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西尾美也 (アーティスト) 後半


1

西尾工作所ナイロビ支部の活動について


セルフ・セレクト#36(ナイロビ), 2009
ラムダプリント、アクリル加工
h:36.4 w:51.5 cm

近藤:元々は個人旅行がきっかけでナイロビに移住して活動を始め、2009年には西尾工作所ナイロビ支部も設けられたそうですが、支部の役割とスタッフはどんな感じなんですか?

西尾:ナイロビでの活動は、妻がケニアで地域研究を勉強していたのがそもそものきっかけです。西尾工作所ナイロビ支部は、僕と妻、友人ケニア人から構成されていて、アートレスな場所でアートを実践するマネージメントチームとしてスタートしました。具体的には、僕がコンセプトメイキングとクリエイションを担当し、プロジェクトを実現するために妻が企画書の作成から助成金申請、関係諸機関との交渉、広報、翻訳などあらゆる業務をこなします。ケニア人スタッフは、スラム出身でスポーツ科学と日本語を学ぶ一般の大学生ですが、リサーチアシスタントもファシリテーターもパフォーマーもボディガードも務めてくれます。

今年初めから「海外経験のないスタッフのケニア人をイギリスに連れて行き、《セルフ・セレクト》をさせる」というプロジェクトを企画して準備を進めていたのですが、直前になってVISAの問題でケニア人の渡航ができなくなり企画が頓挫しました。このプロジェクトでは、「一般ケニア人をアーティストにする」ということがひとつのテーマになっていたのですが、この機会にスタッフという見方を辞めて、メンバーとして、ある意味アーティストとして、もっとコアに関わってもらおうと、西尾工作所ナイロビ支部の方針を少し変更しました。

今は交換学習として、僕が日本語とアートを彼に教え、彼が英語とフィットネスを僕と妻に教えてくれています。彼のアイデアでプロジェクトを実現させることが、ひとまずの目標です。また、アフリカのためのアートをやっているつもりはないので、イギリスは実現しませんでしたが、このメンバーで他国に進出してプロジェクトをやってみたいなと思っています。

2

分類できない「よくわからないもの」を立ち上げる方に興味がある


CHAKUKUPA SINA NAKUOMBEA SALAMA, 2012
カンガ、布
h:100 w:140 cm
展示風景:「Kangaeru Street Fashionshow」2012年/ランガタ・ロード/ナイロビ/ケニア
撮影:James Muriuki

脇屋:アフリカではタイヤを草履にリサイクルしたりと、日本の江戸時代のように直したり、他のものに作り替えるなど、ものを最後まで大切に使い切ると聞きます。「作る」ことが身近なアフリカと現代の日本で人々と美術との距離に違いはありましたか?

西尾:「大切に使い切る」という背景にはもちろん貧しさの問題があって、貧しいということはやはりいわゆる「美術」とは無縁な人がほとんどです。身近なものを創意工夫するかれらの姿を一方的にクリエイティブだと思うことは確かに多くて、西尾工作所ナイロビ支部では、そういった日常の実践者たちとコラボレートするという発想で独自のアートプロジェクトを実践しています。

一般のケニア人にとってはギャラリーや美術館に行って作品を鑑賞する機会も少ないし、そういった習慣もありません。一部の人がアーティストとして、絵を描いたり、彫刻を作ったり、時にはインスタレーションをしたりしますが、僕からすれば、かれらはアーティストを振る舞っているように見えてしまって面白くありません。それにくらべれば、日常の中で出くわす造形やモノの配置ということの方が僕にとってはよっぽど魅力的です。

PENZI NI UA HALITAKI JUA, 2012
カンガ、布
h:110 w:300 cm
制作風景:「Kangaeru Workshop」2012年/コロゴチョ/ナイロビ/ケニア
撮影:塩尻吉太郎

僕の問題だと思いますが、もともと日本でもアーティストの友達なんかほとんどいませんし、アートを語り合うなんてことには興味がない。わざわざケニアまで来たのに、その中でアーティストとつるんだり、小さく欧米型のアートのあり方を再生産するようなことは面白くないと思っています。美術という分野以前の実践者たちに学び、協働することで、分類できない「よくわからないもの」を立ち上げる方に興味があります。幸い、かれらは好奇心と時間があるので、よくわからなくてもとりあえず付き合ってくれるというところがいつも心強いです。かれらにしたらそれが「美術」かどうかはどうでもいいという態度も僕としては居心地がいいです。

かといってケニアのアート関係者と、一切、関係を持たないかというとそうではありません。僕たちのアートプロジェクトもまた確かにアートだと、興味を持ってくれているので、展覧会に参加したり、かれらとの面白いかたちのコラボレーションのあり方を探ったりしています。

日本では各地でアートプロジェクトが増えていて、一般の方をプロジェクトに巻き込むことが多いですよね。アートプロジェクトや現代美術が身近なものになって、受け入れられている場合が多い。アーティストとしては、そのことでもちろんやりやすい点もあれば、逆につまらなくなる場合もあり得ると思います。いずれにしても僕は「美術」よりもっと日常的な「装い」に着目することで、「美術」という分野が制限している問題を時に利用し、時に乗り越えながら、場所を選ばず実践していきたいと思っています。

Domino/ Omondi, 2012
古着、スチレンボード
h:88 w:84 d:28 cm ×3
展示風景;「AfterGold」2012年/ラフバラ/イギリス
撮影:Julian Hughes

脇屋:ロンドンオリンピックの選手村で作品を発表されたと伺いましたが、国の威信を背負って競技に向かう人々が集う場所で展示することはプレッシャーや気を遣わなければならないこともあったと思いますが、いかがでしたか?

西尾:ロンドンオリンピック関係で招聘されたアーティストというと、やたら立派に聞こえますが、実際、公式の関連文化イベントは数千とあり、そのうちのひとつでしかありません。芸術祭の主催は、毎年街との関わりに重点を置いてアートプロジェクトを実施している大学のアート研究機関でしたが、今回はオリンピックの機会を利用して日本人アーティストを招聘するというものでした。

滞在期間も選手より早い時期でしたし、実は日本人の選手村が直前で変更になったというニュースを現地で知ったのですが、そのことに芸術祭関係者がショックを受けている様子はありませんでした。主催者も僕たちもアートを実践することが目的だったので、オリンピックだからというプレッシャーは皆無でした。

先ほどお話した、一般ケニア人をイギリスに連れて行こうとしたプロジェクトは、このための企画として考えたものでした。割と時間をかけて準備していたのですが、渡航3日前のVISA拒否という結果で、悔しい気持ちと同時にもちろん焦りもありました。3日後から彼がいない中で、何か作品作りを始めなければいけないという状況だったので。アートじゃなかったら、こんな直前のプラン変更は成り立たないのではないかと思います。実際は、プロセスもまた作品の素材になるというアートの技術で、この困難は乗り越えることができました。

3

FUTURE SOURCE


家族

ファッション

アフリカ

ロンドン

現代演劇



脇屋:今注目しているもの、人、モノ、コトを5つとその理由を教えて下さい。

1.家族
妻との協働や子育てを通して、「家族を作る」ことの楽しさや責任を実感。

2.ファッション
アーティスト活動の「普及版」として、ビジネスとして成り立つファッションブランドを始めたい。

3.アフリカ
文化庁の在外研修中でケニア国内しか滞在を認められておらず、その強い反動でケニア以外に行ってみたい。

4.ロンドン
ファッションとアート、アフリカに関する独自の知見と経験を総合して発表するには最適な場所。

5.演劇
装いの実践者を役者と捉えると、現代演劇の手法で新しい表現を模索できるかもしれない。

4

《Form on Words》
アートと大量生産の間にある誰もが所有可能で使用可能な作品


Form on Words Fashionshow, 2011
デザイン:古田由佳利
展示風景:「アーティスト・イン・児童館」2011年/練馬区東大泉児童館/東京
撮影:齋藤剛

近藤:2011年にはナイロビでファッションブランド《Form on Words》を設立したそうですね。実験的なアートプロジェクトだけでなく、そこから得たものでお金がまわるビジネスを起こしていくところが興味深いですが、西尾さんがこのブランドで目指していることと、自身のアートプロジェクトとの関係性、アーティストとしての未来像について教えてください。

西尾:《Form on Words》の設立は東京です。2008年から3年間続いた練馬区の児童館でのアートプロジェクトを発展させる形で、ファッションブランドとしてスタートしました。ブランド名はその時のプロジェクトタイトルである《ことばのかたち工房》を英語にして、ファッションブランドっぽくするというふうに付けられました。

立ち上げてすぐに僕はナイロビに来てしまったので、僕はスカイプ参加だけで、実際は東京にいる有志メンバーが実働部隊です。僕の装いに対する考えや活動をオープンソースにして、集まってくれたファッションデザイナーやワークショップデザイナー、グラフィックデザイナーなどの有志メンバーがブランドを作っていくというイメージです。つまり、《ことばのかたち工房》は児童館の子どもたちが対象でしたが、《Form on Words》は、専門家を対象にしたワークショップのプロジェクトだということになります。

その背景には、僕の装いに対するコンセプトを、改めて「服」に落とし込んで提示したいという僕自身の強い思いがあります。最近、アーティストとしての自分自身の活動を、「服を作らないファッションデザイン」と定義してみたいと思っています。「服を扱うアート」でもいいのですが、あくまでも今の時代におけるファッションデザイン行為として自分の活動を捉えてみる。というのも、ファッション表現が多様化する時代において、そのひとつの極限は服を作らないという方法になっていく可能性があると思っていて、もしそう仮定すれば、自分の活動は現状のファッションデザインを圧倒的に先取りしていると言えます。

Form on Words Fashionshow, 2012
展示風景:「アサヒ・アートスクエア パートナーシップ・プロジェクト2012 Form on Words:
ネクスト・マーケット[ジャングルジム市場]」2012年/アサヒ・アートスクエア/東京
撮影:湯浅亨

ファッションの用語で言えば、こうしたアーティストとしての活動は、コンセプトを実現する「コレクションライン」と位置付けることができます。これまではその実現にしか興味がありませんでしたが、もしこうしたコンセプトをもとにして作られた、実際に着用できる服としてかっこいい服があれば普通に欲しいだろうなと自分でも思うようになることが増えました。つまり、コレクションラインに対する「普及版」の考え方です。ファッションブランドで実現したいのは、そうした普及版の服作りです。服の特質に戻るならば、アートと大量生産の間にある誰もが所有可能で使用可能な作品作りを目指し、そのことで鑑賞者数あるいは参加者数の底上げをする、ということになります。これを自分ひとりで目指す必要はなくて、ワークショップやアートプロジェクトを通して他者と協働してきたのとまったく同じように、服作りの専門家であるデザイナーやパタンナーに参加してもらいたいと思っています。

今は実験段階なので、みな無給で本業の合間に制作に携わってくれています。ゆくゆくはビジネスとして成立させることで、アーティストとしての「コレクションライン」も含めた活動全体の自律性を図ることが目的です。

アーティストの未来像としては、ファッションとアート、アフリカに関する独自の知見と経験を総合しながら、ファッションやアートの新しい地平を切り開くことを、これからの10年の目標にしたいと思っています。

近藤/脇屋:長い質問にお答えいただき、ありがとうございました!

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interview by:

近藤ヒデノリ Hidenori Kondo
クリエイティブディレクター/編集者
HAKUHODO ART PROJECT主宰、TOKYO SOURCE編集長、湯道家元

1971年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。博報堂に入社後、NY大学芸術学部/ICP修士課程で写真と現代アートを学び、9.11直前に帰国。同社に復職後は、TVCMやウェブなどの広告を制作しながら、個人としても個展やイベント、雑誌、書籍の編集などメディアを問わない表現活動を続けている。ラクダ似な旅好き(photo: Suguru Takeuchi) Twitter@KondoHidenori

脇屋佐起子 Sakiko Wakiya
TOKYO SOURCEライター、2010年度MAD修了生、2010年度TARL「アートプロジェクトの0123」修了生、「the secret garden」(2011)共同キュレーター、会社員
http://secretgardentokyo.com/

東京都生まれ。成蹊大学文学部英米文学科卒業。一般企業に勤めながら、美術館やギャラリーでのアルバイト、アーティストの制作補助やCAMPのスタッフなどを経て、現在はアーティストへのインタビューや展覧会企画運営も手掛ける。最近では9月にテラトテラ@阿佐ヶ谷として、岩井優作品の展示企画を行った。
http://teratotera.jp/
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西尾美也(にしお よしなり)
1982年奈良県生まれ。現在は東京とナイロビを拠点に活動する。
東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。専門は先端芸術表現。研究作品《Self Select in Nairobi》《Overall: Steam Locomotive》と、博士論文「状況を内破するコミュニケー ション行為としての装いに関する研究」で博士号(美術)を取得。
装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目し、市民や学生との協働によるプロジェクトを国内外で展開している。代表的なプロジェクトに、世界のさまざまな都市で見ず知らず の通行人と衣服を交換する《Self Select》や、数十年前の家族写真を同じ場所、装い、メンバーで再現制作する《家族の制服》、世界各地の巨大な喪失物を古着のパッチワークで再建する《Overall》などがある。また、2009年には西尾工作所ナイロビ支部を設け、アフリカでのオルタナティブなアートプロジェクトを開始している。
現代美術家として探究してきた装いに対する考察をもとに、2011年にはファッションブランド《Form on Words》を設立した。

インタビュー:近藤ヒデノリ/脇屋佐起子
日時:2012年9月某日(ナイロビ-東京間でのメール形式)

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