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木村友紀 (アーティスト)


90年代後半、日本の写真界がHIROMIXや長島有里枝をはじめとする「ガーリーフォト」に席巻されていた頃、僕は木村友紀の写真作品を見て、明らかに異質な才能が現れたことを知った。

木村友紀は主に写真を使う美術作家である。写真だけでなく映像も使うし、それらを組み合わせたインスタレーションとして発表することも多い。また、ファッションデザイナーとコラボレーションで作品をつくったり、卓球とアートの接点を探る制作チームCOUMAを結成したり、実験映像音楽ユニットとしてライブを行ったりと、近年その活動範囲を加速度的に広げている。

「ガーリーフォト」の写真家が、身の回りの現実をスナップ写真によってひたすらイメージに置き換えるのに対し、木村友紀は写真や映像によって現実と切り離されたイメージそのものを問題にする。イメージがいかに曖昧で、操作可能で、受けとり方も自由なのか。彼女は現実に似たイメージとしての写真を使って、独自のファンタジー世界を出現させる。詩的で、且つコンセプチュアル。イスタンブールビエンナーレをはじめ、早くから海外での発表が多いのもうなづける。

2002年秋にNYで会って以来、僕は彼女に会って最近の活動について話しを聞いてみたいと思っていた。そして今回、新作個展「untitled puzzle」の知らせを受け、僕はTSでは初の大阪遠征をすることに決めた。もちろん自腹。でも面白い人がいれば、僕はどこへでも話しを聞きに行くのだ。

近藤ヒデノリ(TS編集長)

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untitled puzzle


untitled puzzle, 2005, Instalation view at Kodama Gallery

近藤:まず、展示中の個展「untitled puzzle」についてですが今回は、木材を使ったり、海の写真やビデオがあったりと、自然をモチーフにしたものが目立ちます。「new garden」(タカイシイギャラリー,2003)以降から、自然が作品に出てくることが大きくなったように見えるけど?

サーファーのための瞑想の部屋 meditation room for surfers , 2005, c-print mounted on aluminum, 80 x 80 cm, courtesy of Kodama Gallery

木村:「new garden」以前から、ポートレート的な作品と、風景写真的な作品という大きな2つの展開があって、ポートレート的展開の方が優先していたんです。

1974年とエリック1974 & Eric, 2003, CD-R with C-print, 20.3 x 25.4 cm, 8"x10", Courtesy of Taka Ishii Gallery and Kodama Gallery

というか、風景写真をテーマにやっていたことがとても地味だったので、主役と脇役みたいになっていましたが、両方あった。「new garden」でそれが逆転して、自然がメインになっていました。自然といっても、写真や映像になってしまったイメージに興味があるから。インスタレーションのなかで、自然=風景のイメージは一つの背景のようにとらえています。「new garden」でも、(天地逆さまの不自然な)風景写真で構成した空間(=庭)を背景に「写真立て」に見立てたラップトップコンピューターを配置しました。写真で作られた幻想的な庭のなかで、写真の中の女の子と男の子が(コンピュータの制御でまばたきして)生きてるみたいに存在しているというイメージでした。

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想像する時間


position & revision, 2005, c-print mounted on aluminum, 80 x 80 cm, Courtesy of Taka Ishii Gallery and Kodama Gallery

近藤:「untitled puzzle」では、一つ一つの作品を見ていくと、海の写真とその隣にある木片の木目の向きが似ているとか、木片そのものと、その表面の写真という風に関係があって、それが引いて見ると今度は記号とか数学の式に見えたりと、展示会場全体がひとつのパズルのようになっている。全体としてなぜこういう見せ方にしようと思ったんですか?

木村:ヒントは「position & revision」という作品のモチーフになっている、動物の骨でできた小さいチップみたいなものでした。それをパリの蚤の市で見つけて、とても気に入っていて、他にもニューヨークのスリフトショップ(リサイクルショップ)で見つけた○とか△とかのプラスチックの破片も大事にしてるんですが、そういう抽象的で用途もわからないようなものにとても興味があって。それで、今回のインスタレーションを考えているときにもそのチップを並べたりして遊んでいたんです。そうしているうちに、大きさや形が一定のものが複数あれば一つの記号のように機能するということが、ぼんやりと分かってきて、いろんなイメージが出入り自由の型紙みたいな、個々の作品よりも、そのアイデアそのものですね。それに"untitled puzzle"というタイトルが浮かんできたから、もう安心でした。

地球上で写真を撮る方法 How to photograph on the earth, c-print mounted on aluminum 80 x 80 cm, Courtesy of Taka Ishii Gallery and Kodama Gallery

近藤:では初めに全体のイメージがあって、それから各部分をつくっていく…?

木村:誰でもそうだと思うけど、予知みたいに部屋全体の風景が少しずつ見えてくるんです。それを部分的に具体化していって、最後に実際の会場で写真やオブジェを並べて、普通にちゃんと決めます。今回だけじゃなくていつもそうです。

近藤:写真の形とか木材の形にも○と△のモチーフが多いけど、あの形には何か特別な意味があるんですか?

木村:形や大きさが持っているもの、様式的なもの、デザインですね。素材や形やその配置。それがどこにも向かっていなくて、ただそのように存在するためだけの存在としてそこにおかれている状態。そこから見る人が好きな意味を作ってくれたらいいとおもいます。「How to photograph on the earth」という作品の中では、○を太陽、△を山に見立てています。

3

写真の中にしか存在しない世界


イメージと影 02/image and the shadow 02, 2005, c-print mounted on aluminum 50 x 18 cm each, 5 acrylic boards 40 x 40 cm circle

近藤:全体として大まかなストーリーみたいなものは設定しているの?

木村:それぞれの写真が導いてくるストーリーはあると思います。(今回の展示で使っている)ファウンドフォト(found photo=収集した写真)はその存在そのものがミステリーなので、現実から切り離されたイメージのだけの存在。ストーリーというよりも散文、詩のようなものです。あと、まったく違う次元で見ると、事実上、作品は旅の記録というか、自分が旅して拾い集めたものの集積なので、そんな厳密なものじゃないにしても、物で再構成された世界の地図みたいに感じるときがあります。

近藤:ファウンド・フォトに惹かれる理由をもう少し詳しく聞かせてもらえる?

untitled puzzle pieces, zuver(from untitled puzzle), wood panel, 25 x 18 cm, c-print mounted on aluminum 80 x 80 cm, Courtesy of Taka Ishii Gallery and Kodama Gallery

木村:自分が撮った写真と違ってファウンドフォトには、写真に写っている情報しかないでしょう。たとえば、70年代くらいの一連の同じ人が撮ったと思われる何枚かのまとまった写真を旅先のフリーマーケットで見つけたりするんですが、写っている人たちの人間関係とか、部屋の構造とか、壁に貼ってある写真とか、探偵みたいにその世界を観察することが好きです。棚の上の置物の配置が違ってたりとか、ペットが成長していたり、そういう情報をもとに時系列にならべたりして遊びます。古い写真のなかの世界は、すでに、写真の中にしか存在しない世界になっている。もうその場所はどこにもないかもしれないし、そこに写っている女の子には絶対に会うことはないし、過去だから、でもイメージはずっと残る。そうやって写真だけが現実からはなれて、ずっと未来に、遠くから偶然やって来た日本人の私がそれを手にしてインスピレーションを受けているという、そういうことからも、写真とかイメージのことを考えています。

近藤:以前は、もっと写真にまつわる視覚のトリックを暴いてみせる印象が強かったけど?

木村:トリック的なことは(たいしたことトリックをしているわけでもないし)どうでもいいのに、なかなか素直に受けとめてもらえないんですよね。「写真の方程式を覆す」とかいう風に捉えられがちで。「new garden」も、もっと純粋に、ファンタジーとして見てほしい。逆さまにしていることが、何かの意思表示かコンセプトとしてとらえられてしまうみたいですが、そういうことじゃなくて、ほんとうに、見たことない世界が見えてくるから。

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旅というソース


new garden, 2003, C-print, mounted on aluminum,100 x 150 cm, 39" x 59" Courtesy of Taka Ishii Gallery and Kodama Gallery

近藤:さっき「旅の記録」って言っていたけど、木村さんにとって「旅」っていうのは重要なテーマ?

木村:そうですね。今、PstoneKでやろうとしているのも旅の再構成です。南くんと一緒に散歩や旅をして、一回の旅で得たいろんな素材(写真、映像、音)から一つの曲を作る、というのがコンセプトです。

近藤:「untitled puzzle」とも共通点ありますね。旅のソースを集めて再構成するっていう…。

木村:そうですね。旅といえば、もう一つ、コスミックワンダーの前田くんと一緒に作っている映画でも、中国へ旅をして、そこで撮り集めた素材を再構成して抽象化しています。

近藤:ちなみに旅の行き先っていうのは、どうやって選んでるの?

木村:中国は前田くんの作品のイメージから。私もずっと行ってみたかったので。PstoneKでも大筋は南くんが持って来るんです。私は実際の現場で感覚的にいろいろ方向性を決める役割。面白いこととか、変な場所とか、そういうのを引き寄せてしまうみたいです。

近藤:そもそも何でそうやって旅の再構成をしようとするんだと思う?

木村:何かを引き寄せるといったけど、旅をするなかで自然に不思議なストーリーみたいなものが出てくるんです。そういう面白いところだけを、抽出していくと、日常からすっと違うところにいける。そういう抜け道みたいなものを、いっぱい作っていきたいんです。
「untitled puzzle」もそうですが、個人の作品では、まだそこまではっきりと旅にフォーカスしていないです。日常の経験とか発見が自然に作品につながっていくけれど、作品を作るために旅に行ったりはしません。どこにいても何をしていても変わりなく興味があることなので、ずっとつながっているんです。イメージについて、長い長い手紙を書いているような感じです。

5

コラボレーション


COUMA 2005, Table Tennis Players, instalation view at Art Zone

近藤:今も話しに出たようにCOSMIC WONDERの前田さんや、P stone K、「テーブルテニスプレーヤーズ」のCOUMAなど、最近コラボレーションが増えているけど、個人でつくる作業とコラボの作業の違いっていうのは意識しますか?

木村:そうですね。やっぱりいろんな意味でコラボレーションはイベント的で、個人作品は生涯を通してずっと続いていること。だから個人作品はゆっくり。コラボレーションは、一緒に作ることができる人との出会いも含めて、その時々の旬のものなので、貴重な時間として大事にしています。作業的な違いは、コラボレーションは時間が区切られていることですね。また相手によっても自分の役割が変わるので。技術的なことも、頭の使い方も、相手の感性が自分の中に入ってくるような感覚、コラボレーションからいっぱい影響を受けてます。

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卓球とアート:テーブルテニスプレーヤーズ


COUMA 2005, Table Tennis Players, instalation view at Art Zone

近藤:今、話しに出た「テーブルテニスプレーヤーズ」についてだけど、やる前は卓球と写真の共通点とか、アートと卓球の共通点を探ってみたいと書いてたけど、実際にやってみての新しい発見は?

木村:一番の発見は自分自身がいかに、卓球にはアマチュアで、美術にはプロフェッショナルであるかということでした。卓球台置いて、一ヶ月卓球が思い切りできると楽しみにしていたのに、いざやってみたら、インスタレーションのことに意識がいっちゃって、集中して卓球ができるまで半月くらいかかってしまったんです。

近藤:僕もNYにいた時は家に卓球台があって、ルームメートとかなりはまってました。滅茶苦茶性格の悪い、変化球ばかりで(笑)。木村さんって、もともと卓球部だったの?

木村:(笑)卓球って、性格出ますね。私は、小学校の時に少しやってただけです。今もほんとに続けていけるのか悩むくらい下手なので、もっと上手くなりたいです。卓球場にいくとすごく上手いおばちゃんとかがいっぱいいて、でも、あんな風になりたいのかな?って、またそこで悩みます。

近藤:この時は公開制作っていうことで、自分たちで学び合うっていうことだけでなく、そこへ来たお客さんが何を得るかってこともあったと思うけど、その点については?

木村:人が持っているパワーって本当にすごいんですよね。それにかき乱されて、本当にやりたかったことが分からなくなっていったりもしました。交流って言葉でいうのは簡単ですけど、実際なにか新しいイメージを与えられたかどうか、同じことをやっても、ヒットする人と、しない人がいるから、するところで、すごくグラグラ響いていたらいいと思ってます。

近藤:卓球を使った展示については、後藤繁雄さんという編集者がフルクサスを連想したって書いてたけど、木村さんにそういう意識はあったの?

木村:それは全然知らなかったです。

近藤:あと、今回の展示(「untitled puzzle」)でも二脚の椅子の写真、そして実物の木材とその拡大写真が展示されていたところで、コスースの椅子の作品を連想したりもしたんだけど、そっちについては?

木村:それもオープニングでも言われました。でも全然、その作家知らなくて。

7

女性であるということ


'71年生まれ。写真と映像をつかったインスタレーションなど、美術作家として国際的に活動を展開。1999「第6回イスタンブール・ビエンナーレ」をはじめ、2003「new garden」タカイシイギャラリー、2005「untitled puzzle」コダマギャラリー、など個展も多数発表。2000年より、COSMIC WONDERの写真とビデオを手掛ける。デザイナーの前田征紀とのコラボレーションによる映画「How to make a stone knife」を現在制作中。今年6月にオランダのアートスペースmuで発表する。また、2004年には突然卓球に目覚め、卓球する制作チームCOUMA結成。2005年、京都ARTZONEにおいて「テーブルテニスプレイヤーズ」展として公開卓球共同制作を試みた。COUMAは今年9月に横浜トリエンナーレに参加する。また、最近では南隆雄(るさんちまん)と、旅する実験映像音楽ユニットPstoneKとしても活動を展開中。

インタビュー:近藤ヒデノリ(TS編集長)
場所:大阪・本町児玉画廊付近の喫茶店
日時:日時:05/14/2005
写真:法福兵吾(COUMA)
リンク:児玉画廊タカイシイギャラリーCOUMA

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