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山下敦弘 (映画監督)


映画『リンダ リンダ リンダ』の放つ輝きとは一体何だろう。
偶然、友情、笑い、戸惑い、そして、刹那の輝き。これはかつて、僕らがザ・ブルーハーツというロックンロールバンドから貰ったものと同じだ。

インタビューは新作公開前の取材ラッシュの中行われた。渋谷の指定の場所に到着すると、前の回のインタビュワーの声が聞こえてくる。額面通り以外の事を喋ってくれるだろうか、そんな不安をよそに、山下監督は冗談混じりに、しかし「うーんうーん」と唸りながら言葉を選んで真摯に答えてくれた。まるで彼の映画の登場人物の一人のように。

独特の長回しで展開される、気まずさを孕んだ間(ま)と、相手との微妙な距離感をもった会話。突き放したようで暖かい、そんな感覚に親近感が沸いてしまう。怪優・山本浩司を起用した、『どんてん生活』『ばかのハコ船』『リアリズムの宿』の所謂“山本浩司三部作”からは、まるでかつてのマーティン・スコセッシとロバート・デ・ニーロのような、監督と俳優の幸福な関係性さえ感じる。

以前にTSでインタビューしたタナダユキ監督は「彼がいれば日本映画は大丈夫」と言った。そんな言葉にきっと照れるだろうが、山下監督は若くしてすでに唯一無比の手法を確立している。学生時代からの仲間といまだに現場を共にする環境を保っていることも、本人は否定するかもしれないが、彼流のシュアでクレバーなやり方だと思う。

そんな彼が前作に引き続き、三部作とは違う、いわばメジャー作品に今回挑戦した。大きな資本が投入される映画というプロダクトに、いかに初期衝動の瑞々しさを反映できるか。しかし、彼の才能と天真爛漫さが全てを乗り越え、「もう一度観たい」「次作が観たい」と思わせてくれる作品を世に送り出し続けるはずだ。そんなことをインタビューを終え、渋谷の坂を下るときに思った。

とにもかくにも、このインタビューをきっかけに一人でも多くの人が山下映画を観てくれたら、と思う。笑い、ほんのりハラハラして、観終わった後、じんわり余韻に浸る。最新作、『リンダ リンダ リンダ』はそんな魅力が詰まった、山下敦弘でしかありえない仕上がりの、キュートな映画だ。正しくブルーハーツを、そして、正しく青春を捉えた、傑作となった。(米田)

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新作『リンダ リンダ リンダ』


『リンダ リンダ リンダ』 2005年
監督・脚本:山下敦弘
脚本:向井康介 他
主演:ペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織、他
主題歌:「終わらない歌」(ザ・ブルーハーツ)
製作:『リンダ リンダ リンダ』パートナーズ
配給:ビターズ・エンド
2005年7月23日(土)より
シネセゾン渋谷、新宿K's cinema、
吉祥寺バウスシアター他、全国ロードショー!
©2005「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

米田(以下米):新作『リンダ リンダ リンダ』観させて頂きました。山下さんが女子高生を撮るって聞いて、どういう風になるのかなと思ってたんですが、やっぱり“爽やかな裏切り”というのが感想でした。

山下:ええ、爽やかですね。普通のことやって裏切ってるんで。

米:ブルーハーツが出てきて、女子高生が主人公なんだけど、山下映画でしかありえない作品だなって。

山下:ホントですか。今回はですね、ちょっと前に言われた“山下ワールド”とか“山下節”ってのをなるべく排除しようかなって思ったんです。可愛い子が出る映画だし、ブルーハーツやるんだからそういうの邪魔になるだろうなって。ただ、排除したつもりだったんですけど、脇役とか、周りのキャラクターを凄く丁寧にやっちゃいましたね。

米田:前作の『くりいむレモン』に続いてオリジナル(企画)ではないんですけど、これは挑戦という感じだったんですか?

山下:挑戦……ですよね。いや、単純に『リアリズムの宿』以降、基本的に原作が先にあるものばっかりだったんですけど……。『くりいむレモン』は凄く悩んだんですよ。それで『リンダ~』もそうなんですけど、色んな人に相談して「まあ断る理由がないんだったらやれば?」って。「あ、そうだなあ」って、だって仕事ねーもんなあって。

米:アハハ(笑)。

山下:悩んでたんですけど、映画の仕事来てるのに断る理由なんかねえなぁと思って。

米:あえてプロ映画監督にならなきゃいけない、みたいな意識はなかったんですか。

山下:なかったっスね。『くりいむレモン』も結果的に見れば、撮影はいつもの近藤君っていう同級生だし、脚本も向井(康介)だし、編集も先輩だし、山本(浩司)さん出てるし。何か全然自分たちのテリトリーの中でやってるじゃん、っていう感じなんですよ。仕事として割り切んなきゃいけないとか、最初は思ってたんですけど、スタッフとかはメチャメチャ自分の身内だったんで、その辺が曖昧でしたよね。それに比べると『リンダ~』の方が、色んな人が関わってやったっていう感じです。

近藤(以下近):新しいスタッフも入ってきた、と。

山下:そうっスね。だから、脚本は向井だったんですけど、現場自体は初めての人が殆どでしたね。役者もそうでしたけど。

米:山下さんは脚本にも参加してますけど、元の企画をどういう風に変えたんですか?

山下:今回は最初にあったプロットを大幅に変えて、4日間の話にしたり、文化祭の話にしたりとか。最初は全然そういう話じゃなくて、ギャルバンがあって、それに対抗するもう1個ギャルバンがあって喧嘩吹っかけられて…負けてたまるかってライブでコンテスト出たりとか…その中で恋や友情があるっていう話だったんですけど…。何か違うなあ、そもそもバンド同士が争うって何だよ!?、やりたいからやってんじゃねーの?って思って。俺バンドやったことないから、もしかしたら実際にはそういうのあるのかもしれないですけど、あんまそういうことも分かんなくて。自分の思うブルーハーツって何なんだろうなあって。ブルーハーツのコピーバンドを別にライブハウスでやっても違うような気がして。ブルーハーツが落ち着く場所って、やっぱり文化祭だろうって思ったんですよ。

米:ブルーハーツに関してはそんなに思い入れはなかった?

山下:そうですね。だけど僕の同級生とかも文化祭でやってたり、兄貴がバンドマンで、バンドブームの頃なんで、常にうちで音楽が流れてたんですよ。兄貴の部屋からBOOWYだのジュンスカだのユニコーンだのが流れてる中で、自分から音楽聴こうっていう感覚があまりなくなっちゃったんですよね。で、映画観てたんですけど。だからブルーハーツに対しても、そんなに強烈な思い入れがあったっていう訳じゃなく。

『リンダ リンダ リンダ』 2005年, BittersEnd

近:映画の中で、韓国人のペ・ドゥナさんが凄くいい存在感を出してましたけど、彼女があのメンバーに入っていることは、元々の設定だったんですか?

山下:いや、それもなかったです。ただ、「女子高生」が、「ブルーハーツ」の、「コピーバンド」をする、っていう、その3つだけしかなかったんですよ。

近:彼女と恵(香椎由宇)が洗面所の前で、言葉が通じないのに分かり合うっていうシーンは、思わず(ジム・)ジャームッシュの『ゴースト・ドッグ』の中の英語とフランス語で言い合ってるのになぜか分かり合っているというシーンを思い出したんですけど、そもそもなぜバンドメンバーに外国人を混ぜてみようと思ったんですか?

山下:最初の設定は、屋上で漫画喫茶やっている田花子(タカコ)っていう女の子がいて、留年してるっていう設定なんですよ。で、タブっているから同級生がもういなくて、友達がいなくて屋上で1人で遊んでいるんですけど。実はあの子がボーカルっていう設定だったんですよ。要は1コ下の女の子たちのバンドに入って、ブルーハーツやることになって、同学年に1人も友達がいなかったのが友達が出来てきてっていう話だったんですけど、それだとブルーハーツの歌に意味が付いちゃう気がして。疎外されている女の子がブルーハーツ聞いてっていう。映画としては筋通るんだけど…って思いながら。しかもそういう子に関しては、凄くアイディア浮かぶんですよね。コギャル風な子だけど、根はスゲーいい奴で、もう両親がいなくて、おじいちゃんとおばあちゃんに育てられて、長屋に住んでるんですよ。

近:アハハ。
米:なんだそりゃ(笑)。

山下:それで弟は中3くらいで、物凄いヤンキーで、改造した原付で学校来るとか…、そういうのすげー考えてて、「面白れーなー、やりてーなー」って思ってたんですけど、これって俺っぽいな、自分の方に引っぱりすぎたなと思って。そういうのやったら、その子ばっかりに愛情持っちゃって、他の子たちが説明的になっちゃうかもしれないって思って、ちょっと煮つまったんですね。そんな時にペ・ドゥナがぱっと浮かんで、ラストにライブで歌うんだったら日本人の子が歌うよりも、韓国の、言葉分かんない子がブルーハーツの単純な言葉を力強く歌った方が、説明出来ないけどいいんじゃないかなって思って。それでペ・ドゥナってどうですかねってアイディアを出して…。自分の中で凄い面白いと思ったんだけど、その時はまだリアリティなかったんですよ。彼女が出てくれるとも思ってなかったし。

米:最初ブルーハーツ聞いた時、彼女泣きますよね。あれがきっとブルーハーツの本質を表してますよね。言葉が大事なバンドなんだけど、言葉が分かんなくても聞いて泣けちゃう。言葉が分かんない彼女が歌うんだけど客が感動しちゃう。

山下:あれは日本人の女の子だったらたぶん出来ないことなんですけど、ブルーハーツを初めてあの歳で聞くっていうことなんか……。「リンダリンダ」なんか特に、何かしら聞いたことあるんですよね、今の若い人でも普通。「リンダリンダ」聴いて泣くなんていうのは、相当な山奥にずっと隔離されてた子っていう(笑)。彼女はブルーハーツも知らないし、初めてっていうのも良かったですよね。初めて聴いて3日で歌うっていう。ブルーハーツって、3日で出来ちゃう曲っていうか、そこの伝わり易さというか、その辺ブルーハーツと外国から来た女の子っていうのは、凄く合ってますよね。

近:ヘタでも全然オッケーだし、それでも全部伝わっちゃう。

山下:だから最初、ペ・ドゥナには上手く歌う必要はないからって言ってましたね。

2

リアルなシーンに突然侵入する “イベント”


近:もう一つ印象に残ったのが、恵がプレゼント(これが何かは映画を観てのお楽しみ)を貰うシーンです。米田と一緒に観ながら「何なのこれっ!?」って…。ああいうシーンを挟んでみようって発想は、どこから来てるんですか?

山下:僕の中では“イベント”って呼んでるんですけど、映画の中で凄く“イベント”起こしたいんですよ。どうなるか分かんないっていう要素があって、やってて楽しいじゃないですか。思い付いて膨らんで行っちゃって楽しくなったって感じですね。

近:『ばかのハコ船』でも修羅場になった主人公が「プシュー!」っていきなり萎んじゃうシーンがありましたが、あれも元から入れようと考えてたんですか。

山下:いや、あれもかなり煮詰まってからですね。『ばかのハコ船』では、久子っていう女の子が、浮気した彼氏に包丁持って行くのを皆が止めるっていう話を考えてたんですよ。ちょっと「毎度お騒がせします」的な感じだったんですけど、向井と2人で「いや、これは普通だな、こうなるよな」って。

近:予想が付く。

山下:予想が付くし、その後つまんなくなっちゃうなと思って。で、発想の転換で考えて、萎むってのいいな、幽体離脱とかもいいなって言いながら、色々考えたんですよね。

3

長回しと「間」、キャラクター作り


『リンダ リンダ リンダ』 2005年, BittersEnd

米:「女子高生」「ブルーハーツ」っていうテーマで、たぶん元気一杯の映画だと思って若い子は観に来ると思うんですよね。けどやっぱり山下さんらしい弛緩した部分、ゆるい感じ、脱力感があって、でも完全に底に行かない所で“イベント”を起こしたりして、上手く操縦してますよね。

山下:間が長いって言われるんですけど、長いって思った瞬間に、1コぽこって入れるとかね。そういうのが癖というか、まあオチでもあるんですけど。そこが作り手としてはあります。だから物語として転がしていくっていうんじゃなくて、結局俺、キャラクターとか役者に興味がある監督だと思うんで、ギリギリ飽きさせない間ってのはどこなんだみたいな。間合いって、飽きさせない間はどこなんだっていうギリギリの所が心地いいっていうか。

米:『リンダ~』も、やっぱり長回しが多いですよね。今回も長回しでいこうかっていうのは考えました?

山下:カメラマンと打ち合わせしながらおおざっぱに決めたのは、とりあえず絵コンテは割んないでおこうと。それとアップは最後に撮っておこうっていうのがあったんです。やっぱ香椎由宇ちゃんとかはアップ撮ったら何歳か分かんないんで、カメラマンもバランス考えて。

米:あんまりキレイに見えないように撮ってる(笑)。

山下:すげー気にしましたよ。彼女だけすっごいキレイになっちゃったらまずいし。だから彼女のアップは、寝てて脂ギトギトのしかないですけど。そこは凄い気にしましたね。寄りすぎたらダメだよなとか。4人が集まってワイワイやっている所は、カット割ってもしょうがないな、4人の雰囲気だけでいいなと思って長回しになりました。あとやっぱ最後のライブシーンに関して、カット割りの演出で見せていくのって何か違うんじゃないのって。しかも文化祭のライブだし。だから必要最低限のカットしかない。あの映画に使われてるライブシーンは全て使いましたね。全部使ってあれだけって感じなんですけど。ほんとシンプルにいこうっていうのは、カメラマンと意見が一致しました。普通の話なんだから、特殊なことはやんないでおこうって。

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進歩はするけど、成長しない


米:映画って、穴があって人が落ちて這い上がってくるというセオリーがあると思うんですけど、バンドで何か成し得たとか、文化祭で賞を獲ったとか、凄く上手くなったとかっていうのはなくて、至って普通のまま終わりますよね。

山下:そうですね。そのまんま終わります。だからある意味成長もないんですけども。いや、いつも僕の映画には成長はないんです。進歩はあるんですけど。なんとなく、一歩前に出るかなっていうのはあるんですけど。

近:所謂分かりやすい成長はしない…。

山下:そうですね。今までの映画もそうなんですけど、だいたい1対1という人間関係があって、その2人のやりとりというか……成長してんのかな…。成長してないっすよね(笑)。

米:色んなことが分かってはいきますよね。恋愛を分かっていったりとか。だけど、人間って果たして成長なんてするのか?っていう問いは、山下さんも持ってるんじゃないですか?

山下:そうっスね、節目節目で自分が何か分かってるのかっていったら、分かってないですからね。思いつきで言うだけで。主人公たちが悟っちゃったりするのって、その悟った後に全然悟ってねーじゃんっていうワンシーンがあればいいんですけど、悟ったとこで終わっちゃうのって、作る上ではあんまり好きじゃないのかもしれないですね。

米:1つのことを成し得たり、勝ち獲ったりして映画がフィニッシュっていうんじゃなくて、まあ文化祭は成功するんでしょうけど、あのバンドが熱狂的に人気が出たわけでも何でもない訳です。だから、結局彼女たちは何かを分かり合ったりとか、楽しい瞬間があったり、時間が過ぎていくっていう。

山下:そうですね、流れていく。あの4人が結局重なったのは、あのライブのシーンだけであって、あの次の日ってのはまた普通の生活に戻るんですよね。留学生のソンだってそう。そこは書きながらすごく思っていて、この4人はたぶん高校出る時にはバラバラになるよなって話を、脚本の向井としていました。

米:それがリアルっていったら変ですけど、共感できる。

近:分り易く悟ったりすると、こんな事ないよなって思うしね。

山下:映画としてはそういうのはアリだとは思うんですけど。例えば、最後のシーンも、4人の女の子が最後肩組んでる写真で終わったら、ああ永遠にこの4人は友達なんだねみたいな。そういうのもいいとは思うんですけど、実際自分が考えるとそうはならねえだろみたいな。そういう印象にはしたくないなって。絶対別れるんだからこの4人は。ソンは韓国帰るし。

米:たぶんドラムの彼女なんかは、彼氏出来ちゃうと、もう音楽やんないし、この子らと付き合わないですよね。

山下:そう、そういう悲観的なことばっか考えて。でも悲観的じゃないんですよね、それぞれ変わっていくのがいいんだろうし、そこがまた切ないなと思って。

米:それを予感させてますよね、ちょっと。

5

女の子を演出するということ


『リンダ リンダ リンダ』 2005年, BittersEnd

近:以前、「女の子が何を考えているのか分からない」って言ってましたけど、そういう意味では今回はモロ女の子が主役。実際に演出はどういう風にしていったんですか?

山下:分からないのを分かったふりしてやったというか。結局4人の時の雰囲気とかって、俺が作れるものじゃないと思うんですよね。彼女たちは実際若いから、飯食ってる時も待ってる時も、勝手にキャッキャッ騒いでて。だからもしかしたら俺、4人全体を指揮したっていうのはないかもしんないですよ。基本的に4人でいるシーンは、彼女たちの空気であって、1対1のシーンとかそういう時はもちろんイメージは言うけど。屋上で4人で喋る、ちょっと熱いこと言っちゃったりするシーンがあるんですけど、あそこに凄い時間かけたんです。何回もテイク重ねちゃって、結局自分の中で何がOKか分かんなくなっちゃったんですよね。7回くらい撮って、でも何か違うんだよなぁって…。しかもそれを彼女たちに説明出来なくて。「なんか違うよな?なんか違うよな?」って前田亜季ちゃんに同意求めたりして。結局6テイク目くらいでいいのが撮れたんですね。でも7テイク目はダメだったんですよ。だから「あ、さっきので良かった」と思ってOK出したんですよ。そしたら女優陣が皆睨んで、「ほんとに今ので良かったんですか?」って。「いや、今のはダメだけど、その前の6テイク目が良かったから」って。「妥協してませんか?」とか言われて(笑)。(ポスターの香椎さんを指差して)この目で!怖ぇー…とか思って…。で、東京戻ってきてラッシュみたら、全部OKだったんですよ(笑)。

近:台詞は全部決めてるんですか。それとも彼女たちにアドリブ入れてもらってるんですか。

山下:たぶん俺はあのシーンが凄い重要だと思ってたんですね。それぞれのキャラクターが出るし、一番他愛のないこと喋ってるんですけど。それで、台詞はチョコチョコ変えてたんですよ。台詞を増やしたり引いたり、そういうことをやってたらどんどん自分でも分かんなくなって。でも要は、シナリオ通りでも全然大丈夫だったし、っていうか、もう勝手に喋らせとけば良かったなって思うんですけどね。あの時は分かんないくせに口出しちゃったなあと、ちょっとしゃしゃり出ちゃった気がします。

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分身・山本浩司の存在について


『ばかのハコ船』 2002年, BittersEnd

真夜中の子供シアター=PLANET studio+1
111分・カラー
監督・脚本:山下敦弘
製作・脚本・撮影監督・照明:向井康介
出演:山本浩司、小寺智子、山本剛史、他
若い1組のカップルが「あおじる」ならぬ「あかじる」を、地元で何とか売りだそうとするが上手くいくはずもなく…。山本浩司と小寺智子の強烈な愛の形もさることながら、山本剛史演じるスーパーの店員が鮮烈な印象を残す。

米:出身は愛知ですよね。やっぱり地方って情報ないから、中学校とか小学校の時とかに観るのってハリウッドとかじゃないですか。そういう人がブルーハーツとか女子高生っていうテーマで入ってきてくれて、山下映画に流れていってくれたら面白い。

山下:山本浩司を観て、「あれ誰なんだ!?」ってね。

米:そうそう、山本さんが今回どこで出て来るのかなって思ってたら、あの貸しスタジオ屋のオヤジ役だけで終わって(笑)。その後、そのスタジオ屋で座ってるシーンがワンシーンだけ、あれで終わりですよね。もう、何だよ!って思って(笑)。

山下:あれね、出し方迷ったんですけど、ホントは最初、今回山本さんの出る所ないなと思って、正直ね。

近:ヒッチコックが出てくるみたいな感じになってますよね(笑)。

山下:自分としては凄い迷ったし、未だにちょっとあれで良かったのかなって思っちゃうんですけど。ただ山本さんが落ち込んでたんですよね、「今回俺の出番がないらしい」とか言って。だけど、山本さんは俺の中では主演俳優だから、やっぱ脇で使うのは抵抗あったんですよね。そういう使い方するのはヤだなっていうのはあったんです。やるなら主演で、もっと重要な役でって思ってて。

近:『くりいむレモン』の時も、ひょこっと強烈な印象で出てきてましたよね。

山下:強烈。あれで凄く自分の中で反省しちゃったんですよ。もっとやりたかったと思って。だから、やるんだったらちゃんとやりたかったなと。

『くりいむレモン』 2004年
セルDVD BBBJ-5232 ¥4,935(税込)
販売:ハピネット・ピクチャーズ
© 「くりいむレモン」製作委員会
監督、脚本:山下敦弘
製作:関正博、松井建始
脚本:向井康介
撮影:近藤龍人
出演:水橋研二、村石千春、山本浩司、他
原作は大ヒットした同名漫画。17歳の女子高生・亜美と血の繋がっていない兄のヒロシ。ある日、両親が出張で家を留守にすると、2人が抱いていた気持ちは溶解し、関係は一線を越えてしまう…。山本浩司はヒロシと亜美が駆け落ちした旅先のバス停に突如登場するセールスマン役。

米:『くりいむレモン』のダラっとした流れが、山本さんが出ることによっていきなり異質になりますよね。

山下:あれって、最後かよ!、ここでかよ!みたいな感じじゃないですか。それで何か違うなって思って。だから今回はそういう意味では、山本さんがやれる役があれば全然いいんだけど、ないなと思ってた時に、今回はオファーがないって落ち込んでるって聞いて「えーっ!」て…。結局、スタジオ店員の役がずっと決まらなくって空いてたから、山本さんの誕生日に電話をかけて、「お願いします!」って言ったら、「やったー」ってなって。でも結果的にペ・ドゥナが凄い喜んで、山本さんからサイン貰ってましたね。

米:好きだったんですか?

山下:『リアリズムの宿』を観てたんで。「あ、本物だ」みたいな感じになって。

米:あの顔はインターナショナルですもんね(笑)。

山下:ペ・ドゥナも山本さんも、お互い「わっ、本物だ」みたいに思ったみたいですよ。

米:ワールドクラス同士だ(笑)。

山下:そうそう、山本さんは国際俳優なんで。

米:今後、また山本浩司さんと組んでのオリジナル作品っていうのはどうなんですか?

山下:やっぱやりたいですね。でも山本さんも今色んな仕事してて、役者として凄い変わって来てると思うんで、だから俺もちょっと今年と来年で2本くらいあるんですけど、それやった後くらいにまたやりたいと思ってます。お互いちょっと変わってるんじゃないかなと。

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“ぬるぬる”のコミューンにいた大阪芸大時代


『どんてん生活』 1999年, スローラーナー
真夜中の子供シアター・95分・カラー
監督・脚本:山下敦弘
製作・脚本・撮影監督・照明:向井康介
出演:山本浩司、宇田鉄平、他
無職の青年が、裏ビデオのダビングで生計を立てる、強烈なリーゼント頭の紀世彦(山本浩司)に声を掛けられ、行動を共にするようになるが…。山下敦弘の卒業制作であり、長編デビュー作。現在の山下映画に通じるエッセンスが既に散りばめられた佳品。

米:ちょっと話変わっちゃいますけど、高校時代にカメラを始めたのは、お父さんの影響だったそうですね。

山下:親父がビデオカメラ買ったんですけど、全然使っていなくて、で、俺がいじり出したんです。

米:当時はどんな映画を観たり、影響受けたりしてたんですか。

山下:中高くらいの時に、ビデオレンタルで所謂アメリカン・ニューシネマ辺りを一気に観た感じですね。今回、カラオケ屋の店員で出てる山本剛史って奴と2人で凄い映画にはまったというか、お互い映画が凄く好きで。

近:その頃はニューシネマにモロに影響を受けた感じを撮ったりしてたんですか。

山下:それが、撮ってなかったんですよ。撮るものはいつも遊びだった。遊びで撮ってて、その時はまだ自分たちが作ってるものが映画だっていう感覚はなかったんですよね。暇潰しと、映画ごっこっていうのが凄いあって。けどやっぱ、山本とかが観てる映画は違うなって思ってました。

近:短編集を観ると、大学時代にはいろんな方向に極端に振れてますよね、『腐る女』とか。その後、元々影響受けたというアメリカン・ニューシネマの感じになって来てる感じがするんですけど。

山下:『どんてん生活』を撮る前に、卒業制作に2年かかってるんですけど、大作っていうか、結構時間かける作業なんですけど、『鬼畜大宴会』(熊切和嘉監督)を撮り終わって「すげー!」ってなって、短編映画とかも撮り出したりしてて。「俺って何が好きだったっけな?」と、そこでまたいっぱい考えたんですよね。映画の作品っていうと、デ・ニーロだったりとかアル・パチーノだったりジャック・ニコルソンだったり、あの辺の70年代に活躍した俳優の映画好きだなとか、ダスティン・ホフマン好きだなあとかって思って。繰り返し観てたんですよね。あれはきっと『鬼畜大宴会』があったから良かったんですよね。大学に入った頃は何でも撮れるだろうとか思ってるし、別に撮るものも定まってないし、目の前で熊切さんがああいう完全な暴力衝動を昇華していくのを見てて、ああもう僕はこれはいいやって。その流れで『腐る女』を撮ったんですね。あれで僕ももういったん終わった気がして。で、撮るものがどんどん無くなっていったというか。その中でちょっと笑いっていうものを、笑えるようなものを作り出した時に、結構周りが面白いって言ってくれたんですよね。

近:『断面』とかですね。

山下:そう、『断面』とか。自分が面白いって思ったことを皆も笑うんだなって思って、そこで結構切り替わったっていうか。

米:大学の時には、山本浩司さんは先輩で。

山下:2つ上でしたね。

米:熊切さんは?

山下:熊切さんも2つ上です。だから山本さんの同期です。

米:大阪芸大って、奈良と大阪の間ですよね。

山下:すっげー田舎です。

米:みんなそこにいたんですか。

山下:そこにいましたね。映画やってる奴が殆どそこに。結構地方の寄せ集めが多かったんで、脚本の向井は徳島だし、みんなそこら辺かたまっちゃうんですよね、下宿して。

米:で、一つのコミューンっていうか。

山下:コミューンですよ。もうぬるぬるです。

近:なんかあんま女の人いなさそうですよね(笑)。

山下:いる女も、もうコミューン化してましたね。米とか粉引いてるみたいな。同じような男と同棲してたりとか。で、俺はもっとヤバい層でしたけどね。同棲すらも出来ないみたいな、もっと悶々としている…

米:オナニー層ですね(笑)。

山下:オナニーして、映画観て、映画撮るみたいな。

米:で、酒を飲むみたいな。

山下:しかも、僕はあんま酒は飲まない方だったんで。

米:無頼にもいけないっていう(笑)。

山下:そう、酒飲んで無茶するとかもなかったですね。少し飲んだら帰って映画観ているような、一番ダメな、そういう感じでしたね。

近:『断面』の中に出てくる感は、結構リアルな生活に近かったんですか?

山下:『断面』の中に出てくる部屋が俺の部屋だったんですよ。あれは色んな要素を入れて、パロディっていうか笑いにしているんですけど、向井と2人でいつも一緒にいたんですよね。ホント映画かテレビばっか観て、何するわけでもなく。僕の寮が芸大のすぐ下だったんで、学校の帰りにすっと来れるんですよね。山の中通ってぱっと来れるんで、そこに熊切さんとかも住んでたんで溜まり場になってました。

米:向井さんは、最初どういう感じだったんですか。自分で撮ってたりもしてたんですか。

山下:向井は『鬼畜大宴会』の現場で照明をやり出して、凄く撮影照明人っぽくなってたんですね。俺は技術的なことには何にも興味がなくてダメで…。で、俺がちょっとした短編を書いたんですよね。それを向井に見せて「これ撮りたいんだけど」って言ったら、「じゃあ俺撮影全部やるよ」って言ってくれて。その時も共同脚本で2人で書いてて。だから、最初2人からスタートしたっていう。俺は演出だけで、彼が脚本・照明。まあ照明は殆どなかったですけど、脚本・照明・編集と。編集は一緒にやったんですけど。

米:その時は、山本浩司さんも撮ってたんですか。

山下:浩司さんは、僕らが大学入る前から凄い撮ってて、8ミリでSF映画とか。でも、僕が大学入ったときは、山本さんは映画はもう撮ってない時期で、撮れなかった時期なのかな。脚本やったりとか、照明手伝ったり、役者で出てたりしてて、悶々としてましたよね。怖かったんですよ。たまに現場で見かけるんですけど、物凄い怖いっていうか。

米:今は爽やかですよね。

山下:全然爽やかですよ。

『リアリズムの宿』 2003年, BittersEnd
バップ・85分・カラー
監督・脚本:山下敦弘
脚本・照明:向井康介
原作:つげ義春
音楽:くるり
出演:長塚圭史、山本浩司、尾野真千子、他
つげ義春の漫画が原作。お互いを良く知らない、駆け出しの脚本家と映画監督が温泉街を旅するロードムーヴィー。海岸で、なぜか真冬の海で泳ぐ女と遭遇、その後、奇妙な三角関係で物語が展開していく。阿佐ヶ谷スパイダースの長塚圭史が出演、くるりが初の映画音楽を手掛けた。

近:『リアリズムの宿』のあの感じは、当時の山本さんに近いんですかね?

山下:そうそう!あんな感じですよ。でも彼が作る作品はSFで、ブーメラン飛んで来たりとかテンション高いんでどんな人かなぁって…。最初はホントにファンというか、俺は絶対この人見てて飽きないと思って、向井も「いやあ、あの人面白いよ」って言って。あの人、体とか全部面白いっスからね、造形的にも。それで口説いたというか。まあ仲間内だったというのもあるし一緒にやろうっていう風になって。山本さんはちょっと離れた所にいた先輩だったんで、映画を通して僕らが近づきたかったんですよ。

米:あの“山本浩司3部作”は、キャラ的には監督の投影なんですか。

山下:うーん、僕でもあるし、大学時代のなんか僕らの総括みたいな。もうちょっと離れて見た感じはありますけどね。

近: 3本の中でどのキャラクターに自分が近いとかってありますか。

山下:いや、全部似てますよ。『ばかのハコ船』とか似てますよね。あれが一番ダメな男なんですけど、あれが一番近いんじゃないかと。

米:けど、あれはモテるじゃないですか。

山下:あそこはちょっと願望というか(笑)。あいつはモテますよね。ムカつきますね。

米:山本さんってきっとモテますよ(笑)。でもやっぱ山本さんが出てくるだけで画面ががらっと変わりますよね。

山下:いやー、それがホントそうなんですよ。

近:海外で上映した時に、彼が出るだけで笑いが取れるとか(笑)。

山下:『リアリズムの宿』のオープングで長塚(圭史)さんが出てきて、その後山本さんが出てきた時にもう、オランダ人、ドッカーン!て、まだ喋ってねーよみたいな(笑)。向かってくるだけでもう笑ってるんですよね。すげーって思いましたよ。

8

転校生メンタリティと田舎の風景


『リアリズムの宿』 2003年, BittersEnd

米:『ばかのハコ船』と『リアリズムの宿』って、荒涼とした日本の田舎の風景が出てきますけど、初めからああいうのを撮ろうと思ってたんですか?

山下:そうっスね、『リアリズムの宿』は、つげ(義春)さん原作ってのがあったんで。『ばかのハコ船』はオリジナルなんで、自分の思う田舎とか、結構自由だったし、思い入れっていうか自分たちの感覚で作った、選んだっていうのはありますね。だから『ばかのハコ船』が一番ロケーションはぐるぐる回って……。

近:その他でも田舎の風景が多いですよね。今回の『リンダ~』も都会のど真ん中じゃないですし。

山下:設定は、どこでもない地方都市なんですけど、撮影は群馬でした。

近:田舎が自分の原風景に近い?

山下:僕、引越しが多いんですよね。だから、原風景って何なんだろうなって…。

近:田舎の方が親近感を感じるとか。

山下:やっぱ田舎の方が好きですね。田舎でロケハンしてると凄く楽しいし、単純に田舎ってものが好きなんですかね。自分が親近感があって好きなのか、憧れて好きなのか。でも自分が思うと、そんなに田舎にも住んだことないよなって。

米:結構転校してたんですか?

山下:転校してましたね。中途半端な地方都市が多くて。愛知も2回引っ越してて。川崎にも住んでました。

米:すると、“転校生メンタリティ”が出来てきますよね。なめられてもいかん、みたいな所あるでしょ。

山下:そう、いやらしいというか、転校生って周りを見ちゃいますよね。転校生に一番最初に話しかけて来る奴はちょっとヤバいとか(笑)。だいたいまずヤンキーが来るんですよ。

米:だから、人間関係の微妙な空気感みたいなのが、作品に出てますよね。

山下:たぶん、人と接するっていうことが一番好きかも知れないし、得意かもしれないですよね、そういう距離感とか。

米:山下さんの作品って必ず長回しの会話の“間”みたいなものがあって、『ばかのハコ船』でも、主人公の彼女がいきなり一輪車に乗ってて、「なんで一輪車!?」っていうのもあるんですけど、その後の会話劇が物凄い長いですよね。あれってどこまで決めてるんですか?

山下:あれはもう一気に書き上げて、とにかくリハを何回もやったんですよね、あのシーンは。オーディションに山本さんも呼んで、女の子呼んで台詞言ってもらって。役者陣もあそこは重要だって気合入ってて、前の日から凄い練習してました。殆ど自主映画の形でやったんですけど、2ヶ月近くも全員合宿だったんですよ。今思うと凄く失礼なんですけど、役者の男と女が同じ部屋で寝てたんですよね。その、男と女じゃなくて、役者さんはこの部屋ねって、部屋1コ与えて2人で寝かせて。

米:あの主人公のカップルがですか?

山下:今思うと、物凄く失礼なことしたなって。

米:でも、いい雰囲気が出てましたよね。

山下:何か起きたんじゃねーかなって思うんですけど、まあ起きなかったらしいんですけど(笑)。その辺のケアの足りなさとかが逆に良かったのかなあって思いますけどね。

近:どこまでも一緒に行くっていう雰囲気が出てますよ(笑)。

山下:腐れ縁っていうところの雰囲気が出たのかなってね。

9

2回以上観てほしい


『ばかのハコ船』 2002年, BittersEnd

米:山下さんの、気まずさを孕みつつ進んでいく奇妙な会話って、人間観察から始まったんですかね。どっから取り出したんだろう。

山下:どうなんですかね。

近:例えば、北野武さんの映画もけっこう長回しが多かったりして、間が非常に良かったりしますが、そういうのに影響受けたりとかしてますか。

山下:ああ、してると思いますよ。北野武さんの映画はやっぱり強烈にショックだったんで。そうですね、ああいう映画からは影響を受けているとは思います。

近:武さんの映画も無駄な説明を省いているシーンが多いですけど、『くりいむレモン』でも、お母さんにエッチしてるところを見つかってしまった後は省いていきなり車に乗ってますよね。

山下:人の映画観ている時は、説明足りねーなあとかって思うんですけど、実際自分の映画になると、説明が凄いこっ恥ずかしくなっちゃう。

近:『リンダ~』でもやっぱり、恵がソンをバンドに最初に誘うシーンがロングなんだけど、ソンがOKしたことは観客には十分に分かるようになってますね。

山下:そこも、最後まで(カメラが)寄らなかったですからね。一応寄りも撮ったんですけど。

米:でも分かるっていう。

近:そういう余計な説明はしないとか、親切過ぎない感じが、割り切ってていいなって。

山下:そういう意味で、2回以上観てほしいですよね。

米:確かに山下さんの映画ってもう1回観たくなりますよ。

山下:自分がそうなんですよ。2回3回観れる映画って大好きで、だいたい1回観た時ってよく分かってないんですよ。例えば『タクシードライバー』とかも、最初観た時は「あーもうえーっ」てな感じだったのが、繰り返し観るうちに、なるほどこういうことかとか、こういうが画があったんだとか、ショットとか考えたり。その辺が面白いというか。でも映画って基本的に1回観て終わりなんですよね、普通の人は。それは分かってるんですけど、ついつい説明省いちゃうんですよ。1回で観て分かるもんじゃなきゃいけないってのも分かるんですけど。

近:観る人のレベルによって分かんなかったりもするんですよね。

山下:観る人によるとは思うんですけど、その辺もバランスだと。だからやっぱ繰り返して観てほしいってのはありますね。

米:CDとかだったら、何回も繰り返して聴くことを前提に作るんだと思うんですけど、映画だと1回で終わっちゃうことが殆どですよね。

山下:だと思いますね。

10

文字や音楽よりも画が最初にある


米:小説とか文字系は全然読まないんですよね。やっぱり画が最初なんですか。

山下:そう、画なんですよね、俺。

米:音楽でもないんですね。

山下:そうなんですよ、画が好きなんです。

近:映画って、僕はラストシーンとかは全然覚えてなかったりするんですけど、映画の中の3コくらいのシーンを覚えてたりするんです。人によってはストーリーを凄く覚えるとか、キャラクターにいくとか、色々あると思うんですけど、山下さんはその辺りはどれですか?

山下:キャラクターじゃないですかね。ストーリーは、映画館に友達と観にいって「あそこはこうこう、こうだったよね」って言われて「え!?そうだった?」っていうこと多いですから。だから何を覚えてるんですかね。繰り返し観ちゃう映画は何かが引っかかってると思うんです。役者の、何だろうな、何を見ているんですかね俺。あ、でももしかしたらホント画で覚えてるのかもしれないですね。こういう画っていいなとか。

米:映画以外だと、漫画とかですか。

山下:そうですね。今は長尾謙一郎さんが大好きで読んでるし、あと、いましろたかしさんとか読んでます。いいですよね、絵が。海と太陽、そこに山本浩司みたいなのが出てきて。

米:そうですよね、山本さんが出ると漫画みたいですよね。

山下:そう!いそうでいない奴になるんですよ、山本さんがやると。凄く生々しいんだけど、こういう人ってあんまいないよねっていう。そこが映画にした時に、実際は横にいるんだけどフィルム栄えするんですよ、山本さんってホントに。

米:お笑いはどうですか。ドリフとかひょうきん族とか。

山下:そうですね、ダウンタウンとかとんねるずとか。やっぱテレビっ子なんですよ。テレビは昔からずっとつけっ放しでした。

11

日本のジャームッシュ、カウリスマキと呼ばれて


近:今、山下さんは日本のジャームッシュだとかカウリスマキと言われてますけど、元々どこで言われ始めたんですか。

山下:最初に言われたのは、『どんてん生活』やった時に、山本さんの特大リーゼントのところでたぶん、カウリスマキの『レニングラード・カウボーイズ』が引っかかったんだと思うんですよ。雰囲気も似ているからってカウリスマキって言われて。ジャームッシュは『ばかのハコ船』を、ヴァラエティ誌の人が「ジャームッシュが若かったらこれやってたんじゃないですか」って言ったみたいで。

米:やっぱ好きなんですか?ジャームッシュは。

山下:好きですよ、でも、そういうこと言っちゃう人ってのは、分かり易いから言うんだろうなって。例えを出した時の一つだったような気がする。

近:同じじゃないですからね、どう考えても。

山下:逆にあの2人は真似したらヤバいと思ってて。ちょっと禁じ手だと思ってたんですよね、あの2人のやり方って。

米:そう思ってるのに「日本のジャームッシュ」って言われちゃうってのは?

山下:だから『リアリズムの宿』は、あからさまにやっちゃいましたけどね。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』とか。

米:ですよね!やっぱり(笑)。

山下:あれはもう向井とも、「バレてもいっかー」とかいって。もうバレてるしなーとかって。そしたら意外と『リアリズムの宿』は言われないんですよ。突っ込まれるかなと思ったのに(笑)。

12

独特の「クスクス笑い」


『リアリズムの宿』 2003年, BittersEnd

近:僕は初めて観たのが『リアリズムの宿』だったんですけど、ジャームッシュも確かに感じたんですけど、笑いの感覚がカウリスマキに近いなあと思って。トホホっていう感じで、しょうもなくって笑えるっていうか、あんま爆笑はないですよね、どっちかっていうとクスクス笑い。その辺りの山下さんの笑いに対するこだわりってありますか。

山下:その辺はよく言われるんですけど、現場でもクスクス笑いですけどね。笑いはすごい意識してます。『リアリズムの宿』に関しては、結構つげさんとのバランスを考えてたとこがあったんですけど、それにしちゃあ、インド人にしたりとか、バンジージャンプ入れたりとか、ちょっと若気の至りをいっぱいやっちゃったんですけど…。何かこう、まんまやりたくないっていうか、“イベント”で何かやりたいと思った時に、インド人のタレントさんとたまたま知り合って、出てくださいって頼んだんですよ。

近:ダウンタウン的ノリもちょっと感じましたね。もしこの店主がインド人だったらみたいな。いきなり笑える。

米:松っちゃんの奇妙な笑いが、どっかDNAに入ってますよね。

山下:そう、見てましたもんね。高校の時撮ったアホみたなビデオって、だいたい「ごっつええ感じ」からパクってましたからね。やっぱり影響受けてますね。面白いと思いましたからね。

米:僕も奇妙な光景に出くわすと、これ松本さんがコントにしてくれたら面白いだろうなって、思う癖がついてますよ。そう考えると、お笑いの影響ってデカいですよね。

山下:デカいっすねぇ。

米:北野武さんは出ましたけど、他に好きだった日本映画ってありますか。

山下:映画作る前に、森田芳光さんの『家族ゲーム』とか『の・ようなもの』が好きで、この辺を向井と2人で煮詰まると観てましたね。

13

愛すべきダメ男


『ばかのハコ船』 2002年, BittersEnd

米:これもいっぱい質問されてると思うんですけど、今回はダメ男は出ないですよね。

山下:香椎さん演じる恵の元彼とかはかなりダメ男っていうか…、彼に託したとこはありましたね。

米:彼が出た時に、あ、来たなって思いました(笑)。

山下:山本さんでやるとギャクになっちゃうんですけど、彼がやることによって、普通に観ている人には分からないですけど、考えてみると台詞の端々にダメがいっぱい出てるんですよ。あの歳で東京行くとか、それなのに週1で戻ってくるとか。だったら東京行く意味ねーだろっていう。もうダメだなこいつっていう。

米:車の中から女子高生の恵に電話受けたりね。ああいう先輩いたなあっていう。で、こういう先輩に女の子は引っかかるんだろなっていう。

山下:そう、こういう先輩と付き合っちゃうこの女の子は、実はどこかでダメ女で不器用っていう設定にしたかったんですよ。あんな男と付き合って別れて、なおかつまだ彼が来ると動揺しちゃうみたいなのはいいなと思って。

米:山下さんも最初はもちろんバイトされてたんでしょうけど、今は東京出てきて映画一本なんですよね。

山下:いや、でも1年前までバイトやってました。

近:世の中で今騒がれているニートとかに親近感感じることってあります?

『くりいむレモン』 2004年
©「くりいむレモン」製作委員会

山下:それはねえ、あんまり共感できないですね。働かないってのは。何もしていないっていうのは共感できないです。一応『どんてん生活』から一貫して、まあ『くりいむレモン』は違いますけど、あれは大学生だったから、一貫して働いてますからね。

米:そうですね、みんな明後日の方向ですけど(笑)。

山下:根っこは間違ってるんですけど、皆とりあえず働いてますからね。

米:まあ強盗にも入ろうとしますしね。生きようとはしてますよね、自分で。

山下:そうですね、何かしらやってるんですよね。

14

海外では社会派…!?


米:で、ですね、昨日実はロンドンでテロがあったんですけど…。

近:30人死んだとか、都心部で電車が爆破されて、またアルカイーダじゃないかとかブレアが言ってるんですけど。

米:そういうニュースとかってどうですか、社会的な。

山下:あーいや、見ますけどね。昔よりかリアルな感じしますけどね。ちょっとずつリアルな感じはしてるんですけど。

米:社会的な所に近づいていく映画監督っていっぱいいるじゃないですか。

山下:でも僕の『どんてん生活』でさえ、海外行ったら、凄い社会派的な質問っていうか、「日本の政府はああいう若者に対して…」とか言われて、「え?何の話?」みたいな事言ってましたからね。「若者に対して保障とかそういうのはないのか」みたいな事訊かれて「ないと思いますけどねえ、そういうのよく知らないんですよ」とかって、すげー通訳泣かせの事言って(笑)。『どんてん生活』がそういう意味では一番、俺の映画の中では社会派でしたよね。キレる若者の感じとか、裏ビデオをダビングしたりとか、別れた奥さんに子供がいたりとか、その辺で結構突っ込まれましたけどね。そんな事考えてなくて作ってたんで大変でしたけど(笑)。

米:海外での反響っていつもどんな感じなんですか。

山下:どうなんですかね。やっぱ笑ってくれるのは嬉しいですけどね。何かちょっと変な映画だなっていう感じは凄いありますけど。でも自分たちの笑いっていうか、笑える部分が向こうの人たちにもちゃんと伝わってるのは、最初びっくりしましたね。どっか共通する部分はあるんだろうなっていう。海外の映画祭行くと、細かい部分の勘違いはいっぱいあるんですけど、根っこは凄い。まあ、珍しいってのも一番大きいと思いますけどね。日本映画としてはちょっと変なんじゃないのか、とか。

15

映画と兄貴に対して恩返し


米:今回どのくらい取材を受けたんですか?

山下:20本くらいですかね。

米:「ブルーハーツ」「女子高生」に加えて、「韓国人の女の子ボーカル」って、凄いキャッチーな3大要素があるじゃないですか。お客さんはいい裏切りを感じると思うんですよね。で、それで山下ファンが増えると僕はいいなあって思ってるんですけど。

山下:増えてほしいっスね。山下ファンていうか、これ中学生とか高校生とかも観るじゃないですか。中学生の映画好きの奴が観て「おっ!ちょっとこれ面白いんじゃないか」って言って(その後に)『どんてん生活』を観た時の顔が見たいですよね。

米:アハハハ(笑)。

山下:いきなり『どんてん生活』とか短編集『断面』とか。それしかビデオ屋になくって(笑)。「ふざけんなよ、こんなのアリかよ」って、そういう事を思ってほしい。今は観て何が面白いのか分からなくても、何かのきっかけで3年後4年後に観て「ああ今だったら分かる」、そういう映画の見方もあるんで。

米:山下さんタイプの人が今キテるのって、映画青年にとっては凄い希望を与えるというか、憧れなんじゃないですかね。

山下:『どんてん生活』観て自信持ってほしいですね。「俺でも撮れるんじゃないか?」みたいに。俺が北野武さんの映画観て、失礼ながら俺にも撮れそうだなって思ったあの感覚を『どんてん生活』で味わってほしいですね。

米:最後の質問になりますけど、最終的な部分でお客さんに対して狙うものを、まとめるとどうなりますか。

山本:実は僕の映画って凄い単純なんですよ。まあ映画ってそういうもんだと思いますけど。何だろうな、何ですかね。いや、別にないかな。お客さんに対して特には(笑)。

米:かつて自分が映画から貰ったようなものをまた観ている人に与えたいとかっていうのは?

山下:いや、それはもちろん。特にこの映画は、映画と兄貴に対して恩返しって感じですかね。中学生に観てほしいですよね。昔の自分みたいな、ちょっと映画知ってるぜ俺、ぐらいの調子乗ってる中学生に観てもらって、面白えって。そうそう、『桜の園』に感動して中原俊借りたらピンク(映画)だったみたいな。「え?全然違うじゃん」みたいな。そういう意味ではある程度は広がってきてると自分でもちょっと思ってるから。その広がり方を自分も楽しみたいし、観てる人にも楽しんでもらいたいですね。
僕の名前とかは別にいいんですよ、実は。映画だけ良ければいいと思ってるんで。山本浩司とか、強烈にトラウマになってほしいです。何なんだよこれって。そのうち山本浩司フィギュアが出来たりとかね。ちょっと狙ってるんですけど、山本浩司の頭つけ替えて、リーゼントとか(笑)。

米:僕、業者知ってますんで、ぜひ作りましょう(笑)。

山下:ほんとですか!?やりましょう、やりましょう。3部作で!

16

マイ・ソース


テレビ

引っ越し

マンガ

大阪芸大

映画


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FUTURE SOURCE フューチャー・ソース


パソコン

東京

結婚

結婚


1976年、愛知県出身。高校在学中より、ビデオカメラにて短編を制作。95年、大阪芸術大学映像学科に進学し、同寮の先輩・熊切和嘉監督の『鬼畜大宴会』(1997)にスタッフとして参加。1999年、卒業制作として完成させた初の長編『どんてん生活』は、2000年ゆうばりファンタスティック映画祭のオフシアター部門のグランプリを受賞したほか、各国の映画祭で上映、大きな笑いと熱狂で迎えられた。続く第2作『ばかのハコ船』は東京国際映画祭からの新人監督への助成金を元にプラネット+1と共同で制作。国内・国外ともにレイトショーながら非常に好評を得る。『リアリズムの宿』(2003)、『くりいむレモン』(2004)を経て、2005年夏『リンダ リンダ りンダ』が公開。

インタビュー:米田智彦(TS副編集長)、近藤ヒデノリ(同編集長)
写真:植本一子 Ichiko Uemoto
場所:ビターズ・エンド(渋谷)
日時:7/9/2005
協力:亀山留璃子

ビターズエンド(配給)

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