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小山泰介 (写真家) 後半


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FUTURE SOURCE


今注目している5つの人orモノorコトとその理由

BLIND SPOT

海外の写真雑誌の中でも特に「BLIND SPOT」は、新しい写真への視点も素晴らしくて、毎回とても格好いいです。他にも、「foam」、「 the journal」、「capricious」などが好きです。

ROE ETHRIDGE

好きな写真家です。写真集もとても良くて、今年東京で開催されるらしい個展(現在RAT HOLE GALLERYで開催中)が楽しみです。

個展へ向けた制作

4月下旬からG/P galleryとNADiff Galleryで個展をするので、作業を始めたところです。写真集「entropix」を中心に、新作を混ぜた構成になると思います。

東京オリンピック

もし開催されることになったら東京は建築ラッシュになるでしょうし、開催されなかったら、広大な空き地は何に使うのか、どちらにせよ興味があります。

東京

ずっと東京で暮らしているのですが、東京ってなんだろうと考えています。「東京の感じ」という言葉をよく耳にしますが、モニュメンタルな建築や景色などの「東京らしさ」を超える、あるいはすり抜ける「東京のイメージ」とはなんだろう、などと、ぼんやり考えています。


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見るということの複数性


Untitled (Water Tank)


近藤:ロー・エスリッジ(Roe Ethridge/NY在住の写真家)って僕もNYで時々見て気になっていたんですが、掴みどころのない作家というか、スタイルも変わるし、分かりやすい作家ではないですよね。どの辺に惹かれるんですか?

小山:アメリカということとか、イメージ産業と写真との関係とかを考えて撮っていると思うんですけど、ぎりぎりなものを撮っているんですよね。「ちょっとダサイんじゃないの」みたいなものも彼が撮るとかっこいい。昔のハリウッドっぽいスタイルで肖像写真を撮っていたり、写真の上に別の写真を置いて撮った写真があったり、写真集の中にまったく同じ写真が2枚使われてたりするんですよ。普通はありえないじゃないですか(笑)、もうびっくりして。

近藤:今の話を聞いて思い出したんですが、ロニー・ホ−ン(Roni Horn/アイスランドとNYに住みながら写真や彫刻作品を制作するアーティスト)という作家もまったく同じ彫刻を同じ空間に展示する(「Asphere」)作品があるんですよ。同じものでも1回目に見るのと、一度見た物を見るのでは体験として違う、という。彼女の写真作品にも、同じ女性の写真を並べて張り出した作品(「You are the weather」) などもありますよね。

Untitled (Numerous Shadow)


小山:それもイメージを見ることや、写真そのものの複数性ということに関係してると思うんですよね。「1つの内容に1枚の写真」ということだけではないと思うんです。僕の写真も最近撮っているものには前後の写真があったり、バージョンがあったりします。

近藤:それって、バッハやミニマルミュージックでの「変奏」のように、ちょっとずつ変わっていく気持ちよさも関係してますよね。

小山:そうですね、ティルマンスもすでにやっていますが、僕はまだ撮ってはいるけど自分の中で消化して作品として出すには至ってない。ただ、ブレッソン*の「決定的瞬間」みたいな写真のあり方よりも、そうした意味の複数性とか、(写真の)複製性とか、理解レベルの多重なあり方にリアリティーを感じます。

近藤:僕もそういう部分に惹かれますね。アニメに代表されるようなフラットで奥行きがないものがもてはやされたり、アイコンなどの記号にしても対応する意味が一つしかなかったりする中で、現実というのはその真逆なわけですよね。そういう意味で、より現実に近い深みのあるものや、手触り感、有機的なもの、アナログのものに惹かれるんですよね。

小山:そうですね。なんか瞬時に理解できるものに興味がなくなっていくというか……瞬時に理解できるものって、瞬時に理解できるように作られているものなんですよね。世の中も今、「この物語はこうでした」ということが全てではないということが、どんどん暴露されている時代ですよね。だから、「いろんな視点がある」ということにリアリティーを感じるんですね。「自分が納得出来ない、わからない部分もあるんだ」ということを受け入れるようになった。ロー・エスリッジに惹かれるのも同じ部分かもしれないですね。そんなに快感度の高い写真ではないと思うんですが、どこにも立ち位置がない感じが気持ちいいというか。

*Henri Cartier-Bresson/20世紀を代表するフランスの写真家。有名な写真集に『決定的瞬間』がある

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見えた感じはするけど、本当に見たのかわからない


Untitled (Brown Haze)

近藤:「どこにも立ち位置がない」感じについて、もう少し聞かせてもらえますか?

小山:ロー・エスリッジの写真って彼自身の生活と切り離された次元に作品があるように見えるし、本人が撮っているのかどうかさえ分からないような感じもして。写真の見方がツタのように複雑に絡まりあっていて、見ていて着地点がないというか、落ち着く場所がない感じがして、そこがとても面白いと思っています。そこはすごく自分の写真にとっても大事で、僕が撮っているかどうかはあまり関係ないと思っていて……

近藤:それは本城直季さんも言ってましたが、彼に限らず僕がTSで会ってきた作家たちに共通する感覚ですね。普通、作家というと「自分の世界を出す」という感覚だと思われるけど、逆に「自分が作っているか」はどうでもいいという。

小山:自分で自分の物語を語ったりすることに白けるんですよね。作品が持っている世界は大事だけど、それを撮っている「自分の世界」が重要なわけではないと思っています。自分が撮っていても、自分とイコールではない表現物を作り出せている方が気持ちいい。

近藤:以前のインタビューで「自分の作品から意味や物語を極力排除したい」と言っていた感覚は今の話とつながっていますか?

Untitled (Marble Jersey)

小山:そうですね。作品の意味や物語に納得してしまうと、自分がそれに対して何度も感動できないと思うんですよね、最終的には残らないというか。写真は、いくら言葉で説明しても、そこから逃れていく何かが存在している気持ちよさがあるので、写真で何かを物語ろうとすることはやめようと思ったんですね。
それが、僕が最近よく使っている高速スライドショーにつながっているんですね。0.1秒に1枚という、人がギリギリ認識できるスピードで写真がプロジェクションされるので、「見えた感じはするけど、しっかり見たとは言い切れない」という不安定な感じがある。それが写真の本質的な部分に近いんじゃないかと思っているんです。

個展「Boundary X」では高速スライドショーをセンターに置いて、そのまわりにプリントを展示したんですけど、 スライドの反射光が唯一の光源なので展示してあるプリントはよく見えない。スライドはとても明るいけど高速なのでこちらもよく見えない。何を撮ったかということよりも、「写真を見る」という不安定さを追体験するためのインスタレーションだったと思います。4月の展示では新バージョンの高速スライドショーをNADiff Galleryで3日間だけ上映する予定です。

*高速スライドショー:数年前からプリント作品と同時に展示している映像作品。一秒間に10枚という速度で写真がプロジェクションされる。2008年の個展「Boundary X」で大きく展示し、その後パリフォトでも上映し好評を得た。

「Boundary X」の展示風景はこちら↓
http://www.tiskkym.com/blog/03solo_show/

4

音楽とのコラボレーション?


Untitled (Red Vender)


近藤:以前に雑誌の企画で小山田圭吾さんに会っているんですよね。その時のことで印象に残ったことなどありますか?

小山:「あんまり複雑なことをしているように見えなくて、自分のセンスで切り取っている、手数の少ない感じが気持ちいい」と言っていただけましたね。小山田さんは自分の音楽はシンプルに聴こえるけど、実はいろんなことをやっていると。

近藤:コーネリアスのPVに音が一音一音、ミルクの水滴に反応している映像があるんですけど、小山さんの写真一枚一枚に、音がすべて対応しているようなのってできたら面白そうな気がするんですよね。

小山:それはすごいですよね、自分でも見てみたいです。今はひたすら高速で見せるインスタレーションで、それも追求はしたいですが、もうちょっと編集されたものもいいなと思っているので。基本は、始まりと終わりがあるよりもエンドレスに続いていて、理解しえないものが常に残ってしまうというのが好きですけど、音と合わせるとか、いろんな人とコラボレーションするとかはすごく興味あります。そういうのをソナー*とかで発表できたら最高ですよね。やっぱり普通の写真の展示では行けない場所に行けたらいいなとは思います。

* ソナー:スペインで毎年行われる世界最大規模の先鋭音楽&マルチメディア・アートの祭典

5

TOKYOって、どんな都市なのか?


Untitled (Cure)

近藤:東京オリンピックについては賛否両論言われてますが、僕は去年の夏に北京オリンピックに行ってきたんですね。でも、「グリーンオリンピック」とか言われてたわりに、別に特に新しいものがなくて、会いに行ったポール・コールマン(TS043)という環境活動家が追い出されたりもしてがっかりしたりしたんです。だから、もし東京でオリンピックをやるとして、自然と共生する新しい未来の都市モデルを作れて、世界に発信できるようだったら、それは楽しみだなと思うんですよね。

小山:そうですね。渋谷も今、すごい建築ラッシュというか、大きな意味での新陳代謝が起っていると思うんですけど、それが東京で大規模に起こるかもしれないので、何かコミットメントしたいなとは思いますね。

近藤:僕らもTOKYO SOURCEという名前でやっているわけですが、小山さんが今思う「東京」って何だと思います?抽象的な質問ですが…。

小山:それが自分でも答えが出なくて……基本的には東京の写真をたくさん撮っているんですが、例えば仕事などで「小山さんが思う東京の写真を」と言われても、どういう写真なんだろうと。たとえば、これは新宿で撮った写真ですけど……それは見ただけでは伝わらないじゃないですか。では、東京タワーが写っていれば東京っぽいかと言うと、そうではない、そこには写ってないものもいっぱいあるわけですし。

近藤:本当はこの問い自体にはっきりとした答えはないと思いますけど、あえて言ってみると、今の東京って何なんでしょうね?

Untitled (Break, Continuation and Reflection)

小山:……今のところ、「これです」とはっきり言えることはないです。でも、パリで写真を見てもらった時に「これは何の写真だ?」と言われて「東京の街を歩いて撮ったものです」と言うと、すごく理解度が深まって伝わるんですね。それは写真の中に東京というイメージがあるというよりは、東京という言葉が持っている強さが先にあると思うんですよね。

近藤:僕が今、聞いていて「東京っぽさ」って、良く言われることかもしれませんが、「新陳代謝の激しさ」なんじゃないかという気がしたんですね。これだけ新陳代謝が激しい生き物のような都市って、世界中を見てもあんまりないんじゃないかと。たとえば、シンガポールや北京は成長し過ぎたモヤシみたいな気がするし、パリやイタリアなどは熟成した味噌みたい(笑)。でも、東京はテクノロジーも自然も、神社も仏閣もごちゃ混ぜになって破壊的な勢いで新陳代謝を続けている、今は少し休んでいる時かもしれませんが(笑)。小山さんはそんな都市の表面を撮っている感じがするんですよね。

小山:それはすごくうれしいですね。ただ、「新陳代謝を撮っているんです」と言っても、例えば工事中の建物を撮っている方が東京の風景や場所の感じも出るだろうし、単純に伝わりやすいかもしれない。でも、そういう単純性には向かいたくない。そんな簡単なことではないと思っています。

近藤:ちなみにオノヨーコの初期のビデオ作品で、工事中のビルが建っていくさまを定点観測した写真をつないで「勃起(Erection)」というタイトルをつけたものがあるんですよ(笑)。

小山:それは面白いですね(笑)。

6

個展について


近藤:最後に、今度始まる個展について少し聞かせてもらえますか?

小山:まだ写真集「entropix」のオリジナルプリントをちゃんと見てもらう展示をしていないので、基本は「entropix」を中心として、そこに加える新作や、 先ほどの「複数性」のようなテーマを入れるかどうかを考えているところで、撮ったままにしていた写真を久しぶりに見ているところです。

近藤:撮影してから、一度間を置くんですか?

小山:撮ってから放置しておいて、できるだけ撮った時の記憶をなくしておくんですね。それから改めてフラットに見て判断しますね。撮って気持ちいいよりも、何度見ても気持ちいいものがいいので。

近藤:撮る人と、見る人が1人の中に同居してる感じなんですね。では、個展、楽しみにしてます! 今日はありがとうございました。


entropix, 小山 泰介

http://www.amazon.co.jp/entropix-小山-...

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interview by:

近藤ヒデノリ Hidenori Kondo
クリエイティブディレクター、CMプランナー
TOKYO SOURCE編集長、季刊誌「広告」編集委員

1971年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。東京写真専門学校中退。博報堂に入社後、休職してNY大学/ICP修士課程で写真と現代アートを学び、9.11直前に帰国。同社に復職後は、TVCMやウェブなどの広告を制作しながら、個人としても個展・グループ展、展覧会キュレーション、書籍の編集など手法を選ばず表現活動を続けている。ラクダ似な旅好き。(photo: Suguru Takeuchi)
ブログ「TRAVEL HETEROPIA」http://d.hatena.ne.jp/camelkondo/

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TAISUKE KOYAMA
1978年、東京生まれ。刻々と変化していく都市を生物や自然と同じような有機体としてとらえ、都市の新陳代謝のような人工物の表面や状態、現象の細部を撮影し、有機的で抽象度の高い写真作品を制作している。東京在住。
http://www.tiskkym.com/

インタビュー:近藤ヒデノリ(TS編集長)
日時:2008年12月27日
場所:渋谷、宇田川カフェ

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