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川村真司 (Creative Director, Founder / PARTY) 前半


昨年末にWeb上でリリースされ、あっという間に世界中で話題を呼んだSOURのインタラクティブ・プロモーションビデオ(PV)作品『映し鏡』

入力画面で自分のFace bookやtwitterのアドレスを入れると、当人の画像データやつぶやきなどが自動的に読みこまれ、その人自身の「映し鏡」のように独自の映像体験をもたらしてくれる。画面の枠内で展開するPVと違い、映像が画面を飛び出してGoogleやFacebookなど様々な画面を渡り歩く…自分のデスクトップ上をジャックされたような感覚に驚いた人も多いはず。

僕自身、TwitterのTLで流れてきたのを見て「これはスゴい!」とつぶやいたら、あっという間に元会社の後輩でもある川村真司くんとつながり、あれよという間に正月早々、早速インタビューすることに。その後、原稿作業に手間取っている間に『映し鏡』は予想通りカンヌ、NY ADC、クリオ、アドフェス、アルスエレクトロニカなど世界中のアワードを総なめに。そして、インタビュー当時、ニューヨークの広告会社に在籍していた川村くんは東京で新会社、PARTYを設立…まさに、今回のSOURのPVと同じく世界は狭いと感じさせるめまぐるしい展開。

…というわけで、アップがだいぶ遅くなりましたが、
今、読んでも十分面白い内容なので公開することにしました。

インタビュー・構成:近藤ヒデノリ(TOKYO SOURCE編集長)

1

「SOUR/映し鏡」について


米田:僕と近藤で同じ日にTwitterのタイムラインで流れてきたSOURのPV(「映し鏡」)を見て「すごい!あんなの見たことない!」って驚いたんですよね。

近藤:驚いてコメントしたら、あっという間にいろんな人から「TSでインタビューしてくれ」とRTされて……せっかくなのでこういう機会を逃さず会おうと(笑)。そんな流れもどこかSOURっぽいですね。

SOUR「映し鏡(MIRROR)」

川村:縁ですね。前作でSOUR自身も言っていましたが、作品のテーマ自体がつながることだったので、作品を通してバンドと誰かがつながったり、新しいクライアントと会えたり、興味もってくれるクリエイターともこうして会えたり…素敵な出会いを生む作品だなと思います。今回はもうちょっとパーソナルな経験がテーマですが、やっぱり他者の存在を通して自分に気づくようなことですし。

米田:それにしても、あんなにブラウザがたくさん立ち上がるPVは初めて観たんですけど、前例があるんですか?

川村:一番近いのは、GoogleがChromeブラウザ用に作ったアーケードファイアの『Wilderness Downtown』ではないでしょうか。僕らが半分くらい作り上げたタイミングでローンチされて、ちょっとびびりましたが、根本のアイデアが違うから気にしないことにしました。

SOUR「映し鏡(MIRROR)」

今回の基本コンセプトは僕が思いついたんですが、一人じゃ絶対に実現できないので、まずIMG SRCの清水幹太さん(現PARTY)に相談しました。一緒に仕事したことはなかったんですけど、作品はよく知っていて、一回会った時に直感的に任せられる人だなと思えたので、「お金ないんですけど、一緒にやってくれませんか?」と話したら「是非」という感じで始まってしまいました。僕もたまたま日本に帰ってたので、直接お会いしてコンテを見せて一緒にいろいろ相談をしたんです。僕は技術のことを気にしつつも、それに囚われずにアイデアをつくり、彼はそれをテクニカル面からできるかどうか判断していく。修正する場合は「コアアイデアがこうだから、逆にこういうのはどう?」と返してくれて、僕は「そういうことができるなら、逆にアイデアとしてこれはどう?」みたいな感じでどんどんと進む。まさに、技術がわかるクリエイティブ・ディレクターと、アイデアがわかるテクニカルディレクターという新しいチームワークを実現できた仕事でした。

近藤:技術面とアイデア面で常にフィードバックしながら進めていくというのは、理想的ですね。

SOUR「映し鏡(MIRROR)」

川村:そうやってリファインしていった感じです。実は後半のTwitterの部分は、別件で大阪のSaqooshaさんという方と別件で作ってたんですが、うまくいかなくて……逆に『映し鏡』とすごく合うから「お金ないけど、こっちで使っていい?」と相談して、彼も「是非やろう」って言ってくれて。撮影は、僕がニューヨークにいて撮影できないから、葵プロの大野さんっていう若手演出家に実写パートだけお願いしました。特に大変だったのはブラウザウィンドウでできたバンドメンバーのパートで、そこは僕がレイアウトと映像の遷移の順序を考えて、大野さんの方でタイミング合わせてスタジオで撮ってくれました。なので、基本は4人のディレクターチームと、葵プロのプロマネやプロデューサー、それとマスマスの村上さん、S2ファクトリーの方たちで作ってます。彼らと「お金はないけど、これは絶対新しいものになる!」「これは男のロマン仕事だよね」などと話してましたね。

2

ゼロバジェット/「Kick Starter」で資金集め


米田:SOURの一連のPVって、基本的に仕事じゃないんですよね。

川村:個人プロジェクトです。SOURの星島くんが僕の高校の同級生で。芸術系の学校ではなかったので、僕らはちょっと異質な感じで…彼はずっと音楽、僕は絵ばかり書いていて、音楽の趣味も合うから仲良くなったんです。それで、2002年に彼から「SOURというバンドを始めるから、手伝ってくれ」と言われて、聴いてみたらすごくよかった。そこから一連の「ゼロバジェット・プロジェクト」が始まりました。

近藤:でも、制作費がないところから、あれができちゃうのがスゴい。

KICK STARTER(米)ソーシャルな資金調達プラットフォーム

川村:皆、お金じゃないメリットがあるからやってくれるというか、実験を自由にさせてくれるし、音楽としてもいいから、やりたい人で集まってやる感じですね。そういうやり方の限界もある気はするんですが、今まではそれが逆に「どういう表現技法なら実現できるか」といい方向に働いたんです。でも、今回はやはり予算がないとできない仕事だと思ったんで、戦略的に「キックスターター」を使いました。

近藤:「キックスターター」使ったんだ。実際にいくら集まったんですか?

川村:約5000ドルですね。50万くらいです。

近藤:広告界の映像予算としても、PVの予算としても微々たる額だよね。

川村:ほんとそうです。人件費は、皆いいって言ってくれたんですが、サーバ代などどうにもならないコストは自腹で出すようになっちゃう。ただ、キックスターターは事前に作品をティーズする意味でもすごく便利だったし、面白かったのは、ファンの期待度みたいなことも伝わってくるんです。「頑張れよ」って言われてる気がしてかなり励みになりました。あと、前作(「日々の音色」)で「参加できることをもっと前に知りたかった」という人が一杯いたので、今回は早めに告知して参加できるようにしたかったんで、その一環としても意味があったと思います。他にも、事前にSOURオフィシャルをフォローすると参加できる仕組もあったり…その辺の参加の仕組は結構早めに考えてました。

3

映像の枠自体を飛び出る体験


近藤:色んなウインドウを使うこと自体は前例があったと聞いたけど、今回のようにGoogleやFacebook、Youtube入っていったり、色んなプラットフォームを移動するようなことは、どの辺から考えついたんですか?

「IS Parade」
Twitterアカウントで楽しめるジェネレーター。TwitterのIDを登録するとフォロワーがキャラクターになってパレードする。auスマートフォンのプロモーションとして2010年4月30日に公開され、11月15日までに1350万回のパレードを行った。

川村:「映し鏡」は歌の内容が、他者とか身の回りのものを通して自分を知るというテーマなんですが、最初はあまりTechy(技術的)なことをするつもりはなかったんです。だけど、曲を聴けば聴くほど、オンラインコミュニティとその中の自分の存在…例えば、Facebook上の友人とか、Twitterのフォロワーなどを通して自分の交友関係や自分がどういう存在かがわかるということとリンクしてきて、必然的にそういうのを上手く使えたらと思い始めたんです。それで、色んなサイトを横断するようなものになりました。GoogleもTwitterもFacebookもYoutubeも皆、常に使ってますから。それまでも、「IS PARADE」のようにソーシャルネットワークと繋がった優れた事例もあったけど、ソーシャルグラフのヴィジュアライズしかしてないので、もっとうまくそのデータを活用してエンターテイメントコンテンツにしたいと思って…

「UNIQLOCK」
「MUSIC×DANCE×CLOCK」という言語の壁を越えたコミュニケーションをコンセプトとし、24時間再生され続けるUNIQLOウェアのプレゼンテーションとして世界中に話題を呼んだ。

近藤:たしかに、これまでもTwitterなどのデータを使った事例はあったけど、どれも一つのウィンドウに収まってたし、PVも基本は画面という枠の中だったのが、今回はその枠自体を飛び出して渡り歩いちゃったのが画期的でしたね。UNIQLOCKも、それまでの15秒とか30秒というCMの時間の枠を壊して24時間の映像をつくったけど、SOURは映像の枠自体を飛び出ちゃう、まったく新しい体験だったと思います。

川村:そうですね。映像体験として違った趣きのものにしたかったんですね。

近藤:そもそも映像なのか、PVなのかもわかんなくなってくる。

川村:他に呼び名がないから、「インタラクティブ・ミュージックビデオ」ってとりあえずは言っとこうかと思っています。だから、Youtubeで録画を観ても、実際に体験してみるのとは全然違う。自分のデスクトップがハックされて初めて 100%体感できるものなんですよね。枠がなくなっちゃうから、驚く。「昔、エロサイトに行ったときに(ウィンドウがいっぱい開いて)やっちゃった時みたい」というコメントも頂いたり。

4

エモーショナルな部分を大切にする


米田:SOURの音楽自体は、3ピースバンドという普遍的なスタイルですよね。それをデジタルテクノロジー使っていろんなメディアを横断しつつ、最終的にはヒューマンでエモーショナルに表現するというのが、川村さんならではなのかなと。

SOUR「日々の音色(Hibi no neiro)」

川村:それは大事だなと思っています。僕は今回に限らずPVとかミュージックビデオを作るときは、曲をすごく聴きこんで、その世界をどうヴィジュアライズするかだけを考えています。これまではビデオというフォーマットで収まってましたが、前回は撮影するメソッドから新しく考えた。今回はそれをさらに進化させて、映像という枠組みから逸脱する新しいメソッドを見せる試みをやってみたんです。聴覚だけではなくて、視覚でも体験できるようにするのが目的で、音楽で伝えたかった世界を五感で味わわせるためにどんなことができるかと考えました。あとは、僕の表現の好みでもあるんですが、人間っぽさとか、温かさとか、手作りの感じとか…SOURの音楽なら、デジタルな技術を使っても、そういうものを感じさせることはできるなと思ったんです。前作(「日々の音色」)も、最後まで気にしていたのは、人間の手で作られている感じで、人が頑張ってやったクオリティを出したかったので、自分で一度プロトタイプを全部作ったんです。タイミングもしっかり合わせて検証してから、参加してくれる人に動きのガイドになるビデオを送ってるんです。

米田:デモテープ作って、その通りに演奏してる感じですよね。

川村:そうなんですよ。なので、参加する人たちはデモを自分のパソコンに開いてスカイプを開きつつ、「せーの!」でデモに合わせて踊ってもらって、それをスカイプでこっち側で録画しています。やっぱりデモを作ってみたことで、編集に頼った人工的なモノにならず、ヒューマンな質感が出せたかなと思ってます。今回の映し鏡では、現れてくる情報や、モーションキャプチャによる細かい人の動きとか、そういった部分で人間ぽさを感じさせる演出をしています。

5

大勢によるコラボレーション作品


マックス・エルンスト「Exquisite Corpse」

近藤:前作(日々の音色)も今回(映し鏡)も多くの人が参加して作り上げていく作品になってるけど、そういう参加型の作品をつくろうとした発想の源って何かあるんですか?

川村:皆でコラボレーションして作り上げるというプロセス自体、すごく興味があって…シュールレアリズムの時代に確かマックス・エルンストが「Exquisite Corpse」というのをやっているんです。折った紙に最初にアーティストが絵を描いて、誰かがその下に胴体を描いていくというもので…プロセスとして当初予想してなかったものが出来上がるようなメソッドが面白いなと思ってたんです。

川島高+アーロン・コブリン「Ten Thousand Cents」

あと、川島高さんとアーロン・コブリンによる「Ten Thousand Cents」っていう100ドル札のアートプロジェクトがあって…これはアマゾンのサービスを使って、作業への対価として1セント払うようなシンプルな仕組で、クラウドで作業を分担するという作品だったんです。1万のグリッドに区切った100ドル札があって、一つ一つのグリッドをネット上でみんなに模写してくれって言ったんです。それが1万個返ってきたら、くっつけ合わせて100ドル札を再構築して実際に印刷して、サインして100ドルで売るというようなもので、色んな人の努力を結集してつくる感じが面白かったんですね。あとは、作品ではないですけど、昔から甲子園でのPL学園とか…マスゲーム的なものが好きなんですよね(笑)。

6

パーソナルで、常に変わる、カスタマイズされた体験


近藤:佐藤雅彦研究室出身というのは、今も作品づくりに関係していますか?アルゴリズムとか、大人数でつくったり…。

川村:そうですね。やっぱり僕の考え方の原点は、佐藤雅彦先生の影響を受けていますから。アルゴリズムとか、ルールに基づいている表現というものは好きですね。ピクセルやアニメーションも昔から興味がありましたし。

近藤:今回のSOURのPVも、ルールというかプログラムがあって、そこにTwitterなどの情報を入れることによって、様々な表現が展開するわけですしね。

川村:そういう意味で、ユーティリティとかツールみたいなものでもあるし、ウェブ上に存在している観光地というか。

米田:映像作品というよりもプラットフォームみたいなイメージですか?

川村:そうですね。例えば、2回試してもGoogleの検索結果が変わったら違う体験が得られるし、見る時間によって、フレンドの数が変わっても映像が変わる。「パーソナルで常に変わる、カスタマイズされた体験」というのが新しいと感じてました。

近藤:普通は映像って、ディレクターのディレクションで完成したものは絶対変わらないものだけど、それが常に変わっていくというのはウェブ的だし、人間そのものにも近いですよね。1億人がやれば、1億人分違うタイプができる。まさに今、ネットで常に接しているリアリティが切り出された、時代を象徴する作品だなと思いました。

川村:うまくはまりましたね。そんなに意識していたわけではないんですけど、やっぱり「映し鏡」だし、オンラインというのも逐一変わっていくものだから、その一瞬をうまく見せることがどうやってできるのかと考えました。

米田:ちなみに、プロトタイプはあれで終わりですか? AR三兄弟の川田くんは「プロトタイプを作る人は、毎回読み切りで、すぐ次のアイデアにいっちゃう」と言ってましたね。ただ、「毎回読み切りだけど、毎回新しい読者を獲得する」と。

川村:まさにそういう感じですね。「一回やったら、その山は登ったのでもう行かない」というか。僕は毎回表現技法も違うし、今回はすごくインタラクティブで技術的な面が出た感じですけど、その前はTシャツ作ったり、虹の本を作ったり…見返してみると、その辺ごちゃごちゃなんですよね。

7

「Every day is special」


EVERY DAY IS SPECIAL 2011, calender

近藤:毎日が祝日になっているというカレンダー、「Every day is special」も個人的にすごく好きな作品です。

川村:あれも自分プロジェクトですね。3年前くらいに江口宏志さん(ユトレヒト)に相談したんですけど、毎年時間がなくて…今年は3年目の正直で完成させたんです。あれなんかもデジタルのデの字もないというか、アイデアのみですよね。

近藤:100%アナログ。これは本当に365日全部に祝日があったんですか?

EVERY DAY IS SPECIAL 2011, calender

川村:ちょっと強引な日付が2日くらいありますけど(笑)、基本は全部実在の祝日を入れてます。よく言うんですけど、僕はメディアとかメソッドとかツールより、一番大事にしているのはアイデアなんです。課題に応えるとか、何かを伝えるために必要なアイデアを考えるのが好きだし、得意だと考えてて、その上でどのメディアで表現すればいいかを探検するようにしてます。

近藤:まさにメディアニュートラル。

川村:そうですね。今回も「映し鏡」を面白い体験にするにはどうしたらいいかと考えて、たまたま、すごくテクニカルなものになったけど、それが曲と合っていて、音と相乗効果で面白い体験をくれるものなら、彫刻だって良いし、無形のものとか、インスタレーションっぽいものでもかまわない。その辺は自由だと思っているので、最近はインタラクティブの枠組で括られることが多いんですけど、正直「困ったな」という感じです。

Masashi Kawamura
Creative Director, Founder / PARTY
東京生まれ、サンフランシスコ育ち。慶応大学佐藤雅彦研究室にて「ピタゴラスイッ チ」などの制作に携わり、卒業後CMプランナーとして博報堂に入社。2005年BBH Japanの立ち上げに参加し、2007年よりアムステルダムの180、その後BBH New York、Wieden & Kennedy New YorkのCDを歴任。Adidas、Axe、Google といったブランドのグローバルキャンペーンを手がけつつ、個人での制作活動も 精 力 的 に 行 っ て い る 。「 Rainbow in your hand 」といったブックデザイン、SOUR「日々の音色」「映し鏡」ミュージックビデオのディレクションなどその活動は多岐に渡る。ロンドンのプロダクションSTINKに、フィルムディレクターとしても所属。主な受賞歴に、文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門最優秀賞、AdFest Design & Cyberグランプリ、アヌシー国際アニメーションフェスティバルミュージックビデオ部門グランプリ、NY ADC Gold、One Show Design Best of Show、等。http://www.masa-ka.com/

インタビュー:近藤ヒデノリ、米田智彦(TOKYO SOURCE)
人物写真:Munetaka Tokuyama
書き起こし・編集協力:大島公司、太田美奈子
文・構成:近藤ヒデノリ
日時:2011.1.4
場所:赤坂某喫茶店

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