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加藤翼 (アーティスト) 前半


TSと季刊誌『広告』との連動インタビュー第9回。
毎回、その時々の特集テーマにゆるやかにあわせて作家を選定しているが、東北大震災を経た今回は「シェア(共有)」。家、車、仕事、情報…これからの社会を生きていくための様々なシェアを考えていくなかで思い浮かんだのが昨年、森美術館で開催された「六本木クロッシング」で初めて見た加藤翼さんの作品だった。

巨大な木製の構造体をパブリックな場所に設置し、ロープを使って大勢で引っ張り上げるというプロジェクトを大学在学中から一貫して行っている加藤さん。家をモチーフにした構造体の制作からイベントの実施まで一連のプロセスに多くの人を巻き込むことで「共有」体験をつくっている。

3.11は僕自身にとっても多くのことを考え直させる契機となった。被災者に対して被災者以外の人にできること、これからの生活と社会のあり方について、アート・クリエイティブにできることについて…明確な答えはまだ出ていないが、加藤さんの作品はその一つの可能性に思えた。

そんな彼の発想の源とは?そして震災時にはイベントのため大阪に滞在していた彼が震災後、何を考えたのか。今、家をモチーフにした構造体を引っぱり上げることの意味とは?大阪での個展が始まったばかりの加藤さんに話を聞いた。

近藤ヒデノリ(TS編集長)

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THE HOME, HOTELS, HIDEYOSHI, AWAY


「H.H.H.A.(ホーム、ホテルズ、秀吉、アウェイ)1」(2011)イベント風景:大阪市中央公会堂前・大阪(おおさかカンヴァス推進事業選出作品)

近藤:まず、始まったばかりのイベントについて聞かせてもらえますか?

加藤:ちょうど大阪で個展が始まったところなんです。これまで大阪市中央公会堂前から、大阪城公園、万博記念公園前でイベントをやってきて、市内から外れて行くごとに構造体が巨大になって参加人数も増えてきたんですが、今回の個展ではその3つのアーカイブを展示しています。

近藤:今回こういうタイトルをつけた意図は?

加藤:個展タイトルは「THE HOME, HOTELS, HIDEYOSHI, AWAY」というもので、これは僕が埼玉生まれ、東京育ちなので、大阪は仮住まい「AWAY」なんです。そんな場所で構造物をどう作っていくかと考えて、まずは6人ぐらいのスタッフの家を測量してまわって、彼らの家を組み合わせた構造体を作り、実際にみんなで引っ張るというパフォーマンスにしたんです。あと僕、秀吉の「一夜城」という、グループに分けて競争させて筏を作り、川を下って一気に組み立てて城を作る話が特に好きなので、リスペクトを込めて「秀吉」と入れました。

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引き倒しから、引き興しへ


「H.H.H.A.(ホーム、ホテルズ、秀吉、アウェイ)2」(2011)イベント風景:大阪城公園・大阪(おおさかカンヴァス推進事業選出作品)

近藤:今回の東北大震災の時は、ちょうどイベントの準備で大阪にいたんですよね。

加藤:そうなんです。当初は2回目の大阪城公園でのイベントを3月12、13日にやる予定だったんですが、3月11日に震災が起こってしまった。大阪は直接的な揺れも経験してなくて日常にあまり影響がなかったので、そんな「溝」についてや、作品が「家」をモチーフにしていることもあって「人の力で家を引き倒すとはどういうことなのか」「僕らは今、何をすべきか」など、翌日に大阪城公園に集まって話したんです。結局、翌日のイベントは中止にしたんですが、3月13日の朝起きた時に「何かやらないと何も始まらない」と思って、とにかく13日はやることにした。
それで、今まではロープを引いてもらう人にあまり詳しく説明しすぎない方がいいと思ってきたんですが、今回はちゃんと説明して賛同してくれる人だけに引っ張ってもらうことにした。あと、僕の作品は「六本木クロッシング」の頃から「引き倒し」と説明されていたんですが、こういう状況では「倒す」よりも「興す」方がいいだろうと「引き起こす」ことにしました。

近藤:なるほど! 実は先日被災地に行って3階建てのビルが津波で倒されているのを見てきて…巨大な自然の力が建物を倒したのを見た後で、みんなで何かを「倒す」ということにどういう意味があるんだろう?とも思っていたので…

「六本木クロッシング2010展」森美術館

加藤:そうですね(笑)。当時は余震が続いていて音にも敏感になっていたので、今までは構造物が倒れる時に「ドーン」と音が出ていたのを、立てないようにゆっくり引き興すことにした。手前からだけじゃなく、反対側からのロープで調節しながら引っ張ったんですが、それがすごく新鮮な感覚だった。今までは「一瞬」だからこそ、みんなで同じ感覚を共有できると思っていたんですが、今回ゆっくり動かしてみたら、これまで3秒とか5秒だった共有できる時間が1分ぐらいもあって…感動的でしたね。この体験を通じてみんなが何かを考えてくれれば僕は嬉しいです。

近藤)大阪では今回の地震に対する意識もあまり高くない中で、ひょっとすると、みんなで「引き興す」という体験が復興について考えるきっかけにもなったかもしれないですね。

加藤:そうなっていると嬉しいですね。結局、大阪で遠く離れていた僕も一度、東京に帰ってから被災地に行って来たんです。アーティストである前に人として行くべきだと思って。今月も昨日帰ってきて、来週からまた行こうと思っているんです。1月に1回ぐらい行って、何かできないかなって…まだわからないですけど。

3

当事者と当事者以外


「H.H.H.A.(ホーム、ホテルズ、秀吉、アウェイ)3」(2011)イベント風
景:万博記念公園前・大阪(おおさかカンヴァス推進事業選出作品)

加藤:それぞれが自意識をもって生きている中で、「当事者と当事者以外」というのが僕のテーマなんです。当事者じゃない人が当事者に対して何ができるのかって難しいですよね。答えはないし、必要なのは想像力だと思いますが、当事者にとってのリアルと当事者以外のリアルはどんどん積み重なって溝ができていく。僕自身も2ヶ月ぐらい経って、この環境に慣れてしまった部分もあるので、そうした溝をできる限り作らないようベストを尽くしたいと思っています。

近藤:僕らも昨晩、ちょうど同じことを話していました。最終的には、被災者のことは被災者以外にはわからないという前提があるけど、その溝を埋めようとする想像力と出来る限りのことをすることが大切だと。

加藤:そうですね。被災者と被災者以外もそうですが、たとえば、すぐ隣にいる人や自分の親でさえも、実は何を考えているかわからない。だから、僕はその「中間」に何か欲しい。それが小ぶりの構造体なら数人でできますが、もっと多くの人を巻き込むためには、中間物を中心にどんどん「多角形」ができていくことが必要。それが広がって「円」になっていけばいいなと思っています。その時、僕は中心ではなく、円をつくる一つに入るという感じです。展覧会ではそのアーカイブを見せるので、円の外側から見ることになる。そうやって円が徐々に大きくなっていけばと思っています。

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MY SOURCE:加藤翼の発想の源


加藤翼さんのこれまで影響を受けてきた人、モノ、コト。

豊臣秀吉

キャンパスの支持体

部屋の採寸

当事者と当事者以外

ラマレラ島でのクジラ漁


近藤:以前のインタビューで、構造体を作ったけど何か足りない気がして、「じゃ、転がしてみよう」というところから、このプロジェクトが始まったと言ってましたが、その背景についてもう少し聞かせてもらえますか?

加藤:元々は…何故なんでしょうね。僕、6歳違いの兄貴が成績優秀で開成から東大というようなエリートだったので、小さい頃から素直にコンプレックスを感じていて、全然別の道を行こうと決めていた。それで、絵が得意だからというぐらいの感覚で美術大学に入って、絵画科で絵を描いていたんですが、全然面白くない。自分の世界の中を表現するということが、どうしても楽しめなかったんです。
一方で、絵画科ではまずキャンバス自体を作るんですけど、その方が面白かったりした。だから、学生の時はパフォーマティブな作品とか、インスタレーションをやってたんですけど、なんか頭を使って作品を作ることに慣れてしまって…作るものがなくなってしまった。どうしようかなと思っている時に、当時11人ぐらいで住んでたアパートで、Chim↑Pomのエリイちゃんもいたんですけど、記念にというか、何か大きいものを作ろうということになった。僕自身、キャンバスの支持体作りが好きだったのと、部屋の模様替えのために採寸するのが元々好きだったんで(笑)。

近藤:それは変わった趣味ですね(笑)。

加藤:元々はそんなシンプルな気持ちで作り始めたんですが、巨大なものだから当然、自分の力が及ばないので、いろんな人にお願いして参加してもらい、広がっていった。途中で、そういうこと自体が大切だと気づいたんですが、それを形にするのは難しい。そこで力の証明というか、転がしたらいいんじゃないかって(笑)。

kato tsubasa 
1984年生まれ。武蔵野美術大学 造形学部 油絵学科卒業、2010年東京藝術大学 大学院美術研究科絵画専攻油画 修了。2007年、当時住んでいた自分と友人の部屋の間取りを合体させた構造体を引き興すを発表。その後、上野恩賜公園(2008年)、フランス ナント(2009年)でのプロジェクトを経て、2010年、東京藝術大学 大学院修了制作では巨大な“T”を模した を発表。同年、東京・森美術館での「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」に参加。今年、「おおさかカンヴァス推進事業」で選出され、大阪では初めてのプロジェクトとなる、大阪市中央公会堂前、大阪城公園、万博記念公園前でのイベントを行う。7/29~31東京国際フォーラムで行われる「アートフェア東京2011」にも参加予定。

Tsubasa KATO http://web.me.com/katoutsubasa/
無人島プロダクション http://www.mujin-to.com/artist_kato.htm

インタビュー:近藤ヒデノリ(TS編集長)
人物撮影:武田陽介
日時:2011年5月16日

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