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[Special対談] 芹沢高志 x 岡田聡 後半


1

世界に謎を!


芹沢:2002年に、帯広で初めて地域のプロジェクトを頼まれてディレクションをやったんですが、地域の人たちに説明しようとすると、はじめから「私、アートはわかりませんから」と言われちゃう。それで、自分の経験などを一生懸命お話しするんですが、そのうちに、「わからないですから」と言っているのが本当は、「面倒くさいから、これ以上コミットしませんよ」とシャッターを下ろすためなんだというのがわかってきたんです。
 当時から、若い子たちが「わかんなーい」というのは、「関係ない」というか「コミットしない」というサインみたいな感じでしたが、不思議なものとか、謎に対して好奇心をもって生きていくのでなければ、わかることだけの世界で生きているわけですよね。それを文字通り拡張して解釈するならば、自分がいくつの時にどういう人と結婚して、年収はいくらで、どういう家庭を作っていくか、すべてわかっていることしか選択しないということになってしまう。

岡田:自分の将来が全部わかっちゃったら、自殺したくなりますよね(笑)。先がわからないから面白いわけで。自分の話で恐縮ですけど、僕の「マジックルーム」(「NADiff A/P/A/R/T(ナディッフ・アパート)の4階の「alternative/Bar MAGIC ROOM??」」の後に「?」マークをつけているのは「世界に謎を」という意味なんですよ。世界に謎がなくなっているわけですから、謎をどんどん増やしていかなくてはいけないわけですよ(笑)。

芹沢:本当にそう思いますよ。それが結論っぽいですけど(笑)、自分が「混浴温泉世界」でやっていることも結局は、謎を作りにいっているようなものなんです。

岡田:昔はまだ、街中に「謎」がありましたよね。使われてない病院の廃墟があったり、変なおじさんがうろうろしてたり。子供たちはとりわけ謎を意識していたわけではないけれど、謎と共に育っていった。でも今の世界って、そういう謎をいかに無くしていくかみたいなことになってしまったために、世知辛く、つまらない世界になってしまった。そんな風に先が見えているんだったら、電源落とすみたいに死んじゃおう、という発想になってしまう若者が出て来たって不思議じゃない。だから、やっぱり物語と謎の必要性ですよね。

2

世界に開かれているということ


MAGIC ROOM??のカウンターにて(左から芹沢、岡田)。

岡田:今のゲーム世代というのは、バーチャルな世界とリアルな世界のどっちがその人にとってリアルなのかを疑ってかからないと安易に接せられないですよね。マジにゲームの中にしか自分のアイデンティティーを感じない人がいるし、むしろそういう人が今後もっと増えていく可能性もあるわけで。恋愛にしても、そういう人は「リアルな恋愛なんて思い通りになるわけはないし、自分たちの回りを見てもアイドルみたいな女の子なんていない。それだったらゲームの中の恋愛で満足だし、普通の女の子なんてつきあえませんよ」と真顔でいいますからね。こっちが正しいかどうかはわからないんだけども、そういう人たちも射程に入れて、文化を考えるとなると、なかなか難渋しますよね(笑)。

芹沢:リアルな世界が謎をどんどん排除して想像力を欠如させていく中で、子供たちはたぶん、直感的にそういうものの必要性を感じているんでしょうね。それを提供してくれるのはゲームだし、圧倒的に入りやすいので、そっちに行ってしまう。
 僕は地域計画の仕事をしていた頃、ある時点で未来を予測して、それに合わせて計画を立て、目標に着地させるために実際に作業をしていくということに、どんどん違和感を感じていきました。それは、ある種、「わかってしまう世界」を作っていくことなわけで。現実はいろんなものが複雑に関与して、未来はいつも揺れ動いているのに、そういう変動要因を全部無視するなり、力づくで押さえて計画的未来に対して驀進していくということへの反発や違和感が強くなって、以前の意味での計画を捨てようと思ったんです。
 そんな自分の経験から思うと、ゲームデザイナーの作りあげたゲーム内の世界というのも、一見どんなに細部に不思議なことが作られていても、結局はひとりのクリエイターが想像した世界なんですよね。

岡田:そうなんですよね、そのクリエーターのイマジネーションの外へは出られないんですよね。やっぱり「世界」に開かれてないんですよね。我々がコミュニケーション可能な空間が「社会」で、「世界」というのは聖も俗も、善も悪も含んだカオスですよね。「世界の中に本当に小さな存在として社会があるだけなんだから、社会の中での出来事なんて、お釈迦さんの手の内のほんのちっぽけなものなんだよと、世界の存在を多少でも示唆したり、気づかせてくれるのがアーティストの役割だったりする。でも、ゲームって、やっぱり社会の中のもので、世界に開かれてるゲームもあるのかもしれないけど、やっぱり箱の中でプログラミングによって出来ているものには限界があって、無限のカオスの「世界」とはやっぱりつながってないもの、という風にどうしても思えちゃうんですよね。そこが人が作ったゲームというものの限界なんじゃないかと。結局コミュニケーション可能な範囲ですからね。

3

身体性を含んだ経験の重要性


Peter Gabriel『EVE』

芹沢:以前にピーター・ガブリエルのリアルワールドスタジオが作った『EVE』という作品の日本版を出す時に手伝ったことがあったんです。それはCD-ROM形式のインタラクティブな世界で、イブが4つの物語の中を旅していくというものでした。

今もその作品はすばらしいと思うんですけど、帯広でも別府でも僕がやってきたのはそのゲームの部分を進化させる、というか、自分やオーディエンスがモニターの表面ではなく、実際にアーティストが変えてくれた現実空間の中を、身体ごと引きずって移動していく。いわば、イブの旅を自分が実際に経験していくような組み立てのものを作っていきたかったんだと思うんですね。個別のアートというよりは、展覧会という名を借りて、ある種の時空の形成に関与したかったのだと。

そうなると、個々のアーティストもディレクターも現実の世界に作品を内蔵させていくから、後はノーコントロール。何が起こるか本当のところはデザインの範疇を越えてしまう。実際、頭ではわかっていても、観客や自分もそこまで歩いて行く途中で予測のつかないことに出会ったりして、その経験をもって部屋に入ると、同じ作品を見ていても全然違う気持ちになったりする。そういう場所との関連性やアフォーダンスということも含めて、別府を終えて強く想うのは、アートではよく言われていることですけども、身体性のことです。

岡田: magical,ARTROOMと名付けたギャラリーを4年やってきて、何人かの将来を担う才能ある若いアーティストを産み出せたと思うし、アートの表も裏も見て来れてとても勉強になったと思っています。そこでそろそろまた原点にもどってコマーシャルな活動から離れ、今後はオルタナティブな活動を中心にやっていこうと考えているところです。そして最終的にはマジカルホテルといって、ホテルといっても単なる宿泊施設ではないんだけども、謎の場所を作ろうと思ってるんですよ(笑)。そこにはギャラリーや図書館もあれば、クラブなんかもある……。僕の妄想ですよ。チェルシーホテルと九龍城が交錯したような場所が、渋谷の丸山町あたりにできたらいいなと(笑)。 それをずっとレジデンスみたいに使ってる奴もいたり、そこで謎の展覧会をやる奴もいたり、変なもの売ってる奴がいたりね(笑)。

芹沢:僕も山出さんと別府でいくつかロードマップを描いているんだけど、ホテルを採用したいとは思っていて。

岡田:今の時代って悪い意味でスーパーフラットでね(笑)。それが一番効率的だからって、とんがった場所も全部削り取って、のっぺりとした社会を作ってきて、そしてその社会に適合するようにマニュアル化されやすく、入れ替え可能性を高くしやすくなるよう、人間を教育してきた。逆に言うと、そういう人間を作る為には、想像力は邪魔だったんでしょうね。もしかすると、物理的な危害は加えられなかったかもしれないけども、見えない弾圧によって知らず知らずに想像力を刈り取られ、飼いならされて動物化されてきたのが、今の時代なのかもしれない、なんて。そこからやっぱりレジスタンスとなって、また戦わなければいけない時が来たのかな(笑)。

ー終ー

MAGIC ROOM??にて対談を終えての集合写真。左から米田(TS)、岡田、芹沢、近藤(筆者)。

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構成:

近藤ヒデノリ Hidenori Kondo
クリエイティブディレクター、CMプランナー
TOKYO SOURCE編集長、季刊誌「広告」編集委員

1971年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。東京写真専門学校中退。博報堂に入社後、休職してNY大学芸術学部/ICP修士課程で写真と現代アートを学び、9.11直前に帰国。同社に復職後は、TVCMやウェブなどの広告を制作しながら、個人としても個展・グループ展、展覧会キュレーション、書籍の編集など手法を選ばず表現活動を続けている。ラクダ似な旅好き。(photo: Suguru Takeuchi)
ブログ「TRAVEL HETEROPIA」http://d.hatena.ne.jp/camelkondo/
Twitter@KondoHidenori
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芹沢高志 Takashi Serizawa
現代芸術フェスティバル『混浴温泉世界』の総合ディレクター

1951年東京生まれ。神戸大学理学部数学科、横浜国立大学工学部建築学科を卒業後,(株)リジオナル・プランニング・チームで生態学的土地利用計画の研究に従事。_その後、東京・四谷の禅寺、東長寺の新伽藍建設計画に参加したことをきっかけに、89年にP3 art and environmentを開設。99年までは東長寺境内地下の講堂をベースに、その後は場所を特定せずに、さまざまなアート、環境関係プロジェクトを展開する。最近では,帯広競馬場で開かれたとかち国際現代アート展『デメーテル』の総合ディレクター(2002年)、アサヒ・アート・フェスティバル事務局長(2002年ー2009年)、横浜トリエンナーレ2005キュレーターなどを務める。09年、大分県別府市で開催された現代芸術フェスティバル『混浴温泉世界』の総合ディレクター。著書に『この惑星を遊動する』(岩波書店)、『月面からの眺め』(毎日新聞社)、訳書にバックミンスター・フラー『宇宙船地球号操縦マニュアル』(ちくま学芸文庫)、エリッヒ・ヤンツ『自己組織化する宇宙』(工作舍、共訳)などがある。
TS051 芹沢高志インタビュー http://www.tokyo-source.com/interview.ph...
混浴温泉世界 http://www.mixedbathingworld.com/
P3 art and environment http://www.p3.org/

岡田聡 Satoshi Okada
精神科医/アートコレクター/magical, ARTROOM代表/アートアセファル発起代表人

精神科医を本業としながら、20年程前から日本の若手作家を中心に現代美術作品のコレクションをはじめる。展覧会へのコレクション出品やトークショーへの出演活動等を積極的に行う。自ら「魔術的芸術展」シリーズや「空想美術館」シリーズなどの展覧会のキュレーションを行うほか、アートバー「TRAUMARIS」の運営や、清澄白河にてオルタナティブスペース「MAGIC ROOM?」をオープンする。
 2006年1月六本木にてギャラリー「magical, ARTROOM」を共同でオープン。恵比寿に移転後は同ギャラリーの代表となる。また2008年7月に喫茶&スナック「MAGIC ROOM??」をオープン。
 現在は第3次magical設立に向けて準備中。

日時:2009年10月7日
場所:恵比寿「MAGIC ROOM??」
構成:近藤ヒデノリ
写真:武田陽介

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