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ポール・コールマン (アースウォーカー) 前半


この夏、僕はTSでのインタビューを通じて知りあった中渓宏一さんに誘われ、彼の師匠でもあるアースウォーカー、ポール・コールマンさんが北京オリンピックにあわせて歩いて木を植える旅に合流するため、北京に向かった。

ポール・コールマンさんは、世界中を歩いて木を植えることを通じて、平和と環境へのメッセージを伝えてきたアースウォーカーだ。1990年に当時住んでいたカナダから、2年後にリオデジャネイロで開催予定の地球サミットに向けて歩き始めたのをきっかけに、その後、紛争中のサラエボをはじめ、彼の母国イギリス、ヨーロッパ、アフリカ、日本など、これまでに世界39カ国、4万7千キロ以上を歩き、木を植えてきたという。

そんなポールさんが北京オリンピックに向け、香港から北京まで1年近くかけて歩き、中国各地も木を植える旅をしているとのこと。詳しくはわからないけど、とにかくポールさんに会ってみたい、オリンピック中のリアルな北京を体験してみよう、と行ってみることに。まさに、TS本の帯に茂木健一郎さんから頂いた「偶有性に飛び込め」という精神。今回のインタビューはそんなポールさんに北京に会いに行った旅のドキュメントである。

近藤ヒデノリ(TS編集長)

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ビザが更新できない?!


(クリックで拡大)ポールさんの滞在先の北京のホテルで彼のもとに世界から集まった「アースワォークファミリー」全員集合。左から僕、明石くん、中渓さん、ポールさん、右に妻の木乃美さん、鉄平くん、岩間家

ところが僕が中国へ行く前日の8月3日、メールでポールさん一行が天津にいてビザが延長できず、開会式前日の8月6日中に中国を出ることになったことを知る。ゴールを目前にした突然の事態……でも僕はすでに飛行機も予約していたし、休みも取っていたので、何はともあれ北京に向かうことに。

(ちなみに、このメールを送ってくれたのが文化庁派遣で北京に滞在中のアーティストの岩間賢さんだったのだが、元々は、TSで以前インタビューした土屋貴哉 の友人だった彼がTSのサイトで中渓宏一さんを知り、そこからポールさんが北京に来ることを知ってメールしたのが始まりだったという。TSの縁がめぐって、こんなところにつながるというのもなんだかうれしい。)

北京に着いた当日、僕は空港に迎えに来てくれた岩間さんと、天津から到着したポールさんと妻の木乃実さん、数日先に天津入りしていた中渓さんらとホテルで合流。ポールさんのことは、事前にブログで写真は見ていたものの、「世界を歩いてきた環境活動家」という先入観から、勝手に修行僧のような厳格でストイックなイメージを抱いていたけど、実際に初めて会ったポールさんは、気さくで、暖かい印象だった。これから北京を出るまで最後の2泊3日、様々なメディアの取材を受け、その後は翻訳本の発売に合わせて韓国に向かうという。そして、僕らはみんなで韓国料理屋に行き、ビールを飲みながら(ポールさんはとにかく冷えたビールが好きなのだ)積もる話を聞いた。

まずは、今回のビザが延長されなかった件について。ポールさんは、この旅の目的はゴールすることではないと言う。

ホテルで取材を受けるポールさん。地図を開いて歩いてきた場所を説明。

すでに330日近く歩いてきて、たくさんの人に会ってきたこと、環境保護のメッセージを伝え、木を植えてきたこと…そこで見たこと、聞いたことが大切なんだと。むしろ、「(ビザを)停められたおかげで、逆にニュースが世界に広まった(笑)」。実際、この翌日から香港、中国、日本、イギリス各国の新聞やラジオ、フリーペーパーなど取材が殺到し、僕らもいくつかのインタビューに同席させてもらったのだが、国外に出る前日には、どういうわけか(政府管轄のはずの)国営放送からも取材を受けた。

「Green Olympic」を掲げ、環境イメージをハリボテ的に作って来た政府にとっては、実際に中国を足で歩いて見て来た彼に「本当のこと」を話されるのは都合が悪かったのかもしれない。あるいは、単にビザの発給ミスだったのかもしれない。どちらにせよ、ビザ問題によって、逆にポールのメッセージが広まったのは皮肉だ。

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Is Green Olympic Fake?


「偽りの緑色五輪?」いうのは、産経新聞が掲げた見出しだ。ポールさんは「’退去命令’というのはニュースにするための意訳だけどね」と言いながら紹介してくれた。以下、記事を転載しておく。

「Is Green Olympic Fake? 
偽りの緑色五輪?中国、木を植える男に退去命令」

【北京=福島香織】北京五輪のテーマのひとつ「緑色五輪(エコ五輪)」を後押ししようと香港から北京まで約3300キロを木を植えながら歩き続けている英国の著名環境保護活動家、ポール・コールマンさん(53)に事実上の退去命令が出たことが3日、分かった。本来なら五輪開幕日の8日までに北京入りし、五輪記念の植樹をする予定だったが、6日までしか滞在許可が出なかった。理由は不明だが、著名環境保護活動家に対するビザ延長拒否をめぐり、中国の掲げる「緑色五輪」は偽りではないかとの批判も出ている。

上海を歩く

 コールマンさんは18年前から地球の環境改善のために生涯をささげると決心し、環境保護活動を続けてきた。これまで39カ国を歩き植樹し、活動の記録は「木を植える男 ポール・コールマン」(菊池木乃実著、角川書店)にまとめられ日本でも知られている。愛知万博のときは地球を愛する100人の1人に選ばれ招待されていた。

 今回、北京五輪が環境を重視していると聞いたコールマンさんは昨年9月22日から「グリーン・オリンピック・ウォーク」と銘打って香港から北京に向かって歩きながら植樹を行ってきた。「五輪を機に中国に環境保護のメッセージを広め、中国の環境改善への努力をサポートしたい」という気持ちからだった。活動は中国メディアにも好意的に取りあげられ、途中で出会う農民や大学生らの中にも賛同者が出て一部の道のりを一緒に歩く人もあった。

 しかし、ウォークの途中で目撃した農村の真っ黒な川や窒息しそうな農薬散布の実態などもインターネットを通じて発信。当局はこれらを五輪の妨げになるとみたようだ。ゴールの北京が近づくにつれ、当局から職務質問を何度も受けるようになり、その都度、「緑色五輪」支援の活動であることを説明してきたが、先日、天津でのビザ更新を拒否され、五輪開幕前の6日までに出国するよう命じられた。このため、グリーン・オリンピック・ウォークはゴールできず中止となった。
 コールマンさんは中国の環境汚染について「これまで巡ってきた39カ国の中で最悪。水質汚染や農薬に自分の体をさらしながら歩いているうちに、健康を害していると感じた」と率直に語る一方で、「中国はこれを改善する努力をしている。それを国際社会がどうサポートできるかを活動を通じて問いかけたかった」という。しかし、中国当局にはこうした善意は通じなかった。
 中国国内の環境保護NGO(非政府組織)も軒並み五輪期間の活動停止を命じられている。中国は北京五輪のために交通規制や工場操業の停止、人工降雨などの方法で大気汚染を軽減し、五輪施設運営には積極的にクリーンエネルギーを採用するなどして「緑色五輪」を強調しているが、その一方で、環境保護活動は封じ込められているのが実情だ。(8月3日18時47分配信 産経新聞)

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これだけ水が汚れている国には行ったことがない


市内はどこもかしこも、こんな風にガスってます

では、彼が歩いて見てきたリアルな中国は、どんなものだったんだろう? ポールさん一行が香港から歩いてきて中国に入った途端、思わず咳き込んだというほど、中国の大気汚染はやはり、ひどいものだったという。そして、それは北京に近づくほどひどくなり、山東省の北部から河北省にかけては特に公害がひどく、1時間歩いただけで頭痛がしてしまうほどだったとか。選手生命を大切にするためにオリンピック出場をボイコットしたマラソン選手がいたのも無理はない。実際、北京周辺の空気はほんとにガスっていた。何しろ風景を写真に撮ろうとしても、遠景が霞んで写らないのだ。

天津市周辺だけ緑色に着色された川

また、大気汚染よりも深刻な問題だと言うのが水の問題だ。「39カ国旅してきて、これだけ水が汚れている国は行ったことがない。」。中にはそのまま飲めるきれいな川もあったけど、それは330日のうちのほんの2日だけ。途中で見たという「緑の川」の映像を見せてもらう。「ある地点まで真っ黒に見えた川が、天津のオリンピック競技場の周囲だけ、こつ然と緑に変わっているんだ。もちろん、着色以外の何ものでもない(笑)。」カメラを前に、マイケル・ムーアのようにユーモラスに語る。

工場からの有害な排気による大気汚染、強烈な農薬散布、汚染された川…

そんな風景を歩いてきた彼は、元々はベジタリアンではなかったのに、途中からこの国で肉を食べるのをやめていた。

もちろん、すべてが悪いのではない。見せてくれた写真の中には美しい蝶が舞い、野性の花が咲く自然もあったし、「対応が悪かったのは、北京に近づいたこの数週間だけ、それまでに会った人々は大抵、とても親切だった。」逆にいえば、最後の数週間で中国のいい面と悪い面の両方が一気に見えたという。中国の開かれた面と、閉じた面と。

「政府は、人々の無知や恐れをうまく利用している。」「中国にいるほとんどの人は、環境のことを何も知らされていない。こんな状態での暮らしが続けば、きっといつか体に悪影響が出て来てしまうに違いない。地球はどんどん汚れて、やがて生きられなくなってしまう。」
だからこそ、本当の意味での環境政策が必要なのだ。中国の旅の後、ポールはメディアや講演を通して、「食の安全性を確保するために、全ての国が自給率を上げ、持続可能な社会を作る必要がある。そうすれば、中国からの食品の安全性を心配する必要もなくなる」と強く訴えている。

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中国が変われば、世界は変わる。


オリンピックの開催に向けて、中国政府は様々な急場しのぎの施策を行ってきた。発電所や工場の期間中の操業停止、郊外移転、自動車規制(日を決めて偶数/奇数のナンバーの車しか走れない)、スラムやゴミ捨て場などを壁で隠したり、露店や出稼ぎ労働者たちの強制退去させたり……問題を根本から改善するのではなく、表面的にとり繕うそんな政府のやり方をポールさんは「詐欺」のようなものだと言う。「Green Wash」という言葉も聞いた。とってつけたように緑を増やせば、たしかに期間中は良くは見える。問題は、オリンピックが終わってから、また元に戻ってしまうことだ。

そもそも、ポールさんはなぜ中国を歩くことにしたのか?「Green Olympic Walk」と銘打たれているのは、2年前に「アースデイ・フレンドシップ・ウォーク」で北京を歩いた時に北京オリンピック委員会から「Green Olympic」の実現を助けてほしいと依頼を受けたからだが、旅の計画と実行は全てポール自身が行った。彼は、中国がこれからの地球にとって、世界にとって、重要な意味をもつという。「中国が変われば、世界は変わる。今、中国は世界にマッシブチェンジを与えるインパクトをもっている。アメリカじゃない、今は中国なんだ。たとえば、中国で一斉にソーラーパネルをつくったら、価格が下がって世界中の人が買えるようになる。そうすれば、世界は変わるだろう?」中国が変わること、一人一人が変えていくことで世界は変わる。そのために、彼は約1年間、中国を歩いたのだ。

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MY SOURCE


ポールさんがこれまでに影響を受けてきたモノ・ヒト・コト

地球の美しさ

インスピレーションの源。今まで歩き続けて来れたのは、地球の大自然の美しさからエネルギーをもらい続けてきたおかげ

アマゾンの熱帯雨林

子供のころからアマゾン探検に行くのが夢で、アマゾンの熱帯雨林が破壊されていることが地球のために何かしたいと思うきっかけとなった

アイスランドでの自転車一人旅行

この場所で人生が劇的に変化。地球のために人生を捧げることを決意した

父親

17歳の時、イギリスの商船で働いてみないかと薦めてくれたのが父親。それがきっかけで世界を回ることになった

ビートルズ

革命的かつ、平和のメッセージを伝えている


1954年、イギリス生まれ。1990年以来、世界中を歩いて木を植えることを通じて平和と環境へのメッセージを伝えてきたアースウォーカー。これまで39カ国、4万7千キロ以上歩き、1130万本以上の植樹をしてきた(協力者分も含む)。2004年には、Global Peoples Assemblyという団体から、「Heart of Humanity Award」 を受賞する他、愛知万博のときは「地球を愛する100人の1人」に選ばれ招待されていた。2008年、Supreme Master Ching Hai International Associationより、「Shining World Leadership Award」を受賞。現在、国連ピース・メッセンジャー・イニシアチブ「Culture of Peace」大使。20世紀に戦争で亡くなった1億人のために、1億本の木を植えていこうとしている。

アースウォーカーホームページ
http://www.earthwalker.com/

Yahoo!JAPAN オフィシャルブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/earthdaywalk

インタビュー・構成:近藤ヒデノリ(TS編集長)
日時:2008年8月4〜6日
写真:ポール・コールマンさんより

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