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江口宏志 (ZINE' MATE主宰、ユトレヒト代表) 前半


「ZINE'S MATE, THE TOKYO ART BOOK FAIR」は、ZINE(ジン)と呼ばれる自費出版物やアートブックを扱ったブックフェアだ。第1回は2009年、東京・原宿の2会場で開催され、3日間で150組が出店。会場は“スモール・パブリッシング”、“リトル・プレス”と言われる自費出版のファンが集い、のべ8000人もの来場者に溢れた。

主催者の江口宏志さんは、2002年からインディペンデントなアートブックを取り扱う書店「UTRECHT(ユトレヒト)」を経営するかたわら、2007年、NYのアートブックフェアに参加した。その際、ZINEを売る数多くの作家兼出版社に出会い、驚いたという。

江口さんは、彼らとアートブックの取引や交流をする中で、日本でもNY同様のフェアを開催してみたいと思うようになる。マンガやアニメにはコミケがあるが、アートブックにはマーケットが同じようなものはなかったかったからだ。さらに、ユトレヒトに自作本を売り込む人が多かったこともZINE’S MATE開催の手応えになった。

ZINEの普及には、印刷技術やコストの進歩に加え、本を巡る状況と意識の変化がある。今やギャラリーに所属しコストをかけて展覧会を開かずとも、個人でもWebから世界に作品を発表したり、安価でアートブックや写真集を作ったりすることが可能になった。ZINE’S MATEにはアマチュアだけでなくプロの作家も出店。2009年は、TSにも登場した写真家の本条直季さんの作品も出品されていた。

2009年のZINE’S MATEを訪れた僕は、会場から溢れそうな熱気に驚いた。本の生産者と消費者がフェース・トゥ・フェースで出会う光景は、まるで生産者の見える野菜市のよう。

「THE TOKYO ART BOOK FAIR 2010」の会場(アーツ千代田3331)


そして、今年2010年も7月30日から3日間、『THE TOKYO ART BOOK FAIR 2010』が開催された。メイン会場は秋葉原のオルタナティブ・アートスペース「3331 Arts Chiyoda」、第2会場は昨年に引き続き、原宿の「Vacant」。

僕は初日に3331を訪れたが、会場に並んだ個性的なZINEたちは、その質、多様さ、展示方法のユニークさなど前年よりも断然パワーアップしていて、圧倒されるの一言。著名なギャラリーやアート系出版社、デザイン事務所に加え、日本各地や海外から集まった数多くの個人出版社が色とりどりにレイアウトされたブースを連ねていて、本の作り手と読み手の幸福な空間が広がっていた。

出版不況? 電子書籍の波紋? そんなことはこの場では杞憂にさえ思える。本を作るのは楽しい。そして手塩にかけた本について直接お客さんと話すのはもっと楽しい。そんなシンプルな本をめぐる交流。

今回のインタビューは、『THE TOKYO ART BOOK FAIR 2010』の構想段階であった2010年2月に行われた。青山にある「ユトレヒト」のテラスで江口さんに様々なZINEを見せてもらいながら、2日間にわたって話を聞いた。

New Roles

日本人若手アーティスト5人による本を用いた展覧会「New Roles」の図録。

The J.Peterman Company

通販カタログ「J.Peterman」。現在はWebに移行。

Hans Brinker Budget Hotel

オランダのバックパッカー向けのホテル。カタログのデザインが秀逸。

窯焼きピザの本

本でも料理でも見よう見まねで作ってみるのは楽しい。

リサイクル

想いのあるモノで展示をやりました。


1

本の可能性を広げる本



江口:緊張しますね、どうしよう(笑)。

米田:いやいや、沢山取材受けらてるから大丈夫でしょう(笑)。もっと早く江口さんのお話を聞ければよかったんですけどね。

江口:一応、昨日からMY SOURCEとFUTURE SOURCEをああでもない、こうでもないって考えたんだけど…やっぱりまずは、本の話をした方がいいかなと思って色んな本を持ってきました。この本知っています? 「ユーフラテス」の貝塚智子( http://euphrates.jp/about )さんが作った本。

米田:6×3=18。次に18ページに行くと(本のページに書いてある計算式に従ってページをめくり続ける)…5+8……これって終わるんですか?

江口:いや、ずっと続く(笑)。本って頭から最後まで読み進めていくっていうものなんだけど、この本はページを数として見るっていうのをやっている本です。

川村真司のフリップブック「RAINBOW IN YOUR HAND」


それから、これはうちで作った本で、川村真司( http://www.masa-ka.com/ )さんの 持ち込みなんですが、『RAINBOW IN YOUR HAND』という本で、ページをめくるとその残像で虹ができる。

米田:おー、スゴい!

江口:“フリップブック”って、ページの平面に書かれたものの差でアニメーションを作る本がありますけど、これはページとページの間の空間を見せる本なんですね。

米田:こんな作品を自分のお店に持ち込む人がいるというのは面白いですね。

江口:そうなんです。本なんだけど本じゃないというか、本の可能性を広げるようなものが僕は好きなんですね。

それで今回、MY SOURCEの1つ目として選んだのが、『New Roles』( http://www.utrecht.jp/exhibition/newrole... )っていう本です。以前、オランダの「Boekie Woekie」という本屋のギャラリースペースで展示をやらせてもらったことがあったんですが、それは5人の日本人による、本の可能性を広げるような作品の展示でした。『New Roles』はその図録なんです。

日本人若手アーティスト5人による本を用いた展覧会「New Roles」の図録。アムステルダムのアーティストブックストア「Boekie Woekie」で展覧会を開催


例えば、古賀充君( http://mitsuru-koga.com/ )という作家の作品。カセットテープって普通は磁気に情報が入ってますが、そうじゃなくてテープ自体に文字が印刷されている。他にも、紙飛行機に文字を書いてメッセージを飛ばしたり。だいぶ本から離れちゃってるんですけど(笑)。

米田:本をくっつけて箱にしてる作品もありますね。

江口:そう、本の部分のコラージュです。井上浩太郎君( http://1203.xxxxxxxx.jp/ )の作品は、レイアウトだけでも本になっている。ここぐらいまで情報を削っても大丈夫っていう。

米田:豆本みたい(笑)。破れた感じとか面白いですね。

江口:こういう本のような作品を展示したんですね。本の新しい役割みたいなことを表現したくて。僕は「ユトレヒト」という本屋や「ZINE'S MATE」というブックフェアをやってきて、やっぱりここに興味があるっていうか、本の新しい役割を見せていきたいんだなって思いますね。

2

ワクワクするカタログ――『J.Peterman』


通販サイト「J.Peterman」。商品画像はすべてイラスト


江口:それで、僕がなんでそういうことに興味を持ったかというと……。「ユトレヒト」をやる前、通販の会社に勤めていたんのですが、その時に「Patagonia」とか「L.L.Bean」とか、海外のアウトドアブランドのカタログが好きで、自分もカタログ作りたいなって思って入社したんですけど、実際入ってみるとスゴくきっちりしすぎていて、面白くないとは言いませんけど、何だかなって思っちゃったんですね(笑)。

当たり前だけど、カタログって、色がちょっとずれただけで返品率が何%上がるとか、スペックがとにかく大事で、クドイくらい前から見て後ろから見てポケットの中見せて、という感じの世界なんですね。

僕が海外のカタログで見た、ワクワクする感じが会社の中にいる時にあまり感じられなかった。だから、独立してからは、本に感じたワクワクする感じのままに本の仕事をやっています。

その中でも特に影響を受けたのが「J.Peterman」っていうアメリカの通販会社のカタログです。世の中の流れ的に今はWebサイトになっちゃったんですけど、当時は紙のカタログで洋服の画像は着用図とかも全部イラストなんです。何でこういう商品を作ったかとかを洒落た絵と説明が載っているんです。

米田:え、カタログなのに写真がない?

江口:そう、1枚もないの。

米田:綺麗なイラストの商品イメージだけで写真が本当に全く無いんですね。カタログ見てるだけで楽しいですねえ。

江口:実際に僕も商品をここで買うこともあるし、こういうのがカタログ販売のいいところだよなって。見ているだけで、ワクワクするんですよね。

3

本がだめになるかだめにならないかには興味がない


江口:それから、僕は『装苑』という雑誌で連載を持っているんですが、2年くらい普通にブックレビューをやってきてうまく書けなくなってしまった。たぶん、飽きちゃったんですよ(笑)。だから、本に関係する人に会いたいなって思って。作家さんでもいいし、デザイナーでもいいし、面白い本のシリーズがあったらその編集者さんに会って、結果的には本の紹介をするっていう取材と執筆の仕事をやっています。

そこで思ったことは、今、本の状況がよくないのは、多分本じゃなくてもできるものが、本じゃないものに変わっていくという話じゃないかということでした。本っていうのはコンテンツとその外側の機能を持った……

米田:プロダクト?

江口:そうそう、英語にするとかっこいいね(笑)。コンテンツとプロダクトっていうのがあって、そのコンテンツを表現するのに本っていうプロダクトが合うものが残るんじゃないかって思う。すると、本というプロダクトからコンテンツを考えていくという逆の方法もあるよなって。

米田:江口さんは、本というプロダクトに魅力を感じていると。


江口:うん。それで、これは僕が作りかけてみんなに止められたんだけど……

米田:お! 十字架の形をした聖書!

江口:(笑)。聖書って読むものだけど聖書は教会で読むわけでしょう? 十字架の機能がある聖書があったら物として成立するかなって。でも、聖書を十字架型に切ったら、みんなに「罰が当たるから止めた方がいい」って言われて。

米田:(笑)。読むこととは別にファンクションがある本ですね。

江口:十字架の形に裁断したレイアウトでちゃんと刷ったらいいんじゃないかって思ってます。

米田:“本の彫刻”みたいなものですね。プロダクトとしてもちゃんと読めるようになっている?

江口:そう、読むことができて、かつ十字架に向かってお祈りを捧げることもできる。これを人前で見せたのが初めなんですけど(笑)。

こういうことばっかり考えてた時期があって(苦笑)。本がだめになるとか、だめにならないとか、そういう話は興味がないんですね。それはそれで本の1つでしょって感じで。僕は「青空文庫」をiPhoneで読んだりするし、その方が良ければそれでいいよっていう話で。

4

ちょっと斜めからの表現の方が伝わる


オランダのホテル「Hans Brinker Budget Hotel」のカタログより、「ホコリ玉の殿堂」(笑)。


江口:次は、「オランダ」に関するものを、と思って持ってきました。 「Hans Brinker Budget Hotel」( http://www.hans-brinker.com/ )っていうホテルが出している一連の販促物です。

米田:ホテルに置いてある冊子?

江口:配ったり売ったりしてるんですが基本広告です。これは広告をリサイクルしたものって書いてあるんですけど。

米田:(冊子の間に何かが詰まったビニールが添付されている)びっくりした! オランダだから、大麻が入ってるかと思った(笑)。

江口:(笑)。ここって汚い安ホテルなんです。それを逆手にとった広告キャンペーンをやって、ホテルのゴミ、ほこりが付録なんです。見出しに「今なら全ての部屋にベッドがあります」とか、当たり前のことをさもスゴいみたいに書いてある(笑)。

米田:チェックイン時はお客さんの顔は普通なのに、チェックアウト時は疲れ切った顔写真が冊子に載っている。ここに泊まるとボロボロになるのか(笑)。シニカルな視点が楽しい印刷物ですね。バックパッカーが泊まるみたいなゲストルームですね。

江口:元々は本当にバックパッカーが泊まる安ホテルをうまいこと広告キャンペーンで人気ホテルにした感じなんです。僕も実際泊ったんですけど、本当にひどいホテルで、夜中にお客さんが廊下でサッカーやってた(笑)。

同じく「Hans Brinker Budget Hotel」のカタログより。ダニの拡大写真。


米田:他のキャッチコピーもスゴい。「犬の糞あります」とか「ダニに対するあなたの耐久力を上げよう」とか(笑)。でも、デザインは相当カッコいいですね。

江口:オランダ人のちょっと斜めから見たユーモアみたいなものを、ホテルの冊子で表現しているのが面白い。真面目くさって正しいことを言うよりも、よっぽど伝わったりとか響くよなって。僕も、同じことやるにもちょっと見方を変えた表現にしたいなって思います。

5

オランダに対する興味


『ディック・ブルーナ ぼくのこと、ミッフィーのこと』(講談社刊)


米田:そう言えば、「ユトレヒト」ってお店の名前もそうですが、オランダとの接点や興味持ったきっかけは何かあるんですか?

江口:会社を辞めて、最初に自分で本を売りたいなと思った時、 「買い付け」とかって響きに憧れるじゃないですか(笑)。「買い付けに行こう」と思って、まだ何も決まってないし、店もないのに、「買い付け」に行かないと、と思って(笑)。

米田:買い付けっていう行為はワクワクしますね(笑)。

江口:それで、知り合いの雑貨屋さんに頼んで、一緒に連れってって欲しいって言って、オランダに行ったんですよね。

その時に、ディック・ブルーナが若い頃、絵本を描く前、彼の父親が出版社の社長でその会社のデザイナーとして働いてたんですよ。でね、本の装丁をいっぱいやってた。
でも、当時は「表紙のかわいい本がいっぱいあるな」って何も知らないで買って、読めないながらオランダ語を見てみると「装丁・デザイン:ディック・ブルーナ」って書いてあった。調べてみたら、ミッフィーの作者のディック・ブルーナが装丁をやってたということを知って。自分で発見して知り得た喜びもあるんですけど。

米田:ブルーナってイラストだけじゃなくて装丁もやってるんですね。

江口:SFのシリーズはかっこいいですよ。やっぱり、内容以外でも本の面白さってあるなって思って。ブルーナが住む街の「ユトレヒト」って名前がいいって思ったんでしょうね。それで僕の本屋の名前にした。最近はあんまり行かなくなっちゃったけど、オランダのデザイナーやイラストレーター、アートにずっと興味があって波長が合う気がしています。

米田:オランダの本やデザインに興味を持ち始めたのは何歳くらいの時ですか?

江口:多分、会社員の頃、転勤で新入社員の時に金沢にいて、その時に出会った人たちがお店やってる人が多くて、そのせいかな。僕は「会社に入れてやったな、ラッキーだったな」って思ってたくらいだったのに、辞めていつの間にかこういうことになってしまったんですけどね(笑)。

6

見よう見真似で始めてみよう



米田:次はピザの本。表紙を見るだけでお腹が減ってくる(笑)。

江口:このダッサイ感じが信用を置けるんです。相当使い込んでてボロボロなんですけど、ピザ屋さんになる人が読むための本なんで、生地も1.8kgとか…。

米田:スペックがものすごく詳細に書いてある(笑)。

江口:釜の手入れの仕方とかまで書いてあるけど、釜を持ってる人が本で勉強すんのかな?っていう(笑)。僕、ピザ焼くことが趣味なんです。別に、ピザ焼くことを言いたわけじゃなくて…いや言いたいんだけど(笑)。

米田:アハハ。

江口:昔住んでいた近くにピザ屋さんがあって、スゴいおいしくてよく行ってたら、どんどん繁盛してきちゃって予約しないと入れなくなって。悲しいなって思ってたら、お店の人が「そういえば最近テレビ出たんですよ」って。そんなの出てるから繁盛しちゃうんだよって。

それで、見よう見真似で作ってみたら全然おいしくはないんだけど、ピザのようなものができて「あ、なんかこれスゴい」と。釜ってネット楽天とかで売ってるんですよ。小さいながらも釜を買って、そしたらさらに楽しくなって……ってこれ、ピザの話しかしてないですよね。

米田:確かに本じゃなくてピザの話になっている(笑)。

江口:いや、本で何でも作るのって楽しいなっていう、ZINEでも本でもなんでも。特に料理を食べ物作ったり、それをみんなで食べたりとかそういうのってスゴく楽しい。当たり前のことを言ってるんですけど、その中でも特にピザは特に楽しいぞっていう(笑)。

米田:この本、「ナポリピッツア協会」の規約とか書いてある。

江口:水と塩と小麦粉とイーストしか使っちゃダメとか。

米田:『ゴッドファーザー』じゃないけど、ナポリのピザには血の掟があるわけですね(笑)。見よう見真似でやるっていうのが、ポイントのような気がしますね。

江口:そう、見よう見真似はいいですよね。

米田:ZINE的なものも、見よう見真似で始める人も多いんじゃないんですか。

江口:本当に。今はやろうと思えば、本もあるしインターネットもある。あとは手を動かすか動かさないかの違いで達成感が違うじゃないですか。ちょっとした手を動かすなんて大したことじゃないんで。

米田:僕も自分で手を動かして何かを作るっていうのが今、スゴく重要だと思うんです。企画するとかプロデュースだけじゃなくてね、自分で手を動かして実際に作ってみるっていうのがアウトプットのリアリティに繋がるんじゃないかなあと。

江口:ありがとうございます。

米田:っていうまとめ方でいいのかわかんないけど(笑)。

江口:でも、ホント、この本、最高なんですよ。それこそ日本の●●出版から出てるピザの本とか最低だから(笑)。

米田:(苦笑)。

7

リサイクル――想いのあるものだけができること



江口:それから、リサイクルってものにずっと興味があるんです。今、みんなリサイクルとよく言うけど、じゃ、自分なりにどういうリサイクルのやり方ができるのかなって最近考えるようになった。

きっかけの1つは、3年間くらい『ソトコト』っていう雑誌の連載で、エコとかリサイクルとか、ロハスとか、そういうのに関する「物」を紹介するってのをやってるんたんですが、僕ってそういう「モノ」にスゴい詳しい訳じゃないから、だんだん困ったなと思うようになって……。「江口なりの視点でやってくれればいい」って言われて、最初は、頑張って「土に還る帰る器」とかやってたんですけど。

エコの専門誌なわけだから、僕が「こういうのがやりたい」と言うと、「ああ、あれは何号か前にやりました」とか、「それはスポンサーです」みたいな感じで、全然企画が通らなくて(笑)。

米田:そっか、その専門誌ですもんね(笑)。

江口:うん。エコのモノって、基本的には省エネルギーか、電気を貯めるか、どっちかしかないっていう感じだから、太陽の力か風の力か、人力か、っていうそういうものの組み合わせでほぼエコプロダクトというのはできている。でも、僕は詳しくわかんないし、わかんないから止めようと思って。

そこで、僕はモノに対するリサイクルに対する考え方みたいのを紹介しようと思ってやってるんです。たとえば、ユトレヒトの1Fには「OVER THE COUNTER BY ARTS&SCIENCE」( http://www.arts-science.com/ )っていう対面販売でしか物を売らないお店があるんです。

カウンター越しの接客によって話してこれじゃ見てっていう雑貨屋なんです。本当に洋服もあれば、洗剤もあれば、食べ物もあればという。

米田:陳列はないんですか?

江口:ガラスの中にありますが、しっかりと商品説明をして納得してもらった上で買ってもらおうというコンセプトですね。

米田:ユトレヒトがやっていた予約制の本屋さんというコンセプトに似てますね。

江口:若干ね。そういうのは、わざわざお金と時間をかけてお店をやる意味があるかなと。そういう変なのばっかりやってて。

あとは「リサイクリングショップ」っていうのをやったんですよ。「リサイクリングショップ」は、一応僕の中ではアート作品なんです。「AOBA+ART」( http://www.aobaart.com/ )という横浜市青葉区の美しが丘美ヶ丘っていう、たま多摩プラーザの隣の住宅街を使ったアートイベントっていうのを毎年やってて2009年で2回目なんですけど。

僕はカタログを作る部分で仕事として関わってたんですが、なぜか「作品作ってみない?」って言われて。写真を撮ったり絵を描いたりもするので、下手なりに絵を描いたり写真を撮ってもに作品を作ってもよかったんですけど、求められているのはそういうんじゃないなって思って。

その地域は、1960年代に出来た 古くからある住宅街なんだけど、街全体が若干年をとってて、駅からもちょっと遠い。でも、住民はお金もある程度余裕のある方々なんで 切り売りとかをさせないで、だいたい一区画100坪ぐらいの家がボンボンって立っている。それゆえに、静かでいい環境なんだけども、今若い人は100坪の家なんて買えないから、さびれている雰囲気があって。

そういう中でわざわざ作品を作るにあたって、住民の人達と何かをやろうって思ったんですが、何か新しいモノを作るんじゃなくて、元々あるものを使って何かやろうと思って、リサイクルショップをやりたいなって思ったんですね。

住民の人にモノを譲ってもらって、その値段とか価値とか、そういうのを何も聞かずに「いつ、手に入れたんですか?」ということだけをインタビューしながらモノをもらっていった。

それで、「リサイクリングショップ」っていう実際の場所を作ったんです。そこは、いろんな人のモノがジャンルもごちゃ混ぜに置いたんだけど、その人達が手に入れた年代ごとにモノが並んでいる。そうすることによって、街の時代ごとの趣味趣向みたいなものが見えてくる。

米田:歴史が可視化できるっていう。

江口:うん。60年代に突然出来た街なんで、その頃は、調度品とか、みんな結構インテリアとかに興味があって。海外の建築士がいたりとかで、自分で家建てたんだよみたいな人がいたり…。これが70年代ぐらいになると、出張だ、レジャーとかで海外旅行とか行くようになって、外国のおみやげとかあって。

そういう感じで、時代時代の人の考え方みたいなものが見えてきて。モノってそういう役割があるよな、古いモノには特に新しいモノには絶対ない何かがあるなと感じました。

リサイクリングの「サイクリング」には自転車という意味も含んでいて。みんな年とっちゃって坂が多い街なのに自転車乗れなくなっちゃうから、だいたいの家庭で自転車が余ってるんですよ。それを引き取って、整備して会期中は貸し出して、レンタサイクル屋を併設した、「リサイクルショップ」っていう店をやったんですね。

でも、僕の個人プロジェクトだったから、周りのみんなは超冷ややかに見てましたね(笑)。「AOBA+ART」の担当の人と、物の引き取りから自転車の整備までやったんですよ。スタッフからは「ユトレヒト」がおろそかになりすぎじゃないかって心配されましたけどね(笑)。

米田:確かにちょっと心配になるかもしれない(笑)。

江口:でもね、やってみたら、今度はそのリサイクル品を出した人も見に来るし、住んでる人がいっぱい来てくれて。「こういうのあったね」とか「こういうのがいいんだったらうちにもあるよ!」とか言ってくれて、会期中に出品物が増えていったり、住人同士がモノを通じてコミュニケーションする場所になって、モノの力ってそういう部分にもあるなって思ったんですよね。100円ショップでみんなが集ったりとかってないじゃないですか。想いがある物ものだけがそういうことに成りうるというか。

米田:定期的にやってるんですか?

江口:「AOBA+ART」は年に1回のアートイベントです。今年も参加させてもらえることになって、「リサイクリングショップ・フリー」という作品を考えています。リサイクルショップで、かつフリー。モノにある想いの部分だけでスペースを作ったらどうなるかに興味があるんですよね。

米田:リサイクルに興味はあるけど、自分なりのリサイクル、みたいな。

江口:モノって、さっきの本の話じゃないけど、いろんな役割がある。モノのいろんな部分に改めて気付くことができればいいなって。本当は「リサイクル」って言葉がキーワードとしてはあんまりイケてないんだけども。

米田:確かに手垢がつきすぎてる(笑)。

江口:ちょっと変えたいと思ってるんですけどね(苦笑)。

8

今を生きる人の本屋「ユトレヒト」、本の市場「BOOKMAN’S MARKET」


2010年2月、「BOOKMAN'S MARKET」にTSも出店。本やTシャツ、古本を売りました。

米田:ところで、ユトレヒトでは古本は扱ってないんですか?

江口:古本はまた別で扱ってますが、ユトレヒトにはほとんどないですね。ここは、生きている人の本屋さんを作ろうって思ったんで。結果的に古いものはあんまりないかもしれない。

米田:青山の国連大学で開催されている本の市場、「BOOKMAN'S MARKET」( http://www.bkmsmkt.info/ )は、どういうコンセプトなんですか? ZINE’S MATEとはまた違いますよね。

江口:そうですね。ZINE'S MATEは、アートブックのフェアなんで、表現活動に近いですね。「BOOKMAN'S MARKET」は、誰でも意志を持ってる人であれば参加できます。国連大学で毎週日曜にやってる「FAMER'S MARKET」に対して、「BOOKMAN'S MARKET」と名づけました。ブックマーケットでなくて、ブックマンズマーケット。つまり、本の作り手、売り手であれば、ジャンルではなくて、業種もなくて、誰でもいいんじゃないかと。

米田:ZINE'S MATEも個人の自己表現という部分にフォーカスはしてると思いますけど、BOOKMAN'S MARKETもちょっと似てますよね。

江口:そうですね。僕は、きっと本の作り手や売り手と買い手が出会う場所を作りたいんですよね。

1972年生まれ。セレクトブックショップ「UTRECHT」代表。ブックショップ、ギャラリー「NOW IDeA」の運営のほか、ショップディレクション、展覧会企画、執筆など本を通じて様々な活動を行っている。「ZINE’S MATE, THE TOKYO ART BOOK FAIR 2009」では共同ディレクターを務めた。毎週国連大学前広場で行われている「FARMER'S MARKET」に併設する、本の直売イベント「BOOKMAN’S MARKET」のディレクションも行っている。2010年6月には、その場で作る、作って食べる、みんなで楽しむ、など体験、共感型の新しいイベント「D♥Y(ディー・アイ・ワイ)」を企画、開催した。

取材日時:2010.1.7, 2.6, 7.30
東京・青山「ユトレヒト」、末広町「Arts Chiyoda 3331」

インタビュー・執筆:米田智彦(TS副編集長)
人物写真:NOJYO(TSフォトディレクター)
写真アシスタント:大野真人
編集アシスタント:荒井美奈子(TS)

リンク:ユトレヒト

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