレッシングの会社に対して怒りがあるというか。お店でもそういうもの出されると怒り出したり。結構、原理主義なんで危険なんですよ(笑)。

サトコ:姿勢は食でも一貫してるってことですね。

坂口:あと、僕にとって重要なのは音楽です。意外に裏ではクラブ文化に救われてるんです。クラブだと高次元の会話ができるから。昔はよく毎日ステージ上がっていっつも降ろされて、それで色んなミュージシャンと仲良くなったり、もう踊ってても真剣すぎるんじゃないのっていうくらい。そんな中で「何であいつ本出してんだよ」っていう感じの奴でいたいんですよね。

もう全部やりたいんですよ、本当は。すっごい空間作って。歌も踊りも全部あって、それで世界中を巡回して、みたいな。それをいつも夢で見てるんですよ。人間ってゴールまで見えて初めて直感できるらしいですけど、僕にはやりたいことも直感もある。だから後はいかに、直感を実現するための戦略を立てるかなんです。奇跡は起こさなきゃいけない。クラブの帰りがけに聴いた曲に涙する…みたいに、なんて素晴らしいんだって終わるはずなんですよ、人生は。

サトコ:今日は、思ってもみなかったようなお話をたくさん伺えて、本当に面白かったです。どうもありがとうございました!

坂口恭平 Kyohei Sakaguchi
建築家 1978年熊本生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業後、2004年に日本の路上生活者の住居を収めた写真集『0円ハウス』をリトルモアより刊行。2006年カナダ、バンクーバー美術館にて初の個展、2007年にはケニアのナイロビで世界会議フォーラムに参加。最新著作に、隅田川の鈴木さんのソーラーハウスでの生活を記録した書籍『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(大和書房刊)。その後の映画化も予定されている

インタビュー:サトコ(TS)
写真:NOJYO
場所:西荻窪
日時:06/17, 07/22/07
リンク:0円ハウス -Kyohei Sakaguchi-

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