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加藤翼 (アーティスト) 後半


1

一緒につくるということ


近藤:巨大なものだから大勢の協力がないと作れないというのもあると思いますが、そうやって一緒につくること自体を重視している気もします。その辺は何故なんでしょうか?

加藤:関係を作るというか…いい答えになってないかも知れないですが、僕は埼玉で生まれて東京の学校に行ったので、いろんな関係がいろんな場所にできてしまった。地元の友達もいるし、全然違う学校の友達もいる。家も、学校も、学校の外も美術もある…そういう様々な輪があったんです。それで、中学生ぐらいの時に「人は一人なのか否か」と考えたり、先ほど「当事者、当事者以外」の話もありましたが、結局は他人のことは絶対にわからない中で、何をするかと考えたり…変な寂しがり屋になってたんですよね(笑)。でも、そういう世界に幾重もある人の輪を、何か表現でつなぎたいというのも欲求としてあったかもしれません。
フランスで制作した時も、僕は英語がペラペラなわけでもないし、スタッフのフランス人も同じぐらいの英語レベルだったんですけど、一ヶ月くらい一緒に構造体のパーツを作るという地道でつまらない仕事をしていく中で意思疎通ができている感じがすごく嬉しかった。毎回、何か発見とか、嬉しいことがあるのがデカいですね。

近藤:話を聞いていて、どこか以前インタビューした遠藤一郎さんに共通するものを感じました。彼もバラバラになっているコミュニティーを「未来へ」という共通するテーマとか、彼の活動を通してつないでいきたいと言っていますよね。

加藤:遠藤一郎くんはパフォーマーであってメッセンジャーだから、人がグワッと集まる中心に一郎くんがいると思うんですよ。でも、僕の場合はやっぱり構造体が真ん中にある。きっかけを作ったりデザインを考えるのは僕ですけど、構造体を引っぱる前の段階で、そのパーツを作る小さなコミュニティーも必要なんです。そんな意味で今回、大阪で初めて構造体のデザインから知らない人とやったのも新鮮でした。「家を採寸させてください」と人の実家に行ったんですが、実際に家を見るとグッと親近感が上がるんですよね。そういうちょっとしたことで、社会的なつながりの垣根を少しでも越えていきたい。一緒に採寸していると、その人自身も驚きがあったりする。そういう風に日常のなかに驚きを見つけて欲しいというのもあります。

2

「感動的であること」「勇気ある行動を行うこと」「リスペクトがあること」


「RAINBOWROAD」(2009)イベント風景:柏駅前歩行者天国・千葉

近藤:今回の展示パンフレットには3つの信念が書いてありますけど、これについて聞かせてもらえますか?

加藤:震災もそうですが、目の前に何か大きなものが立ちはだかった時って、孤独感と無力感が絶対にあると思うんです。そこからどう一歩目を踏み出すか。僕も制作現場に入る時は毎回、知らない人との作業が始まるんですが、そういう時の姿勢としてこの3つが大切だなと。

"Last Bros(Leo)", Lauan Plywood, OSB, Japanese red pine raffer, SPF, Tiger rope, a set of furniture(brother was using), Tokyo

まずは「感動的なことをしたい」というパッション、気持ちが何かを動かすと思うんです。それでも一歩目を踏み出すのは大変なので、「勇気ある行動を行うこと」。それが正しいかどうか迷う時があっても、ほとんどの場合に正解はないし、結局は何をしたいかが大事だと思うんです。あと、やはり恊働作業なんで、相手や環境に対するリスペクトをもっていなくちゃいけない。そういう姿勢をもつことで、ちょっとずつでも進んでいけるんじゃないかと思っています。

近藤:よくNPOなどで大勢の人と非営利の活動をするには理念が大切だと聞いたことがありますが、加藤さんの作品もアート作品でもあるけど、大勢の人が参加するパブリックプロジェクトなので、参加を意味づけする言葉というのは大事なんでしょうね。

加藤:僕はアートが一番いいなと思うところは、すごく開かれているところなんです。誰でもできるし、誰に対してもできる。テクニカルな部分の重要性は他の業界に比べて限りなく低いですよね。大事なのはコンセプトとか、理念、アイデア。生きている人の数だけアイデアがある。そういう意味でアートはすごくいい道具だと思っているので、僕はそれを使ってパブリックな場所で関係を作っていきたい。

3

共通の体験を持ち帰ってほしい


"Meeting and Money" Lauan plywood, OSB, Japanese red pine raffer, SPF, Tiger Rope

近藤:パブリックな場で人の関係を作るには、何かを一緒に作ったり引き興したりという体験を共有することが大きな意味を持つと思いますが、その辺は元々意識されていたんですか?

加藤:大学の時に一度やって「これはすごくいいんじゃないか」と思って、次に母親とやって、地元の友達とやって、父親とやって…ちょっと外に持っていこうとお台場とか東京タワーの前でゲリラ的にやったりしていたんですが、武蔵野美術大学を卒業して東京芸大に行く途中の1年間に人類学を教えている関野吉晴さんという探検家に出会った。彼の「グレートジャーニー」プロジェクトに遠征スタッフとして参加して、インドネシアのラマレラ島に、船のリサーチに行ったんですね。そこはクジラを穫っている島で、村は何個かのグループに分かれているんですが、初めは一つのグループが独占したがるんです。でも、クジラが巨大なので途中で手に負えなくなって、だんだん村全体で漁をするようになっていく。そういう原始的な作業を実際に体験して、そういうのが日本にもっとあったらいいなと思ったんです。今のリアルを生きている人が交差するところで、一瞬ですけど、ちょっとでも何か共通の体験を持ち帰ってほしい。持ち帰って「あれ、何だったんだろうな」と思うだけでもいいなと思っています。

4

今後について


近藤:最後に今後、例えば家以外のものをモチーフに巨大な構造体をつくってみたいという思いなどもあるんですか?

加藤:一度、フランスでのプロジェクトでアルファベットの「A」を作ったことはあるんです。「KTSUBASA KATO」というアルファベットを世界のいろんなところで建てて、ビデオの最後に使いたいぐらいの思いでやったんですけど、完全に中断してもうやる気もないです(笑)。やっぱり家とか、何かが滲み出ているものの方がいいんですよね。以前「引き倒し」という言葉から、例えば国会議事堂のように「権力の象徴のような構造体を作ってみんなで引き倒したりしないの?」って言われたりもしたんですけど、今のところは、プライベートなものをパブリックな場に出すから面白いと思っています。元々パブリックなものを作ってデモのようにしてしまうのは…自分の中に発見がない気がしています。

近藤:ちょっとわかりやすすぎる気もしますね。では、今後も家などプライベートなものをモチーフにしていくというなかで、もっと大きくしていきたいとか、どんな展開を考えているんでしょうか?

加藤:その辺は僕もずっと考えています。今回、大阪で初めて簡易足場を使って作ったんですけど、そういうのを使い始めると際限がなくなっていきますよね。だから、使うのは脚立までにしたいとか、あくまでシンプルに人力でどこまでやれるかという方が、僕としては楽しいなと思っています。

近藤:必ずしもクリストのように最初は小さいオブジェを包んでいたのが、どんどん大きくなって、巨大な建造物を包むようになるわけではないんですね。

加藤:そうですね。このプロジェクト以外でも、いろいろなプロジェクトをやって相対的に見せていきたいという願望もあるし、このプロジェクトは1年に一度は必ずやりたいと思っているので…10年、20年後はわからないですけど(笑)。

近藤:楽しみにしています。今日はありがとうございました。

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interview by:

近藤ヒデノリ Hidenori Kondo
クリエイティブディレクター、HAKUHODO ART PROJECT 共同主宰、TOKYO SOURCE編集長、季刊誌「広告」編集委員、ACT FOR JAPAN 発起人

1971年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。博報堂に入社後、休職してNY大学芸術学部/ICP修士課程で写真と現代アートを学び、9.11直前に帰国。同社に復職後は、TVCMやウェブなどの広告を制作しながら、個人としても個展・グループ展、展覧会キュレーション、書籍の編集など手法を選ばず表現活動を続けている。ラクダ似な旅好き。(photo: Suguru Takeuchi)
ブログ「TRAVEL HETEROPIA」http://d.hatena.ne.jp/camelkondo/
Twitter@KondoHidenori
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kato tsubasa 
1984年生まれ。武蔵野美術大学 造形学部 油絵学科卒業、2010年東京藝術大学 大学院美術研究科絵画専攻油画 修了。2007年、当時住んでいた自分と友人の部屋の間取りを合体させた構造体を引き興すを発表。その後、上野恩賜公園(2008年)、フランス ナント(2009年)でのプロジェクトを経て、2010年、東京藝術大学 大学院修了制作では巨大な“T”を模した を発表。同年、東京・森美術館での「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」に参加。今年、「おおさかカンヴァス推進事業」で選出され、大阪では初めてのプロジェクトとなる、大阪市中央公会堂前、大阪城公園、万博記念公園前でのイベントを行う。7/29~31東京国際フォーラムで行われる「アートフェア東京2011」にも参加予定。

Tsubasa KATO http://web.me.com/katoutsubasa/
無人島プロダクション http://www.mujin-to.com/artist_kato.htm

インタビュー:近藤ヒデノリ(TS編集長)
人物撮影:武田陽介
日時:2011年5月16日

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