004

タナダユキ (映画監督)


まだ肌寒いものの、日差しには春の気配がある3月、タナダさんと新宿で会った。予想通りシャイで楽しい、予想以上に可憐で強い人だった。

「考え方が変わってなければ他のインタビューと同じことを言うと思いますよ(笑)」
そう言う彼女に、何とか言葉を繋いで“初めて”の話をしてもらおうとした。

デビュー作で新世紀初のPFFアワードグランプリを獲得、「驚異の新人」という報で映画界に迎えられた。「技術も金もない、25歳までしか撮るのを許されない、バカな映画」という本人の言葉にもあるが、若く、ほろ苦い自主映画である。「撮りたいものが現れるまでは撮らない」と、あえて映像から離れた3年間を経て撮った作品だった。

当時、この映画を観て、「生理の暴力神が泣いている」と思った。剥き出しで痛々しく、痛快で、何よりチャーミングだった。映画にとって一番大切なチャームだけがあって、他は何も揃ってない作品だった。

TOKYO SOURCE(TS)に取り掛かるにあたり、最初に誰をピックアップしようかと悩んだ。TSは未来の東京を形作る才能を蒐集するプロジェクトである。「今度はあいつが来る」「あいつはもう終わった」そんな切ったはったの企画である。話を最初っからひっくり返すようになるが、時代など所詮、風に吹かれて変わるのだ。「新しいことに興味はない」そう言い切るタナダさんは、人間の悲しみとおかしみを撮り続けてゆく、そんな気概と手厳しさ、そして柔らかさを持った監督だった。

あえて、そんな人物を取り上げてみた。一発目だからこそ、僕は声を大にして言おうと思う。タナダユキは20世紀であろうが、22世紀であろうが面白い映画を撮る、と。しかし、こう言い切ることは僕の中でもはや賭けではないのだ。

1

助監督から始めるということすら知らなかった


米田:専科のある地元の高校で演劇を学んだ後、イメージフォーラムに入学されてますね。「最低限の技術を身に付ければ、後は自分で撮れる」と思っていたそうですが。

タナダ:どうやったら監督になれるのか知らなかったんですよ。監督になってから知ったんですけど、映画監督って助監督から始める人が多いということすら知らなくて(笑)。まず作品作らないと監督ってなれないと思ってました。

米田:イメージフォーラムではどんなものを撮られてたんですか?

タナダ:実験映像も見たことがなかったし、8ミリも、8ミリのフィルムがあるということも知らなくて、8ミリビデオだと思っていました(笑)。それぐらい何も知らない状態で、何とかなるだろっていう感じで行ったんですが、撮るのは面白かったですね。コマ撮りのアニメーションとか楽しかったです。セコセコ、チョコマカやるのも好きだったんで。

ただ、カメラやる人って露出とかに凄くこだわるんですけど、私は映ればいいだろって感じでした。キレイに撮ることより、撮る以前のものを大事にしたいと思っていました。最近はさすがに技術も覚えないといけないと感じてますけど。

米田:卒業後は、映像に関して何もしない3年間というのがあって、好きなことをやろうとポルトガルやフランスに旅行されたそうですね。北海道に行ったときはウニ丼を食べたとか(笑)。

タナダ:食べましたね。調べてますねぇ(笑)。

米田:(笑)。「撮りたいものが決まるまでは撮らない」と決めていたそうですが、今、当時のことって喋れます?昔はこの辺の話ってNGだったんですよね。

タナダ:別にそんなに大して喋ることもなかったんですよ。友達が亡くなったりしてたんで、そういうのもあったんですけどね。

米田:一時は映画を辞めようとさえ思われたとか。かなりバッドな時代だったんですか?

タナダ:バッドというよりは、本当に何者でもないっていう状態だったんですよ。その時に『トト・ザ・ヒーロー』という映画を観て感激して、まだ23ぐらいだったので、「辞めるって決めなくてもいいな」って思って。観てなかったらたぶん辞めてましたね。今思えば、この頃、無理矢理映画撮らなくて良かったなあと。

あと、ここには恋愛の期間も含まれているんですよ。恋愛っていうのは、人とかかわることで自分の嫌なところがもの凄く見えるので非常に大事ですね。

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デビュー作『モル』


『モル』('02)

米田:この時期に蓄積された感情やモチベーション、構想が爆発する形で『モル』を撮られるわけですが、ああいう怒涛のお話を最初から作ろうと思われてたんですか?

タナダ:そうなっちゃった部分は若干あると思うんですけど、基本的には作ろうと思ってました。何も知らない状態で映画を作って、ああいうバカなことが許されるのは年齢的にギリギリだろうって。

米田:25歳までしか許されないだろうと思っていたそうですね。

タナダ:あんま成長してないんですけどね(笑)。ギリで許してくれるかなぁぐらいな。

米田:「映画監督は常に動いてないとすぐ忘れ去られる」とおっしゃられてますね。

タナダ:映像から離れた時期に「このままやらないでも、別に誰も困らないんだなあ」と思ったんですよ。常にそれを忘れてないという感じですね。本当に自分が映画撮んなくても、誰一人として困らないので。それを踏まえた上で、でも撮りたいんだったらそれなりに努力しないと撮れないんだろうなって。

米田:「自分が撮らないで誰が取るんだ?」って発想にはならないんですか。

タナダ:あんまならないですね。撮ると決まったらそういう風にテンションを持っていかないとダメだと思うんですけど、いつもどこかで冷静でなきゃいけないと思ってます。

米田:『モル』って自主映画ですが、凄いエンターテイメントですね。

タナダ:作る以上は、観る人がいることを意識して作らないといけないと思ってるので。撮りたいものが分かってるのって大事なんですけど、下手に主張を押し付けると、とっても嫌な映画になるんですよ。人様にお金と時間を使って観ていただく以上、観る人がいることが前提で、自分は何が言いたいかということを考えて撮らないと、単に気持ち悪い、オナニーの映画になっちゃうので、それだけは嫌だなと。

3

何も起きない映画が流行ってて、一番苦手でした


©PFF

米田:『モル』以降は出演されてないですね。女優・タナダユキを待ってる方もいると思うんですけど。ま、僕ですけど(笑)。

タナダ:一人ぐらいだと思いますよ(笑)。杉作J太郎さんの映画に出させていただいたんですけど、セリフ覚えるのってめんどくせえな、覚えさせる方がいいな、って思いましたもん。山下敦弘監督がプロモーションビデオを撮った時もちょこっと出たんですけど、助監督の経験がないんで、山下監督がどういう風に人を動かすのか、凄く勉強になりましたね。

米田:いつもフェイバリットに山下監督を挙げてますね。

タナダ:『ばかのハコ舟』を観たときに、「あ、これで日本映画は大丈夫だ」と思ったんですよ。“画”が物凄いじゃないですか。それに、あの独特の“間”も。私はその間を詰めることしか出来なかったんで、映画って間も必要なんだって分かりましたね。でも、誰もが出来ることではないんですよ。一時期、何も起きない映画って流行ってて、私、一番苦手なんですけど(笑)。

米田:タナダさんのは、どっちかというと性急な映画ばっかですよね(笑)。

タナダ:山下さんのは怒涛のごとく何かが起こるわけではないのに、じわりと来るというか。おそらく人間の描写に嘘がないんだろうなって思うんです。そういう監督の現場でちょこっとやらせてもらえたのは面白かったですね。

米田:確かに『モル』でも間を空けるというより埋めてますよね。オセロゲームをアニメーションで見せたり、細かいアイディアが随所に詰め込まれていて。

タナダ:とりあえず、面白そうだったら全部入れようかなって(笑)。

米田:華々しいデビュー作になりましたが、撮り終えた時は「行ける!」って感じました?

タナダ:うーん、審査員によると思いました。本当にお金も技術もない、純粋な自主映画だったし、技術は今はもっと全体的に進んでいるんですけど、当時でも出品者のレベルは高かったですから。そんな中であんなド素人が作った映画だったんで。でも「まあ賞くれよって。何かくれよ」って思ってました(笑)。「このド素人臭さがいいんじゃん、それ分かれよ」みたいな(笑)。

©PFF

米田:『モル』は、坐薬あり、バイオレンスありの、嵐の展開ですが、一貫してテーマは「死を選ぶのではなく、生きること」ですね。その根底には、他人との結び付きを求めざるを得ない人間の切なさがあるという。それが届くという手応えはありました?

タナダ:観る方がどう思うのか興味はありましたけど、分かる人には分かるんだろうなって思ってました。

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手書きの試写状2000通 自宅にフリーダイヤル


米田:その後、劇場公開となりますが、あんまりお客さんは入らなかったそうですね(笑)。

タナダ:結構入るかと思ったんですけどね(笑)。でも、かえって勉強になったというか、宣伝がいかに大事かって分かりました。自主映画の割には凄い宣伝してもらったんですけど、お客さんに届かせるためには、どの劇場で公開するかも大事だと分かりましたね。

©PFF

米田:この時、手書きの試写状を2000通書かれたんですよね。あと、ぴあの問い合わせ用のフリーダイヤルを自宅に引いて。これって凄いですね。

タナダ:ぴあには人を常駐しろって言われたんですけど、友達を拘束するのも出来ないし、じゃあウチでいいやって。

米田:この試写状が後の『タカダワタル的』の撮影依頼に繋がるんですが、こういう、腹くくって徹底的にやるぞっていうのは元々の性格なんですか?

タナダ:普通に考えたら、何でみんなやらないんだろう?って逆に思うんですよ。だって、監督第1作目で誰も私のこと知らないのに、試写状送られたところで来るわけないじゃないですか。来ると思ってるのがそもそも間違いで。じゃあ、その時の自分に最低限出来ることは何かと思ったら、全然お会いしたことのない方たちだけれども、観てほしいという気持ちは本当だから、よろしくお願いしますと一言書くことしか出来ないので、それをやっただけなんですよ。そしたら、監督が書くというのが珍しかったらしくて、珍しがってくれた人の中で、何人かと仲良くなったという感じですね。

5

異例のロングランヒット―『タカダワタル的』


『タカダワタル的』('04)

米田:蛭子能収さんの初監督作『諌山節考』のメイキングを経て、次の『タカダワタル的』もドキュメンタリーでしたね。

タナダ:「渡さんと同世代がやるより、毛色の違う人がやるのも面白いだろう」と、依頼の電話がかかってきたんですが、後で引き受けるんじゃなかったと後悔しましたね。素人目でも1回ステージ観ればこの人は本物だって分かったんで。「こんな人のドキュメンタリーは難しいぞ」って。

米田:高田さんのファンって30年ぐらい付いてる人でしょうから、ちょっとやそっとじゃ入り込めない世界ですよね。でも、開き直って、リアルタイムの世代にではなく、あえて若い人に見せる切り口で撮られてましたね。

タナダ:伝説とか言って崇め奉るファンもいて、ご本人も凄く嫌がるんですけど、そうじゃなくて、渡さんって普通に生きて歌ってる人なんで、長年のファンはこの際、無視して、自分が面白かったことだけ伝えようと。渡さんのこと知らない人に向けて映画作ろうと。それを見て、もっと渡さんを知りたくなったら、自分で調べろと(笑)。

米田:映画は1970年の『ごあいさつ』という曲から始まって、21世紀の下北沢「スズナリ」の、同じく『ごあいさつ』で終わります。これは高田渡というフォークシンガーが30年間変わらず歌い続けてきたことを教えてくれますね。

©アルタミラピクチャーズ by 鈴木愛子

タナダ:あれはたまたまなんですよ。『ごあいさつ』は予定にはなかったんですが、いつもリハ通りに行かないのが渡さんなんで、運よく歌ってくれたんです。歌ったのはあの時だけだったんですが、おかげで、あの映画が成り立ちました。

米田:高田さんのドキュメンタリーですが、ツアーも一緒に回られているし、タナダさんのロードムーヴィーのような印象も受けましたよ。

タナダ:そうですか、それは初めて言われましたね。もういっぱいいっぱいだったんですよ。

撮ってる時は不安で不安で、構成も全く思い付かなかったです。最初からケツまで繋げたり、パターン変えたりしたんですけど、イマイチ面白くなくて。最終的にはあの形が見えて何とか形になったんですけど、最初は焦りましたね。これ、面白くないって(笑)。

©アルタミラピクチャーズ by 鈴木愛子

『諌山節考』のメイキングの蛭子さんってテレビに慣れてるし、観てる人も知ってるので、字幕をバンバン入れて本人をより面白くする作り方が出来たんですけど、渡さんの場合はテレビにあまり出ない人だし、でも知ってる人は凄く知っているし、渡さん自身にゴチャゴチャやってもこっちが勝てるわけないので、とにかくシンプルに作ることを考えました。

米田:『タカダワタル的』は異例のロングランヒットとなりましたね。

タナダ:また4月に吉祥寺で凱旋上映が始まって、他にも松江とか各地で地味にロングランしてます。

6

R18になりかけた!-『月とチェリー』


『月とチェリー』('04)

米田:R15でエロスをテーマにした『ラブコレクション』という企画で、次に撮った『月とチェリー』は、一時、R18になりかけたそうですね。

タナダ:騎乗位の引き画がもう18らしくて、思いっきり腰動かしてるんで(笑)。映倫の基準ってよく分からないですね。映倫にも行きましたけど。

米田:あのう、非常に色んな体位が出てきますね(笑)。

タナダ:撮ってる途中で、もう面白くなっちゃったんで、色んなのやっときましょうかって(笑)。せっかくR15でやれるってことになったんで、思いっきり入れようかなって思ったら、R18になりかけて(笑)。『ラブコレクション』の他の作品は意外とそういうシーンが少なくて。私はこれでも少ないぐらいかなと思ったんですけどね。

米田:男がイスに座って女を抱きかかえて、女が男越しに机のパソコンを打つっていうのは、映画史上初めてじゃないですかね(笑)。

タナダ:はいはい、あの人権無視のヤツね。主演の男の子が「これ、人権無視っすね」って(笑)。

米田:友達との話が膨らんで脚本のきっかけになったそうですが、どんな話だったんですか?

タナダ:女の人が風俗のような話を書くとしても、取材とか行きずらいねって話したんですよ。それなら男の友達に行ってもらうのが手っ取り早いねって。でも、頼んだ女の子のことをその男の子が好きだと辛いよねって。

米田:僕は童貞を奪われる主人公の田所も、魔性の女の真山も好きなんですけど、一番好きだったのは茜ちゃんでしたね。雨の中、茜ちゃんが田所をふるシーンが一番好きでした。茜ちゃんって、可愛い顔して、一番強欲だし、一番残酷じゃないですか。

©ヒューマックスコミュニケーションズ

タナダ:一番彼女が大人だと思うんですよね。

米田:一番可愛いのに、田所は茜ちゃんを選ばず、自分を官能小説を書くネタとしか見ない真山を追いかけるという。

タナダ:普通選ぶと思うんですけど、まあ、映画だから(笑)。キャラ分けはどの子も凄く分かりやすく書いています。

米田:でも、男だったら女の子の描き方が変わるような気がしますよ。

タナダ:女ってああですよ(キッパリ)。別れる時って、男の人って突然言われたっていう感じになるんでしょうけど、女って最初っから決めてますもん。悪いけど(笑)。

米田:話し合う余地無しですね(笑)。僕は、男の作品に現出する女性賛美って、どうも嘘っぽいというか、所詮は下心だろっていうか(笑)。でも、タナダさんは『モル』の時も、女性性みたいなものを神聖化せず、逆にそんな大したことはないよってフツーなこととして描いていて。女としても、うかうかしてられないんじゃないかっていう感じがしたんですよ。同性への厳しいツッコミと、その逆の微笑ましいと思う目の両方を、茜ちゃんには感じましたけどね。

タナダ:あの子がね、また茜にぴったりだったんで(笑)。今回はいい素材がいっぱい揃ったんで、ホント幸せでした。

米田:主人公の男の子はいつも文句を言いながらも所詮は女性からの誘惑に勝てない。これって監督の恋愛感ですか?(笑)。

©ヒューマックスコミュニケーションズ

タナダ:私は嫌ですよ。互いにちゃんと相談し合ってほしいですね(笑)。

米田:ラストは田所と真山は上手くいくような雰囲気で終わりますね。

タナダ:そんな感じで終わらせましたけど、私は行くとは思ってないです(キッパリ)。

米田:そんなに甘くはないと(笑)。でも、観てると上手くいくといいなって。

タナダ:そうそう。30代くらいの人が観て、そう思ってくれたらいいなって思ったんです。自分もそうなんですけど、あの頃にもっと無茶しとけば良かったってこともあるじゃないですか。ああいう無茶ってやっぱり若いときしか出来ないですよ。

あの2人が5年後10年後、果たして一緒にいるかと言うとそうは思えないんだけど、「今、一緒にいる」っていう選択が出来る2人って尊いなって思うんです。

米田:撮り終わって手応えはどうでした?

タナダ:『月とチェリー』は自分にとっては凄く幸せでしたね。『モル』や『タカダワタル的』とも全然違う、そして、これから撮るものとも違う特別な映画です。凄い財産ですね。初めてホントに“タナダ組”というのを、たった5日でしたけどやることが出来たので。

7

増村みたいな古典になると嬉しい-マイソース


盲獣

増村の度を過ぎた人間好きなところ、本気度の濃さが好き

トト・ザ・ヒーロー

この作品に出会わなければ映画を辞めてた

トモフスキー

ポップでありながら前向きな歌を歌わず嘘が無い

台所のおと

研ぎ澄まされた五感の描写がとてもエロティックで衝撃的

都電

大塚駅前には踏切が無い。「てめえの命はてめえで守れ」


『盲獣』

米田:今朝、徹夜明けに僕は観てですね、寝られなかったですね。その後(笑)。

タナダ:ハンパないでしょ。朝観る映画じゃないですけど、夜観ても寝られないですね(笑)。もっともっと評価されてもいいと思うんですけど、挙げると、珍しがられて「ワザと?」とか言われるんです。全然そんなことないんですよ。この人が描いてるのは人間なんで、ホントは人に対する目線が優しいんじゃないかな。好きじゃなければあんな風には描けないですから。

増村みたいな古典になると嬉しいですね。死んだ後に「タナダのは観ないと」と若者が言ってくれるといい(笑)。

トモフスキー

タナダ:『疎遠』って曲なんてライブで泣きそうになりましたよ。大人になってからの疎遠って、ホントどうしようもない疎遠なんで(笑)。

『台所のおと』

タナダ:粋なんですよ。何でもない、栗の皮剥いた、みたいな描写だけでも画が浮かんでくる。いつも凛としたもの、一本芯があって、背筋が伸びた感じが大好きです。

8

濃い!-フューチャー・ソース


山下敦弘監督作品

初めて観た時、「日本映画は終わらない」と思った

姪っ子

もうすぐ3歳で第一次反抗期突入中。幼稚園でどう変わるか

銀杏BOYZ

アルバム2枚ともに傑作

長崎の廃墟の島

初めは写真集で見た。行ってどう感じるか楽しみ

盆栽

ある程度育った盆栽から育てるなど邪道だ


山下敦弘監督・向井降介脚本作品

タナダ:『鬼畜大宴会』の熊切監督もそうですけど、大阪芸大出身の人たちって凄いですよね。このコンビには最も信頼を置いています。観てて安心できるし、下手に気を衒らわず、とてもバランスがいい。まだ若いのに、若手にありがちな、押し付ける映画でもないし、尊敬してます。

銀杏BOYZ

タナダ:銀杏って、“あの頃に持ってた焦燥感”って感じがしません?歌も演奏もいいんですが、歌詞がね、「戦争反対 戦争反対 戦争反対 とりあえず戦争反対って言ってりゃあいいんだろう」とか、ハッとするんですよ。

米田:ボーカルの峯田君は『太陽を盗んだ男』や『岸和田少年愚連隊 カオルちゃん最強伝説』を好きな映画に挙げていて、くしくもタナダさんと同じということを発見したんですよ。

タナダ:『太陽を盗んだ男』って私が唯一DVDを持ってる映画です。DVDデッキ持ってないのに持ってますから(笑)。ジュリーの全盛期の時に出会ってたら、もう大変です。彼には男も女も狂わせる何かがありますね。

長崎の廃墟の島(軍艦島)


タナダ:かつてたくさんの人がここで生活して、子供が生まれたりして、色んな感情が壁とかに染み付いていると思うと凄いです。日本にこういう場所があったのかと。廃墟マニアとかじゃないですけど、ここは惹かれますね。

米田:しかしながら、タナダさんが挙げるのってみんな濃いですねぇ。

タナダ:はい、濃いですね(笑)。

盆栽

タナダ:種から育てるのって、まず種を水につけて、そのあと1ヶ月冷蔵庫で冷やさないといけないんですけど、冷やしっぱなしで1年が経ってしまって(笑)。

米田:あらら。盆栽の他にも日曜大工なんかが好きなんですよね。きっと家でもチャキチャキやって…

タナダ:いやいや、ほっといたらいつまでもぼーっとしてますよ。「ああ、また今日も1日が終わる」みたいな(笑)。

9

わざわざ現代を描こうとは考えない


米田:自分が撮りたいものしか撮らないという、強いこだわりを持ってますよね。

タナダ:「撮りたくないんだったら他の人が撮りゃいいじゃん」って思うんです。やっぱキツいんですよ。自分が心から撮りたいと思えるものじゃないと嘘付いてることになるんで。基本的に正直者なんで。生意気言ってるつもりは全然なくて、辛いことをやりたくないだけなんです。

米田:プロの監督ということについてはどうです?

タナダ:どんな仕事でもそうだと思うんですけど、100%好きなことだけをやれるっていうのはあり得ないので、話が来た時にどうしてもやんなきゃいけない映画って出てくると思うんです。でも、そこで自分の核となるものが見つけられればやるし、見つけられなかったらやってはいけない。

何でもやれるのもプロフェッショナルだけど、自分の中で何か揺るがないものがない限り辛いんですよ。原作物が来て、うーんと唸っても、そのやり方も覚えていかないと私はプロで食っていけない。そこで何か見つけられるのかという、自分の問題だと思ってます。

米田:同時代性とかって意識されます?

タナダ:あんまり人のこと考えてないかも(笑)。

米田:社会的な題材を扱う可能性とかって…、あんまないか(笑)。

タナダ:いや、面白く出来るんだったら、やるんじゃないですか。「タナダがこんなの撮ってるよ」って面白がってもらえるのであれば(笑)。

昔のものを撮ったとしても、人間の感情ってそんなに変わってないと思うし、わざわざ現代を描こうとは考えないですね。たまたま出来上がったものを観た人がどう判断するのかは気になりますけど、新しいものにも興味ないですし、何が新しいか、自分には分からない。あえて新しいことが出来るとも思ってないです。色んなメディアがある中で、もしかしたら誰もやってないことってホントにあるのかもしれないけど、新しいことって「これが新しい!」って自分で言うんじゃなくて、周りがびっくりすることだと思うんですよ。

米田:脚本に向かうのは、1人きりの徹底的な“M”の作業で、現場は多くの人を巻き込んでいく“S”の作業だとおっしゃってますが、そのバランスってどうですか?

タナダ:私はどっちもやるのが好きですね。でも、現場でも基本的には監督って1人なんですよ。孤独であることに変わりないんです。

10

心をザワザワさせたい 観客をぐらつかせたい


米田:ご自身が撮り続ける理由って何だと思われます?

タナダ:他にやることがないんですよ。生活を犠牲にしてまでやりたいことが。映画を撮るということに関して言えば揺らいでないですね。もしかして他にあるのかもしれないと思ってましたけど、やっぱりやりたいことは映画だけですね。

米田:それは映画から貰ったものが大きかったり、撮るってことが自分の支えでもあるから?

タナダ:そうですね。『月とチェリー』で大きく変わったのかなと思いますね。映画として反省すべき点はかなりあって、まだまだなんですが、プロの映画監督としてあんな幸せな現場はなかったです。それはみんなが優しくて幸せ、というのではなく、厳しい優しさがあってという幸せでした。
 
それまでは自信というか、プロの映画監督になるという覚悟がなかったのかもしれない。それは、気乗りしない企画をなあなあでやるんじゃなく、そこで自分が何かを見つけて、ちゃんといい作品にするということですね。

米田:スバリ、観客に対して狙うことって何でしょう。

タナダ:最終的にですけど、“席を立てなくなるような映画”を作りたいんですよ。例えば、さっき出てきた『太陽を盗んだ男』をもし映画館で観てたら、私、しばらく動けなかったと思うんです。いつかそんなのを作りたい。観客を必ずしもいい気持ちで帰さなきゃいけないとは思ってないんです。どっちかっていうと、心をザワザワさせたいんですよ。観客をぐらつかせたい。それが常にあります。

米田:『モル』を観たとき、「他人に何かを伝えることに腰が引けてないな」と思ったんですよ。「観客と向き合う気概があるな」と。

タナダ:まあ、人はどう思うのかなっていうのに興味があるっていう感じですかね。こういう時、人はどうしてるんだろうっていう。

米田:作品に垣間見える破壊衝動については?

タナダ:映画の中ではそうですけど、普段は非常に地味に、それこそ大和撫子のように…

米田:…

タナダ:なんで何の返事もないんですか(笑)。

米田:あはは。作品の主人公はパワフルなイメージがありますけどね。

タナダ:映画だから出来るんですよ。日常生活ではあんなの迷惑ですから。人に迷惑かけちゃいけないと思ってるんで。割と常識的な人間のつもりなんで(笑)。

米田:静と動のバランスってどうですか?行き着くところまで行ってもいいという感じですか、物語が破綻しても…

タナダ:いや、破綻はダメです。絶対に観る人がいるんで。破綻することで何か面白くなるんであれば、話は破綻してもいいと思うんですけど。

米田:かっちり決めたものしか撮らないと。途中から話を変えたりはしないんですか。

タナダ:ああ、しないです。

米田:順撮りもしないんですね。

タナダ:順撮り出来るような状況がまずないですからね(笑)。

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タナダ映画の“画”が欲しい


米田:自分の映画の勝ち目ってどう考えてます?

タナダ:考えてないし、よく分かってないですね。自分に興味があればやる、なかったらやらないってだけですね。

米田:大局を見てどうしよう、とか思わないんですね。

タナダ:映画ってなるようにしかならないんですよ。前にある映画がポシャったんですけど、その経験が骨身に沁みてるというか。決めても必ずそうなるってことはないんです。あとね、直感ですね。これは面白いとかイケそうだなとか、やっぱり直感で全部決めてます。

米田:今後、作品を作っていく上で自分にもっと必要だと思うことって何ですか?

タナダ:現場における作家性ですね。どうしてもテンパってしまうんで。あとは映画で言うところの“引きの画”を覚えてないと。私はどっちかというと話で映画を作りがちなんで、現時点では大丈夫なんですけど、映画ってやっぱり画なので、画の作り方とか、画で感情や話を伝えるってことをもうちょっと覚えないといけないですね。でも、そうなるにはやっぱり、圧倒的に経験が少ないので、どんどん撮らないと。

米田:「最低でも1年に1本は撮りたい」とおっしゃってますね。

タナダ:希望ですけどね。どうせ言ったところで撮れないので、だったら言っておこうと(笑)。

米田:『月とチェリー』はキュートな青春映画でしたが、次回は、また振り子が逆に振れたものを撮るわけですか。

タナダ:テイストは全然違いますね。今度は、とても貧乏な15歳の女の子が主人公のお話です。

米田:初めてやるような感触の映画ですか?

タナダ:そうですね。だからこそ、今までやったことよりもさらにキツイだろうなって思ってます。役者の演出とか、主人公の心情を演じてもらうために何を伝えないといけないか、自分にとって、相当厳しいことになるだろうなって。でも、今それをやんなきゃいけないんだろうなって思ってます。

米田:『モル』は25歳までに撮るべき映画、という話がありましたが、今の年齢で撮っておきたい映画ってあります?

タナダ:青春映画、ですかね。明るい青春映画じゃなくて。青春ってホントは明るくないじゃないですか。そういうのを明るく描くのってなんか嘘があるなあって。撮りたいのは、何かうまくいかない人とか、でもその中で生きていくしかない人たちとか、ですね。

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全ては映画を撮るために


米田:今後はCMのお仕事もやりたいとか。

タナダ:やりたいですね。じゃないと食っていけないんで(笑)。

米田:ニューバランスと箱ティッシュをやりたいそうで(笑)。箱ティッシュのCMはプロットまで出来てるらしいじゃないですか。

タナダ:やりますよー(笑)。ま、嘘ですけど。

米田:嘘なのか(笑)。

タナダ:出来てるって言っておいた方がいいんで、出来てなくても(笑)。

米田:靴はニューバランスが好きなんですよね。

タナダ:いや、アディダスが好きなんですけど(笑)。最近履いているのは(と言って足を上げてコンバースのスニーカーを見せる)。

米田:全部違うじゃないですか!でも、CMに出演するのもやってほしいですけどね。

タナダ:演技ってキツイですよ。なるべくセリフが少ないならいいんですけど、需要がない限りは役者はやらないです。でもCMはいいですね、出たいです(笑)。

映画って、脚本書いたら速攻で脚本料が入るわけじゃないんですよ。企業開発費がない状態で開発して、どうなるかクランクインするまで分からなくて、クランクインしたところで上映されるか分からなくて。ホントちゃんと考えないと、本末転倒というか、結局映画撮れなくなるんで。

映画だけで食えれば一番いいんですけど、自分の場合はまだそうではないので、変に高いプライドは持ちたくないんです。映画しかやらないって言って他の仕事を断って、それで映画を作れなかったらバカみたいじゃないですか。そのプライドは的がずれてるという気がして、ホントに映画撮りたいんだったらもっと色々やることがあるんじゃないかって思います。

米田:今はバイトされてるんですよね。

タナダ:もう覚悟決めて辞めました。どっかで覚悟を決めないと、いつまでたってもダラダラやっちゃうんじゃないかなって。

米田:結構な転換期じゃないですか。

タナダ:ま、バイトしたくないってのがあるんですけど、嫌なんですよ(笑)。どんどん自堕落になってます(笑)。少ない予算で生活はやりくりしてますよー。

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どんな状況でも面白がれないと損です!


米田:『モル』の時はスタッフのご飯作ったりしてたんですよね。

タナダ:お金ないですからね。お金ない場合は頭使うしかないんですよ。何か分かんないけど、相手を乗せるっていう(笑)。何か分かんないけど、楽しいっていうか。

米田:PFFとか観ると、監督にどういう友達がいるか分かりますね。『モル』は色んな人が出ていたので、そういう“人たらし”も上手いんじゃないかって勝手に想像したんです。

タナダ:あの時は、メインのスタッフにまず、ブランデーで作ったちょっと高いチョーヤの梅酒を渡してですね、「飲んだ」っていう報告を聞いてから、「じゃあよろしく」って頼んだんですよ(笑)。

米田:要はやりようですね。上手く巻き込むのも監督の仕事というか。

タナダ:巻き込まれるのは嫌なんですけど、巻き込むのは楽しいですよ。人の人生メチャクチャにするのは(笑)。

米田:でも、そういう企みを持つっていいですね。

タナダ:いくつになっても面白いことやってた方がいいじゃないですか。面白いことしかやりたくないって思ったって、面白くないことは実生活で絶対やんなきゃいけないんですよ。だったら、もう嘘でも面白いことしかやらないって言い張ってた方がいいでしょ。嫌な状況って何においてもあることだから、そん中で面白がれないと損な気がします。

米田:『an-an』ではコメンテイターもされてますが、取材されるのってどうですか?

タナダ:正直得意じゃないんですけど、『モル』の時に、監督ってそういうのも全部やっていかなきゃいけないんだって思ったんです。映画として仕上げてるものをわざわざ訊かれるのって辛いんですけど、それもやんないと誰も見てくれないので。

米田:すいませんねー。今日は根掘り葉掘り訊いてしまって(笑)。

タナダ:こんなにね、他に訊くことがあるのかよっていうぐらい(笑)。もうそんなこと忘れてたよっていう。

米田:突然ですけど、割り勘派なんですよね?

タナダ:な、何がですか?

米田:食事とか飲みに行っても。

タナダ:奢ってくれそうな時は黙ってますけどね(笑)。

米田:大丈夫ですよ!今日はちゃんと払いますから(笑)。ホントに長いことありがとうございました。

※05年4月16日、高田渡さんが永眠されました。心よりご冥福をお祈りいたします。

'75年福岡県生まれ。主演も務めた初監督作『モル』は、各界からの絶賛を受け、PFFアワード2001グランプリとブリリアント賞(日活)の二冠に輝く。フォークシンガー、高田渡氏のドキュメンタリー『タカダワタル的』('04)は東京国際映画祭特別招待作品に。最新作は『月とチェリー』('04)。今、日本映画で最も期待される若手監督の一人。)

インタビュー:米田知彦(TS副編集長)
写真:井島健至 Takeshi Ijima primal gravity
アシスタント:石川怜子
場所:新宿
日時:3/8/05

『 タカダワタル的 』
『 月とチェリー 』

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