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小池健 (アニメーター、映画監督) 後半


1

正しいことよりも楽しいことを選ぼう!


家族

これからは人の“心”を扱う作品を作りたい。

ロボットアニメや格闘もの

苦痛を乗り越えた先を目指すようなアニメを作ってみたい。


米田:モータースポーツ、金田伊功、80年代の映画、と来ましたが、他に影響を受けたものはありますか?

小池:本ですかね。小説もよく読みますね。普通の物語も好きなんですが、成功した人の本を。

米田:成功した人の本?

小池:松下幸之助とか。意外とあれが監督の立ち居地として生かされるんですよ。参考になるんです! 監督業だけでなく日常でも役に立つし、成功した人の話は読んでて楽しい(笑)。

米田:あはは。

小池:自分でも壁にぶちあたった時に参考になるんです。選択のポイントが面白いというか、壁にぶちあたっても自分もクリアできるというか。

米田:松下さんや本田宗一郎さんの本って、人生のオーソドックスなことを教えてくれますね。

小池:『REDLINE』の制作の時も、自分の判断材料になったんですよ。僕が気をつけていたのが、「正しいことよりも楽しいことを選ぼう」ってことでした。楽しいっていうのは、楽という意味ではなくて、大変なことでも楽しそうならやってみるということです。仕事ってどの仕事も大変なんで、どうせやるなら楽しみたい。それを判断材料にしていくのはいいかなって思いましたね。

2

川尻喜昭、石井克人について


川尻義昭監督作の『妖獣都市』

米田:石井さん、金田さんの他で、業界で影響を受けた方はどなたですか?

小池:川尻監督(*喜昭。アニメーター、アニメ監督。代表作に『妖獣都市』『獣兵衛忍風帖』『アニマトリックス』)ですかね。川尻監督もアニメーターから監督をやられたという経緯を持っているので、すごく参考になったというか。僕も監督というよりアニメーターでいいかなって最初は思ってたんですが、川尻さんの作品の作り方の姿勢を見て監督になりたいなって思いましたね。川尻さんって作ってる時、すごく楽しそうなんですよ。

米田:アニメーターの方って描くこと自体が好き、楽しいって方は多いですよね。

小池:そうですね。まあ現場では怒りたいこともたくさんあると思うんですが(笑)。川尻さんに影響を受けた技術的な部分はとても大きいですね。人間の行動原理とか、どんな仕草や注意の仕方を取るかとか、人間は無駄な動きをしないとか、色んなことを教えてもらいました。アニメの基本的なところですね。

それからやっぱり、石井さんからは映像の作り方を教わったと思います。石井さんは昔からずっと「シズル」って言葉を使ってて、僕は意味がまったくわからなくて(笑)。辞書で調べたりしたんですが、要は表現方法ですよね。アニメーションにおける、スピード感、車のツヤ感、汚れ具合、そういうのをつけたしていくと映像がしまっていく。

米田:ブレみたいなところも含めてというか。

小池:カメラブレだけで表現するというやり方もあるんですが、それだと臨場感が出ないんです。あとは、サブキャラの演技のつけ方とか1つで、シーンに深みが出る。映画としての雰囲気が出る。石井さんにはそういったことを自然と教えてもらった気がします。

ヒロインのソノシー役には蒼井優。レースで戦うJPとソノシーは恋に落ちる。© 2010 石井克人・GASTONIA・マッドハウス/REDLINE委員会

米田:では、長い製作期間を経て、どの時点で一番感動しました?

小池:感無量!! と思ったのは映像ができた時ですかね、音響は石井さんにバトンタッチして仕切ってもらえると割りと安心して観たんですが、やっぱり一番はオールラッシュですかね。

米田:制作過程でプレッシャーは感じました? それどころじゃなかった感じでしょうか。

小池:作っていく工程自体が楽しいので、割と楽しんでやれました。後は、精神状態を保つために、さっきいったような本が役に立ちました。作っていく途中のプレッシャーはあまりなくて、出来上がってから「これでよかったのかな」と緊張する時がありましたね。

でも、一番緊張したのは、スタッフ初号(試写)ですね。今までわがままを聞いてくれたスタッフの人たちが全員集まるんですが、初めの1時間くらいはぼーっとしちゃって全然頭に入ってこなかった(笑)。

3

無国籍、でも、日本発世界へ通じるアニメを


主人公JPの愛車「トランザム」。他のレーサーはマシンに妨害装置や武器を搭載しているがトランザムは普通の車。JPのこだわりなのだ。© 2010 石井克人・GASTONIA・マッドハウス/REDLINE委員会

米田:『REDLINE』はどんな人に観てもらいたい?

小池:もし海外でも公開されるようになったら、各国の子供さんが「これって自分の国で作ったのかな?」って思ってもらえたらいいなと思います。「実は日本で作っていた」みたいな。無国籍なアニメと感じてもらえたらいいですね。

米田:車はアメ車っぽいけど、どこの国が舞台かよくわからないですよね。アメ車には特別な思い入れがあるんですか?

小池:僕が小さい頃は、アメ車に乗っている人が田舎(山形)には多かったんですよ。

米田:確かに! ちょっとヤンチャでオシャレなおじさんとか乗ってましたねえ。アメリカに対する憧れが強かった時代ですね。

小池:そうそう。それを見て「かっこい~な~!」って思ってましたね。石井さんはアメリカのセドナに知り合いのおばちゃんがいて、その息子さんが車が好きで、車ばっかりいじっていたそうなんですよ。そんな石井さんの原体験も、日本のアニメなのにアメコミ風の画で、アメ車っぽいデザインの車のレース、という設定につながってます。

公開前に新宿バルト9に設置された『REDLINE』の個性豊かなフィギュアたち。小池監督いわく「すぐにフィギュアを買っちゃうんですよね~」photo by Tomohiko Yoneda

米田:そう言えば、『キル・ビルVol1』のアニメを石井克人さんが担当されましたが、日本人が制作したアニメでも、映画作品としてはアメリカ人のものでしたよね。

小池:石井さんも日本の技術で作ったアニメを“アメリカ発”ととらえられるのは悔しいという思いがあったんじゃないかなと思います。だから、『REDLINE』では、純国産のアニメを全世界の人に観てもらいたい!……でも、やっぱり基本的には身近な人に観てほしいっスね(笑)。

4

何も考えずに体感してほしい


米田:では、フューチャーソースを挙げるとしたら何でしょう?

小池:「家族」ですかね。今後は人の心とかを扱ったものを作っていきたいと思っています。

米田:心ですか。『REDLINE』は身体という感じですもんね。他には?

小池:最近は作画やデザインのオファーの仕事が多くて、次の作品はキャラクターデザインやメカデザインでかかわったものになります。そういうものも観てほしいし、監督としては、人の心を扱うような、苦痛を乗り越えた先を目指すような話で、ロボットアニメとか、格闘モノもやってみたいですね。

米田:小池さんが考える究極のアニメーションとはどんなものですか?

小池:基本的には楽しんで作るのがいいんじゃないかと。自分らしさをしっかり出すというか。自分がアニメーションでできることを突き詰めることが、結果的にいいアニメーションを作ることになるんじゃないかなと思っています。

米田:確かに『REDLINE』は、モータースポーツとスピードを愛して、手書きアニメが大好きな小池監督ならではの作品となっていますよね。では、最後にいよいよ公開される『REDLINE』、ファンの皆さんに一言お願いします。

小池:そうですね。何も考えずにただ劇場の席に座って、スピードを体感してほしいなと思います!!

米田:僕ももう一回映画館のシートに座って車をぶっ放す感じで観たいと思います!! 今日はありがとうございました!

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interview by:

米田智彦 Tomohiko Yoneda
編集者、ディレクター、ライター
TOKYO SOURCE副編集長

1973年福岡生まれ。出版社、ITベンチャーを経て独立。出版、Web、広告などで活動。2010年に編集・出版した書籍は『混浴温泉世界 場所とアートの魔術性』(BEPPU PROJECT著、河出書房新社)、『USTREAM 世界を変えるネット生中継』(川井拓也著、ソフトバンククリエイティブ)、『USTREAMそらの的マニュアル』(インフォレスト刊)。また2010年上半期は坂本龍馬の人生を追った「日本を変えた男の素顔」を『週刊フライデー』にて連載。東京・高円寺で「トークセッション交縁路」を月1で開催。http://blog.livedoor.jp/ts_koenji/

ブログ1「It made a day.」 http://blogs.brash.jp/tomohiko_yoneda/
ブログ2「¥$PHIN(エンドルフィン)」http://d.hatena.ne.jp/tomosama/
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Takeshi Koike
1968年、山形生まれ。アニメーター、映画監督。アニメーションに魅せられ、高校卒業後、山形からオートバイで上京。マッドハウスに入社。川尻善昭監督の『獣兵衛忍風帖』(93)『バンパイアハンターD』(01)といった傑作群で、アニメーターやデザイナーとして活躍。 2000年、石井克人監督の実写映画『PARTY 7』(00)のオープニングアニメーションで監督デビューし、 その独自の作風を一気に開花させた。以降、OVA『Grasshoppa!Special TRAVA-FIST PLANET』、映画『茶の味』などで石井克人氏とタッグを組んでいる。2003年、大ヒット映画『マトリックス』3部作のオムニバスアニメ『アニマトリックス ワールド・レコード』を監督し、世界中にその名を知らしめる。日本人離れしたヴィジュアル・センス、デフォルメのきいた躍動的アクションが業界内外から注目を集め、「今、最も刺激的な映像を創り出すクリエイター」として評判を集めている。

リンク:『REDLINE』オフィシャルサイト

日時:2010.8.13
場所:東京・新中野 マッドハウス
インタビュー:米田智彦(TS副編集長)
写真:有高唯之

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