061

川田十夢 (AR三兄弟長男) 前半


ARとは技術ではなく、概念であり、思想である。それを教えてくれたのがAR三兄弟の長男こと、川田十夢だ。

……と、「うっかり」偉そうに書いてしまったが、この「AR(Augmented Reality)=現実拡張」について、僕はそもそも詳しかったわけではない。カメラをかざせば、GPSを使って「エアタグ」というコメントをリアルな場所に書き込めるiPhoneアプリ「セカイカメラ」も「セカイカメラ」を開発した頓智という会社の井口資仁さんも知ってはいたが、長らくARの本質については手つかずのままだった。


セカイカメラがリリースされ、ARが話題になった直後もよく友人と「呼び込みに声をかけられたら、入店せずともお店に向かって携帯をかざすだけで出勤してるキャバ嬢が表示されたらいいよね」などと冗談を言っていた。もちろん、観光地や美術館などを訪れた際、その場で詳細な周辺情報が得られたりコメントを残せるといった利便性やビジネス的な将来性には気づいていたが、僕の中ではARの障壁は、カメラをかざすという行為のめんどくささ、恥ずかしさであり、ARの展開というのはカメラの画面の中だけ、という貧しいイメージだったのである。

川田十夢は、著書『AR三兄弟の企画書』の中でこう書いてある。
「ARとは、知覚とその媒介となるメディアに、余白を見出して拡張を遂げようとする概念、および手法、つまり未来である」

川田はARに出会うまでの10年間をメーカーの会社員として過ごした。印刷物やWebのデザイン、コピーライティング、プログラミング、映像制作、広告企画といった制作全般から、データベースの設計、特許技術の開発まで、広い範囲の仕事をこなしてきた。その中で彼が追求したことは「ワンクリックの“省略”」だった。つまりいかにプロセスを省くか。そんな中でARという新しい技術に出会う。

例えば、街に出て面白そうなバンドのライブ広告を見つけると、その情報をメモしサイトにアクセスして、そのバンドの音源を聴く。気に行ったら音源を買ったり、そのライブに出かけていたと思う。
しかし、ARが当たり前のように社会に浸透すれば、サイトにアクセスせずとも、その場所ですぐに音源が聴けたり映像が観れたり、さらに言えば、会場にいずとも、その場所でリアルタイムにライブ鑑賞できるかもしれない。この省略の衝撃が川田をARの世界へいざなっていく。

ネット網で張り巡らされた情報世界に、リアルな場所からすぐにコミットメントや自己発信をできるという発想。カルチャーもメディアもそれらをめぐる技術も成熟し消費尽くされた現在、この現実を拡張できるかもしれないというARの持つ可能性は、単なる技術論では収まらない。カメラをかざすという行為も技術の進歩により必要なくなるだろう。

映画の拡張。スクリーンに観客のコメントが映し出される。


現在、吉本興業とのコラボによるお笑い、アイドルや広告のプロモーション、格闘技「K-1」の入場シーンの中継など、幅広い「拡張」に挑んでいるAR三兄弟。彼らは2010年3月に行われた『東のエデン』というアニメ映画の公開イベントで、映画館では御法度だった携帯電話を観客にスクリーンに向けさせ、映画が上映されると、画面には次々と観客からのコメントが表示され、監督自身が肉声でそれに答えるという試みを行った。川田は『AR三兄弟の企画書』の中でも「映画館で携帯電話の電源を切っておくのが当たり前ですが、これはもう既に時代に合っていないルールだと僕は感じています」と書いている。

K-1MAXの地上波放送では長島☆自演乙☆選手の入場シーンを拡張してみせた。

実は、僕は川田とは色んな場所ですれ違っていた。2010年はUSTREAM関連の複数の書籍を編集していたこともあって、地上波とUSTをドッキングさせたフジテレビの「ノイタミナ」という番組を見学した際、彼らは現場でパフォーマンスをしていたし、任天堂で数々のユニークな商品を発明してきた横井軍平氏の功績を称えるイベント「横井軍平ナイト」でも僕は彼の真後ろの席にいたと思う。

僕は飄々とした佇まいや脱力した作風の裏の川田の思想には気づかなかった。遅ればせながら気付いたのはツイッターの川田の発言だった。「うっかり」という言葉を連発する独特のつぶやき。列挙するのはキリがないのでぜひ実際に彼のツイッター(@cmrr_xxx)にアクセスしてほしいが、うっかりの正体は、『AR三兄弟の企画書』の中でまたもや彼自身が書いている。「思いつきという名の初期衝動から始まり~化学変化を楽しむ」と。

ARという技術や発想を使えば、現実空間と情報空間をマッシュアップできる。つまりそれは新しい「編集」であると思う。初期衝動を抱えて外部との化学変化を楽しみながら、AR三兄弟は世界を拡張していく。その旅に僕もインタビュワーとして同行してみたいと取材をオファーした。がしかし、2010年11月28日現在、ポートレート撮影のみが終わっただけ。ソースに関するコメントを残して川田十夢は行方をくらましてしまった…。

12月11日のTOKYO SOURCEの忘年会イベント「TS FESTIVAL HOT JAPAN!!!」への川田十夢の出演を先に発表してしまった以上、後戻りは許されない。さて、このショートトリップはどこに向かうのやら。TS初の見切り発車の掲載だが、このWeb上で展開するであろう「化学変化」を楽しんでほしい。

TS副編集長 米田智彦

『ガープの世界』 ジョン・アーヴィング

作家が主人公のメタ構造の小説作品って、結構沢山あると思いますが。僕にとって一番リアリティを以て読める作品。

ウディ・アレン(映画監督)

この人の作品がもれなく好き。悲劇を喜劇的に描いたり、教養を下らないテイストで揶揄したり、全てがシニカルで都会的でカッコいい。「構図にリアリティを与える為の重力装置」のようなモノが全ての作品に内在していて、それを探しながら映画を見たり小説を読んだりするのが楽しい。

色川武大(阿佐田哲也)

『狂人日記』『うらおもて人生録』『麻雀放浪記』、同じ人が書いていると知った時の衝撃。物書きとして色々なジャンルの次元を越えているけれども、根底に流れる通念にブレがないのが素敵です。僕もそうで在りたい。

『ジョジョの奇妙な冒険』 荒木飛呂彦

荒木先生の凄いところは、短編小説のようなアイデアを長編に落とし込める「スタンド」
という見立てを発明したところ。これがあることで、毎回好きなことをやらかしつつ、時空を超えた脈々とした物語を紡ぐ事に成功している。コマ割りやカラーリングも毎回が発明の連続。

忌野清志郎

この人になりたかった時期があった。でも、清志郎のコピーになる訳にもいかず、集めてきた彼の著作を全て処分した。やがて大人になり、自分のやるべき事が見え、作品を買い直し、うっかり会えるだろう思っていた矢先の訃報。しんみりするので公に口外していないが、会いたい人に会いにゆくようになったのは彼の影響。


1

写真とリードをアップしたまま長男失踪!


米田:ええっと……写真とリード文のみの状況、そしてインタビュイー失踪というTOKYO SOURCE 始まって以来の苦境です。12月11日、代官山セドナで行われる「TS FESTIVAL HOT JAPAN!!!」に川田さんの出演が決まっているので、それまでに原稿をあげなくてはいけません。断腸の思いだけど、手元にある素材だけでアップ決行することにしました。もうこうなりゃ、リアルタイムインタビューを随時掲載していって何とか間に合わせるしかない。ツイッターで川田さんに呼びかけてみれば反応があるかもしれない。お手数ですが、読者の皆さんは、ツイッターで僕、米田智彦@Tomohiko_Yonedaと川田さん@cmrr_xxxのやり取りを追っかけて下さいっ!!
おーい川田さーん!!!(2010.11.29)

@Tomohiko_Yoneda 2010.11.29 19:09:28
.@cmrr_xxx 川田さーん。〆切過ぎちゃったんで、インタビューしてないけど写真とソースのコメントだけでとりあえず記事アップしまいましたよ!お忙しいとは思いますが、ご返答のほどよろしくお願いします。

@Tomohiko_Yoneda 2010.11.29 19:10:32
TOKYO SOURCE 061 AR三兄弟長男、川田十夢インタビューアップ!!

@cmrr_xxx 2010.11.29 22:22
すんませーん。とりあえず矢文射っておきましたー!

@Tomohiko_Yoneda 2010.11.30 00:16
.@cmrr_xxx や、矢文って何ですか???

@Tomohiko_Yoneda 2010.11.30 20:57
.@cmrr_xxx さっき洗濯物を取り込もうかなと思ってベランダに出てみると、なんか矢みたいなものを発見。なんだこりゃ!?あれ、なんか手紙みたいなのが付いてるぞ…ってこれかよ!AR三兄弟長男川田さんが言ってた矢文って!w いつの間に俺のマンション調べたんだ…!?

@Tomohiko_Yoneda 2010.12.01 12:12
.@cmrr_xxx AR三兄弟長男川田十夢から届いた矢文メッセージの内容。「12時から新宿西武って喫茶店で待ってます。15分くらい時間作れます。」とのこと…。やべ、遅刻しそうだけど、とりあえず向かってます。

@Tomohiko_Yoneda 2010.12.01 12:21
何とか喫茶西武に到着!川田さんいるかな…あっいた! RT .@cmrr_xxx AR三兄弟長男から届いた矢文メッセージ「12時から新宿西武って喫茶店で待ってます。15分くらい時間作れます」

2

ようやくインタビュー開始!


なぜか、毎回我々のインタビューは新宿のレトロ喫茶店「西武」に指定されるのだった。

米田:やっとお会いできましたね。記事もないのにアップしたとか、前代未聞ですよ!!

川田:うっかり、斬新な登場ですね。やった!

米田:やった!じゃないですよ!(怒)。矢文で待ち合わせ場所知らせるってどういうつもりですか? 僕は胃が痛いです。

川田:とりあえず、時間ないので、話したい話から初めていいすか?

米田:完全マイペース。フォローとか全然ないんですね(苦笑)。分かりました。とりあえずお願いします。

川田:えっと、音楽についてさっき思ったことがあって…。これは、あるミュージシャンが言ってたことなんですが、うっかりデビューして音楽業界に入ってしまうと、アーティスト扱されて気分いいんだけど、全然お金が入って来なかったらしいんです。ある時、自分で企画して音楽仲間とライブをやったら盛り上がって自分のギャラの何倍もの収益が上がってしまった。それで「これってナンだ?」と思ってレコード会社所属を辞めたらしいんですよね……。

米田:ああ、よくある話ですね。

川田:うん、それで、今って、音楽というソフトと人が出会う次の新しい装置を作れるかもしれない時代じゃないですか。僕はiTunesも全然正解じゃないと思っていて、音楽やるなら、インフラごと作って、そのインフラの主題歌をAR三兄弟が歌ってたら面白いんじゃないかと。僕らにも芸能事務所とかレコード会社とかから話が来るんです。でも、自分たちが作った仕組みだったらいいんですが、レコード会社の仕組みってすごい違和感があって、誰かが作った仕組みにのっかると違ってきてしまう。

たとえば、自分のポッドキャストで自分の曲を流せないとか切ないじゃないですよね。音楽の流せない佐野元春のポッドキャストとか切ないですよね

米田:佐野さんのラジオでそれは想像できない(笑)。でも、それっていきなりだけど、かなり本質的な議論ですよね。もはやクリエイターが作品だけではなくて仕組みまで作らないと結局何も変わらないということですね。

川田:はい。それに今って音楽が簡単に誰でも作れてしまう。ボブ・ディランとかビートルズが出てきた頃の状況と全然違うじゃないですか。当時は、ギターを弾くことがレアで変わったことだったわけだし。だから、今ならバンド組むにしても「俺ベースやるわ、じゃ俺デザインとかプログラミングやるわ」みたいにしないと、オリジナリティがないんじゃないかって。

米田:そういうミュージシャンって他にいますか? UNDER WORLDがいるTOMATOはデザインをやってますね。プラットフォームを自ら作ってそこに上がろうとするような音楽家というかそういう存在は?

川田:うーん。だから、僕らは舞台装置や仕組みまで自分たちで作品として作ってるんですね。ま、本来的には、そこに自分たちが上がらなくてもよいんですけど、そこに「うっかり」上がってしまうのがメタ構造的でユニークかなと。

3

ARは過去と現在、物語と現実をつなげられる装置


映画『ウッドストック』。あのジミ・ヘンドリクスやサンタナなどが出演した伝説のフェスティバル

米田:しかも、フェスも今や単なるハコというか、仕組みになってますよね。

川田:ウッドストックが69年にやってたこととは今のフェスとは全然違っていますからね。

米田:川田さんは、著書の中で「『ウッドストック』という音楽ドキュメンタリー映画は雑誌のレイアウトと近い」と言ってますね。実はBEPPU PROJECTの山出淳也さんも同じことを言ってたのですごく驚いんたんですよ。僕は、飲んでいる時に山出さんから「米ちゃん、ウッドストックみたいな本が作りたいんや」と相談されて『混浴温泉世界 場所とアートの魔術性』という書籍を作ることになったんですよ。

川田:へー!! マジすか?

米田:「それってどんな本なんですか?」って聞いたら、山出さんは「体験型のようなドキュメンタリーのような内容や」って言ってたんですよね。当時は「このオッサン、何をわけのわからんことを言っとるんやろ…」と全く理解できてなかったんですが(笑)。

川田:それはすげえ面白いすね。『ウッドストック』はパッケージとして正解なんですよ。あれってドキュメンタリーだし、USTやってるようなもんじゃないですか!

米田:確かにダダ漏れだ(爆)。

川田:『ウッドストック』の何が優れていたかって、最後までフィルムを捨てなかったことなんですよ。予算はそんなにないはずなのに、あらゆる観客を押さえてるし、どうやって撮ったかよくわからない。視点がたくさんあるんですよ。ミュージシャンを追ってるだけじゃなくて現象全部を追っている。あと、歌詞(テロップ)がいきなり出てきたりしますしね。

米田:カリスマ的なミュージシャンを祭り上げるように撮るだけじゃなくて、フェスの現象全体を捉えるみたいなのが今っぽいんだろうなあ。

川田:でも、あのパッケージって成熟してるじゃないですか。あれは、アナログのフィルムで残して、アナログの編集方法で出来た構造なんだけど、方法論としては学ぶことがたくさんあるんすよね。

今って現実でできることと仮想でできることが全部成熟しちゃったんですよ。成熟したってことは、つなぎ方の妙とか、アナログで当たり前のことをデジタルでやったり、そういうことしかもう新しくできることはない。だから、ARはすごく便利なんです。過去と現在をつなげられるから。

米田:あの~さっきからなんかチラチラiPhone見てますけど、もしかして時間ですか?

川田:そうなんですよ…今朝も舞浜でサーカス視察しなきゃいけなくて、さっき舞い戻ってきたんです。えへへインタビューのこと、うっかり忘れてて(笑)。ま、続きは次回ってことでいいすか? とりあえず、次回の待ち合わせ場所、今度はモールス信号打っておきますんで!では、さよなら!!!

米田:え!? ちょちょっと待って。モールス信号って何ですか? ちょっと川田さーん!!!

……ということで、川田さんは席を立つなり、ダッシュで去ってしまった……。またもや逃げられた! 本日もここまで。「モールス信号」の意味が気になるがとりあえずツイッターで返答を待つことにするか……(多分続く。2010年12月1日)

4

またもインタビュー途中で逃亡!


というわけで、またも川田さんに逃亡されたので、再びツイッターでのやり取りに戻ったのであった・・・。

@Tomohiko_Yoneda 2010.12.01 14:55
.@cmrr_xxx おーい!川田さーん!電話出ろ~おーい川田~!長男!!TOKYO SOURCE AR三兄弟川田十夢インタビュー、ツイッターでやり取りしながら矢文で本人から呼び出され取材するも途中でまたも川田逃走!!

@cmrr_xxx 2010.12.01 15:02
.@Tomohiko_Yoneda 自ら矢文で指定しておいて、あまり時間取れずにごめんなさい。次回待ち合わせ場所は、より確実に伝わるモールス信号打っておきまーす。

@Tomohiko_Yoneda 2010.12.01 15:09
.@cmrr_xxx: え?モールス信号?やったことないですよ!伝わるのかな…って伝わんねえよw

@cmrr_xxx 2010.12.01 14:57
舞浜→新宿西武(TS取材)→MTV(イマココ)→SHARE出版パーティ

@Tomohiko_Yoneda 2010.12.01 15:23
.@cmrr_xxx うほっ!僕もSHAREの出版パーティ行きますよ!よし現場で捕まえるぞ RT @cmrr_xxx: 舞浜→新宿西武(TS取材)→MTV(イマココ)→SHARE出版パーティ


@Tomohiko_Yoneda 2010.12.01 20:28
.@cmrr_xxx あ!「SHARE」の出版イベントにAR三兄弟川田さん発見! しかも髪切ってる!あっ!また逃げた!

(↑2010.12.1)

5

モールス信号で待ち合わせを指定


というわけで、また中断となったインタビューだが、その後、本当にモールス信号の音源URLがメールで届けられた(笑)。
http://www.alternativedesign.tv/sen_test...
↑川田十夢から届いたモールス信号のURL

以下、再びツイッターのやり取りに戻る。

@Tomohiko_Yoneda 2010.12.02 19:05
.@cmrr_xxx 川田さん、確かに音声ファイル届きました…でもこれってモールス信号をわざわざ録音したんです?ま、とりあえず解読してみて(できんのかな?苦笑)、追って連絡します…元自衛官の @eshintaroに読んでもらおう。

以下、@eshintaro・・・江口晋太朗(1984年生まれにフィーチャーしたWebマガジン『84ism』副編集長、ヒマナイヌゴールドメンバー)

@eshintaro 2010.12.02 20:06
えw @Tomohiko_Yoneda 米田さん、本当に @cmrr_xxx 川田さんからモールス信号きたんですか!wじゃあちょっと読むのでファイルをボクのほうに送ってください……

@eshintaro 2010.12.03 11:34
米田さん @Tomohiko_Yoneda から川田さん @cmrr_xxx のモールス信号データをいただきました。今日時間があるときに読みますね(なんで俺こんなことしてるんだろw)

@eshintaro 2010.12.03 12:48
.@cmrr_xxx 川田さん、いただいたデータの信号解読したんですけど、今日の15時にまた新宿の喫茶西武で取材っすか? @Tomohiko_Yoneda 米田さん行けます?

モールス信号を江口晋太朗君なんとか解読してもらったは、またも川田のインタビューのため新宿のしぶ~い喫茶店「西武」に急遽行くはめになったのである。

@Tomohiko_Yoneda 2010.12.03 14:32
.@cmrr_xxx というわけでまたも新宿の喫茶西武へ向かう。とほほ。

(↑2010.12.3)

6

三度目の待ち合わせ、インタビュー再開!!


米田:インタビュー再開の前に、一言いいですか?

川田:時間ないので、手短にお願いします。

米田:…相変わらず冷たいすね…。えっと、モールス信号で待ち合わせ場所伝えるって!めんどくさ過ぎますよ。わざわざ江口君に解読してもらってんですよ。メールで音声URL送っている時点で本文にそれ書いてくれればいいのに(苦笑)。

川田:ま、そうなんだけどね。それだとあんまりユニークじゃないかなと。

米田:もうどっちでもいいや!とりあえず再開します。

7

クリストファー・ノーラン型クリエイター


『ドーベルマン』

米田:えーと。確か前回は、映画『ウッドストック』について話していたような気がします。『ウッドストック』的なものは他にあります?

川田:フランスの刑事ものの『ドーベルマン』も相当面白いですよ。マスキングしてるだけなんですけど、すげえ編集の仕方や映像の仕方がかっこいい。僕は映像作家でもないのに、ずっとあの映画のかっこいいシーンを画コンテを自分で描いて「これ、なんでかっこいいんだ?」と研究してて、その成果をどこかに出したいなって思っていて、7、8年前なんですが、「ルノー」という車メーカーが「スクリーンセーバーを作りたい」と言っていて、『ドーベルマン』の手法でスクリーンセーバーを作ったことがあります。まだ残っていると思いますが、超好評だったんです。

映画的な手法をスクリーンセーバーのようなデジタルに落とすだけではまだ触れ幅が狭いのですが、だんだんその振れ幅がおかしくなっていって、雑誌の世界の当たり前、テレビの世界の当たり前を骨組みだけそのままで入れ換えてしまうことが、今は面白いと感じています。

米田:表面をなぞることは盗作だけど、その仕組みを解き明かして作ることは継承ですよね。

川田:何かを作る時、全部否定してから作る人がいて、アプローチとしては面白いとは思うんですけど、僕は好きなものがありすぎで、『脳内ニューヨーク』とか『インセプション』とかやばくて、あれを否定しても仕方が無い。あれは時代性なんで、まんまやっても過去の二番煎じになるので、すごいと認めて、その正体をちゃんと考えて、僕だったらこれはできるかなって。

米田:すごいものを観ると凹むという人もいますよね。僕もわりとそうなんだけど。

川田:僕は「ヤバい!」って言って、勝手に宣伝しまくる(笑)。『インセプション』を調べたら、ノーランの奥さんがなぜあの映画を撮ったかという、そこに至るまでの導線について書いているんです。『ダークナイト』とかチームであれだけの資本で作り上げる、増幅というか、細密性、『インセプション』で言うところの設計士のリアリティをいかにしてノーランが獲得したかを奥さんが説明していた。

ノーランの映画『メメント』が公開された時のHPがまだ残っているんですけど、それも実はノーラン自身が作っててですね。それがヤバいんですよ。『メメント』って、謎が謎を呼ぶんで、結構色んな受け取り方ができるし。
あと、意図的に映画というフレームの外の物語が必要になってくるんですけど、それを全部HPに載せてるんですね。それもただ載せてるんじゃなくて、そこからBUZZって話題なるようにしてる。そのサイトのBSSみたいなものを匿名で立ち上げたりとか。しかも、mement.comじゃなくて、逆から呼んだらそう読めるURLになったりしてるんですけど、公式サイトとしてはやっていなかったり。映画の枠の中だけでなく、公開されて、その外側で起こることもちゃんと演出してるんです。

ノーラン監督の才能を世に知らしめた『メメント』


米田:作り手が作品だけではなくて仕組みまで作る時代になってきたってことですね。

川田:そうですね。だから、非常に僕に自分に近い感性というか。ノーランは映画がメインフレームなので、僕はそれをなんとかARや広告でやりたいなって思ってますね。

米田:でも、川田さんと違って、例えば、チームラボの猪子さん(TS053猪子寿之インタビューを参照)は、自分のソースをファミコンとかジャンプ以外、言わないじゃないですか。たま~に他のインタビューなどで思い出したように言ってる時もあるけど、まず「覚えていない」って言いますよね。人の影響を受けてないところが自分の強みだとも言ってる。でも、川田さんは好きなものを本当にたくさんあって、それを公言してるところが面白い。

川田:僕は好きなものがあれば、すぐつぶやいちゃう。先走りすぎて、読んでもない本についても「これヤバい!」って言って人に紹介してます(笑)。もうジャケットからヤバいに決まってるから(笑)。

米田:それで今回、「マイソースをあえて5つ」としたのも、キリがないからと思ったんですね。でも、よく考えれば、5つじゃなくてもいいかもしれない。実は画像表示で5つしか載せられないってだけの理由ですから。インタビュー全部がマイソースでもいいです
よ。TSを拡張するということで(笑)。

川田:ソースを隠す人って多いけど、僕は、僕の好きな人は影響を隠さないんですよね。たとえば、忌野清志郎とかって、時期によってもろストーンズだったり影響が丸見えですね。でも、あの人が歌うとどうでもよくなる。そういう人が好きですね。姑息にパクッてるものを隠すやり方ってのもあるんですけど、僕はなんかリソースを露骨に出す。むしろレシピを出しちゃうくらいな感じ。これとこれを掛け合わすとこんなんになりますよって、もう全部言っちゃいたい。

でも、そういうのが当たり前の文化になると、映像とかCMとかってパクリがどうとか、ああいうのが意味がなくなると思うんですよ。そうじゃなくて、「ここから影響受けたから」って公言できる仕組みができたらいいなあって思うんです。「これを見て悔しいと思うからこれを作りました」とか。全然オープンでいいと思う。

米田:ヒップホップ以降の文化は真似るというより引用であって、オマージュ、リスペクトの表明っていうのがまずありますよね。全然話は変わってしまいますが、尊敬という言葉で言うと、川田さんの本で出てきた「尊敬しないけど軽蔑しない」ってフレーズが印象深かったんで覚えてるのですが。

川田:ああ、あれって橘川幸夫(現デジタルメディア研究所所長)さん本人に言われたんですよ。橘川さんと会って、サシで初めて話してる時に「俺って全然言葉弱いな」と思って、話聴いてるうちにだんだん疲れてきちゃって、ホント“精神と時の部屋”みたいな感じで、あの人が事務所にしょっちゅう呼んでくれるようになったんです。で、「この本読め」とか言われて読んでたんですけど、その後に1時間くらいフリートークをしてたんですけど、全然言葉の経験値が足らなくて、全然ダメだなって思いました。

まず、あの人が薦める本を読むと情報が本当に詰まってるし、事務所にも“本質の幕の内弁当”みたいな感じで本がいっぱいあるんですけど、その人の影響を抜け切れていないと、どうしても尊敬口調になるというか……まあ丁寧語を普通に使ってただけなんですけど、「ちょっとそれ止めてくれないか」と言われて。「俺はお前を友達と思ってるから尊敬とかやめてくれ。そのかわり軽蔑もしないでね」って。「おちゃめな人だなあ」と思いましたよ。
だから、あの人はホント、友人ですね。年齢も世代も違うけど、メディア目線で言っても、『ロッキング・オン』を作ったり、あの人はすごい知力を持っている。

『おしゃべりマガジン ポンプ』


米田:しかも『ロッキング・オン』を早々に辞めてしまって。辞めてからは何をやられてたんでしたっけ?

川田:辞めて『ポンプ』という“全面投稿雑誌”と言って、読者の投稿だけで成立する雑誌を70年代後半から80年代初頭に作っているんです。

米田:まるでソーシャルメディアみたいじゃないですか。

川田:そうなんですよ。ルールとして、投稿した人の名前住所を全部出すんすよ。ペンネームなし。

米田:へー! ホントにFacebookみたい(笑)。

川田:そのシステムをいち早くやっていた。あの人がメディアでやってきたことを、僕はお邪魔しているときに全部拝ませてもらいましたが、『ポンプ』って、読者と広告主がコラボレーションとかやってるんですよね。「こういう広告作りたいやつがいるんだけど」っていう紹介を読者間投稿でやって、それで広告とか作ってるんですよ。

米田:30年早いですね。

川田:もう早過ぎるんです(笑)。僕が『AR三兄弟の企画書』っていう本を書いた理由は、あの人が書いた1冊目の本が「企画書」っていうタイトルなんですよ。ちょっとオマージュなんですよ。だから、あの人からも影響を受けてるというのは全然隠さないです。

ヒップホップとかも、あえて「そんな有名なものでリミックスするか!」ってのが面白いじゃないですか。ネタ元を隠さないし。

米田:隠さないことがかっこいいっていう概念自体がかっこよかった!

川田:それについて、今度、猪子さんと会ったら話したいんですよね。僕はリソースを隠さないんですけど、猪子さんは、忘れようとしているはずなんです。忘却の果てにあるクリエイティブを信頼しているんだと思う。たぶん自分で意図的に何がコンセプトだったとか、何がインスピレーションの元だったかを、切ってるはずなんですよ。切って切って忘れて忘れて、生み出してものを信じているんじゃないかなって。

米田:こないだ猪子さんにはイベントでご一緒されたんですよね? ファーストコンタクトはどうでした?

川田:もう普通に、「僕もAR三兄弟ってことにしていいですか?」って、李明喜さんと3人並んで、「新AR三兄弟」って言ってました。あの人はチャンネルがいっぱいあって、あの時接した時はポップなチャンネルを選択されてたのだと思います。

米田:その新兄弟、3人とも僕はTSでインタビュー担当してますよ!(笑)。

8

表現の発明をした中での表現


AR3bros | Nouryokumura Making from ar3bros on Vimeo.

米田:でも、猪子さんって自己表現に興味がなくてクライアントの要望に応えていくソリューション型だと自分のことを言ってますよね。そこがすごく面白かったんですが、一方、川田さんは、ソリューション型なのか? 自己表現型なのか? わからない感じがします。でも、ずっと会社員としてスタッフを率いて必ずクライアントがいて、そこで要求されることから飛躍することも、妥協しながら提案するという困難もあったと思うんですよ。仕事と自己表現のバランスについて聞いてみたかったんです。

川田:自己表現に全く興味がないということはないです。でも、ギター持って愛を歌うということが即ち表現とは思っていない。つまり、それって誰かがすでに発明した表現に過ぎないですから。僕は“表現の発明”をした上で表現をしていきたい。自己表現方法を作って、その中で表現をしたいです。だって、ギターを持って歌うってのは結構なモノマネであらゆる人がやっていますから。

米田:伝統芸能みたいなものになってますよね。

川田:耳なし芳一って今考えると結構ヤバいなとも思いますよ。あらゆる要素が入っているなって。ミュージシャンでメディアで、しかも字書いているし。

米田:確かにあれは表現方法まで発明してる(笑)。

9

結成ライブが解散コンサート


懐かしの野球盤も拡張してみせる。

米田:では、川田さんが夢中になることがあった際、その理由やそれが仕事につながるとかは一切考えないで没入していく、遊びを極めることが好きで、でも結局、それが回り回って仕事になるという感じは、プロになる前からあったんですか? それともプロになってから芽生えてきたんですか?

川田:そうですね。僕はなぜか分からないんですが、損してまで表現することには興味がないんですね。そういう表現の行き着くところって、友達呼ばなきゃいけないとか、身内を引っ張ってくるとかになる。僕はそういう表現に全く興味がなくて。

僕は自分がライブをやる時も隠すんです。どこでライブやるとか、バンドやってることすら友達に言わない。僕のことを全然知らない人に来てもらいたいから僕のことを全然知らない人が知れるような広告を作るんです。でも、僕自身は、「ライブやります」とか一切言わない。

米田:潔いですね!! それは今も変わらず?

川田:今はちょっと考え方が変わったのでやりませんけど、バンドに関してはだいたいそうですね。バンドのライブに身内が集まってることが気持ち悪かったんですよね。最初は嬉しくても段々客が固まってくるのも面白くないし、バンドにファンがつくのは嬉しいんですけど、決まったリアクションとかになっていくのがどうしても気持ち悪くて。

それで、とうとう毎回バンドを結成しては解散するっていうスタイルになっていったんです。「このスタイルはきっついなあ」と思って崩壊したんですけどね(笑)。毎回恒例なんですけど、「今日は結成コンサートありがとうございます。では、みなさん残念なお知らせがあります。今日で僕たち解散します!」っていうのを、同じ客が集まっていたら分かるけど、毎回違う人が来てるから、これはギャグなのか表現なのか破綻しているのか分かんないというステージを思春期に続けていました。

米田:それは疲れますよ~(笑)。

川田:僕は音楽が好きなので色んなライブを夜な夜な観に行っては、その度に勝手にヒーローが生まれるんですよ。「ああ、このウッドベース上手いな」とか「このラッパ吹きはかっこいいな」と。それを勝手に僕の頭の中でブッキングして「この人達を集めたらどんなことになるのか?」という音楽を僕が作っては、「こんな曲僕作ったんですけど、バンドやりませんか?」って、ライブが終わった後に口説いてたんです(笑)。

それで、毎回バンドを組んでやっていた。それが僕はすごく楽しいんだけど、そのバンドメンバーが集まってライブをやる日に、ほとんど僕のライブのやりたいことは完成しているわけです(笑)。その好きだと思った人に声かけた時のワクワク感とか、あとその人達が鳴らしている音から感じるインスピレーションとかを受けているので、「こういう曲作ったんですけど」と持っていった時の、フラれるかもしれないという感覚はすごく楽しかった。まあ暇だったということもあるが。毎回違うジャンルのロカビリーもやったしスカもやったし。

米田:音楽はいつから?

川田:僕は元々3歳の時から民謡を歌っていたんです。たまに歌がくそ上手いガキがいるじゃないですか。そういうガキで。結構話題になって、老人ホームとか廻っておひねりとかもらうような民謡歌手でした。民謡って特殊な文化で、譜面がないんです。歌の先生がいて、正座させられて、「はい、じゃあ十夢君、新しい歌を歌うわよ」って、1回しか歌わず、それを覚えなければいけなかった。それが耳コピの訓練になってて、僕はそこから音楽の素養が出てきて、吹奏楽とか学生の時にやってました。音楽の話は基本口外もしていないんです。譜面とかも読むけど、特に要らないなというか、聞いたらそれを形にするってのが結構出来てしまいます。

米田:デザイン、コピーライティング、プログラミング、音楽。めちゃくちゃ多才ですよね。

川田:僕はサラリーマン時代、会社の展覧会を海外とか国内とかでやる時に毎回サウンドトラックを作って、全部自分で演奏していたんです。演奏して映像も作って、というのを5年前まで全部1人でやってた。加えて「これがうちの最新の技術です」っていう技術も、僕が作ってたんですよ。で、「これヤバいだろう」と思っていたんですけど、縫製業界が狭いことと、別に僕の名前が出てるわけではないので、誰も僕には気づかないままで(笑)。

米田:バンドのときと同じじゃないですか(笑)。

川田:当時、ツイッターとかあったら変わったかもしれないけど。まあ浮かばれないままでしたね(苦笑)。

米田:そういう新しいマルチクリエーターというか、現場を全部やってしまうアーティストというのは、例えば、自分は全然手を動かさないでコンセプトだけ考えて、全部スタッフのテクニシャンが実際に作るという人とは全然違うと思うんです。でも、デジタルネイティブって川田さんみたいに全部やるのかなって。汗かくことを厭わないというか。もちろんすごいキャパ、能力が高いからできることだとは思います。僕もよく「できれば全部自分の手でやっちゃいたい」って思うことがあります。

川田:思えば、すごい斬新なことをやっていた気がします。ミシンの音を効果音にして、リズムにして、それをトラックにして音楽を作ったり・・・・・・。斬新すぎるのを、ミシンの展示会場で聴かせてたわけです。音楽とか興味のない人に向けて(笑)。

米田:会社員なのによくやってましたね(笑)。

川田:幕張とか、展示会場のことを僕は「フロア」って呼んでましたよ。「今度、あそこのフロアで僕の曲がかかってる」って。実はただのミシンの展示会っていう(笑)。今考えるとARG(Alternative Realty Game)っぽいですけどね。

米田:でも、会社の名前じゃなくて自分の名前で世に出たいという思いはなかったんですか?

川田:いや、作る喜びがあったんです。だってそんな人いないですからね。メーカーでトップ技術を作って、それをプレゼンテーションしたり、インドネシア語やタイ語とか英語とかのプレゼンテーションの演出まで、全部一人やってましたから。「こんなやついないだろう。これはヤバいな」と思って、自分の中では大満足でした。

米田:ははは。体力よく持ちましたね

川田:なんとか。何回かぶっ倒れましたけどね。

米田:あら?そういえば、さっきから顔色悪いですけど大丈夫ですか?

川田:昔のこと思い出してたら疲労がどっと出て。。とりあえず今日はコレでいいすか?帰って寝たいです。
米田:分かりました。では今日はもう終わりにしましょう。続きはいつにしましょうか。

川田:とりあえず、一旦家に帰って伝書鳩放っておきます。さよなら。

米田:伝書鳩って、、普通に電話してくれれば。。またも、行ってしまった…。

つくづく、一筋縄ではいかない男である。そろそろ普通に次回のMTG場所を設定したいのだが、そうは行かなそうである。とりあえず、仕事場に戻って伝書鳩を待つとしよう。(多分続くけど、後半にすると思う)

Tom Kawada
1976年生まれ、熊本県出身。AR三兄弟長男。大学在学中、自らがリーダーを務めるバンドのポスターやCDジャケットのデザインを手掛けるうち、デザイン事務所でうっかり経験を積む。卒業後は、メーカー系列会社に就職し、面接時に書きなぐった「未来の履歴書」の通り、自社WEB広告のトータルプロデュース、全世界76カ国で機能する部品発注システム開発、ミシンとネットをつなぐ特許技術発案、Adobe Records インタラクティブアート部門最優秀賞+ミュージッククリップ部門 優秀賞 ダブル受賞など、人生を体現させていった。
2010年5月、未来開発プロダクション ALTERNATIVE DESIGN++として独立。代表を務めつつ、同社のプロダクトの一つであるAR三兄弟の長男として、マスメディアや物語の拡張など、奥行きのある活躍を続けている。様々なメディア拡張事例と未来についてまとめた書籍「AR三兄弟の企画書」を日経BP社より出版。2011年にはAR三兄弟初となるギャラリー、冠番組のテレビ放送が控えている。

取材日時:2010.11.26、その後不明
インタビュー・執筆:米田智彦(TS副編集長)
人物写真:NOJYO(TSフォトディレクター)

リンク:ALTERNATIVE DESIGN++

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