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猪子寿之 (チームラボ株式会社代表取締役社長) 後半


日仏交流150周年記念「感性kansei Japan Design Exhibition(日本のデザイン展)」(フランス・パリ、ルーブル宮・国立装飾美術館)にて、会場メインホール空間をチームラボがプロデュース。

1

人間の主観には共通性があるんじゃないか


米田:というわけで、チームラボに来るのも3回目になってしまったんですが(笑)、今日はね、ちゃんと会社のお話を訊きたいと思っています。お願いしますね!

猪子:はいはい! 会社の話をしましょう! 何でも話しますよ~。

米田:(笑)。では、企業のWebサイトのプロデュースやソリューションの仕事から教えてもらえますか。

猪子:情報が爆発的に増える中で、いかに1人1人の価値観に合わせて情報を扱うか。その答えとして作ったのが、「サグール」という検索エンジンです。Googleは「ページ・ランク」っていうアルゴリズムを使っているんですが、「サグール」は「オモロイ順」で出てくるんです。

オモロ検索エンジン「サグール」

米田:ん? オモロイ順?……。ちなみにGoogleのページ・ランクっていうのはどういうことなんですか?

猪子:リンクをたくさん張られていると、比較的価値が高かったりとか、価値が高いものにリンクされている方が価値が高くなったりっていう、そういうランキングのことですね。

米田:じゃあ、「サグール」の場合は?

猪子:それが、「オモロイ順」なんですよ。でも、そう言うと、「オモロイの定義って何ですか?」とか「オモロイの数値化はどうやっているんですか?」っていつも訊かれる…。オモロイって主観的なものだから、それを客観的なものに変えないといけないって言われるんです。

米田:ふむふむ。

猪子:でもね、僕は客観的なものしか扱っちゃいけないって常識は、西洋教育の考え方に影響を受けすぎているような気がする。主観的とされるものを客観的に直さないままに認識して、技術とかサイエンスとして扱えた方が伝わるんじゃないかって思ってる。

米田:でもね、その主観ってのは、僕の主観のランキングなら分かるんですが、誰の主観が表示されるの??

猪子:そのキーワードに興味がある人たちの主観だね。主観にも共通性があるんですよ。
それをテクノロジーで再現できるかもしれないから、作ってみたっていう。

主観という切り口で作った仕事は他にもあるんだけど、例えば、この『花紅』は、ホントはディスプレイ5画面で映す作品で、水墨画をモチーフにしています。

SUIBOKU SPACE ~花紅(HANA HA KURENAI)~ from TEAMLAB on Vimeo.

米田:おおー! 「鳥獣戯画」みたいですね。

猪子:で、水墨画って描き手が「エイヤー!」って筆で描くわけじゃないですか? でも、この映像って、水墨画の「エイヤー!」みたいな感じが映るように三次元のオブジェを作ってから、それをカメラ回して撮ってるだけなんですよね。

水墨画って、まるで主体的な人間の個性で描かれたみたいに思われているけど、実は、当時の人の眼には普通にそういう風に映ってたんじゃないかって…。だから、「エイヤー!」みたいなものを再構築できるんじゃないかって思ったわけ。

米田:『花と屍』という作品も同様のコンセプトで、一見、平面的な大和画なのに、実は立体的な構造になっていて、360度どこから見ても絵画のようになっていますね。

hanatoshikabane from TEAMLAB on Vimeo.

猪子:そう、あっちの方が、もっと「エイヤー!」ですね。どっから見ても、どこでカメラを止めても、「エイヤー!」って人が描いたみたいになっている。

米田:当時の人がこういう風に描いたには理由があると?

猪子:理由があるというより、こういう風にある程度見えていたんじゃないかって。それが必然なんじゃないかなと思ってる。だから、水墨画の主観的と言われている世界も、実は万人にとっての共通性があってテクノロジーで再構築できるんじゃないかっていう部分は、「サグール」を作った動機と一緒なんですよ。

遠近法という概念がなかった明治以前の日本人の空間認識がどういうものだっただろう?っていう部分にこだわっている。昔の日本人の平面的な絵って、ある共通性を持った空間認識だったんじゃないかって思っているんです。

米田:ところで、こういう映像は何人くらいで作るんですか?

猪子:うーん、3人くらいかな。

米田:その中で猪子さんはどういう役割をしているの?

猪子:この作品だと、コンセプトと物語のプロットと…ま、行ったり来たりですね。色とかはチーム内で細かいやり取りをして作っていく感じですか。

米田:なるほど。こういった映像作品はソフト自体を売るというより、どこかに出展することが目的に作られるんですか?

猪子:だいたいそうですね。自分たちがやりたいことの中から依頼に合うものを作っていくっていう感じですかね。

2

書の「深さ」を時間軸も入れた4次元で表現する


SUIBOKU SPACE ~然(ZEN)~ from TEAMLAB on Vimeo.

猪子:水墨空間『然(ぜん)』(「2008年 アジアデジタルアート大賞展」、「福岡県知事賞」受賞)という映像作品は、書を空間で再構築しようと思って作りました。

米田:今度は、書を360度の空間でとらえてるんですね。

猪子:昔は紙と筆しかなかったから、平面の表現になってるだけで、今の時代のメディアに合わせて、書というものを再構築したらこうなるんじゃないかと思って。だって、顔絵師とか浮世絵師とかだって、昔はカメラがないから筆で世界を描いていただけで、今のカメラマンと変わらないじゃないですか。

米田:いやーすごい。こんなの初めて観ましたよ(笑)。

猪子:次に見せるのは、NHK教育の番組『美の壷』のオープニングなんですが、これは、さっきの技術を応用したものです。これは完全に仕事ですね。

米田:さらっと流れてますけど、ものすごい技術ですね。

猪子:「美の壷」っていう文字だけが始めから書いてあって固定されていて、筆の動きをカメラが360度で追っているんだけど、ここまでカメラがぐるぐる回ると目はついていけないですね(笑)。

これで何をしたかったかっていうと、書を再構築しようとした時、コンピューターという新しいメディアで、書の“滲み”や“書の中”まで動かしてみたんですよ。

西洋は美術は美術、文学は文学に分かれていると思うんですよ。でも、日本って美術と文学が切り分けてないんじゃないかって思う。明治以前の日本って純粋な美術っていうよりは、絵巻が代表的だけど、あれって文学か美術か分かんないじゃないですか?

書もそうだと思うんですよ。書って美術だけど、誰が、どういう状況で、何を、書いたかっていうことにすごい意味があるわけ。例えば、あの弘法大師が、あの状況で、筆を振って描いた点だから意味があるわけでしょ?
でも、小説というものは、内容に価値があるわけで、表面的なものが全く意味がないから、活字でも印刷でもいいわけじゃないですか。

美の壺(binotsubo) from TEAMLAB on Vimeo.

米田:ビジュアルは関係ないですからね。

猪子:そう。でも、書はビジュアルが超大切なわけで、要は…何かこう……気持ちみたいなものを、墨跡の“深さ”とかで表そうとしてたんじゃないかと。
“速さ”とか“力強さ”、“力弱さ”とかで、気持ちを伝えたたかったわけで…だから、僕は、「あ、だから筆で描くんだ!」って思ったんですよね。

米田:書には、確かに動的な要素がありますね

猪子:最終的に紙では太くなったり細くなったりしますけど、あれは、深さとか力強さとかだと思うんですよ。だから、空間で、もう1回それらを表現したかったというわけです。当時の人って初めから3次元…いや4次元で表現してたってことなんですよ。

NHK教育『観賞マニュアル 美の壷』

米田:タイムラインがある……

猪子:そうそう、時間軸があるの。筆の速い遅いっていうのがあって、そこに意味を込めるわけじゃないですか? 例えば、「ありがとう」って筆で書いてお渡しした時に、自信満々に「ありがとう!」って言うのか、寂しそうに「ありがとう…」って言うのか、その微妙な気持ちの差みたいなものを、筆の速さとか力強さとかで表現してただろうから…。
初めから時間軸と空間的な表現を、紙と筆というメディアでしてたわけですよね。

米田:いや、ホントすごい! ようやく分かってきましたよ~。

猪子:ちゃんと伝わってるかどうか分からないけど…。だから、でも、自分の中ではぐちゃぐちゃしてるんです。それに、作り終わったら、何考えてたか、ほとんど忘れちゃうんですよね(笑)。

3

インターフェイス自体をコンテンツにする


actface PLAY (interface design) from TEAMLAB on Vimeo.

「au design project actface Rhythm」

猪子:「au design project」のケータイプロトモデルとして製作した「PLAY」と「Rhythm」は、インターフェイスの概念を変えることを考えて作ったんです。
ITの世界だと合理的であること、デザイン業界だと合理性を減らしても見た目がオシャレであることが良いデザインのインターフェイスとされているんだけど、この「PLAY」と「Rhythm」という2つのケータイは、電話をかけたり、メールをしたりといったケータイを使うという行為自体に別の価値を与えることによって、インターフェイス自体がコンテンツになる、みたいなところを狙ったんです。

米田:「PLAY」は使っているうちに、インターフェイス3面の街並みが変わっていくんですね。仕事関係の人とばかり電話してるとオフィス街になって。でも、恋人からメールが来ると街中がハートマークに溢れたり(笑)。

猪子:、わざわざ二つ折にしなくてもよかったんだけど、ケータイと言えば、みんな二つ折が好きだから(笑)。「PLAY」は、打つこと自体がオモロイってなれば、それも新しい価値が出るし。
「Rhythm」は、携帯を使うこと自体がリズムを打っているということにすれば別の価値が生まれるわけ。

米田:「Rhythm」はケータイ使ってVJやってるみたいな感じですね。

猪子:インターフェイス自体をよりコンテンツ化するという考え方をさらに進めたのが、「SKETCH PISTON」。これは企業のホームページなんですけど、ユーザーが自由に落書きができるんです。

米田:このサイト見に来た人は落書きばっかりしちゃって、仕事になんないですね(笑)。「インターフェイス自体をコンテンツ化する」というのは、ゲームする気がなくてもついゲームしちゃうみたいな感じ?

猪子:いや、「au design project」はそうだったんだけど、これは、コンテンツなのかインターフェイスなのか分かんない、みたいな、そんなインターフェイスを作ってみようって思ったんです。

小さい頃って絵を描くのはみんな好きだったと思うんだけど、大人になるうちに好きじゃなくなる。その理由って下手だからだと思うんですよ。自分でも思ったより描けないみたいな。でも、誰が書いても可愛くて、落書きするのが楽しいみたいな、そんな仕組みを作ろうと思ったんですよね。

タナカカツキとコラボした「SKECTH PISTON2」


この続編として、「SKETCH PISTON2」はタナカカツキ(漫画家、映像作家)さんと作ったんですよ。

米田:外国人のBBQ風景がめちゃくちゃになってる!(笑)。

猪子:あと、「SKETCH PISTON3」は、日テレ様のキャンペーンのブログパーツとしてややりました。「日テレダベア」っていうクマのキャラクターがひどい目に遭うという(笑)。

4

現代日本のストリート感


米田:では、引きこもりの女の子を展示した作品「TOKYO GIRL」を作ったきっかけは? これは、2007年のミラノサローネ(イタリア・ミラノで毎年開催される国際家具展示見本市)に出展したんですよね。

猪子:あれは、ミラノサローネに水墨画の映像作品で呼んでもらって、デザインイベントんの「Tokyo Design Premio - DESIGNER'S WEEK in MILANO」っていう、簡単に言うとミラノサローネの東京館みたいなところにも出展することになって。で、隈研吾さんも作品を出してたんだけど、隈さんの建物なんて、俺は東京で観たことないなって。

米田:あははは。

猪子:じゃあ、自分が東京を表現するなら、今東京で一番ポップなのを持っていこうって。そこで思ったのが、「引きこもりかな」と。引きこもりの女の子を彼女の部屋で写真を撮ってシールにして、本人をミラノまで連れていっただけなんですけどね。

米田:じゃあ、この写真は彼女の部屋で撮ったんですね。

『TOKYO GIRL』より

猪子:そう。なんか、一番ストリートだなって思って…。90年代後半が裏原宿で、2000年代前半が秋葉原で、2000年後半は街じゃなくて、引きこもりの部屋だなって(笑)。

米田:ちなみにモデルの彼女はどこで見つけたんですか?

猪子:東京。

米田:ナンパ?(笑)。

猪子:東京(笑)。

米田:(笑)。面白いのは、彼女は部屋の中だとおしゃれに気を遣うのに、成田空港の待ち合わせ場所には真っピンクのパジャマ姿で現れたそうですね。要は部屋には鏡があるから自分の外見に気を遣うけど、それ以外の場所だとどうでもいいという(笑)。自分の主観が全てで他人はどうでもいいという。

猪子:たぶん、引きこもりって“現象”なんですよね。ある程度、社会が豊かで安定してて、ネットもつながっていて、外に出る必然がなくなってきた。そして、社会的な階層構造の中で、上に上がっていこう、みたいなモチベーションが薄くなったりとかそういう理由で、ファッションが外部への自己主張という意味から、自分が自分を見るためのものに変わってきている部分がある。

それってすごく東京っぽいなって。それに、現地に作品を持っていって置くのはいろいろと大変じゃないですか。でも、人を置くなら、連れていけばいいだけだから。怒られないグラフィティみたいな(笑)。

米田:この作品も「日本」がテーマなんですね。やっぱり猪子さんはやっぱり、日本に興味があるんですね。

猪子:そうですね……、結構、新旧問わず日本のストリートに興味があるのかな。

米田:西洋文明が入る前の明治以前の日本とか、その頃の日本人が見ていたものとかに興味があるんですね。

猪子:でも、今のストリートの子たちも西洋教育に侵されていないからある意味“西洋文明以前”なんですよ。明治以降の、インテリ文化じゃない、マンガやゲーム、ストリートのものとか、今だと『子悪魔ageha』(インフォレスト株式会社が出版するギャル系ファッション&ヘアメイク誌)とか、ああいうものがヤバくて面白いと思う。

米田:分かります、すごく極端な「日本」ですね。

猪子:いや、あれは極端じゃなくてある意味メジャーとかいうか、自然な日本じゃないかと思う。メディアで流通するのは、ある種、特殊な人たちだったり、インテリが情報を流しているので。

米田:そうか。インテリじゃないから、コンセプチュアルには考えないですもんね。

5

スペシャリティの違う人間がフラットなチームを組むために


「めもですく」

猪子:僕はチームがどうやって情報化された社会の中で、クリエイティビティを上げていくかっていうことに興味があるから、そのためのオフィス空間に興味があったんですよね。
ホワイトボードって好きじゃなくて……。あれは1人が書いて違う人たちが聞くみたいな感じじゃないですか。でもこの「めもですく」は、ディスカッションを通して考えて、ともに手を動かしてものを設計していけるように作ったんですよ。それが今からは重要になると思うから。

ホワイトボードって“前の時代の組織のもの”ですね。以前って、例えば、営業部だったら、部長が一番偉優秀で、みんなは優秀な人に習う。スキルセットは同じものを求められるみたいな。そんな感じじゃないですか。米田さんは以前、出版社にいたんですよね。そんな感じじゃなかったですか?

米田:確かにそうですね。全く好きじゃなかったけど(笑)。

猪子:領域が違うスペシャリティを持った人たちが、チームを作って対話を通して考え、ともに設計していくには、ホワイトボードってそれがすごくやりにくい。メンバーはスペシャリティが違うだけで、どっちが優秀とかじゃない。フラットであるべきだと思う。

米田:このデスク、紙も特注なんですよね。

猪子:こんなデカいサイズのメモ帳なんて無いからね(笑)。

「めもですく」

猪子:このデスクは一応売りものなんですけど、糊づけも手でやってる。紙が無くなると別売りで注文することになります(笑)。

それから、僕は感情ってとても大切だと思っていているんだけど、「理性によって感情をコントロールするのは素晴らしい」みたいなヘンな西洋思想があるじゃないですか? あれって絶対嘘だと思うんですよ。

米田:僕もそう思うなあ。感情を通すために理性を利用してるだけでしょ(笑)。

猪子:ですよね?(笑)。だって身体とか体感によって感情って簡単に変わるんですよね。例えば、見晴らしのいい山に登るとかお風呂に入るとかすれば、誰でも簡単に気分なんて変わるでしょ。
そういう主観の変化って、さっきの話と同じだけど、何か身体的な条件による共通性があると思っているんです。だから、理性ができることは、「自分がなりたい感情になれる身体性・体感みたいなものを選ぶ」ってことじゃないかって。

「はだいす」

この「はだいす」は一個一個、身体性が違っていて、素材が一個一個違うんです。硬くてツルツルとか、ふんわりして柔らかとかいろいろあるんですね。

米田:なるほど、理性じゃなくて、自分の身体に合う環境を選ぶことで感情をコントロールするということですね。とすると、このオフィス自体もそういう風にデザインされているということですか。

猪子:すごく意識してる。業務スペースだと色があまり入らないようにして、立った瞬間に黄色が目に飛び込んでくるように。

米田:ちなみに黄色はどういう効果が?

猪子:黄色は…気が散る感じ?

米田:なんじゃそりゃ(笑)。

猪子:黄色とか赤とかオレンジとかはコミュニケーションが活性化されるんですよ。mixiもオレンジでしょ。

米田:確かに。そういう色ばっかりだとコミュニケーションには効くけど、淡々とする業務には向いてないってことですね。ところで、あの可動式の棚に関してはどうですか? あれは自社製品なんですよね。

猪子:とにかく、空間が固定されることがすごくイヤなんですよ。でも、やっぱり棚は必要なんで、1つ1つブロックになっていて、皆が好きに移動したり組み合わせることができるようになってます。

米田:イスや棚といったプロダクトも社内の人が作っているんですね。

猪子:そうすね。うちには建築家もいるので。オフィスで働きながらユーザーとして使いながら作っていくみたいな感じですかね。ネットと一緒っすよ。ネットも使いながら作っていくじゃないですか。ユーザーが作り手でもあるという。空間もそうあればいいって、僕らは思っているんです。

6

“プラットフォーム”を作ることがこれからのデザイン


米田:あの棚のように、猪子さんにとって重要なのは、ユーザーにとって「可変である」ということなのかもしれないですね。そこで思ったんですが、出版物って一回刷ると、変えられないじゃないですか。でも、インターネットって変わっていくし、変えられるようにデザインされている。
今までのメディアの人って、ちょっと前までは、自分たちが長年作ってきたコンテンツが、そのままデジタル化してネットに移行していくんじゃないかって思っていたふしがあるけど、インターネットって、コンテンツじゃなくて、技術と発想によって、人が集まってくる“プラットフォーム”を作ることが重要なんですよね。

それは今までの一方向のマスメディアとは全く発想が違いますよね。もちろん、いい記事やいい映像、いいコンテンツは作れても、生態系やプラットフォームはなかなか作れない。

猪子:だから、“デザイン”という言葉の意味もいずれ変わると思う。今までの社会だと、100%、120%のクオリティで完成したものが“デザイン”なんです。だけど、ユーザーが好き勝手やっていいて、センスもない素人なのに、かっこいいものができる…

米田:つまり、クオリティが保たれている。

猪子:そう。だから、僕がすごいなって思うのは、プリクラとかなんですよ。あれって誰が撮っても結構可愛くないですか? 文字書いたり、絵描いても、どんなに下手な人でも結構可愛いものが出来上がる。
「SKETCH PISTON」もそうなんだけど、アウトプットのクオリティが保たれているから楽しいんですよ。
ユーザーが参加して完成するプラットフォーム、しかもどんなユーザーが参加してもある程度、表面的なデザインのクオリティが保たれていたり、自分ではできないけど、まるで上手くなったように思えるようなデザイン…そういう参加型で、さらに他のユーザーの興味を呼び込むようなデザインのコンテンツやプラットフォームを作っていくのが、デザイナーの仕事になっていくんじゃないかな。

米田:それって非常にインターネット的発想ですよね。

猪子:そうそう。

米田:今までは、デザイナーやディレクターや編集者とかが、神のように最初から全てを設計して提供して、購買者や鑑賞者が信者のようにそれを享受するっていうことだったけど、これからのコンテンツっていうのは、自分で好きなように変えながら楽しんで、しかもクオリティが保たれていて、それにより、周りの人が集まってくるようなものになっていくんじゃないかと。

猪子:でも、ユーザーに全部自由にさせてホントにぐちゃぐちゃなってしまうと、クオリティは下がるし、それって結局ユーザーにとってもよくないことなんですよね。だから、例えばレゴみたいに、組み合わせてもある程度可愛いみたいな、そういうものを作るべきですよね。

みんなが持ち帰って、みんなが好きなように組み合せられる。縦長でも横長でもいいし、でも適当に組み合わせても街になる、みたいな。大枠で言うとそうなると思う。でも、僕はデザインという狭い領域の話でもきっとそうなっていくと思いますね。

社内案内をしてもらって、進行中のプロジェクトなども見せてもらう。

米田:でも、実際はゲームでも必ず上手い人と下手な人が生まれるわけですよね。上手くないと楽しめないようなものがやっぱり多いし。猪子さんが言っているのはつまり、上手い下手が問題じゃなくなるってこと?

猪子:そう。でも、さっき言ったプリクラみたいに、最低限のクオリティを担保してあげた方が、本人が楽しいんですよ。

例えば、あるスポーツメーカーがストリートのキッズたちのブランドになりたいと考えているとする。そういう場合って、今までだと超プロの映像作家が、超プロの選手を撮って、超プロの完成された映像を作ってブランディングしていたわけ。
でも、これからは、キッズが撮影とか編集とかCGの技術がなくても、簡単に自分たちのプレイが撮影できて、ちょっと編集しただけで簡単にかっこよくなって、さらに、それを簡単に友達に見せられる。そして、それが結果的にブランディングになる。そんな感じですかね。

米田:それって今まで一部の人しか持っていなかった技術を解放していくようなイメージ?

猪子:そう。そのためのプラットフォームを作って、誰にでも使えるようなものにしていくということですね。だから、これからの映像のスペシャリストは、映像そのものじゃなくて、そのプラットフォームを作るために必要になってくる、ということです。

米田:今はちょうど過渡期にあると思うけど、それって本当にすごいことですよね。一部のクリエイターや一部の組織に属している人しか表現できなかったことを、一般のユーザーができるようになっていくという。
でも、僕らTSはWebマガジンが活動のメインであるし、やっぱり、質の高い媒体をユーザーが可変できる、そんなメディアが作れるのか?ということはずっと思ってきたんです。今からのメディアとかコンテンツクリエイティブにとって、猪子さんの言ってることってすごい重要な話だと思う。つまりは、コンテンツに“司祭”が要るかどうかって話です。

猪子:そう、司祭は必要なんだけど、その役割が違うってことですよね。デザインの話に戻すと、作りこまれて完成したもの、ユーザーの入り込む余地が全くないのって、僕は生理的に受け付けないんですよ。
でも、建築とか空間とかもそうだけど、本当はただの“道具”じゃないですか。だから、そういうプラットフォームを作るのがデザイナーであり、コンテンツの司祭の仕事になると思ってるんですよね。

7

チームラボ文化からヤバいものが生まれていったらいい


チームラボ

チームラボでヤバイものを作っていきたい。


米田:では、最後に今後のチームラボの進む道について。チームラボっていう名前はやっぱりみんなでやっていきたいからだと言ってましたが、これからどうなっていくと思います?

猪子:僕が興味があるところ以外のところで進んでいる部分もあるし、僕も影響を受けながら、僕も影響を与えながら、ぐちゃぐちゃしながら進んでいくんじゃないスかね。

米田:その方が楽しい?

猪子:うん。なんというか、ヤバイものとかユニークなものって、よく“個性”って言われるけど、比較的、個性よりも文化によってユニークなものが生まれるんじゃないかって。
チームラボ文化みたいなものがあって、そっから生まれてくるものがヤバかったらいいかな。上手く言えないけど…。

米田:猪子さんはチームラボでやることで、どうなっていくのか楽しみだったり、小さい自分を超えていくわけじゃない。だから、フューチャーソースはチームラボでいいわけですよね。

猪子:そうすね、やりたいことが分散しているので、自分でもわかんなくなっちゃうんです(笑)。

米田:でも、分散したいんでしょ?

猪子:いや、分散してるわけじゃないんですよ。アウトプットの方法がいろいろあるから分かりにくいってなっちゃうだけですね(苦笑)。

米田:でも、僕らの仕事って、見出しとか付けないといけないでしょ。Webだと長い文章ってなかなか読んでくれないので、「猪子寿之は●●だ!」みたいに分かりやすくするしかないんですよね。

猪子:(笑)。

米田:いやいや、3日という長いインタビュー、本当にありがとうございました。僕も興奮しました!!

         *     *     *

チームラボの『百年海図巻(ひゃくねんうみずかん)』が「コニカミノルガウラザ環境企画展」として、2009年12月10日(木)~21日(月)まで展示されます!
この作品、なんと、上映時間が100年という映像作品!!
WWF(世界自然保護基金)の「今世紀末までに地球の海面は最大120cm上昇する」という予測に基づいて、映像ないの海面も100年もの間、実寸で上昇していくという。
これまでのチームラボの映像作品同様、日本の古典絵画に見られる空間認識を探りながら構成された幅20mの映像を体感してみよう。

100 Years Sea(center screen) from TEAMLAB on Vimeo.

『百年海図巻』詳細はこちらから↓
http://konicaminolta.jp/plaza/schedule/2...

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interview by:

米田智彦 Tomohiko Yoneda
編集者、ディレクター、ライター
TOKYO SOURCE副編集長

1973年福岡生まれ。出版社、ITベンチャーを経て独立。出版、Web、広告などで活動。2010年に編集・出版した書籍は『混浴温泉世界 場所とアートの魔術性』(BEPPU PROJECT著、河出書房新社)、『USTREAM 世界を変えるネット生中継』(川井拓也著、ソフトバンククリエイティブ)、『USTREAMそらの的マニュアル』(インフォレスト刊)。また2010年上半期は坂本龍馬の人生を追った「日本を変えた男の素顔」を『週刊フライデー』にて連載。東京・高円寺で「トークセッション交縁路」を月1で開催。http://blog.livedoor.jp/ts_koenji/

ブログ1「It made a day.」 http://blogs.brash.jp/tomohiko_yoneda/
ブログ2「¥$PHIN(エンドルフィン)」http://d.hatena.ne.jp/tomosama/
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チームラボ株式会社代表取締役社長。1977年、徳島市出身。01年、東京大学工学部計数工学科卒業。同時にチームラボ創業。04年、東京大学大学院情報学環中退。大学では確率・統計モデル、大学院では自然言語処理とアートを研究。ニュースポータルiza(イザ!)(Web of the year 2006 新人賞、Web人 of the year 2006)、オモロ検索エンジン「sagool」、不動産物件検索ポータル「いえーい!」、オモロイ画像を優先的に表示する「SAGOOLTV」などのWebの企画開発や、検索エンジンやレコメンデーションエンジンなどの開発販売を行う他、アート活動として、水墨空間「花紅(ハナハクレナイ)」などで、海外などの展覧会に多数参加。また「au Design project」にて、2007年のコンセプトモデルとして、新しいインターフェイスの概念の携帯電話「actface」を発表し、「第11回文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品」に選ばれ、08年Web広告研究会主催の「第6回Webクリエーション・アウォード」で最終審査の10人に選ばれる。

取材日時:09.4.11、6.1、7.6
東京・本郷 チームラボ本社

インタビュー:米田智彦(TS副編集長)
人物写真:高木"NOJYO"俊幸
協力:チームラボ

リンク:チームラボ株式会社

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